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冒険者の日常の日々  作者: りゅうけんたろう
第一章 下級下位
26/28

日常25

 袋一杯に薬草詰め終わったので、それを背嚢にしまった。

 屈んでいたせいで、強張った体をほぐしながら、ヘルムに声をかけた。


「そろそろ、終わろうか。」


「おお、やっとかぁ。」


 ヘルムもかなりの量を取ったようで、持ってきていた袋が大きく膨れていた。

 それを無理やり雑嚢に詰め込んで立ち上がった。

 不格好に膨らんだ雑嚢を肩に掛けて、体を伸ばしていた。


「ふぅ、冒険者って、意外と地味な仕事だね。」


「まあね。最初のうちは、こういったことをコツコツやっていって学んでいくんだよ。採取した薬草の効能を覚えていたらいざという時、使えたりするしね。まぁ、あまり薬草を使うような状態まで追い込まれることはそうそうないけどね。その前にさっき買った傷薬を使えばいいんだし。」


 冒険者の道具で必須なのが傷薬。

 傷口に塗るタイプの物で、効果は抜群だ。薬草はわざわざ磨り潰して患部に当て、しばるく押えつけなければならない。

 傷薬がなくなった時の代用として使うことがある。依頼で集めた薬草は傷薬などの薬の材料にされる。

 この薬草のエキスを抽出して色々な薬品と混ぜで加工したものがこの傷薬だ。

 なので薬草の依頼はなくなることがない。

 毒消しなども同じ理由で随時依頼されている。



「それじゃ、今日はもう帰ろうか。日はまだかなり高いけど結構疲れているでしょ?」


「いやぁ、かなり疲れたよ。正直ここまで来るのにだいぶ体力を消費してたんだ。これからまたあの距離を歩くとなると、帰ったらもう動けそうにないな。」


 首をすくめながらヘルムは言った。


「いや、帰ったらギルドにある訓練所に行くよ。せっかく早く帰るんだし、それにある程度戦闘の心得を学ばないと狩には連れていけないよ。」


「まっマジでかぁ。」


 ヘルムはがっくりと項垂れた。





 帰り道せっかくなので、食べられる果物をヘルムに教えてやる。

 これからは、昼はこの森の果物を食べることをなるので、どの木に食べらる実がなっているか、もぎながら教えてやった。

 果物の特徴を説明しながら、実際にとってもらうなどした。

 自分で採った果物をヘルムに持ってもらいながら進んでいく。

 説明に熱が入り、しばらくヘルムに果物を持ってもらっていると、後ろから咀嚼音がした。

 振り向くとヘルムが果物を食べていた。

 顔の前面部分を上げて、黒い霧の中に果物の先を入れていた。その中からは常に咀嚼音がしていた。

 果物は霧に触れた部分だけがかけていたが、人が噛んだような跡ではなく、ナイフで切ったような断面だった。


「なんで勝手に食べてるのさ。」


 呆れながら言う。


「いや、説明聞いてるとお腹が空いてきちゃってさ。どう、食べる?」


 そう言いながらヘルムは持っていた果物を差し出してきた。


「当たり前だろう。ほとんど僕が獲ったんだから。というか、食べてる音がするんだけどどうなってるんだよそれ。」


 ヘルムから果物を受け取りながら言う。


「私もよくわかんないんだよね。こうやって食べながらなのに普通に話せてしまっていることに驚いているよ。」


 会話中なのに副音声の様に咀嚼音が流れていた。


「その音は小さくできないの?」


「――あっできるみたい。」


 少し、黙ると咀嚼音が小さくなり、しばらくするとなくなった。


「それ、ちゃんとお腹に入っているの?」


「お腹に溜まっている感覚はあるし、多分入っているとは思うけど、無音だと食べた気がしないな。少し音を出すね。」


 そう話しながら咀嚼音を出していた。

 しばらくそうやってお互いに果物を食べ歩きし続けた。





 街に向かい歩いていると、微かだが動物の動く気配が近くにあった。


「ちょっと、止まって。」


 そう言って手を挙げて、ヘルムを止める。

 その場にしゃがんで耳を地面につける。耳を強化し音の正体を探る。

 音の間隔はこちらに向かっているものではなかった。警戒心のない軽やかな足音だった。

