魔法士官学校上級生編 2
いつもどおり――いや、いつも以上の出来だったはずだ。
少なくとも、試験を終えた直後のアンジェリカはそう思っていた。筆記試験では一問たりとも答えに迷わず、返却された答案も全科目満点だった。
けれど、それはエセルバートも同じだった。
これまでは筆記で、必ず差をつけることができていたのに、今回はその差がなくなっていた。そして実技試験では、エセルバートがアンジェリカを上回った。
たった一点。……本当にわずかな差だったが、一点でも上ならば勝ちは勝ちであり、負けは負けだった。
入学してから二年間、一度も譲らず守ってきた首席の座を、アンジェリカは失った。
掲示板に張り出された順位を見た瞬間、周囲のざわめきが急に遠のいたように感じた。
一番上に自分の名前がない。何度見直しても順位は変わらない。
エセルバートの周りには、いつものように人が集まっていた。
でも彼は喜んでいる様子もなければ、アンジェリカを見つけて自分から成績のことを口にすることもしなかった。
だからこそ、アンジェリカは自分から言わなければならないと思った。
「エセル……おめでとうございます」
どうにか声に出したものの、うまく笑えていた自信はなかった。
エセルバートは、アンジェリカが首席だったときには、いつも心から祝ってくれた。悔しくなかったはずがないのに、それを表に出すこともなく「おめでとう」と言ってくれていたのだ。
同じようにできない自分が、恥ずかしくてしかたなかった。
彼が努力していたことも知っているし、自分に勝つために以前よりずっと熱心に勉強していたことも知っている。それなら素直に喜べばいいはずなのに、胸の奥ではどうしても「負けた」という事実ばかりが重く残ってしまう。
数日経っても、その感覚は薄れなかった。
(だって、実技で負けてしまったら、もうどうにもできません)
もし筆記で次の試験もまた二人で満点を取ったら、実技で勝負することになる。もちろん、諦めるつもりなどなかったし、次はもっと練習するつもりだった。
でも幼い頃からひたすら魔法と勉強しかしてこなかったアンジェリカは、もう努力の方法がわからなくなってきていた。自分の、なにを変えればいいというのだろう?
アンジェリカは、次第にエセルバートを避けるようになった。
図書室での勉強をやめ、授業が終わればいつもより早く教室を出る。自分でも子どもじみた行動だとわかっていたが、顔を合わせればどう振る舞えばいいのかわからなかった。
もちろん、エセルバートが気づかないはずもない。
「どうして最近、図書室に来ないんだ?」
とうとう廊下で呼び止められ、アンジェリカは思わず身を強張らせた。
「えっと、その……ちょっと体調が悪くて……ごめんなさい」
「体調? ならまず医務室に行って――」
「いいえ! 大丈夫です。ただ、休みたいんです……」
思った以上に強い声が出てしまい、エセルバートが目を見開く。
アンジェリカは視線を合わせないまま、それ以上なにか言われる前に背を向け、その場を逃げるように立ち去った。
女子寮へ戻ると、入口近くにいた監督官から声をかけられた。
「バロー候補生。……明日、面会の予定が入っていますから忘れずにね」
「はい……」
返事をした瞬間、さっきまで頭を占めていたエセルバートのことが一気に遠のいた。
ガイエ侯爵の代理人であり、表向きにはアンジェリカの後見人という立場にいるバシュロは、いつも大きな試験のあとに面会へやってくる。
これまでは、なにも問題なかった。
アンジェリカが首席を取っていれば、バシュロはその結果に満足し、これからも同じように励むよう命じたあと、エセルバートの成績や普段の様子についていくつか質問してくるだけだった。
アンジェリカも、そのたび当たり障りのないことだけを答えていればよかった。
けれど今回は違う。
入学する前から絶対に負けるなと言い聞かされ続けてきた相手、エセルバート・レルカンに負けてしまったのだ。
その夜は、なかなか眠りにつくことができなかった。そうして翌日、指定された時間に面会室へ向かう。
いつもなら廊下に職員の姿があるのに、その日は妙に静かだった。扉の前で立ち止まり、アンジェリカは一度だけ息を整える。
震える手を、ドアノブに伸ばした。
「失礼します」
部屋の中では、バシュロが一人で座っていた。
「早く扉を閉めろ」
アンジェリカは、言われたとおりに扉を閉めて、彼の表情を見た。一目で、これからよくないことが起こるのだとわかった。




