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クラフトマスター建国記〜転生により不治の病を克服した少年は異世界で『至高の国』を再建する〜  作者: ウィースキィ
第一部 第一章 新たなる世界 【第一次王国 編】

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第8-4話 お仕置き


 その頃、リアを探していたメラリカは、ふと空を仰いでから懐中時計に目を落とした。


 探索を始めてから、すでに一時間近くが経過していた。


(……これはまずいですね)


 額に浮かぶ汗をそっと指で拭い、彼女は焦燥に満ちた吐息をひとつ漏らす。待ち合わせの時間も迫っているが、一向にリアの姿は見つからない。


 そんなとき、人混みの先、にぎやかな露店の陰に見慣れた黒髪が揺れるのを捉えた。


「あっ、スフィアさん!こっちです!」


 声に反応してこちらを振り向いたスフィアの顔には、やはり安堵ではなく険しさが滲んでいた。


「メラリカ!リア、見つかったか?」


「いえ、残念ながらまだです。そろそろ待ち合わせの時間なので、まずはギルドに戻って愁さんにも状況を伝えましょう。一緒に探してもらえば、心強いです」


「そのほうがいいな!」


 二人は頷き合い、早足でギルドへと向かう。石畳を踏む足音が焦燥と共に鳴り響いた。


 ギルドの扉を押し開けて中に入ると、まだ約束の時刻には少し早かったのか、愁の姿は見当たらなかった。


 しかし、周囲を見渡したそのとき──


「スフィアさん!メラリカさん!」


 耳に飛び込んできたのは、まさに探していた少女の声。二人が驚いて振り向くと、ギルド奥の席に小さなリアの姿があった。


「リア!」


 椅子から立ち上がったリアの傍へ、メラリカとスフィアは駆け寄った。


「よかった……リアさん、ご無事で……」


「リア!本当に心配したんだぞ!一体どこにいたんだ!?」


 感情が込み上げ、二人は思わず矢継ぎ早に問いかける。


 リアは少しおずおずとしながらも、はっきりと答える。


「あの……急に変な人に魔法で眠らされて、誘拐されそうになったんです。でも、危ないところをユアちゃんと、そのお師匠さまの騎士様に助けていただいて……ここまで送ってもらってました」


 その隣に座っていた栗色の髪の少女──ユアがすっと立ち上がり、二人に向かってぺこりと頭を下げる。


「はじめまして。私はユアといいます。リアの保護者の方ですよね?無事に会えてよかったです」


「……いえ、本当に危ないところを助けていただいたようで。ありがとうございます。ぜひ何かお礼をさせてください」


 深々と頭を下げるメラリカの申し出に、ユアは両手をぶんぶんと振って首を横に振った。


「いえいえ、お礼なんて全然いりませんよ!お師匠さまは困っている人を助けるのが趣味みたいな人ですから!それに私は、リアとお友達になれたから、それだけで満足です!ね?リア!」


「うんっ!わたしもユアちゃん……ううん。ユアとお友達になれてすっごく嬉しい!」


 リアは無邪気にユアの手を握り、まっすぐにその瞳を見つめた。


「本当にありがとう、ユア。お師匠様にもお礼を言っておいてね。また今度、ゆっくり一緒に遊ぼう」


「うん!絶対また遊ぼうね、リア!じゃあ私は、お師匠さまのところに戻らなきゃだから、またね!バイバイ!」


 ぱたぱたとスカートを揺らしながら、出口で最後にぺこりと頭を下げ、ユアは駆け足で去っていった。


 ──ちょうどその時だった。


「お、いたいた。おーい」


 聞き慣れた声と共に、愁がギルドの扉から姿を現した。


 リアはその姿を見た瞬間、堪えていたものが決壊する。目に涙がにじみ、そのまま愁へと駆け寄って抱きついた。


「うわっ、ど、どうしたんだリア!?」


 突然の抱擁に面食らいながらも、愁は戸惑いがちにリアの頭を優しく撫でる。困惑の表情でメラリカとスフィアに視線を向けた。


「で……何があったの?」


 二人が順を追って事の顛末を語ると、愁は真剣な顔で頷いた。


「……そんなことがあったのか。……ごめんね、俺、一緒に居てやれなくて」


「すみません、愁さん。私が付いていながら、こんなことに……」


「我もいたのに、本当に申し訳ない……」


 メラリカとスフィアの顔には、深い後悔と自責の色が滲んでいた。せっかくのお祭りの最中だというのに、リアを危険に晒してしまったことが、二人の心を締め付けていた。


 だが、愁はそんな空気を吹き飛ばすように明るく言ったのだった。


「二人とも、もう気にしないで。せっかくのお祭りなんだから、今からでも四人で楽しもう!今度は俺がちゃんと気配探知で見張るから、もう大丈夫。ね、リアも、それでいいかい?」


