日常7
振り返ると白い服でショールを羽織った女性が立っていた。
「――あっいや、毒薬が欲しくて。」
その時初めて蟻人族を目にしたので思わず固まってしまった。
村から街にでて様々な人々をみたが、未だに慣れていなかった。
女は下二本の腕で胸を支えるように組んでいた。
思わず胸に目がいきそうになるが、ぐっとこらえて顔を見る。
その顔は美しく思わず見惚れそうになった。
「まぁ、そんな若いのに誰かを殺す気なの?」
女は手を頬にあてて首をかしげながら問う。
「いや、この毒薬でゴブリンを狩るんですよ。」
「ああ、坊やは冒険者なのね。だからそんなに傷だらけなのね。」
納得したのか頷いて微笑む。
「ええ、昨日返り討ちにあいましてね。非力な僕一人ではゴブリンを倒すこともできないんです。」
「あら、パーティーを組まずにソロで活動してるの?それは大変ね。」
「パーティーは募集も応募もしてるのですが、僕は魔法免許をもっていないので。」
魔法免許とは、魔法の行使を許可されたことの証明書のようなものだ。
魔力は多くの人間に備わっているが、実際使うまで至ることができない。
魔法教習所で魔力の扱いを覚える。魔力を形として実現させるには、体の中の魔力を体外に放出して現象に変換する事が必要なのだ。体の中に巡っている魔力を外に出すきっかけを作るのが教習所だけの秘匿技術だ。
教習所は国に管理されており、国は魔法使いの登録を行っている。魔法で悪事をし、それが公になれば教習所で登録された名がブラックリストに登録される。悪事の度合いで指名手配されるのだ。
発行された免許にはその人間の個人情報、魔法力、使える魔法が免許書に記載されている。
これを三年に一回更新することでその人の力量を国に報告する義務がある。
免許の更新を怠ると魔法ギルドや冒険者ギルドなどいくつかの機関での活動制限や入場ができなくなる。
魔法ギルドに至っては免許がなければ入ることすらできない。
教習所の技術は出回ってはいないと言われているが、闇の家業の人間には伝わっていて大金を払うことで国に管理されず、魔法使いになれると言われている。本当かどうかはわからない、そういった噂がある。
魔法免許は冒険者にとって必須で持っていないものは半人前の足手まといとされ、敬遠されてパーティーに入れないし組むのは難しいのだ。
その事実を目の当たりにして昨日は自棄になったのだ。
免許を取るにはかなりの金が必要で、冒険者になるのに金を使いきってしまっていたので免許を取ることができなかったのだ。村では魔法を扱うものがおらず、魔法については冒険者になれば使えるようになるものだと思っていたのだ。
魔法は体外に放出する以外に体内で利用することで筋力を上げることができる身体強化の技がある。
これは訓練所などで教えてもらえた。そのおかげでゴブリンから逃げることができたのだ。
免許所持者が体に触れることで、魔力を流し込み体内の魔力を感知させる。
体内の魔力を免許所持者が流した魔力を操作することで、体内にある魔力を活性化させ意識させることによって身体の強化方法を伝える。
ただ、免許所持者より強化の強さは圧倒的に弱い。しっかり魔法を教えられる事によってちゃんとした強化魔法が使えるようになるのだ。
免許不所持の者がつかえる強化は、普段はまったく持てない物を、少し重いがもてるようになる程度のものだ。
これは一般人に多く広がっている。
身体強化というより生活の知恵程度のものだった。
免許所持者は解放者、不所持者は未解放者と言われている。
「あらあら、それは大変ね。ソロは何かと危険が多いでしょう。」
「ええ、でも小さい頃からの夢だったので、これからお金を貯めてなんとか免許を取得するつもりなんです。そうしたらパーティーも組めるようになるだろうし、まだ駆け出しなんでこれかれですよ。」
虚勢を張ったが、実際は自分に言い聞かせて奮起した。
女はそんな様子をみて少し驚いたかと思うとやさしく微笑んだ。
「そう、頑張り屋さんね。坊や。」
「あっ、これは御婦人。今日も毒消し草をお買い上げで。」
会話に割り込んできたのはこの店の若い店員だった。
「そうね、なにか新しい毒消しは入ってないかしら、それといつもの毒消し、麻痺消しか状態異常回復薬を大量にいただけるかしら。もちろん、他のお客様が買えなくなるほどの量は結構よ。」
