日律帝國最後の反抗27
mitotayo
部活引退して、ようやく執筆活動に専念できるかと思ったら今度はとあるゲームにハマってしまってどうにも手が進まない状況に苦しんでます。ひとつのことにずっと専念できる集中力が欲しいな……。
〈三十一話 前触れ〉
8月13日午前10時、白石武は第一機動艦隊が停泊している曽根軍港に足を運んでいた。
「愛機の様子でも見に来ようと思ってな」
門の前で要件を聞いてきた軍曹の階級章を付けた軍人に俺はそう答えておいた。嘘は言っていない。
「お、白石か。まだ休暇は終わっていないぞ?」
暫く歩いていると山里中隊長が慣れた様子で話しかけてきた。空母真鶴の第一航空隊の面々は真面目な連中が多いから、休暇中でもきっと曽根軍港に顔を出しに来る奴が他にもいるんだろう。
「愛機の様子でも見に来ようと思いまして」
俺は身体に染み付いてしまった敬礼を済ましてから答えた。
「ああ、なるほどな。……そう言ってここに来る奴が案外いるんだよな。特にうちの中隊は」
山里中隊長は呆れたようにため息をついた。
「そんなに心配しなくてもお前達の愛機はちゃんと丁寧に整備されてるよ」
そう言って笑う山里中隊長を見て俺の肩の力がすっと抜けたような気がした。
「なら安心です。しかし……」
「ん?」
「俺も含めてここに顔を出しに来る連中は皆、また休暇中に招集されるんじゃないか、と不安に思っているんだと思いますよ」
俺の言葉に山里中隊長は腕を組んで難しそうな顔をした。
「確かにその気持ちはよく分かる。前の休暇も途中で打ち切られたからな」
だがな、と山里中隊長は言葉を続けた。
「今回ばかりは大丈夫なんじゃないかとは思うぞ」
山里中隊長の確信を持った言葉に俺は疑問を抱いた。
「なぜそう思うのですか?」
俺の問いに山里中隊長は更に難しそうな顔をした。
「これを言って良いものか分からないが……。うん、絶対に部外者には漏らすなよ」
山里中隊長が真剣な顔で念を押してくる。少し気圧された俺は言葉が出ず、無言で首を縦に振った。
「あのな、実は第一機動艦隊が本土に撤退するのと同時に、南アニア方面に派遣されていた第三機動艦隊が大東海を北上していったらしいんだ」
「第三機動艦隊が?」
第三機動艦隊。正規空母6隻を擁する日律帝國海軍最大級の艦隊だ。大東海戦争の引き金となったラワイ諸島の宝石湾攻撃を敢行したのも第三機動艦隊。重要な作戦には必要不可欠な艦隊である。
「……それでは南アニア海域はどうするんです?」
「詳しいことは言えん。……が、」
山里中隊長は一度周囲を見渡してから顔を寄せてくる。
「南アニア周辺海域は大艦巨砲主義に染め上げられるだろう」
「大艦巨砲主義、か」
俺は帰りの電車の中でそう呟いた。確かに南アニアにいるレイブンやブリタンの艦隊は特に大規模な艦艇とは言えない、中小国の海軍程度のものだ。資源が豊富に採れる植民地に割く防衛力とは思えない程に規模が小さい。戦艦の出番を作るには丁度いい。それにしても、
「……見たかったな」
戦艦同士でドンパチやっている様子は実際に見たらきっと想像よりもずっとかっこいいだろう。
──この前世話になった整備員の言うとおりだな。
戦艦にしろ、航空機にしろ、浪漫を感じるのは俺も男だからなのだろう。だがその浪漫の裏で数千、数万規模の軍人が命を落としているのも知っている。
「……俺だって」
──戦争なんか御免だよ。
誰に聞かれてるか分からないから独り言の続きは心の中で呟いた。座っている座席の反対の窓から見える海は穏やかで静かな海原だった。俺の知っている海とは全く違う、何処か違う世界の海に見えた。
「…………」
──今、俺にできる事は何も無い。あるとするなら……。
「休暇、楽しむか」
──いつ死ぬか分からない世界だから、いつ死んでも悔いのないように生きよう。できれば……。
「綾香と……」
俺はここまで考えて、どうやら俺はまだ死にたくないらしいと気付いた。
「ただいまー」
俺は玄関の戸を開けて中に入る。森下家の家を含む蒲島の中でも中心地から離れた地域は火の手を免れて普段通りの日常を送れている。もっとも、数分歩けば焼け野原になっているのだが。
「おかえりー!」
居間のほうから由美子ちゃんが走ってきた。由美子ちゃんの様子は元気、というより”元気に振る舞っている”という方が正しいだろうけど、ひとまずは安心だ。
