第二百二話 軽き手合わせ
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
夕刻。
陽は傾き
庭に長い影が落ちる。
風は穏やか。
一日の終わりが近い。
伊東祐兵は
庭に立っていた。
手には木刀。
構えは静か。
無駄がない。
「お呼びですか」
島津豊久が現れる。
手には木槍。
すでに息は整っている。
「軽く、だ。頼む」
祐兵が言う。
「はい」
豊久が頷く。
間合いを取る。
深くは踏み込まぬ距離。
試すための間。
風が止む。
空気が張る。
「来い」
短い声。
豊久が動く。
踏み込みは浅い。
探るように突く。
祐兵は
わずかに身をずらす。
受けず、流す。
「良い」
一言。
再び間。
呼吸。
足の位置。
すべてを確かめる。
今度は祐兵。
半歩。
踏み込む。
速さは抑えられている。
だが鋭い。
豊久は受ける。
木槍で払う。
角度を変える。
乾いた音。
小さく響く。
「力を抜け」
祐兵が言う。
「はい」
次の動き。
柔らかく。
しなやかに。
豊久の突きが変わる。
無理がない。
流れがある。
「……良い」
わずかに。
祐兵の目が動く。
数合。
打ち合う。
激しさはない。
だが濃い。
やがて。
祐兵の木刀が
止まる。
豊久の肩先。
「そこまで」
静けさが戻る。
「いかがでしたか」
豊久が問う。
「悪くない」
祐兵が答える。
「力が抜けてきた」
「まだ遠いですが」
「それで良い」
短く言う。
木を置く。
息を整える。
「軽くでも、違いますな」
豊久が言う。
「ああ」
「積み重ねだ」
空は夕焼け。
赤く染まる。
「明日もお願いします」
「様子を見て、だな」
祐兵が言う。
無理はしない。
だが止めない。
その間。
風が吹く。
一日の終わり。
その中で。
二人は静かに
次へ備えていた。




