第21-1話 最狂の男
明けましておめでとうございます。
まだまだ稚拙な文ではありますが、今年もよろしくお願いします。
愁が〈鑑定の魔眼〉で読み取った情報は、目の前の男ブレストが、『WORLD CREATOR』を除けばこの世界で初めて見た『レベル100』に到達した存在であることを告げていた。
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ネーム:ブレスト
レベル:100
種族:人族
ジョブ:戦場の支配者(狂戦士)
スキル:神話の魔剣 崩壊技術 戦闘狂
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その情報に愁は思わず眉をひそめる。
『WORLD CREATOR』ですら珍しかったスキルを三つも宿す彼は、まさに『選ばれた者』と呼ぶにふさわしい。
ブレストのスキル〈神話の魔剣〉──これはユアも持っていたスキルだ。〈鑑定の魔眼〉を以てしてもその詳細は謎に包まれているが、光の剣を自在に顕現させ操る力があることは間違いない。
次いで〈崩壊技術〉。説明文によれば、あらゆる攻撃に崩壊の力を宿す能力だという。単純な付与効果に見えるが、熟練者による応用が加われば未知の脅威となり得るスキルだった。
そして〈戦闘狂〉──全てのステータスを攻撃力に集中し、捨て身の戦闘を行う狂気の力。ブレストほどの男が行使すれば、その破壊力は計り知れないが、制御を失えば諸刃の剣ともなる。
愁は息を詰めた。
『WORLD CREATOR』とは異なり、レベルの概念が曖昧なこの世界で、〈鑑定の魔眼〉がどこまで正確な情報を示しているのかは不明だが、これまでの経験上、スキルについての読み取りが誤っていたことは一度もない。それが今、目の前にいる男の強さを裏付けていた。
──そして、彼の強さを示す決定的な証拠は、先ほどの一撃だった。
愁の魔剣『雷切』のスキル〈三千大千世界〉。その破壊力はまさに絶対と言えるものであり、本来なら回避や防御など夢のまた夢のはず。
しかし、ブレストはそれを青紫色の光剣で容易く受け止めたのだ。
(あの攻撃を……受け止めただと?それも、まるで当然のように──)
愁は危機感を覚えた。
「雷切のスキル〈三千大千世界〉は、残り二回……まだ何とかなるはずだ」
焦る胸を押さえ、愁は再び剣を構える。電撃を纏う『雷切』が唸りを上げ、彼の手に馴染む。
その感触に、わずかばかりの希望を感じながら、愁は再びスキルを解放した。
「神滅絶刀、雷切──スキル解放〈三千大千世界〉!」
閃光のごとき一閃が放たれる。迸る電撃と共に地面が抉れ、衝撃波が庭園全体を揺るがす。まるで嵐の中心に放り込まれたかのような激震。だが──
「なんだよ、ガキが。感動の再会中に邪魔すんじゃねえ!」
再びブレストの青紫の剣がその一撃を受け止めていた。
唖然とする愁を嘲るように、ブレストは力任せに剣を振り下ろす。ブレストの赤髪が衝撃に揺れ、端がボロボロになった灰色のローブが風圧になびく。その破壊的な威力に、愁は咄嗟に〈縮地〉で距離を取るが──
『雷切』の刃が真っ二つに折れた。
その光景に、愁の胸に冷たいものが流れ込む。
クラフト最高難度の武器であり、不壊属性ではないものの、硬度には自信があった魔剣が、ブレストのスキル〈崩壊技術〉によって砕かれたのだ。
ブレストは愁を見下ろし、心底楽しそうに笑っていた。
その笑顔には焦りも迷いもなく、むしろ狩りを楽しむ野獣のような生気が満ちている。
「おい、ガキ!なかなかやるじゃねえか!この前の勇者よりは面白そうだぜ!さあ、かかってこいよ!」
「……出来れば遠慮したいところだが、そんなこと、あんたが許してくれるわけがないよな」
「当たり前だろ!強いやつが目の前にいるのに戦わねえなんて、ありえねえ!」
(まさに戦闘狂。噂通りだな……こいつはまさに災厄そのものだ)
愁が次の一手を思案する間もなく、背後から聞き覚えのある声が響いた。
「愁くんっ!助けに来てくれてありがとう!無事に抜け出せたよ!」
