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クラフトマスター建国記〜転生により不治の病を克服した少年は異世界で『至高の国』を再建する〜  作者: ウィースキィ
第一部 第三章 新たなる世界 【エルセリア大陸 編】

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第5話 首都マリネアにて


 ティルマス大陸の港町ウルゼン。


 潮風の香りが漂うその町で、アルバート一行は護衛対象であるアイラフグリス王国の研究機関職員たちと合流し、青く果てしない海へと旅立った。


 大きな帆を広げた船は、朝の光を浴びて輝きながらゆっくりと港を離れた。船上での『丸一日』、それは、思っていた以上に過酷なものとなる──ユアにとっては。


 出発当初、ユアは新しい経験に目を輝かせていた。甲板の端に立ち、風に髪をなびかせながら楽しげに波を見下ろしてはしゃいでいた。


「これが海なんですね!すごーい!お師匠さま、見てください、あの波!」


 その無邪気な笑顔にアルバートは小さく笑みを浮かべ、「波をじっと見ていると、酔うぞ」と軽く釘を刺す。


 だが、それは現実となるのに時間はかからなかった。


 午後になると風が強まり、波も次第に荒々しくなり始める。船が上下左右に揺れ、甲板を歩くたび足元が不安定になるたびに、ユアの顔から次第に笑顔が消えた。


「……気持ち悪い……」


 彼女は小さな声でそう呟くと、船室へと引っ込んでしまった。ベッドに横になりながら、時折うめき声を漏らす姿に、隣で心配そうに覗き込むクミラが「大丈夫?もう少しで着くからね」と優しく声をかけ続ける。


 翌朝、揺れに揺れた船旅は終わりを迎えた。エルセリア大陸の港町フスカに到着すると、船の舷側が港に接岸し、梯子が降ろされる。


 ユアはベッドから起き上がり、今にも駆け出しそうな勢いで甲板へと飛び出した。


「陸地だー!」


 その声は、まるで解き放たれた鳥のようだった。しっかりとした地面に足を踏みしめると、彼女は両手を広げ、深く息を吸い込む。潮の香りと共に感じる大地の温かさに、安堵の表情が広がった。


「やっと着きましたね、お師匠さま!もう船には乗りたくないです……!」


「行く前はあんなに楽しみにしてたのにか?」


 アルバートが薄く笑いながら返すと、ユアは唇を尖らせた。


「だって、こんなに揺れるなんて思わなかったんですもん!」


 その様子を見ていたクミラが肩に手を置き、優しく微笑む。


「帰りは私の魔法で浮かせてあげるから安心してね。揺れを感じなければ、きっと気持ち悪くならないから」


「えっ、本当ですか!?ありがとうございます!もう、あんな思いは絶対に嫌です!」


 ユアはぴょんと跳ねるように浮かび上がり、嬉しそうにクミラを見上げた。


 その後、王都への道を進むべく、一行は迎えの馬車を待つ。海風が少し冷たく感じられる中、遠くの町外れに馬車が見え始めた。クミラがその姿を指さす。


「あ、あれじゃないですか?」


 見ると、装飾の施された立派な馬車が二台停まっており、近くには甲冑を纏ったエルフの兵士たちが護衛についている。その中で一際目立つ、上品な装いの男性がアルバートたちを見つけると、小走りで駆け寄ってきた。


「アイラフグリス王国の勇者様と研究機関の方々ですね?お待ちしておりました。私は案内役を務めます、メルビスクと申します。王城への道中、どうぞお任せください」


 彼は柔らかな物腰で一行を迎えると、さっそく馬車への案内を始めた。その仕草には貴族特有の気品と礼節が感じられる。


「移動用の馬車には最大で六人が乗れます」


 メルビスクからの説明を聞いたアルバートは、「我々護衛三人と研究者三名で一台を使わせてもらいます」と即座に告げた。


 メルビスクも快く承諾し、馬車は間もなく王都マリネアへと出発した。


 道中、ユアは船酔いの悪夢から解放された喜びを胸に、馬車の小窓から外の風景を興味深そうに眺めていた。


「エルフの町って、人族の町とそんなに変わらないんですね……でも、自然がいっぱいですごく綺麗!」


 ユアが目を輝かせながら見つめる先には、建物の合間に規則正しく植えられた緑豊かな木々と、清らかな空気が広がっていた。町中に息づく自然は邪魔どころか、町全体の景観を美しく引き立てている。


