第八十八話 託された想い
百年以上苦しみ続けた被験体No.1。
その長い苦しみに終止符が打たれ、研究所には静かな時間が流れていました。
研究所には静寂だけが残っていた。
誰も言葉を発しない。
百年以上苦しみ続けた青年。
その最後を見届けたばかりだった。
◇
「……」
ユウトはNo.1が消えた場所を見つめる。
だがその時だった。
◇
カラン……
◇
小さな音が響く。
「ん?」
ユウトが視線を落とす。
そこには一つのペンダントが落ちていた。
古びている。
だが大切にされていたことは分かった。
「これは……」
ユウトが拾い上げる。
ペンダントの中には小さな絵が入っていた。
◇
青年。
少女。
そして夫婦らしき二人。
笑顔の家族。
◇
「妹か」
ユウトが小さく呟く。
記憶で見た少女だった。
「ずっと持っていたのか……」
百年間怪物になっても。
理性を失っても。
手放せなかったのだろう。
シエルも静かに目を伏せる。
「大切な家族だったのね」
その時だった。
老人がゆっくりと前へ出る。
「それを見せてみい」
ユウトはペンダントを渡した。
老人の目が見開かれる。
「まさか……」
震える声。
「知ってるんですか?」
レオンが尋ねる。
老人は静かに頷いた。
「覚えておる」
苦しそうな表情。
「儂が若い頃の話じゃ」
全員が耳を傾ける。
「彼は村でも有名な好青年じゃった」
「誰にでも優しくての」
「困った者がおれば真っ先に助けに行く」
老人が遠くを見る。
「だから皆が反対した」
「研究所へ行くなと」
◇
重い沈黙。
◇
「じゃが彼は言った」
『これで皆を守れるなら』
ユウトの脳裏に記憶の光景が浮かぶ。
老人は拳を握った。
「結果はあの通りじゃ」
悔しそうな声だった。
「誰も救われんかった」
その時補佐機構が反応する。
◇
《反応を検知》
◇
全員の表情が変わる。
「また被験体か?」
レオンが剣へ手を伸ばす。
しかし
◇
《終焉因子反応》
《高濃度反応》
《発生源を特定》
◇
ユウトの顔が険しくなる。
嫌な予感がした。
補佐機構は静かに告げる。
◇
《研究所最深部》
《対象接近中》
◇
その瞬間、研究所全体が震えた。
◇
ゴゴゴゴゴ……
◇
空気が変わる。
まるで何かが目覚めたように。
「おい……」
ユウトが呟く。
「今度はなんだよ……」
だがその答えはすぐに返ってきた。
通路の奥からゆっくりと拍手が響く。
◇
パチ……
パチ……
パチ……
◇
「見事だ」
聞いたことのない男の声だった。
「まさか被験体No.1を処分してくれるとは」
その声には驚きと興味が混じっていた。
「ますます欲しくなったよ」
男は笑う。
「君という存在が」
ユウトの背筋に寒気が走った。
第八十八話をお読みいただきありがとうございました!
No.1が残した想いと家族の記憶。
しかし、感傷に浸る時間は長くは続きません。
研究所最深部から現れた新たな存在。
そして彼は、No.1をただの「被験体」としか見ていないようです。
それではまた次回!




