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雨と華

洞窟に来て一日が経った。

相変わらず霧が立ち込めていて深い。

昨日はウサギをルノが調理してくれて、キノコを焼いて食べた。

狩りを完全に習ってはないものの、一応やり方だけは教わっているロウは、ルノのために、また生きるために、この過酷な森の中で狩りをしなくてはならない。

昨日、初めて人間の優しさに触れたロウはルノだけには心を許すようになった。とはいえ、まだ人間には警戒はしている。

「わおわお(ルノ、狩りに行ってくる、ここで待ってて。)」

「食料を採りに行くの?まだ雨が降ってるよ?」

「わおわおん(お昼には戻ってくるよ。)」

ルノは耳が聞こえない。なので、世界の音がきこえない。そんなルノが、一度外に出れば、猛獣だらけのこの森では、何が起こるか分からない。

食糧は、今のままでも充分食べていけるが、山菜でも採ってこなければ、栄養面で心もとなかった。

そういう点では、ロウはまだ人間としての血が流れているのだった。

「わおん(痛くないな。)」

すりむいた箇所を、ルノは絆創膏で止めてくれていた。

雨が絆創膏の上を伝って流れていく。

「わおん!(さて、行こう!)」

ロウは、森の中を駆けだした。


その頃、オオカミの縄張りでは、母オオカミが心配していた。

「わうわう(人間に撃たれてなければいいけど…)」

母オオカミにとって、人間は敵だった。出歩けば猟銃を向けられ、捕らえられれば見世物にされるか売られるかの選択しかなかった。

オオカミにだって、オオカミの人生があるのだと、母オオカミはそう思っていた。

ロウを捨てた人間がいい例だ。

ロウは人間だが、訓練すればオオカミとして生きていける。簡単に命を捨てる人間のように育ててはならない。

母オオカミの決意は固かった。


一方ルノの村では、ルノの祖母、ウェンが心配していた。

「オオカミに襲われてないかしら…。」

耳の聞こえないルノを引き取り、育ててきたウェンはこのあたりのことはルノのために知っていた。

森の奥はオオカミの縄張りであり、入り込むと危険であることも、住民から聞いていた。

昨日から帰ってないことを住民につたえると、住民総出で探していた。

「ウェンさん、こりゃあルノはオオカミんとこに入り込んじまったかもしんねえ。」

「ああ、ルノ…。」

昨日そういう話を住民から聞き、気が気でなかったのである。


ロウは、イタチを見つけ、それを追っていた。

所々で印をつけておかねば迷ってしまう。

ルノを一人にさせてはいけない。そう思うが故の行動だった。

やっとイタチを仕留め、次は山菜である。

ワラビは栄養があることをルノから聞いて知っていたため、ワラビを探そうと躍起になった。

ワラビはよく斜面に生えている。

足元に気を付けながら、斜面をゆっくりとおりていくと、一輪のタンポポを見つけた。

おそらくどこからか飛んできたに違いない。

この雨の中、風にも負けず上を向くその姿は、誰かを包み込むようなその華は

まるでルノのようだった。

誰にも知られずひっそりと咲いているのに、どこか勇気をもらえるような。

「わおう(これを持って帰ろう。少しは笑顔になれるかもしれない。)」

イタチを背に乗せ、ゆっくりとタンポポを口にくわえたロウは、洞窟に向かって駆け出した。

だがその時、洞窟の近くでただならぬことが起きようとは、だれが想像したであろうか。

ルノも、感覚は鋭いロウでさえも知る由はなかった。

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