 ユアの目にはその景色が『エルフという種族の誇りと優雅さ』そのもののように映った。


 アルバートもクミラも、そんなユアの興奮に小さな笑みを浮かべながら、馬車に揺られ続ける。目的地である『キアナ王国の首都マリネア』に向かう道中、エルフの町の穏やかな美しさが一行の心に染み渡るように広がっていた。


 柔らかな日差しが木々の葉を金色に照らし、風に揺れる花々が細やかな音色を奏でる。その景色は、戦火の影を微塵も感じさせない、まるで『平和の象徴』そのものだった。


「とっても綺麗な町ですよね?これが戦争中だなんて信じられないですね、お師匠さま!」


 ユアが小窓から景色を見つめながら、はしゃぐような声で言った。彼女の目は、目に映るすべてを輝かしいものとして捉えているかのようだった。


「そうだな。確かに美しい町だ。ここは戦場から遠い場所だから、影響も少ないのだろうな」


 アルバートの声は穏やかだったが、その瞳の奥には、戦争の現実を知る者の憂いが垣間見えた。


 現在いる港町フスカは、戦争地帯であるメメント精霊国との国境沿いの町ラストアとは真逆の位置にある。距離も離れ、キアナ王国が敗北するような事態になっても、ここまで攻め込まれることはまずあるまい。


 しかし、その油断がいつ破られるかは誰にもわからないのだ。


 メメント精霊国を治める『全統五覇』のひとり、精霊王ルゼ。


 その名は、七精霊に愛された者として知られ、全統五覇でも序列二位の地位に君臨する。


 彼が侵略などを望むとは考えにくいが、それでも戦争が起きている以上、何か深い事情があるのだろう。アルバートはその理由に思いを馳せた。


「お師匠さまっ!見てください!あの人、すごいですよ!」


 ユアの声に呼ばれ、アルバートは視線を上げる。


 ユアが指さす先には、ひとりの旅人らしき人物が歩いていた。目を覆う『美しい装飾の布』、手に握る杖。だがその杖は、まるで飾りのように使われず、彼女──盲目の女性は軽やかに道を歩いていた。


「杖を持っているのに使わない……まるで見えているみたいですね」


 クミラの呟きに、アルバートは〈気配探知〉を展開した。旅人の気配を確かめようとした瞬間──驚くべきことが起きる。


 遠く離れたその盲目の旅人が、アルバートの方に顔を向けたのだ。


 目隠しの布越しにこちらを見据えるかのように、一瞬だけアルバートを見てから、旅人は動じることなくそのまま港へ向かって歩き続けた。アルバートは眉をひそめ、静かに〈気配探知〉を解除する。


「……お師匠さま?どうかしたんですか?」


「いや、大したことではない。だが、あの旅人……ただ者ではないな」


 アルバートの心に不安がよぎる。今まで〈気配探知〉に気付いたのは、アイラフグリス王国最強と謳われ、全統五覇の序列五位でもある『神託の勇騎士ハーバス・アルニトス』だけだ。


 だが、あの旅人が敵意を持っていない以上、今は関わらぬ方が賢明だとアルバートは判断する。


 その後、旅路は平穏に進み、夜になって一行は町ミラシノに立ち寄った。ユアとクミラがアルバートを驚かせる小さなサプライズがあったものの、大きな問題もなく、無事に『キアナ王国の首都マリネア』に到着した。


 煌びやかな謁見の間。石造りの壁には歴史ある紋章が掲げられ、豪奢なシャンデリアが光を放つ。


 その中央に座るのは、キアナ王国第五代国王、アバルダ・キアナ・シュトバルティア。白髪交じりの髭を蓄えた威厳あるその姿は、年老いた体に秘めた王としての気品を湛えていた。


「遠い異国より、よくぞ参られた。私はアバルダ・キアナ・シュトバルティアだ。我が国は現在、メメント精霊国との戦争の最中である。貴国のセルシオ国王から勇者化の提案を受け……」


