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クラフトマスター建国記〜転生により不治の病を克服した少年は異世界で『至高の国』を再建する〜  作者: ウィースキィ
第一部 第一章 新たなる世界 【第一次王国 編】

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第8-2話 初めてのお祭り


 今回の愁の『用事』とは名ばかりで、その実、地底龍から手に入れた希少な素材を使って、リアとスフィアに特別な装備を作るための時間を確保したかったのだ。


 地底龍は古の魔物──その身体に宿る力は、どれも桁違いの価値を持つ。中でも今回入手した素材は、愁の職人魂を深く刺激するものだった。


「……最初は、これだな」


 愁は静かに呟きながら、エンドレスボックスの中から、地底龍の瞳──透き通る琥珀色の宝珠を取り出した。


 まるで生命が脈打つかのように微かに明滅するその瞳を、丁寧に宝石へと研磨し、磨き上げる。


 そして、加工した宝石のような瞳の周囲には純銀で繊細な装飾を施し、チェーンには耐久性向上を狙って地底龍の鱗を編み込んだ。薄く削り、幾重にも重ねて鍛え上げることで、まるで細い鋼線のような耐久性を持つ装飾品へと仕上げる。


 二人分のアクセサリーが完成する頃には、部屋の中に仄かに鉱石の甘い匂いと、金属を研磨する音の余韻が残っていた。


 そのアクセサリーには『始祖の祝福』という効果が付与される。


 『一分間に三十五パーセントの自動回復』という驚異的な再生能力に加え、『呪詛の完全無効化』と、いかなる精神侵食や状態異常をも跳ね返す防御力を持ち主にもたらす。


 しかもその見た目は気品に満ち、たとえ魔力が込められていなくとも、王族の正装にすら相応しい逸品だった。


 続いて、愁は地底龍の角に手をかける。厳寒の金属にも似た重厚感のあるその素材を圧縮し、慎重に形を整えていく。


 仕上がったのは、淡い漆黒に輝く一本の指輪。その中央には、大変希少な素材である『改変の聖石』を嵌め込んだ。


 『改変の聖石』により、この指輪に宿るのは『死を一度だけ拒む力』。命の淵に立たされた瞬間、たった一度だけ、運命そのものを捻じ曲げる力だ。さらに、地底龍の角の性質により、『防御力三割上昇』『体力五割増強』という補助効果まで付与されている。


 もっとも、素材の希少さゆえに、これは一つしか作ることができなかった。


(……誰に持たせるか、悩みどころだな)


 だが、その選択は後に回すことにした。今はまだ、やるべきことがある。


 最後に愁が手を伸ばしたのは、スフィア用に以前作成した二本の剣──双剣の『コピス』。


 すでに高品質の武器だが、さらなる強化を試みる。


 刀身に地底龍の血を塗布し、クラフト能力による加工で浸透させると、刃がまるで紅蓮に染まったかのような深紅に変わった。血の力が剣に流れる魔力の通り道を拡張し、魔力浸透率を飛躍的に高めてくれたのだ。


 続いて、地底龍の骨を粉砕、精製し、刀身内部へと練り込んでいく。


 その工程には繊細なクラフト能力の他に魔術的加工が必要だったが、もちろん会得済みのスキルだ。愁の手に迷いはない。


 結果、刃はまるで氷のように鋭く、なおかつ強靭なものへと生まれ変わった。


 地底龍の血によって付与された効果は『魔力付与上限の拡張』。剣に注ぎ込める魔力の量が飛躍的に向上し、魔法剣士であるスフィアの戦い方に新たな可能性をもたらす。


 さらに地底龍の骨に宿る『不壊の性質』が奇跡的に反応し、コピスは『ユニーク等級』の武器にしか宿らぬはずの特性『不壊属性』を獲得した。


(……これは、俺自身が一番驚いてるかもな)


 あまりに順調すぎる仕上がりに、愁は思わず目を細め、完成した武器を手にしばし見惚れてしまう。


 だが、それで終わるはずがなかった。心に灯った創作の火は、もう止まらない。


 地底龍の素材がもたらす想像以上の可能性。思考は次なる加工へと自然に移行し、愁の指は再び躍り始める。


 この後に訪れる出来事など、彼の思考からは完全に抜け落ちていた。


 今の彼にとって、この部屋こそが世界のすべて。夢中で、ただひたすらに、自らの手で『奇跡』を生み出し続けるのだった。




◆◇◆◇◆◇




 一方その頃、町に出た三人はお揃いの新しいコートを羽織り、鮮やかな喧騒に包まれた通りを歩いていた。


 町はいつもの穏やかな表情とは打って変わり、人波が川のように流れ、通りの両脇には色とりどりの屋台が軒を連ねていた。香ばしい煙と活気ある掛け声が風に乗り、祭りの空気を一層濃くする。