 距離はそこまで遠くなく、進行方向にいるようだ。聞いたことある音だ。

 きっと野兎だろう。


「ど、どうしたんだ?」


 普段とは違い緊張した声でヘルムが聞いてきた。

 気をつかって少し小声であった。


「ああ、野兎だよ。どうやらこの先にいるみたいだ。」


 そう言って立ち上がる。

 ヘルムは目に見えてほっとしていた。

 ここは青の森の終わり付近だ。早々魔物はでない。



 せっかくなのでヘルムに仕留めさせることにした。


「ヘルム、弓はどのくらいの距離なら当てられそう?」


「そうだなぁ。まだ、始めたばかりだから遠い距離は無理だけど、動かない的なら30mぐらいなら多分当てられる自信はあるかな。」


 ヘルムは腰に手を当てて踏ん反り返りながら言った。

 わざわざこうやってジェスチャーをしないと感情が詠みにくいので助かるが、少しうざい。


 今のところ、大体スリングショットと同じぐらいの距離なら当てられるようだ。

 それならいつものように距離を詰めたとこから射てもらうか。


「じゃあ、その弓で野兎を狩ってもらうよ。」


「へっ、マジで。」


 兜が顔の様に嫌そうにゆがんで見えたが気のせいだろう。


「うん、せっかくだしね。どの程度威力があるか知りたいし、せっかく練習したんだから使わないとね。」


「で、でもウサギだし、可哀そうかなって。」


「でも、害獣だし、常に討伐依頼も出ているんだよ。」


「う、うむ。」


 ヘルムはあまり乗り気ではないようだった。



 その様子が不自然だったので理由を聞いたところ、どうやら生き物を殺したことがないのだという。

 正確には生き物を殺したことはない気がするだが。

 元の世界では生き物を殺して食べるといった生活をしてこなかったらしい。ほとんどの物は料理として出来上がっていて、それを食べていたそうだ。

 なので動物などを殺した経験はないそうだ。ただ、虫は殺したことはあるらしい。


 それを聞いて魔物とあったらどうするつもりだったのかと聞くと、それとこれとは別だと言われた。

 人に害をあたえるものなら多分殺せるそうだ。その線引きがよくわかなかったが、とにかく魔物は殺せるらしい。正直それも微妙な感じがした。

 野兎も害はあるのだが、それと何が違うのだろうか。



「じゃあ、どうする。僕がやろうか?」


「――いや、やるよ。私も冒険者になったんだ。これぐらいのことができなければ、これから先やっていけないだろうしね。」


 そう言って肩から弓を下ろした。


「まだ距離があるからもう少し歩くよ。しばらくしたらまた止まるから、そこからは忍び足で行くよ。」


「わかったよ。」





 しばらく歩き標的が射程圏内に入る少し前に手を挙げ止める。


「ここからは、無言で行くよ。標的を見つけたら合図するから、ゆっくり狙って仕留めてね。後、できる限り音を出さないように歩くこと。常に平常心でいること、気持ちが昂ると呼吸の音で気づかれ場合があるからね。最後にあまり視線に力を込めないで、感ずかれる場合があるかね。」


「わ、わかった。」


 ヘルムは少し浮ついているようだった。


「はい、深呼吸。落ち着いて、別に失敗してもいいんだから気負いすぎたら感づかれちゃうよ。」


 ヘルムの背中を軽く叩いてやり、落ち着くように促した。


「ああ、ありがろう。」


 そう言って、ため息のよう深呼吸が兜の口の部分から聞こえた。





 お互い黙りゆっくり獲物に近づく。

 自分が先行し、その後ろにヘルムが付いている。進む先の草を音を立てないように体重をゆっくり乗せて踏みつぶしていく。後ろからついてくるヘルムの足音をできるだけ消してやるためだ。まだうまく気配を隠せていないので、足音だけでも抑えてやる。


 そうやって歩いていると視線の先に獲物を見つけた。

 手を上げて歩みを止めた。その行動を見てヘルムも止まる。

 ヘルムと視線を合わせ、指で野兎の場所を知らせた。

 ヘルムもどうやら視認できたようだ。こちらを見て頷いた。



 そして少し屈んでいた姿勢を整えて弓を構えた。


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