第六十四話 百年前の記録
暴走した調査員を救うため。
ユウトたちはわずかな手掛かりを求めて動き始めます。
そして、その先で思わぬ記録を目にすることになるのでした。
補佐機構の表示が消える。
◇
《外部からの補助が必要》
◇
その一文だけが頭に残った。
「補助ってなんだよ……」
ユウトが呟く。
その時だった。
「グアアアアアアア!!」
暴走した調査員が再び暴れ始める。
黒い霧が溢れ出した。
「まずい!」
レオンが叫ぶ。
「拘束隊を呼んでくる!しばらく任せていいか!?」
「任せておけ!」
レオンが走り出す。
だが。
到着を待っている余裕はない。
「シエル!」
「分かってる!」
白い光が溢れ出す。
シエルが再び調査員へ触れた。
◇
ジジジジジッ――
◇
黒い霧が削られていく。
「グアアアアア!!」
絶叫。
だが先程より勢いが弱い。
調査員の身体が震える。
黒い霧が不安定になった。
「今だ!」
後方からレオンが叫ぶ。
ちょうどその時援軍が到着した。
十名を超える本部冒険者。
全員が即座に動く。
「拘束開始!」
新たな鎖が撃ち込まれる。
腕。
脚。
胴体。
次々と固定されていく。
「グルルルル……」
暴れようとする。
だがシエルの不思議な力によって弱まった今なら押さえ込める。
数分後。
暴走調査員は再び完全拘束された。
レオンが安堵の息を吐く。
「間に合ってよかった」
「完全には止められないわ」
シエルが額の汗を拭う。
「せいぜい一時的ね」
「それで十分だ」
レオンは頷いた。
「時間を稼げた」
そして。
「今のうちに保管庫へ向かうぞ」
ユウトが調査員を見る。
黒い霧はまだ消えていない。
だが先程より明らかに薄い。
「助かるんだよな?」
レオンは振り返らない。
「助けるために行くんだ」
その言葉に迷いはなかった。
こうして三人はレオンに連れられ本部保管庫へ向かう。
大量の書物が並ぶ空間。
「うわ……」
ユウトは思わず顔を引きつらせた。
「これ全部本か?」
「安心しろ」
レオンが即答する。
「記録のある本は覚えている」
「助かった」
心の底からそう思った。
レオンは奥の棚から古びた一冊を取り出す。
「これだ」
表紙は色褪せている。
かなり古い。
「百二十七年前の記録」
ページを開く。
そこには。
黒い霧。
異常な再生能力。
理性の喪失。
今回の事件と酷似した記録が残されていた。
「同じだな」
「あぁ」
だが次のページを開いた瞬間。
「ん?」
シアが声を上げる。
ページが切り取られていた。
しかも数枚ではない。
ごっそりと。
「誰かが消したのか?」
「分からん」
レオンも首を振る。
「俺が見た時には既にこうなっていた」
重要な部分だけが失われている。
まるで意図的に。
その時。
「これっす」
シアが別のページを指差した。
そこには。
巨大な白銀の竜が描かれていた。
翼を広げ黒い霧を光で祓っている。
その下には短い文章。
◇
――聖なる白銀の竜は災厄を祓う。
――その光は穢れを浄化する。
◇
部屋が静まり返った。
三人の視線がゆっくりとシエルへ向く。
「なによ」
シエルが嫌そうな顔をした。
ユウトは挿絵を見る。
シエルを見る。
もう一度挿絵を見る。
「いや……なんか見覚えがあるなって」
「気のせいよ」
即答だった。
「絶対気のせいじゃないっす」
「気のせいよ」
頑なだった。
だがユウトは確信していた。
この事件とシエルには何らかの繋がりがある。
第六十四話をお読みいただきありがとうございました!
百年以上前にも似た事件が起きていました。
しかも記録の一部は何者かによって失われています。
そしてシエルは今回も気のせいと言い張っています。
それではまた次回!




