第二百五話 朝餉、茶漬け
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
朝。
空気はひんやりと澄み
庭には淡い光が落ちている。
館の台所。
火が静かに起こされる。
伊東祐兵は
炭火の前に座っていた。
手にあるのは、昨夜のヤマメ。
丁寧に処理された皮が
笹の葉の上に乗っていた。
「良い香りがしますな」
島津豊久が入ってくる。
「起きたか」
「この香りでは、起きぬ方が無理です」
祐兵は網に皮を乗せる。
炭の上。
じり、と音がする。
脂が浮き
香ばしさが立ち上る。
「皮を使うのですな」
「旨味はここにある」
短く言う。
皮が反り
表面がこんがりと焼ける。
音が変わる。
頃合い。
「飯をよそえ」
「はい」
椀に白飯。
湯気が立つ。
その上に
炙った皮を乗せる。
茶を注ぐ。
さらさらと音を立てる。
香りが広がる。
「では——」
「いただきます」
一口。
熱い。
だが優しい。
「……これは」
豊久が目を見開く。
「うまい……!」
香ばしさ。
皮の脂。
茶の渋み。
すべてが重なる。
祐兵も静かに口にする。
「……良い」
短い言葉。
だが確かな満足。
「昨夜とはまた違いますな」
「同じ魚でも、変わる」
祐兵が言う。
「使い方次第だ」
箸が進む。
静かに。
だが止まらない。
やがて食べ終える。
湯気も収まる。
「ごちそうさまでした」
豊久が言う。
「ああ」
外では朝の風。
鳥の声。
一日の始まり。
「さて」
祐兵が立つ。
「動くか」
「はい」
力は満ちている。
穏やかに。
確かに。
朝の一膳。
それが今日を支える。
二人はまた
日常へと踏み出していく。