 そこまで話したところで、側近がアバルダに囁く。


「陛下、それ以上は」


 アバルダは頷き、微笑んで言葉を続けた。


「長旅の疲れもあるだろう。部屋を用意してある。夜には宴も開くゆえ、どうぞ今宵はゆっくりと休んでくれたまえ」


 アバルダ国王の低く響く声が謁見の間にこだますると、アルバートたちは深々と頭を垂れた。その言葉には、旅人たちへの労いと、どこか重苦しい秘密が隠されているような響きがあった。


 謁見の間に広がる沈黙の中で、アルバートの心は騒いでいた。『謎めいた盲目の旅人』──あの異様な存在の気配が、未だに彼の心を離れない。


(あれはただの偶然なのか、それとも……)


 謁見の間を後にし、用意された部屋へ向かう一行。途中、研究者たちは城の兵士に連れられて別の場所へと消えていった。


 アルバートたちの護衛の役目はここで終わり、今後は待機するよう命じられている。それが、任務の境界線だと知りながらも、アルバートの胸には微かな不安が残る。


 やがて案内された部屋は、王族が用意しただけあって広々としており、贅沢な装飾が施されている。重厚な家具は磨き上げられ、柔らかな絨毯は足音を吸い込むかのように静かだった。


 しかし目を引いたのは、その室内に丁寧に配置された『観葉植物』の数々。どれも丹精込めて手入れされており、静かな生命の息吹が部屋に満ちている。その緑が、旅の疲れを優しく癒してくれるかのようだった。


「わあ、すごく綺麗な部屋ですね」


「うん!それにまた三人一緒の部屋だねっ!」


 ユアが目を輝かせながら跳ねるように声を上げる。その無邪気な様子に、アルバートは微笑みつつも、クミラの方へ視線を向けた。


「クミラ、また同じ部屋だが大丈夫か?別の部屋を用意してもらう事も可能なはずだが……」


「だ、大丈夫ですっ!気にしないでください!」


 クミラはやや慌てた様子で首を横に振る。その瞳は不安げでありながらも、どこか温かさを湛えていた。(本当に大丈夫なのか……?)と思いつつも、アルバートはそれ以上問い詰めるのをやめた。無理に聞くのは、彼女の優しさを踏みにじることになるだろうからだ。


「お師匠さまっ!今日は宴って言ってましたよね?早く美味しいもの、食べたいです!」


 ユアが目を輝かせて言うと、アルバートは苦笑した。


「そうだな。せっかくだ、今日は楽しむとしよう」


 その夜、催された宴は豪勢の一言に尽きた。


 長いテーブルに並べられた料理の数々はどれも見事で、エルフたちが奏でる歌声と楽器の音色は、透明な水晶のように澄み渡っていた。ユアとクミラはその美しい調べに心奪われ、満面の笑みで食事を楽しむ。


 だが、その華やかさとは対照的に、城の地下──そこでは『恐るべき実験』が密かに行われていた。


 暗闇に閉ざされた地下施設。壁には魔法陣が刻まれ、冷たい空気が染み込むような寒さが漂っている。拘束された数人のエルフたちは、荒く息をし、恐怖に震えていた。その胸元には黒く輝く魔法陣が刻まれ、次々と魔力が注ぎ込まれていく。


 悲鳴が響き、反動に耐えきれず命を落とす者たち。だがその中で、たった一人──『シュルド・キアナ・シュトバルティア』だけが生き残った。


 王子であるはずの彼は、ぼろ布をまとい、栄養失調で痩せこけた体。かつては輝いていた金色の髪も、今は艶を失い乱れている。その姿はもはや王子などではなく、ただの『囚われた奴隷』に過ぎなかった。


 そんな息子を見下ろしながら、アバルダは声を震わせて笑う。


「成功だ……成功だっ!精霊に愛された者は、やはり勇者化に耐えられる……!」


 その瞳には、もはや父としての情など微塵もなかった。


「我が国で精霊に愛された者はあと一人。二人も勇者化が成功すれば、我が国は戦争で負けることはない。良いぞ、良いぞ!早く、早く戻ってこい。愛しい娘メラリカよ」


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