振り返ると、そこにはリリーニャとライトの姿があった。
リリーニャの安堵した笑顔とライトの申し訳なさそうな表情を見て、愁の顔にも安堵が広がり、わずかに緊張が解ける。
「リリー!ライトさん!二人とも無事で何より!でも、今は喜んでいる場合じゃないかもしれません。あいつ……ブレストがここにいます!油断すれば全滅もあり得る相手です」
愁の声は静かだが、その中に滲む鋭い危機感が、周囲の緊張をさらに高めていく。冷たく張り詰めた空気が、言葉を追うごとに肌を刺すようだった。
しかし、この場で最もブレストの名に反応したのはリリーニャだった。
小さな両手を強く握りしめ、全身を震わせている。その瞳には怒りと恐怖、そして決意が入り混じっていた。
彼女にとってブレストは、両親や村を奪った仇。心の中に刻まれた深い傷と燃えるような復讐心が、静かに、しかし確かに彼女を突き動かしていた。
「ブレスト……!やっと見つけた」
普段の明るく可愛らしい声は影を潜め、リリーニャの声は低く、暗く、重い感情を帯びていた。
彼女は一歩前へ進むとピンク色の宝石が輝く杖を掲げ、魔法少女へと姿を変えるための変身を始める。
その瞬間、空気が変わった。輝く光と共に現れた戦闘モードのリリーニャの姿を見たブレストの目が、瞬時に冷酷な殺意で染まる。
「あー、くそ!見つけたぞ、あのメスガキ。お前の訳わかんねぇ力のせいでデモリアス大陸の最果てまで飛ばされたからな。ぐちゃぐちゃにして殺してやる」
ブレストの声は低く、辺りに響き渡る。その言葉の裏にある狂気が、全員の背筋を凍らせた。
続いてブレストはゆっくりと目を閉じた。一見、無防備に思えるその動作に愁は困惑する。
だが、すぐにその意図が明らかになる。周囲に溢れていた闘志や殺意、プレッシャーが、まるで嵐の前の静けさのように消え去ったのだ。異様なほど静かなその気配は、不気味ですらあった。
目を再び開いたブレストの瞳は血走り、体からは陽炎のような揺らぎが漂い始める。
その圧力、殺意の濃さは、先ほどとは比較にならなかった。まるで荒ぶる鬼神が降臨したかのような威圧感に、全員が本能的な恐怖を覚える。
「まずいっ!二人ともスフィアたちのところまで下がって!」
愁は瞬時に状況を察し、指示を飛ばす。
その鋭い視線はブレストから一瞬も逸らさない。目の前の敵が放つ異常な殺意は、明らかにリリーニャを狙っている。
愁は一呼吸で覚悟を固めると、ブレストのスキル〈崩壊技術〉の付与によって武器が破壊される事への対策として、不壊属性の武器である愛剣『宵闇』を握りしめ、先制攻撃を仕掛けた。
「やらせはしないぞ、ブレスト!」
全力の踏み込みから繰り出される一閃。愁の刃は、迷いなくブレストの胴体を狙う。その一撃には、持てる力のすべてが込められていた。だが──
「羽虫が……目障りだっ!」
ブレストは愁の剣を大振りに放った拳一つで受け止めた。金属と肉体。その接触がもたらす未来、そんなことは誰でも予想できる。普通であれば、容易く肉が裂ける。
しかし、ブレストの拳は違っていた。鋭い切れ味の宵闇の刃をはじき返し、その拳には傷の一つもない。そして、はじき返されたその一瞬、愁の腕には衝撃が走り、剣の柄を握る手から血が滲む。
「このっ!馬鹿力がっ!!」
手の痛みに顔を歪めながらも、愁は再び剣を握り直す。
だが、その直後に訪れた、心臓を握り潰されるような感覚――本能が警鐘を鳴らす。その警告に従い、愁は攻撃を中断し、即座に防御態勢に入る。
次の瞬間、ブレストの正拳突きが炸裂した。
その衝撃は凄まじく、愁の全身を貫いた。宵闇の防御をもってしても完全には防ぎ切れず、愁の体は宙を舞い、スフィアたちのいる方向へ吹き飛ばされる。
吹き飛ばされる最中、愁の意識は『闇の中を漂う小舟』のように朦朧としていた。
(ああ、もう……このままだと城壁まで……)
激痛が全身を貫き、もはや自分の体がどれほどのダメージを受けたのかすら把握できない。
それほどの衝撃が愁を襲っていた。
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