第二百三話 茶屋のひととき
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
午後。
陽はやわらぎ
町に穏やかな影が落ちる。
伊東祐兵と島津豊久は
城下を歩いていた。
人の往来。
商いの声。
どこか落ち着いた賑わい。
「今日は静かですな」
豊久が言う。
「ああ」
祐兵は周囲を見る。
「騒がしすぎぬ」
通りを抜ける。
香ばしい匂い。
湯気。
茶屋が見える。
「祐兵殿」
豊久が立ち止まる。
「少し休みませぬか」
「……そうだな」
わずかに頷く。
暖簾をくぐる。
中は落ち着いた空気。
木の香り。
柔らかな灯り。
「いらっしゃいませ」
看板娘が迎える。
にこやかに頭を下げる。
席に着く。
窓際。
外の通りが見える。
「茶と……何か軽く」
祐兵が言う。
「団子はいかがです?」
娘が勧める。
「では、それを」
「それぞれ、二つずつで」
豊久がすかさず言う。
祐兵が横を見る。
「……一つで良い」
「えっ」
「一つだ」
「……では、一つずつ」
茶が運ばれる。
湯気。
香りが立つ。
一口。
静かに飲む。
「……良い」
祐兵が言う。
団子も届く。
つややかな表面。
甘い匂い。
「いただきます」
豊久が頬張る。
「美味い……!」
素直な声。
祐兵も一口。
ゆっくりと噛む。
「……甘さがほどよい」
窓の外。
人が行き交う。
日常の流れ。
「こうしていると」
豊久が言う。
「時間がゆっくりですな」
「ああ」
祐兵が応じる。
「急ぐものがない」
茶をもう一口。
静かな間。
看板娘がそっと茶を足す。
「ごゆっくりどうぞ」
柔らかな声。
「……悪くない場所だ」
祐兵が言う。
「ええ、また来ましょう」
豊久が笑う。
やがて席を立つ。
「ごちそうさま」
「美味しかったです」
「ありがとうございました」
外へ出る。
風が通る。
「さて」
祐兵が言う。
「戻るか」
「はい」
町はいつも通り。
穏やかに動く。
その中で。
二人は静かに歩く。
ひとときの休み。
それもまた
大切な時であった。




