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クラフトマスター建国記〜転生により不治の病を克服した少年は異世界で『至高の国』を再建する〜  作者: ウィースキィ
第三部 第二章 建国の英雄たち【大魔法国家ルミナス動乱 編】

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第40話 綻び


 その知らせは、雷のようにルミナス中を駆け抜けた。


 ――魔術王シン、病に倒れる。


 最初は噂だった。だが、やがて王宮から正式に発表が出た瞬間、ルミナス国内の空気が一変した。


 ルミナスにおいて魔術王シンとは、ただの国家元首ではない。彼は大魔法国家の守護者であり、世界最高峰の魔法使いであり、そしてこの国そのものを支える柱だった。


 病の噂は、確かに以前からあった。だが、倒れることはなかった。どれほどの重圧を背負おうと、彼は常に玉座に座り、杖を手に国を守り続けてきた。


 その柱が、ついに崩れた。


 不安が、波紋のように広がる。そして、その波は当然――魔法学校にも届いた。


 

◆◇◆◇◆◇



 ルミナスの魔法学校。


 白い石造りの校舎の廊下には、ざわめきが満ちていた。生徒たちが小声で囁き合い、教師たちもいつになく緊張した表情をしている。


 教室の窓からは、王都の塔がいくつも見えた。


 その一角。


 机に頬杖をつき、落ち着かない様子で窓の外を見ている少女がいた。


「……ねえ、燈璃」


 猫耳を伏せたリリーニャが不安そうに声を落とす。


 彼女の隣の席では、赤い髪を揺らした燈璃が椅子をぎしぎし揺らしていた。


「本当に倒れちゃったのかな……」


 燈璃は落ち着きなく周囲を見回した。


「クオーレもメイディアも学校来てないよね」


「うん……」


 リリーニャは小さく頷く。


 クオーレは魔術王シンの孫娘であり、メイディアはその妹だ。シンの親族である二人は、当然王宮へ呼ばれている。


 そして、つい数日前――野外演習での事件。


 メイディアは重傷を負い、命の境を彷徨った。幸い回復は順調だと聞いているが、状況が状況だ。不吉な予感が頭を過る。


「……クオーレもメイディアさんも、大丈夫かな」


 リリーニャの声はかすかに震えていた。


 そのときだった。


 ――ウゥゥゥゥゥゥゥン!!


 低く重い警報が、王都の空気を切り裂いた。聞いたことのないような、胸をざわつかせる不快な音だ。


 窓ガラスが震える。


「えっ……!?」


 生徒たちが一斉に立ち上がる。彼らは知っているのだ。この音が鳴り響くことの意味を。


 次の瞬間。魔導通信という魔法技術で生み出された結晶が教室の中央に浮かび上がり、教師の声が響いた。


「全生徒、落ち着いて聞きなさい!」


 だが、声には明らかな緊張が滲んでいる。


「魔術王シン様が展開していた国家守護結界が解除されました。現在、国家非常事態宣言が発令されています」


 教師の発言に教室が凍りついた。


 守護結界——それは、シンが自らの魔力でルミナス全土に張り巡らせていた巨大防壁であり、小国であるルミナスが混沌とした魔族の住むデモリアス大陸で専守防衛を貫くことができていた理由でもある。


 魔獣。侵略。外敵。すべてを拒む、絶対の盾。それが、消えた。


「本日より学校は休校。生徒はただちに寮へ戻り待機してください!」


 騒然。


 いくつかの椅子が倒れ、ざわめきが広がるなか、燈璃は立ち上がり、窓の外を見た。


「ねえ……リリー」


「うん……」


 二人は同時に感じていた。胸の奥に広がる、説明できない不安。それはまるで――何かが、近づいているような、そんな予感。


 


◆◇◆◇◆◇




 数十分後の寮の部屋。


 リリーニャと燈璃は窓際に並んで座っていた。


 街では軍の騎士たちが忙しく飛び交っており、王都の塔の上には、警戒の光が灯り始めていた。


「……なんか、嫌な感じする」


 燈璃がぽつりと言う。長く生きてきた彼女の勘が告げるのは、単なる杞憂に終わらない。


「うん……」


 リリーニャも同じだった。


 胸の奥で、運命がざわめく。


 

◆◇◆◇◆◇



 その頃。


 ルミナスの空のはるか上空の雲海の上に、二つの影が浮かんでいた。


 一人は幼い少女の姿。背から翼と尻尾を生やし、額には小さな角。金色の瞳は底の見えない闇を湛えている。


 奈落の竜王――ミスリラ。


 そして、その傍らにもう一人。灰色の翼を持つ亜人族の少女がいる。


 こげ茶色の短い髪が風に揺れていた。


 かつてフロストフィレスと共に神話大戦を戦い抜いた『三獣神騎』の一人――ストラト。


 ミスリラは、眼下のルミナスを見下ろしながら、くすくすと笑った。


「くく……なんと都合がよい」


 金色の瞳が細まる。


「魔術王の結界が解けた」


 声は、喜びに満ちていた。


「これでルミナスは丸裸だ」


 ストラトは黙っていた。外から見れば、彼女は完全に従っているように見える。だが――


(まずい……)


 胸の奥で、強烈な危機感が渦巻いている。人類の守護者であった彼女が抱く、未来への危機感は本物だ。


 しかし、ドミナトルの支配、それは絶対だった。


 身体は逆らえない。声も出せない。だが、意識だけは残されている。


(魔術王シンが倒れた……?)


 もしそれが事実なら。この国は、今――最も脆い瞬間にある。


 そして、それを狙う存在が、ここにいる。


 ストラトの危機感など知ってか知らずか、嬉々としてミスリラは両手を広げた。


 風が唸る。


「ケイオス魔道国を支配し、手に入れた魔族と魔獣軍の集結は、もうすぐ完了する」


 口元に、残酷な笑み。


「空より三万。地上より五万」


 今や国境付近で待機する軍勢。それらすべてが揃えば――侵攻が始まる。


 ミスリラは楽しそうに笑った。


「さあ、ストラト」


 黄金の瞳が輝く。


「準備は整う」


 そして、ゆっくりと言い放った。


「ルミナスを滅ぼすぞ」


 雲の上で、奈落の竜王は不敵に笑った。


 その眼下。まだ何も知らぬ王都の灯が、静かに揺れていた。


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