第八十七話 ありがとう
百年前の悲劇。
終焉因子によって全てを失った青年。
そして今、長い苦しみに終止符を打つ時が訪れます。
「もう大丈夫だ」
ユウトは静かに呟いた。
目の前ではNo.1が苦しみ続けている。
◇
黒い霧
暴走する終焉因子
絶望
百年以上たった一人で抱え続けてきた苦しみ。
◇
「グアァァァァァ!!」
No.1が咆哮する。
だがユウトは止まらない。
一歩
また一歩暴走するNo.1へ近付いていく。
◇
「ユウト!」
シエルの声。
「危険っす!」
シアの声。
それでもユウトは振り返らなかった。
そしてNo.1の胸へ手を当てる。
◇
《純粋な終焉因子を供給》
補佐機構の声
◇
淡い光が広がった。
「グァ……?」
No.1の動きが止まる。
黒い霧が揺らぐ。
赤い瞳が震える。
そして少しずつ灰色の皮膚が崩れ始めた。
◇
「なっ……」
レオンが息を呑む。
怪物の身体が消えていく。
まるで長い夢から覚めるように。
「……あ……」
声が漏れた。
その顔はユウトが記憶の中で見た青年だった。
もう怪物ではない。
一人の人間だった。
青年は涙を流していた。
「俺は……」
震える声。
「まだ……生きて……」
「いや」
ユウトは静かに首を振る。
「もう終わるよ」
青年は目を閉じた。
そして小さく笑った。
百年間。
初めて見せた穏やかな笑顔だった。
「そうか……」
涙が零れる。
「やっと……」
震える手がユウトの腕を掴む。
「終われるのか……」
ユウトは何も言わない。
ただ頷いた。
青年は空を見上げる。
そこに天井しかないはずなのに。
何かが見えているようだった。
「皆……」
優しい声。
「待たせたな……」
その時ユウトには見えた気がした。
幼い妹の笑顔を。
平和だった村の景色を。
青年はゆっくりと目を閉じる。
そして最後にユウトへ視線を向けた。
◇
「ありがとう」
◇
それだけだった。
次の瞬間、青年の身体が光の粒となって消えていく。
◇
苦しみも
罪悪感も
百年の呪縛も
全てを置いて
静かに
穏やかに
消えていった。
◇
誰も何も言えなかった。
ただ老人だけが目を閉じる。
「ようやく……」
震える声。
「ようやく救われたか……」
研究所には静寂だけが残った。
第八十七話をお読みいただきありがとうございました!
No.1との戦いは、最後まで戦いではありませんでした。
村を守りたかった青年。
百年以上苦しみ続けた彼は、ようやく救われることになります。
そして研究所の奥には、まだ全ての元凶が残されています。
それではまた次回!