「はい、こ毒消しはないのですが、この前外から来た冒険者が変わった毒草を売ってもらったのでそれでよろしければお譲りできます。」
店員は腰を低く丁寧に対応をする。
「それじゃぁ、みせてもらえないかしら?」
店員が了承をすると奥の暖簾をくぐっていった。
「お姉さんは、お医者様なんですか?」
こんなに大量に毒消しを買うのは医者位なものだ。
「いいえ、それとはどちらかというと逆の仕事をしているわ。」
「逆というと?」
「私の仕事は毒を作る仕事よ。」
女は怪しく笑いながら言う。
「毒を作る・・・狩猟ギルドか傭兵ギルドの方ですか?」
毒や麻痺毒を使うの狩猟ギルドが害獣を駆除したりする時などだ。
傭兵はギルドはお尋ねものを捕まえる時に、相手を行動不能にするために麻痺毒を使う。
冒険者で使うのはまれだ。
「いいえ違うわ。そうねぇ、あえて言うなら暗殺ギルドかしら。」
暗殺ギルドというものは実在しない。
実際、人などを殺すのは冒険者や傭兵ギルドだ。
冒険者は命の危険以外で人を殺してはならない。
傭兵ギルドはお尋ね者などをとらえる仕事だ。殺しをすると報酬が減るので危険な時以外は人を殺さない。
困惑していると女は挑発的に微笑んだ。
「例えば私の作った毒で人が死ねば、間接的に私が殺したことになるでしょ。私の毒はとても効き目がよくてね。多くの人が欲しがるのよ。ただ、一般の毒より強いから普通の方にはお売りしてないの。売るのはその道のプロのみよ。あなたの知らない世界の住人たちの争いなどで使用されることが多いわ。だから、毒消しなどの回復系の薬が効きづらい薬を作るために毒と薬を掛け合わしてより強い毒を作っているの。」
そう語る女の周りだけ空気が冷えたような錯覚におちいった。
「――そうなんですか。そういった世界もあるんですね。」
「あら、私が怖くないの?人殺しの片棒を担ぐ恐ろしい女よ。」
女の微笑みはさらに深くなった。
「いや、別に作るのは自由じゃないですか、結局は捉え方ですよ。その毒で死んだ人が悪者なら、助かった人からしたらあなたの毒に救われたってことでしょう。人殺しの片棒であるかもしれませんが貴方個人を批難するほど出来だ人間でもないんで、それに怖いとも思いませんよ。綺麗な女性とは思いますけどね。」
場の空気が少し重くなっていたので軽く最後は冗談をいってみたが。
「変わった坊やね。」
先ほどとは打って変わり優しい笑みを浮かべた。
「お待たせしました。こちらになります。」
店員が包に入れた毒草を持ち女の前にやってきた。
包を開けると白と紫の模様の花を取り出した。
「この花から取れる毒は腹痛下痢めまい吐き気をもようすもので、かなりの即効性があります。値段はこんなものです。」
店員がその花の情報について女に説明をする。
門衛と似た機械を腰につけた店員はそこに刺さっているプレートを引き抜く。
プレートの画面には値段が書かれていた。プレートに認識票を通すことで支払いができる仕組みになっている。
「なるほどね。見たことない種類ね、いいわ頂くわ。」
女が手首についた銀色の輪で出来た認識票で支払いをしようとする。
「あのう、ちょっと待ってください。僕その花見たことがあります。うちの村でお腹の調子をよくする薬の原料に使われているんですよ。確かにその花と別の草を掛け合わせることによってそういった効果の毒が作れるとは聞いたことがあります。どちらかというとそのもう片方の草の効果がさっき言っていた効果と同じで、その花はその効力を上げる程度の物だったはずです。だからそれだけで取れる効能はせいぜいお通じがよくなる程度のものですよ。その冒険者に騙されたんじゃないですか?」
たまたまその花を見ていて、村で使っていた花と全く同じだったので声をかけた。
「ちょっとお客さん。商売の邪魔をされちゃ困るよ。そんな適当いわれても、君にこれがその花であると証明できるのかい。」
店員はせっかく商売の邪魔をされて憤慨する。
「いいですよ。」
そう言って花を掴むとそのまま口に入れて飲み込んだ。
「ちょっと、坊やなにを!」
「ちょっ、誰か早く、解毒剤を早く!」
女と店員が慌てるが、即効性の毒のはずなのにしばらくしても全く変化がない。
「ねっ、なんともないでしょ。だだ、ちょっとお腹がゴロゴロする程度ですよ。」
にっと笑いおどける。店員は心底安心し、女はあきれて息をついていた。
「ふふ、あなたきっと将来大物になるわよ。」
おかしなところを修正しました。




