第八十三話 残された理性
暴走を続ける被験体No.1。
しかし、その怪物の中には今もなお失われていないものが残されていました。
No.1の身体がさらに膨れ上がった。
「おいおい……またかよ……」
ユウトの嫌な予感は見事に的中した。
◇
筋肉が膨張する。
骨が軋む。
灰色の皮膚がひび割れる。
◇
「グォォォォォォォ!!」
咆哮。
研究所全体が揺れた。
「下がれ!」
レオンが叫ぶ。
直後No.1の拳が振り下ろされた。
◇
ドォォン!!
◇
床が吹き飛ぶ。
石片が宙を舞った。
「こんなの嘘っす……」
シアが顔を引きつらせる。
今の一撃をまともに受ければ終わりだ。
シエルが飛び出す。
「はぁっ!」
剣閃。鋭い一撃がNo.1の肩を斬り裂く。
だが傷が閉じていく。
「再生速度が上がっている……!」
シエルの表情が険しくなる。
終焉因子による再生。
それが暴走している。
その時だった。
No.1の視線が再びユウトを捉える。
「……オ……」
かすれた声。
今度は少しだけはっきりしていた。
「オ……マ……」
全員の動きが止まる。
「なにかを喋ってるっすか?」
シアが目を丸くする。
No.1は震える腕を再びユウトへ伸ばした。
まるで助けを求めるように。
「オ……マエ……」
赤い瞳が揺れる。
怪物の目ではなかった。
一瞬だけだが人の目だった。
そして
◇
《終焉因子共鳴率上昇》
補佐機構の表示。
《対象の理性回復を確認》
◇
ユウトの鼓動が跳ねた。
(理性……?)
その時No.1の瞳から涙が零れた。
誰も動けなかった。
怪物が泣いている。
そんな光景を想像した者はいない。
「た……す……」
絞り出すような声。
だが次の瞬間
◇
「グアァァァァァァァ!!」
◇
理性が押し潰された。
No.1が頭を抱えて暴れ始める。
壁が砕ける。
床が抉れる。
完全な暴走だった。
「まずい!」
レオンが叫ぶ。
しかしユウトだけは違った。
今ので確信した。
No.1は化け物ではない。
被害者だ。
百年以上ずっと苦しみ続けてきた被害者なのだ。
No.1は暴れながらも。
必死に何かを伝えようとしていた。
「ニ……ゲ……ロ……」
その言葉を最後にNo.1の身体から黒い霧が噴き出した。
研究所の空気が一変する。
老人の顔色が青ざめた。
「まずいぞ……」
震える声。
「終焉因子が暴走しておる……!」
第八十三話をお読みいただきありがとうございました!
被験体No.1との戦いは、単なる戦闘ではなくなってきました。
百年以上苦しみ続けてきた理性。
そして終焉因子の暴走。
ユウト達は彼を救うことができるのでしょうか。
それではまた次回!




