表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラフトマスター建国記  作者: ウィースキィ
第一部 第四章 新たなる世界 【第二次王国 編】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/314

第11.5話 夕日の記憶


 セルシオ国王から「八乙女 愁の捕縛もしくは討伐せよ」という厳命が下されてから、三日が経過した。本日は、その命を受けた任務開始の日である。


 王国最強の称号を持つ十三人の勇者たちが謁見の間に集められ、王国全軍を率いることもできるほどの大戦力が、玉座に座るセルシオ国王の前で一斉に跪いた。彼らの忠誠は揺るぎなく、その姿に誇りすら漂う。国王であるセルシオは碧眼をわずかに細めながら、彼らを見渡し、重厚で力強い声で言葉を発した。その声には、まるで言葉自体が力を持っているかのような威厳がある。


「誇り高きアイラスグリフ王国の勇者たちよ、よく集まってくれた。先日伝えた通り、森の管理者を討ち、さらにラリアガルド帝国とも関わりのある危険人物、八乙女 愁を捕縛、もしくは討伐する任務を本日より遂行してもらう。相手の戦力は未知数だが、王国最強の騎士たる勇者諸君が遅れを取るとは考えていない。しかし油断すれば、相手の術中に嵌る可能性もある。慎重に、そして確実に任務を遂行せよ」


 その言葉を受けた勇者たちは、静かに、しかし確固たる忠誠心を込めて頭を下げた。彼らにとって、王の命令は絶対であり、異を唱える者など誰一人としていない。彼らは王の剣であり、王の盾なのだ。セルシオの瞳に映る十三人の勇者たちは、まさに無敵の戦士たちであったが、それでも慎重さを促す言葉を彼は続ける。


「八乙女 愁は、大森林のどこかに潜伏している。知っての通り、大森林は広大で、三大国にまたがる危険な地域でもある。標的の正確な位置はまだ掴めていないが、諸君ならば必ずや見つけ出し、任務を完遂すると信じている。作戦指揮は第一階位勇者、ハルア・アルニトスに一任する。以上だ。早速任務を遂行せよ」


 勇者たちの中で最も高位にあるハルア・アルニトスが一歩前へ進み出ると、セルシオ国王に忠義を捧げる誓いを述べた。


「我らは王の剣。如何なる困難があろうとも、必ず乗り越え、国と民のために戦い抜きます。アイラスグリフ王国に栄光と繁栄を!」


「「アイラスグリフ王国に栄光と繁栄を!!」」


 ハルアの誓いに続き、他の勇者たちも声を合わせ、その言葉を最後に謁見は終了した。勇者たちは、これから始まる過酷な任務に向けてそれぞれの決意を固め、堂々と謁見の間を後にした。




◇◆◇◆◇◆




 正式に任務が始まってから、さらに三日が経過した頃、大森林に散った勇者たちから八乙女 愁の発見報告は一切届いていなかった。正規勇者十三人、準勇者約250人が広大な大森林内で捜索を続けているが、愁の姿どころか、その手掛かりすら見つからない。そもそも大森林は一国の領土に匹敵する広さを持ち、その中で一人の人物を探し出すのは至難の業だ。


 アルバートは、仲間であるユアとクミラと共に、現在シィータビスク連合国方面の森を探索中であった。探索場所は作戦指揮官であるハルア・アルニトスによって割り当てられており、彼らは指定された範囲で愁を探し続けている。大森林に入り三時間が経過しようとしていたが、手掛かりはまったく見つからない。焦りが募る中、ユアがため息をつきながら呟いた。


「はぁ……見つかりませんねぇ。お師匠さま、愁さんはどこにいるのでしょうか?」


 アルバートは少し肩をすくめながら答える。


「どうだろうな。王国の近くにいると思っていたが、最初にみんなで捜索した時には見つからなかった。それで、広範囲に手分けして探しているわけだが……」


 普段なら、ユアは任務に飽きて帰りたいと言い出す頃である。しかし、今回の任務では、彼女の意欲がこれまでとは違う。ユアにとって八乙女 愁は、自分を助けてくれた恩人であり、かけがえのない友人であるリアの大切な人だ。その愁が危険な状況にあることを知っているからこそ、彼女は真剣に任務に取り組んでいる。


 その姿を見ているせいか、クミラも普段以上に意欲的に見えた。クミラはいつも真面目で、何事にも全力で取り組むが、今回はさらにその決意が強いようだった。ユアの願いを叶えてあげたいという気持ちが伝わってくる。


