日常8
あの後、店員は何度も謝りお詫びに毒消しの値段を値引くと提案していた。
女は気にしないと言って、やんわり断った。
大量の毒消しは店の外に止めてある荷車に他の店員たちが積み込んでいた。荷車の近くには執事服の蟻人族の男がたっていた。男は擬態をしておらず、服のあちこちに違和感あるふくらみがあり人の体系とは全く違っていた。
そして、顔は蟻のままだった。
「坊や、いろいろありがとうね。」
「いえいえ、ただ知っていただけなので。最近、お金の重要さを痛感したので、無駄になるようなお金のを使うのを見過ごせなかっただけですよ。」
「でも、坊や。あんな無茶は駄目よ。もし勘違いで本当に毒草だったら大変なことになっていたわよ。」
女はそういうと人差し指の腹で、男のおでこををつついた。
「ええ、すみません。でも、僕みたいな駆け出し冒険者の言うことは信じてもらえなさそうだったので、行動で示すしかなかったんですよ。」
つつかれたおでこが意外と痛く、おでこをこすりながら言う。
「こんな無茶ばかりしていたら死んでしまいそうね。―――そうだわ。今日のお礼に今後、内の店で毒薬を安く売ってあげるわ。内の店の毒薬はこの街のどの店よりも効きがいいのよ。」
「えっ、いいんですか。本当に助かります。でも、この程度のことでそんなに良くしてもらってもいいんですか?」
「ええ、せっかく気に入った子を簡単に死なせてしまうのはもったいないもの。それにあなたはとてもいい匂いがしているから。」
女は意味ありげな笑みを浮かべ、触角がわずかに揺らしていた。
「匂い?」
言われて自分の服を嗅ぐが、傷薬の匂いがでよくわからなかった。
「そうだわ。まだ、自己紹介もしていなかったわね。私の名前はシィーダ・フォミィーよ。坊や――いえ、冒険者君の名前はなんていうの?」
「僕の名前は――」
「ちょっと、冒険者君。さっきからぼうっと麻痺毒袋を手に持ったまま固まってどうしたの。」
少し昔の思い出にふけっていたようだ。
「いえ、ちょっと昔のことを思い出していたもので。あれから一年もたったなと。」
一年の間、何度もこの店に足を運び毒薬を買っていた。
背も伸び体格も大きくなり大人になり始めていた。最初の頃は、何かにつけてシィーダが自分に寄りかかったり、触れてきたりしていたので、自分のことを好いてくれているのではと思い、浮かれたりしていたのだが、半月ほどしてギルドにある本を読んで、蟻人族の特徴をしって恥をかいた。ギルドには色々な種族とパーティを組むことを考慮して、種族ごとの習慣や風習で不和を生まないために種族についての取扱いの本が置かれている。
そこでフェロモンについて知ったのだ。
そのことをシィーダに言い、勘違いして済まないと謝った。
その時のシィーダの顔は困っているような曖昧な表情をしたかと思うと、少し微笑んで別にいいわよと言った。それからは彼女は近づいてくることはなくなったのだが、代わりに何故か挑発するような言動と行動をするようになった。
「そうね。昔はあんなに可愛らしかったのに、今じゃ小生意気な感じになっちゃって、お姉さんは少し悲しいわ。」
遠い目をしながらからかうように言う。
「小生意気じゃなくて大人びたって言ってくださいよ。」
少しむくれて言い返す。
「あら、じゃあ薬の値段も大人値段にしようかしら。」
「ごめんなさい。小生意気な子供です。」
シィーダは最近あまり見ない優しい微笑みをみせた。
スイーツの森での買い物を済ませた後、宿へ向かう。
宿の食堂は多くの人でごった返していた。この宿は夜に飲み屋をやっている。
多くの商人や、冒険者、猟師などが大いに騒ぎ、飲んだくれていた。
宿の名前はエノキ亭という。名前の由来は、この宿の初代がエノキ茸のような頭をしていたからだと看板娘が言っていた。本当かどうかは定かではない。
看板娘はこの店の主人の子供で年齢も同年代だ。
主人の名前はドリー、娘の名前はエリー、女将の名前はアンナ、店で働いているのはこの三人と後バイトが数人だ。そして自分はお客兼バイトだ。
炊事場に行くと主人と女将がひっきりなしに料理をしていた。
「おお、帰ってきたか。皿が溜まっているから早めに頼む。」