 今日という日は、年に一度の収穫祭。通りは華やぎ、人々の笑顔と興奮が渦巻いていた。


「リアさん、スフィアさん。何か食べたいものはありますか?愁さんからお二人にお金を預かってきたので、好きなものを選んでくださいね」


 柔らかく微笑みながらそう言ったメラリカは、どこか誇らしげだった。それは愁があらかじめ渡してくれたお金を、こうして信頼されて任されたことが嬉しかったからだろう。


「えっ……そうなのですか。後でちゃんとお礼を言わないと」


 リアは驚いたように目を瞬かせ、胸に温かいものが広がるのを感じた。


「さすが主様だなっ!我は串焼きが食べたい!お肉がいいのだっ!」


 スフィアは鼻をひくつかせながら、屋台の煙を追いかけるように勢いよく言った。


 肉の焼ける匂いに誘われて串焼きを三本買い、それぞれに手渡す。香ばしく焼かれた肉にかぶりつくスフィアの目が輝いた。


 その隣で、メラリカは湯気を立てる蒸し芋にとろりとバターをのせたものを頬張る。


 口に含めば、ほくほくと甘く、寒さにかじかんだ体にじんわりと染み込むようだった。


「メラリカ!我、あれやりたい!あの棒に輪を入れるやつ!」


 そう言ってスフィアが興奮気味に指差したのは、輪投げの屋台だった。色とりどりの景品が並ぶ中、彼女の目はまるで子供のように輝いている。


「三回投げて、輪が入った場所の得点で景品がもらえるみたいですね」


 メラリカは微笑み、屋台の主に銅貨を渡した。


 スフィアは身を乗り出し、真剣な表情で輪を構えると──シュッ。軽やかな音とともに放たれた輪は、見事に最大得点の『九』に入った。続く二投もすべて『九』。合計得点は二十七点、最高記録である。


「あちゃー……お嬢ちゃん、こりゃ驚いた!はい、これが景品の果物の盛り合わせだよ」


 愛想の良い屋台の親父が、豪華な果物の籠を手渡す。ニット帽を深く被ったスフィアは、その獣耳をうまく隠せていたのか、亜人族とは気づかれていない様子だった。


「ありがとなっ、おっちゃん!」


 スフィアはご機嫌で籠を抱え、二人のもとへ戻っていく。


 その横を歩くリアは、そっと帽子を深く被るが、それだけでは亜人族であることを示す銀色の髪を隠しきれず、人目を少し気にしているようだった。


「リアさんは、何かやってみたいことありませんか?私も一緒に行きますので、遠慮しないでいいですよ」


 その気遣うような声に、リアは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに柔らかく微笑んだ。


 すると、すぐ近くの屋台から、声が飛んできた。


「エルフのお姉さん、どうだい?硬貨落とし、やっていかないかい?」


 呼びかけたのは、にこやかな中年の男。屋台には水を張った樽が置かれ、その底には大小さまざまなコップが沈んでいた。上から銅貨を落とし、うまく中に入れば倍になったり、銀貨になったりするという。


「少しギャンブルめいていて、面白そうですね。リアさん、一緒にやってみませんか?」


「でも、わたしは……」


 俯き加減にそう呟いたリアを見て、屋台の男がそっと声を潜めた。


「亜人族のお嬢ちゃん、そんなの気にしなくていいさ。俺はそういう差別が大嫌いなんだ。……まあ、大声では言えないけどな」


 その言葉に、リアの表情がふと柔らかくなる。しばし考えた後、彼女は静かに頷いた。


 メラリカの提案で、銅貨を三枚ずつ落とし、より多く増やした方が勝ちというルールで始めることになった。


 一投目──リアの銅貨は音を立てて水面に落ち、見事に大きなコップへ。銅貨一枚が三枚へと増えた。続いてメラリカ。彼女の銅貨は惜しくも弾かれ、外れてしまう。


 二投目──リアは先程と同じように慎重に落とし、再び成功。六枚へと倍増。しかしメラリカの二投目は小さなコップに吸い込まれ、なんと一枚が六枚へ。


 最後は同時投下。水音と共に沈んだ銅貨は、無情にもどちらも外れてしまった。


「ざんねんっ!でも結果的には、二人とも銅貨六枚。引き分け、ってとこだな」


 銅貨を受け取り、二人は顔を見合わせて微笑み合う。


「引き分けでしたね、リアさん」


「はい。でも楽しかったです。わたし、お祭りって初めてで……素敵な思い出になりました」


 そのやりとりを見ていたスフィアが、そわそわと落ち着かない様子で声を上げた。


「終わったのか?次はあれ食べたいっ!」


 指差した先には、チーズのベーコン巻きを焼く屋台が煙を上げていた。


「おいしそうですね。行ってみましょうか」


 三人は賑わう人混みをかき分け、屋台へと向かって歩き出す。


 ──その瞬間だった。


 リアの手が、不意に背後から引かれる。


 振り返ろうとしたその刹那、意識がふっと遠のいた。世界が闇に沈み、彼女の細い体が崩れるように倒れた。


 屋台の前に着いたメラリカが後ろを振り返ると、そこにあるはずのリアの姿は、影も形も見当たらなかった。


「スフィアさん!リアさんがいません!今の今まで、隣にいたはずなのに……!」


「ん……?我もさっきまで、すぐそこにいたと思ったのだが……」


 迷子──というには、あまりに不自然だった。目的地は、リア自身が言い出した屋台だ。にもかかわらず、気づけば彼女の姿は、まるで朝靄の中へと溶けるように掻き消えていた。


 これは、ただの道草ではない。スフィアとメラリカは、言葉を交わすまでもなく目を見合わせた。ふたりの瞳には、静かだが鋭い緊張の色が宿っていた。


 最悪の事態──それが、足音も立てず、彼女たちの背後に忍び寄っている。


「誰かに連れ去られた可能性があります!この町では、亜人族を狙った誘拐事件が起きていると聞いたことが……急いで探しましょう!」


 焦りのこもったスフィアの声に、メラリカは鋭く頷いた。


「わかった!なら、手分けして探そう。我はあっちを!メラリカは向こうを頼む!」


 喧噪に包まれた祭りの広場。歓声と足音が渦巻く中、誰かが人ごみに紛れ、一人の少女をさらうことなど造作もない。


 人波をかき分け、ふたりは光の速度で駆け出した。


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