 しばらくして、探索が続く中、クミラがふと疑問を口にした。


「標的の方、愁さんは、何か妨害の魔法でも使ってるんでしょうか?これだけの人数で探しても何の手掛かりもないなんて、さすがにおかしい気がします」


「妨害の魔法か……クミラは何か魔法の反応を感じた場所はあったか?」


 アルバートは少し考え込みながら問い返す。


「それが、まったくないんですよ。もし私が感じ取れないレベルの妨害魔法を使っているとすれば、相当な魔法使いですよね。ユアちゃんの話では、愁さんは剣の腕も超一流だとか。もし剣と魔法の両方が達人級……いや、それ以上、英雄級だとしたら……敵に回すのは相当恐ろしい相手です」


 魔法使いは魔法を極め、剣士は剣の技を磨く。それが当たり前の世界で、両方を極めるなど、常識ではあり得ない話だった。アルバートは、もし愁が一人でこれほどの力を持つ存在であれば、任務は非常に危険になると感じていた。もし本当に予想通りの強さ、それこそ『全統五覇』に匹敵する英雄級の人物ならば、この先の戦いは予想以上に厳しいものになるだろう。


「いずれにせよ、情報が足りないな……ユア、何かないか?直接会ったことがあるのはユアだけだ」


 アルバートが問うと、ユアは首を傾げながら思い出すように答える。


「んー?そうですねぇ……優しくて、かっこよくて……何か良い匂いがしました! ご飯もご馳走してくれましたし、亜人族のリアにもすごく優しく接していて、絶対に悪い人ではないです! うんうん!」


 無邪気な笑みを浮かべながら、はしゃぐように話すユア。その様子にアルバートは、思わず苦笑いを浮かべた。確かに彼女の言葉に嘘はないだろうが、それが任務に役立つかは別の話だ。そんな彼の気持ちを察したのか、クミラも同じように苦笑しながら応じる。


「ユアちゃん、それ……あまり役に立たない情報ですよ。それに良い匂いって、何なんですか……?」


 クミラの言葉にユアは少し不満げに返答する。


「え!? そうかなぁ?だって、本当に良い匂いがしたんだもん。香水とかじゃなくて、お風呂上がりの石鹸みたいな、すごく清潔な感じ? それに、町を歩く時なんかも、リアの手を引いてあげて、すごく優しかったの!」


「いや、優しいっていうのはわかったけど……そうじゃなくて。戦闘能力とか、そういう情報はないのか?」


 アルバートがユアに本題を問いかける。問われたユアは「んー」と少し考え込んで、自分が命を救われた時のことを思い返した。彼女の表情が一瞬、真剣なものへと変わる。


「そういえば……見慣れない細身の剣を使っていました。剣筋は無駄がなくて、一撃一撃が的確ですごく速かったです。止めの一撃は、私じゃ見切れませんでした……それと、その時は魔法は使ってる感じはしなかったですね」


「そうか……少なくとも、戦闘の腕はかなりのものだな。それにしても、ますます不思議だ。地道に探していくしかなさそうだな」


「ええ、そうですね。地道に頑張りましょう」


「ちょっと! ふたりとも! 結構ちゃんと話したのにその反応! ひーどーいっ!」


 拗ねた様子を見せるユアが抗議の声を上げるが、アルバートとクミラは軽く流してしまう。それに気づいたユアは、しゅんと肩を落としながらも、ついには拗ねた表情を見せる。


「もういいですよーだっ!」


 その後もシィータビスク連合国方面での探索は続いたが、数時間にわたる捜索の中で目立った手掛かりは得られず、この日の探索は終わりを迎えた。クミラの〈飛行〉の魔法によって、彼らは王国へと戻り、指揮官であるハルア・アルニトスに報告を済ませる。次の日の指示を仰ぐと、ハルアから新しい指示が下された。


「明日からは探索のメンバーを入れ替えることにしたよ。クミラはミザリカ・マーステットと組んで、ラリアガルド方面の探索に向かってね。他の勇者たちは、再び王国周辺での探索を行うことになるから」


「そうですか……」


 少し落ち込んだ様子のクミラが、次の指示を真摯に受け止める。続いて、ハルアがアルバートに向き直る。


「作戦指揮はアルバート、君に任せることになった。僕は王の命で別の任務を任されるから、しばらく外れることになる。頼んだよ」


「わかった。作戦指揮の件は承知したが、このタイミングで別任務か?」


「そうなんだ。詳しくは言えないけど、陛下が長らく探していた『神の右瞳』が見つかったらしい。これの回収が僕の任務だよ」


「神の右瞳か……」


 その名を聞いた瞬間、アルバートは一瞬だけ息を呑んだ。それは神話に登場する知識の神、ザラドバルドの失われた右目。伝説によれば、その右瞳を手にした者は途方もない知識と力を得るとされている。王国に伝わる噂では、すでに『神の左瞳』がセルシオの手元にあり、その右眼さえ揃えば王国は比類なき繁栄を手に入れるとされている。


