表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祐兵さんと豊久くん ――日向の空の下で――  作者: Gさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

212/220

第二百九話 獣十番・下編

祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介


祐兵(すけたか)さん…伊東祐兵いとうすけたか。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。

豊久(とよひさ)くん…島津豊久しまづとよひさ。島津氏家臣で、島津家久しまづいえひさの息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。


上井うわい 覚兼かくけん…『伊勢守心得』や『上井覚兼日記』の著者。彼の日記には火縄銃を担いで猪や鹿を狙いに連日山野に繰り出した様子が記されている。


小春(こはる)と黒猫…二人の飼い猫

山。


深い森。


湿った土。


獣の匂い。


そして——


轟音。


火縄銃の音が響く。


「一本じゃ!」


上井覚兼うわい かくけんが笑う。


倒れた猪。


正確な一撃。


無駄がない。


さらに。


銃声。


また一頭。


三頭。


四頭。


「速い……!」


島津豊久しまづ とよひさが歯を食いしばる。


伊東祐兵いとう すけたかは静かに周囲を見る。


「火縄銃の間合いと経験か」


祐兵と豊久は


二手に分かれて狩っていた。


だが。


「このままでは負けまする」


豊久(とよひさ)が言う。


「ああ」


祐兵(すけたか)が頷く。


「二人で戦わねば勝てぬ」


その言葉に。


豊久(とよひさ)の目が変わる。


「はい!」


二人は合流する。




祐兵(すけたか)が流れを読む。


豊久(とよひさ)が追う。


役割が噛み合う。


獣道。


土の荒れ。


折れた枝。


気配。


祐兵(すけたか)が静かに指す。


「あそこだ」


豊久(とよひさ)が回り込む。


気配を消す。


猪が飛び出す。


その先。


祐兵(すけたか)が矢を放つ。


命中。


「一本!」


追い上げる。


続けて、五頭。


だが。


遠くからまた銃声。


上井。


六頭目。


「くっ……!」


豊久(とよひさ)が拳を握る。


その時。


風が渦を巻く。


木々が揺れる。


『焦っておるのう』


声。


枝の上。


木乃葉天狗このはてんぐが座っていた。


「木乃葉天狗殿!」


豊久(とよひさ)が声を上げる。


「狩りとは、獣を追うだけではない」


天狗が笑う。


「獣を、獣で狩ることもある」


祐兵の目が細くなる。


「……なるほど」




この山。


この狩場。


歩いた数。


獣道。


水場。


風向き。


それを知っているのは——


二人の方だ。


祐兵(すけたか)殿!」


豊久が言う。


「獣道は一つではありませぬ!」


「ああ」


祐兵(すけたか)が頷く。


「罠を張る」




二人は動く。


縄。


落とし穴。


枝を利用した跳ね罠。


獣道を読む。


流れを読む。


その頃。


上井はさらに猪を仕留める。


七頭。


八頭。


「勝負ありか!カッカッカッ!」


上井が笑った。


その時。


空が鳴る。


風が変わる。


ぽつり。


雨。


やがて本降り。


「む……!」


上井が顔をしかめる。


火縄。


湿気。


雨。


「このままでは、火が死ぬか……!」


慌てて、近くの古小屋に入り


火縄銃を手入れする。


しばらく火縄銃は使えない。




その間にも。


祐兵(すけたか)豊久(とよひさ)は動く。


罠を張る。


追い込む。


誘導する。


罠が鳴る。


猪が転ぶ。


豊久(とよひさ)が止める。


祐兵(すけたか)が射る。


九頭。


さらに。


別の獣道。


祐兵(すけたか)が静かに言う。


「く、来る」


土が鳴る。


猪。


突進。


だが。


足が跳ね上がる。


罠。


一瞬止まる。


豊久(とよひさ)が飛び込む。


「これで——!」


槍が突き出される。


十頭目。


静寂。


雨音だけが残る。




上井覚兼うわい かくけん


しばし立ち尽くす。


そして。


やがて笑った。


「……負けたな」


豊久(とよひさ)が息を整える。


「上井殿……」


「私は少々、自惚れていたようだ」


上井が言う。


「狩りが得意だとな」


雨が静かに降る。


祐兵(すけたか)は黙って聞いている。


「だが、お前たちは違った」


上井の目が豊久を見る。


「一人ではなく、二人で勝った」


豊久(とよひさ)は静かに頭を下げる。


上井は小さく笑う。


「義弘様には、うまい言い訳を考えておこう」


そして。


祐兵(すけたか)へ向き直る。


祐兵(すけたか)殿」


深く頭を下げる。


豊久(とよひさ)を、頼みます」


祐兵(すけたか)も静かに頷く。


「わかっております」


上井は背を向ける。


雨の中を歩く。


その背は小さくない。


豊久が見送る。


静かに。


木乃葉天狗このはてんぐ


枝の上で笑った。


『良い勝負であったのう』


山に雨が降る。


獣十番。


その決着は。


ただの勝敗ではなく——


二人の絆を、さらに深く刻むものであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