日律帝國最後の反抗26
mitotayo
最近湿度が高くて本当に蒸し暑いですね。梅雨の間に雨が沢山降ってくれるのはありがたいんですけど、曇り空を見るとどうにも気分が下がるんですよね……。気分が下がるとやる気がなくなっちゃうナー(言い訳)。
〈三十話 肉親〉
8月10日、白石武はまた病院に訪れていた。この街が焼かれてから1週間以上が経ち、ようやく焼け残った残骸が片付いて東奏に人の営みが戻り始めていた。窓越しにその景色を見ながら俺は2階の廊下を早足で歩く。
「待ってたよ」
廊下の壁にもたれていた和重さんがそう言ってこちらに向かってきた。
「すみません、遅くなりました」
「気にしないでくれ。私も今来たところだ」
そう言って和重さんは軽く笑った。じっくり見れば綾香に何処となく似ているような気もする。
「それで、意識が戻ったというのは本当ですか?」
「ああ、会話もできるくらいには回復してる」
和重さんは目の前にある病室の扉を開けて中に入った。
「白石くん……、と呼んだらどちらを呼んでいるか分からんな」
和重さんはそう言って苦笑いを浮かべ、コホンと咳払いした。
「清治くん、自己紹介」
清治と呼ばれた少年がベッドから起き上がった。何処か中性的で綺麗な顔立ちのどちらかといえば色黒の少年で、俺はなんとなく好感を持った。
「白石清治、10歳。中大島国民学校4年生」
前言撤回。端的で愛想のない奴だ、好感の”こ”の字も持てない。
「清治くんと白石……、武くんは血縁関係にあるそうだ。うちの叔父が検査したから多分、た・ぶ・ん、本当だろう」
和重さんは”多分”と念を押して言った。あのお医者さんはそんなに信用されていないのか。
「血液というのは凄いな。何を見ているのか全く分からんが検査すれば血が繋がってるかどうか分かるとは」
和重さんはそう言いながら清治くんの方を見た。
「清治くん、君のご両親は?」
清治くんは目線を伏せた。
「父は南アニア方面第三師団所属でベルクス領ヌサンタラに居る。母は空襲ではぐれて、安否も……」
「っ……、そうか」
病室になんとなく気まずい空気が流れる。
「……あの」
静寂を破ったのは清治くんだった。
「僕はそこのおじさんと親戚ってことなんだよね」
──和重さんの事を言ってるのか?
「あぁ、親戚なのは和重さんじゃなくて俺のほうだよ」
「うん、だから言ってるじゃん。おじさん」
──なんだこのクソガキ、俺はまだ19だぞ。
と言い返しそうになったが、流石に大人げないのでやめにした。
「ま、まぁ俺は19だけどなー」
自分でも顔がひきつっているのが分かるくらい俺は動揺しているらしい。
「そうなの?てっきり30歳くらいだと……」
「おいてめぇ」
俺が清治に掴み掛かろうとすると和重さんが止めてきた。
「清治くん、言い方が悪いよ。というか武くんは全然老けてないじゃないか」
「ジョーダン。人をからかうのって楽しいから」
──本当にクソガキだなこいつ。
そう思いながら俺は振り上げた手を下ろした。
「冗談でもやめなさい……。武くん、私は清治くんを取り敢えず引き取ろうと思うんだが、どうかな?」
「え、えぇ。俺は構いませんが……」
和重さんは首をかしげた。
「なんだか含みのある言い方だね。何か疑問でもあるのかい?」
「いえ……。綾香はともかく、由美子ちゃんがどう思うか……」
一週間前の一件から、由美子ちゃんは森下家に養女となる形で引き取られた。この清治とかいうクソガキを引き取るにしても、綾香と由美子ちゃんの同意がなければ簡単に決めるのはどうかと俺は思っていた。
「由美子ちゃんなら心配要らないよ。この事を事前に話したら、”弟が欲しかった”って飛び跳ねてたから」
「弟が欲しい……。あれ?由美子ちゃんって7歳ですよね?」
「ああ、だから由美子ちゃんには兄ができるわけだ」
俺は苦笑いを浮かべた。
「由美子ちゃんはさぞがっかりするでしょうね」
「だろうな……。まぁ、綾香も了承してくれたから安心してくれ」
その言葉を聞いて俺も納得することにした。このクソガキを素直に歓迎する気には到底なれないけど。
「仕方ありません、和重さんの意向に従います」
俺の言葉を聞いて和重さんは吹き出して笑った。
「相当嫌そうだね、武くん」
──これからもっと騒がしくなりそうだ。
俺は口角を上げながらそう思った。
〈南アニア戦線について〉
南アニア、化石燃料と天然ゴムの宝庫であり第一次世界大戦で戦勝国となった、もしくは中立を貫いた西方諸国(ブリタン帝国、フライツ王国、ベルクス共和国)やレイブン皇国に植民地という形で支配されている地域である。
日律帝國は大東海戦争が始まった2515年にアニア地域全域の支配……ゲフンゲフン、解放を目的とした「アニア統合共栄圏」計画を始動。元々日律帝國の領土だった南北スベラから始まり、海上の要衝であるテマセク、石油が採れるダイベト、アルミが採れるヌサンタラ、天然ゴムが採れるマラヤ、金属鉱石の宝庫のニューベルトなど、列強各国の植民地の解放のために南下することになる。