「そうか……ならば、お互い最善を尽くそう」


「そうだね。アルバート、君も気を付けて。最近は状況が不穏だからね」


「ああ。忠告に感謝する」


 その場を去るハルアの背中を見送りながら、アルバートは深く息を吐いた。しかし、すぐに横から聞こえてきたクミラのため息に気付き、彼女へと視線を向ける。クミラは露骨にしょんぼりとしている様子だ。


「はあ……アルバートさんと別々になるなんて、残念です……アルバートさん、どうか気を付けてくださいね。何が起こるかわかりませんから」


「そうだな。クミラも気を付けろ。ミザリカは悪い奴ではないが、少し扱いが難しい面もある。上手くやれそうか?」


「はい……そこが少し心配ですけど……なんとかやってみます」


 クミラは小さく微笑んだが、その目にはわずかな不安が浮かんでいた。落ち込むクミラを見て、ユアはニヤリと笑い、勢いよく後ろから抱きついた。いきなりのことで、クミラは受け止めきれず、バランスを崩して前のめりに倒れそうになったところを、アルバートがしっかりと受け止めた。


「ちょ、ちょっとユアちゃん!危ないでしょ。あの、アルバートさん、ありがとうございます……」


「えへへ!ごめんね!クミラさん、落ち込んでないで、今日は任務も終わったんだからご飯でも一緒に食べようよ!」


「ご飯?それはその……お邪魔じゃなければ、ぜひ一緒に食べたいですけど……」


 クミラはちらりとアルバートを見つめた。視線を受けたアルバートが「そうしようか」と返すと、クミラは笑顔を見せた。先ほどまでのうなだれた様子は、もう既に消えていた。


「それじゃあ、お邪魔させてもらいます!」


「うんうん!一緒に食べよう!というか泊まっていってよ!そうだ!そうしようよ!ねっ、クミラさん、いいでしょーっ?」


「え、えぇ!?い、良いのかなぁ?」


 控えめに再びクミラの視線がアルバートに注がれる。


「いいんじゃないか?私は別に構わないぞ。」


 アルバートの言葉を聞いて、クミラとユアは笑顔で顔を見合わせた。


「やったっ!お泊まりーっ!」


「ふ、不束者ですが……よろしくお願いします!」


 そして、二人は手を繋いで家へ向けて歩き出した。その足取りは軽快で、とても楽しそうに見えた。本当に最近の二人は仲が良いようで、アルバートとしても嬉しいことだった。ちょうど沈んでいく夕日が、アルバートの前を歩く二人の頭上を眩しく照らし、アルバートが夕日の眩しさに目を細めると、逆光で顔に影が落ちたユアが振り向いて、アルバートに手を伸ばした。


「お師匠さまっ!早く帰りましょう?私たちのお家に!」


 夕日を背に手を伸ばすユアの姿を見て、アルバートはどこか懐かしさと悲しさを感じ、頭の奥が痛むのを感じた。何度も何度も感じたことのある頭の奥の痛み。いつもユアを見ている時に起きる痛み。ユアが嬉しそうに笑う時、照れながら手を繋ぎたいと言った時、美味しそうにご飯を食べる時。そして、今だ。どこで見たことがある?夕日を背にこちらに手を伸ばす姿を。小さな手を伸ばして、早く早くと急かす姿を。


 いや、見たことはない。見たことがあるはずだ。そんな記憶はない。ない、絶対にない。そんな記憶はない!ぐるぐると考えがごちゃごちゃと巡り、急に考えることを止める。止めさせられる。考えることが許されなくなる。そして、どこからともなく出てきた言葉が口をついて出た。


「エマ……」


 アルバートがユアに手を伸ばして、その手を掴んだ時に出た言葉。それを聞いたユアは首を傾げながら、聞いたことのないその言葉に聞き返した。


「……え?お師匠さま?今何て言ったんですか?」


「あ、あぁ。いや、何だろうな……いや、何でもない。行こうか。」


 口をついて出た言葉の意味はわからない。なぜその言葉が出てきたのか。誰かの名前のようだったが、アルバートの記憶の中にそのような名前の人物などいないというのに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