ドリーは何かを炒めながら声をかけてきた。
「はい。着替えてきます。アンナさん鍵、勝手に持ってきますね。」
「ええ、お願いね。」
アンナは次々に皿を並べ盛り付けをしていた。
鍵は炊事場の奥の事務所の壁に掛けられている。
多くの部屋番号の書かれた壁掛けから自分の部屋の鍵を取り、急いで部屋に戻り着替える。
この店では冒険者になりたての頃から住み込みで働かしてもらっている。
最初の頃は昼から夜まで働いていたが、今は朝の薪割と夜の皿洗いだけになっている。その代り宿泊代を払うようしている。ありがたいことに宿代は安くしてもらっている。
始めてきた時からここの夫婦にはよくしてもらっている。
何故かと聞くと、息子が冒険者で他の街でがんばっているらしく、その息子と重なるのだという。
同じ冒険者なので何かと困るだろうと優しくしてもらっている。
村から街に出てお金を使い果たし、途方に暮れていた時にたまたま入った店だった。
免許やパーティのことで落ち込んでいたが、彼らのおかげで冒険者を続けることができたのだ。
とても感謝している。
炊事場に戻り、次から次へとくる皿を洗い続ける。
この時、身体強化を使う。身体強化は筋力を上げることに主に使われている。
これは体内の魔力で筋肉を活性化させている。免許を持っていない人間が使える時間は限られている。
大体の人はほんの一瞬の爆発力として使う。これは体が身体強化の技に耐えられないためだ。
まず、身体強化はある一定の行動をとるとき、例えば荷物を持つときは腰、足、腕、背中と色々な箇所に力を入れる。その場所に爆発的に魔力で活性化させることで力を発揮させる。普段より筋力を無理に強化することで大きな負荷がかかってしまう。
数秒なら特になんともないが、数分ともなると強烈な疲労をともなう。後日、立てなくなるほどの筋肉痛に襲われる。下手すると筋や骨を痛めてしまう場合もある。
解放者は身体強化と別に身体回復を同時に使って、数時間でも行動でるようにして強化を使っているのだ。
魔力量によって強化の時間は異なるが、解放者は魔力が低くても常時強化を展開できる時間は五十分程度だ。小出しに使うならその制限はほぼない。
今日の狩でも攻撃を繰り出す時に一瞬だけ身体強化を使っていた。
身体強化は魔力を解放をしていなくても使えるが、発動までに時間がかかる。しかし、体の魔力をうまくコントロールできていれば一瞬にして強化することができる。ここまでコントロールするには、体のどこに魔力を流すかを一瞬で理解し、そこに瞬時に魔力を流し活性化さないといけない。
それを可能にするために、この皿洗いの時間に体のどこにでも魔力を流せるように特訓をしていた。
魔力のコントロールを意識し、体全体に魔力を流し魔力を全身で活性化させる。
この時、一気にではなく、かなり絞って強化する。
最初の頃はこの絞る作業ができず、どうしても爆発的に力をふるってしまっていた。
なので、朝の薪割の時でしか訓練していなかった。全身を強化することは、使わない筋肉にも負荷をかけることになる。なので、その日は一日疲労感に苛まれ、夜には全身の激しい筋肉痛に悲鳴を上げていた。そんな日々を何日も繰り返していた。
人間何事にも慣れてくるもので、徐々に魔力を絞ることに成功し始めた。最初は疲労感が昨日より減ったかなという程度だった。なので、体の方に筋力がついて平気になったのかと思い。次の日は全力で強化して、夜には強烈な疲労と筋肉痛に苦しんだ。
そうして今では数時間、絞った状態で全身を強化させることに成功した。
そのおかげで強化による爆発力が常人より強くなっていた。副産的に何度も体を酷使したせいで、いつの間にか強力な爆発にも耐えれる体になっていた。
ただ、解放者は魔力のコントロールが容易にできるので、解放してない物より魔力の流れや感覚をつかみやすい。なので、こんな努力をしなくても一瞬の強化はお手の物だ。更に後遺症もなく、力も強い。
だから、解放者にはとうてい勝てないだろう。
主人公の名前どうしよう。
無駄に名前出さなかったから意味ありげになってしまって出しにくい。