「どこ行ってたの?」
「あぁ、曽根の港に行ってきたんだよ」
俺は敢えて軍港とは言わなかった。由美子ちゃんが俺のことをどう思っているか、少なくとも軍人としての俺をどう思っているのかまだ分からない。だから戦争に関することは口に出さないようにしている。
「港かー……、今度わたしも連れてってほしいなー?」
由美子ちゃんはそう言って小首を傾げる。本当に妹がいるみたいで新鮮な感覚だ。
「分かった。また今度な」
買ってきた荷物を置いてそう言うと由美子ちゃんは飛び跳ねて喜んだ。こういう素直なところは少し羨ましいくらいだ。
「あ、おじさん。帰ってきたんだ」
居間から清治がひょっこりと顔を出してそう言った。
「誰がおじさんだ」
俺は言い返して靴を脱いだ。
「おじさんはおじさんだからおじさんなんだよ」
「何回もおじさん連呼するな」
正直言って清治は嫌いだ。これで俺と血が繋がってるとか嘘だろ。
「あんたは俺の弟、それでいいだろ」
「それだけはごめんだね。誰がおじさんみたいな軍人の弟になりたいんだよ」
「なんだとこら」
言い合いをしつつ、ここ数日清治と接してきてなんとなく思ったことがある。
──清治は戦争そのものを心の底から嫌っていて、同時に戦争に関わる軍人も嫌っている。
その気持ちは分かる。俺だってそうだ。何なら今の清治は第一次大戦の俺と同じに見える。だからこそ、
──戦争が憎い。
由美子ちゃんや清治がこんな事になっているのも戦争が起きているからだ。だからこそ俺も戦争が嫌いだ。けど、戦争が嫌だからと言って戦争を放棄した所でなにも始まらない。極論、敵を殺さなけれは自分達が死ぬんだ。だから戦わないといけない。それに、
「おじさん、お腹すいた」
「しょうがねえな」
この子達をこんな目に合わせたレイブン皇国が憎い。
「私そうめん食べたい!」
「素麺はちょっと無理かなー」
俺はそう言って荷物の中から曽根軍港の帰りに買ってきた蕎麦を取り出してざるに移した。
「わっ、そばだー!」
由美子ちゃんはそう言ってざるの上で山を形成していく蕎麦を眺める。蕎麦の山が乗っている卓袱台の下ではクロがいつも通り寝息を立てている。
「いっぱい食べなよ」
俺が麺つゆが入ったお椀と箸を渡すと由美子ちゃんと清治はズルズルと良い音を立てて蕎麦を啜り始めた。
「おいひいー!」
「ん、美味い」
なんだかんだ良い兄妹に見えて少し安心した。
──俺はこの子達を守らないといけない。
2人だけじゃない。この国に住む1億の民間人をこの手で守らなければいけない。そのためには、
「戦わないといけない、か」
戦争は嫌いだ。だけど、その嫌いな戦争を終わらせるためには戦わないといけない。それに、何も罪のない民間人を数万人規模で殺したレイブン皇国が、それを防げなかった自分が腹立たしい。
「口につゆついてるー!」
「ん?あぁ……ありがと」
恥ずかしそうに口元を拭う清治と笑顔の由美子ちゃんを眺めていると、俺の孤独感もまた少し和らいだような気がした。
〈第三機動艦隊について〉
第三機動艦隊は、大東海戦争の引き金となったアロハ諸島の宝石湾攻撃を実行した航空母艦6隻を擁する日律帝國最大の機動艦隊である。東奏型航空母艦の1番艦である東奏を旗艦として、2番艦の甲府、真鶴型航空母艦の禮鶴と陵鶴、松龍型航空母艦の鳳龍と隼龍、その他巡洋艦や駆逐艦、潜水艦を含めて計63隻の隻数を誇る。
え、なぜこの艦隊を最初から大東海戦線に持ってこなかったのかって?理由は簡単。南アニア周辺海域を跳梁跋扈するレイブンやブリタン、ベルクス、オールトラニアの艦隊を先に海底に沈めて南アニア地域の侵k……、解放を目論む陸軍を援護するためである。武器弾薬や兵士を乗せた輸送船が海の藻屑となっては元も子もないのでしょうがない。
しかし、南アニアに駐屯している西方諸国の各艦隊は戦艦や重巡洋艦などの大型艦と潜水艦を残して、小型艦は既に第三機動艦隊によってほとんど沈められており、生き残りの大型艦は戦艦を主体とした”連合艦隊”に任せることとなった。
ちなみに連合艦隊は、長州型戦艦の薩摩を旗艦とした、松前型戦艦の松前、門司型戦艦の門司と洛西、西日型戦艦の明日、明石型戦艦の飛騨と戦艦が6隻、軽空母1隻、重巡5隻、軽巡4隻、駆逐8隻、潜水艦が10隻程度で計34隻の艦隊である。




