第八十六話 守りたかったもの
暴走する被験体No.1。
ユウトが触れたその瞬間、百年前の記憶が流れ込んできました。
そこにあったのは、一人の青年の願いと悲劇でした。
「……たす……けて……」
その言葉と共に。
再び世界が白く染まった。
◇
◇
◇
燃えていた。
村が。
家が。
畑が。
全てが炎に包まれている。
◇
「な……」
ユウトは言葉を失った。
そこは先ほど見た平和な村だった。
だがもう何も残っていない。
◇
悲鳴。
泣き声。
絶望。
そして村の中心に立つ巨大な怪物。
◇
「No.1……」
間違いない。
終焉因子が暴走した青年だった。
「グォォォォォ!!」
理性などない。
暴れるたびに建物が崩れる。
村人達が逃げ惑う。
「やめろ……」
青年の声が聞こえる。
だが怪物は止まらない。
「やめてくれ……!」
泣いている。
怪物の中で青年だけが泣いていた。
その時だった。
「兄ちゃん!」
聞き覚えのある声。
あの妹だった。
炎の向こうから駆け寄ってくる。
「来るな!!」
青年が叫ぶ。
必死に。
喉が裂けるほど。
だが届かない。
怪物の腕が振るわれる。
ユウトは目を見開いた。
「やめろっ!!」
叫ぶ。
だが記憶は変わらない。
少女の姿が炎に飲み込まれる。
青年の絶叫が響いた。
「アァァァァァァァァァァ!!」
その後も終わらない。
母親。
父親。
村人達。
守りたかった全てが失われていく。
そして最後青年は崩れ落ちた。
燃え尽きた村の中央で。
一人。
「なんでだ……」
震える声。
「皆を守りたかっただけなのに……」
涙が止まらない。
「俺が……」
一滴。
また一滴涙が落ちる。
「俺が殺した……」
その瞬間ユウトの胸が締め付けられた。
これだ
百年間No.1を縛り続けたもの。
苦痛ではない。
恐怖でもない。
罪悪感だ。
守りたかった。
救いたかった。
その結果全てを失った。
そして世界が崩れ始める。
◇
記憶が終わる。
最後に見えたのは涙を流し続ける青年の姿だった。
「……助けてくれ」
消え入りそうな声。
百年越しの願い。
それは誰かを救ってほしいではない。
自分を終わらせてほしいという願いだった。
◇
◇
◇
気付けば研究所。
ユウトは拳を強く握り締めていた。
目の前ではNo.1が今も苦しんでいる。
百年間たった一人で。
ずっと。
「もう大丈夫だ」
ユウトは静かに呟いた。
そしてNo.1へ向かって歩き出した。
第八十六話をお読みいただきありがとうございました!
No.1が背負っていた百年前の悲劇。
彼は力を求めたのではなく、大切な人達を守ろうとしていただけでした。
その願いは叶わず、百年以上もの間苦しみ続けることになります。
次回、ユウトは彼を救うために動き出します。
それではまた次回!




