第八十九話 研究者
百年の苦しみから解放された被験体No.1。
しかし研究所の奥には、その悲劇を生み出した張本人が待ち受けていました。
ユウトの背筋に寒気が走った。
通路の奥。
一人の男が立っていた。
◇
黒いローブ。
細身の体格。
年齢は三十代半ばほどだろうか。
整った顔立ち。
だがその瞳には人の温度が感じられなかった。
◇
「初めまして」
男は穏やかに笑う。
「いや、初めましてではないかな」
その言葉にレオンが眉をひそめる。
「何者だ」
男は答えない。
代わりに。
ユウトを見た。
まるで珍しい標本でも見るように。
「興味深い」
その一言でユウトはこいつが嫌いだと思った。
「お前が黒幕か?」
ユウトが睨む。
男は肩をすくめた。
「黒幕とは心外だな」
「私は研究者だ」
その言葉に老人の顔色が変わった。
「まさか……」
震える声。
「お前は……」
男は小さく笑う。
「覚えていてくれましたか。光栄ですよ」
その笑みが気味悪い。
「儂はお前が死んだと聞いておった」
「ええ」
男は平然と頷く。
「そういう事になっています」
全員が警戒を強める。
だが男は気にしない。
むしろ楽しんでいるようだった。
「しかし驚きました」
男の視線がユウトへ向く。
「被験体No.1を浄化するとは」
レオンの目が細くなる。
「浄化だと?」
「そう」
男は笑う。
「百年間解決できなかった問題を君は数分で解決してしまった」
その目が細められる。
「素晴らしい」
鳥肌が立った。
褒められているはずなのに全く嬉しくない。
むしろ危険だと本能が告げていた。
「お前……」
ユウトが拳を握る。
「No.1を知っていたんだな」
男は頷く。
「もちろん」
あっさりと
何の感情もなく。
「私が作ったのだから」
空気が凍った。
◇
老人の拳が震える。
レオンの目が見開かれる。
シエルの表情が険しくなる。
シアから笑顔が消える。
◇
「貴様……」
レオンが低く唸る。
だが男は気にも留めない。
「結局失敗でしたがね」
その一言だった。
ユウトの中で何かが切れた。
「失敗……だと?」
静かな声。
だが怒りは隠せない。
男は不思議そうに首を傾げた。
「違いますか?結果的に村は滅びました」
「研究も失敗」
「被験体も失敗」
「実に非効率でした」
ユウトの拳が震える。
No.1の涙が脳裏をよぎった。
妹の笑顔。
家族の写真。
最後のありがとう。
全部。
全部こいつのせいだ。
「そうか」
ユウトは一歩前へ出る。
「なら」
笑顔だった。
だが誰もそれを笑顔だとは思わなかった。
その瞬間
◇
ドゴォォォォォン
◇
黒ローブの男が奥の壁に吹っ飛んでいた
「ちょっと殴ってもいいか?」
壁にたたきつけられたはずの男はそれでも笑みを浮かべていた。
第八十九話をお読みいただきありがとうございました!
ついに姿を現した研究所の黒幕。
No.1の悲劇を知った後だからこそ、彼の言葉は許しがたいものだったのではないでしょうか。
そしてユウトの拳も、ついに我慢の限界を迎えたようです。
それではまた次回!