 リアは、泣き腫らした目元を袖で拭いながら、ゆっくりと顔を上げて頷いた。


「……はい。わたしも、嫌なこと忘れたいです。みんなで楽しいこと、たくさんしたいです……」


 その顔に、涙の跡を残しながらも確かな笑顔が浮かぶ。


「よし、決まり!お祭りはこれからが本番だからね。今度は四人で、目一杯楽しもう!」


 リアの明るい声に背を押されるように、二人も「ならば仕方ない」とばかりに頷いた。


 こうして四人は再び祭りの喧騒の中へと足を踏み入れることになった。


 ギルドの扉を開けると、夜の広場には魔法使いたちが集い、まるで夜空に咲かせる花のような光の魔法を披露していた。


 蒼、紅、金──空を彩る光の粒が弧を描いては弾け、闇にきらめく星屑のように降り注ぐ。


「おお……これはなかなか綺麗だな。花火みたいだ」


 愁が感嘆交じりにそう呟くと、隣にいたリアが不思議そうに首をかしげた。


「はなび?ってなんですか?」


「んー、そうだな。俺の国では、夜の空に咲く大きな火の花のことをそう呼んでた。夜空に咲いて、すぐに散るんだ。でも、それがすっごく綺麗なんだよ。今度、機会があれば作ってみせるよ。一緒に見ようか」


 不安と緊張に支配されていた時間が、嘘のように和らいでいく。リアは自分でもその理由が分からなかった。ただ、愁が隣にいる。それだけで、不思議なほど心が穏やかになる。彼と繋いだ手の温もりが、胸の奥に染み込んでくるようだった。


「はい!はなび、見てみたいです!」


 屈託のない笑顔とともに、リアは元気よく答えた。


 すると、それまで黙っていたスフィアが、愁の空いていた右手をそっと掴む。


「なんの話だ、主様?」


「ん?花火の話だよ。今度スフィアにも見せてあげるよ。きっと気に入ると思う」


 そんな仲睦まじい三人の様子を見て、後ろからメラリカがクスクスと笑いを漏らす。


「ふふ……愁さん、まるで両手に花ですね」


「ちょ、メラリカさん、からかわないでくださいよ……!」


 そうして四人は夜の屋台通りを巡り、焼きたての串焼きに舌鼓を打ち、甘い蜜飴を頬張り、光と音と香りの中で笑い合いながら、祭りを存分に楽しんだ。


 リアにとっては波乱の一日ではあったが、それでも最後に笑顔で終えることができた。それだけで、すべてが報われた気がした。


 夜も更け、宿へ戻った四人は、翌朝の村への出発に備えて早めに休むことにした。


 別室を取っているメラリカを送り届けた後、愁たち三人は自分たちの部屋に戻る。


「二人とも、今日は疲れただろう?明日も早いから、もう休もう」


 リアもスフィアも、布団に入るとまるで糸が切れたように深い眠りへと落ちていった。その寝息を耳にしながら、愁は静かに目を閉じる——わけにはいかなかった。


 彼はそっと目を開け、〈気配探知〉を展開する。


 集中力を高めれば高めるほど、ただの気配ではなく、個々の『輪郭』まで探知することができる。それはまるで霧の中に浮かぶ輪郭を凝視するような感覚だった。


 ──右腕のない男。


 意識を澄ませて探っていくと、町の外れ、暗がりに沈んだ古びた廃墟の辺りで、男の姿を捕捉することに成功する。


 その傍らには、もう一人の男。そして、さらに少し離れた馬車の中には、縛られたままの四つの気配がある。


「見つけた……」


 愁は静かに呟くと、寝ている二人に〈守護者の聖域〉を展開して安全を確保し、窓から外へと出る。


 腰に下げた魔石に〈飛行〉の魔法を発動させ、夜空へと舞い上がった。風が頬をかすめ、宵の帳に溶けるように彼の黒衣が翻る。


 やがて目標の廃墟へと降り立つと、馬車の中に捕らわれた亜人族たちの気配を再確認し、そのまま廃墟の扉を開け放った。


 突然の訪問に男たちは驚き、警戒心むき出しの目を向ける。片腕のない男が不機嫌そうに言った。


「な、なんだよ……いきなり入ってきて」


「いやなに。今日はうちのリアが世話になったようだからな。礼を言いに来たんだよ」


「は?リア?誰だそりゃ?」


 互いに顔を見合わせ、曖昧な表情を浮かべる男たち。その無責任な態度に、愁の中の何かが切れた。


 次の瞬間、彼の手に鋼の剣が生成され──そのまま迷いなく、男たちの両腕を斬り落とす。


「へ……?」


 間抜けな声とともに、二人の男は自らの異変に気づいた瞬間、蒼白な顔で泡を吹き、その場に崩れ落ちた。


 愁は冷静に彼らの止血だけを施し、命は奪わずに罰だけを与える。出血多量で死なれては『罰にならない』からだ。


「……手癖の悪い腕には、お仕置きが必要だからな」


 そう一言だけ呟くと、男たちを縄で縛り、外へと放り出した。そして馬車の扉を開き、捕らわれていた亜人族たちを解放する。


「あ、ありがとうございます!」


「助かりました……!」


 怯えと安堵が入り混じった目で深々と頭を下げる彼らに、愁は優しく声をかけた。


「大丈夫です。頭を上げてください」


 心が少し落ち着いたところで、彼は森の奥にある自分の村の話をした。


 すると全員が「行きたい」と口を揃えたため、魔石を使って町の外に送り出す。


 行き先を伝えたので、無事に辿り着ければ、彼らももう二度と鎖につながれることはないだろう。


「……よし、戻るか」


 月明かりの下、愁は静かに夜道を駆ける。


 宿に戻り、部屋の扉をそっと開けると、リアとスフィアが変わらぬ寝息を立てていた。その無防備な寝顔に、ようやく自分も安堵を覚える。


「……明日はメラリカさんを村に招待する日、か。忙しくなりそうだな」


 そう呟きながら、愁もまた静かに床に就いた。けれどその胸には、確かな満足と、小さな達成感が灯っていた。


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