第四十一話 黒い影
王の間に現れた黒い影。
敵か味方かも分からない存在を前に、ユウトたちは動けずにいた。
そして、その影はユウトだけに語りかける――。
玉座に現れた黒い影。
三人は動かなかった。
いや
動けなかった。
◇
それは人の形をしていた。
男にも見える。
女にも見える。
輪郭が曖昧だった。
まるで影そのものが立ち上がったような姿。
◇
シエルが一歩前に出る。
警戒は最大。
いつでも動けるように構えていた。
◇
ヴァルシアも珍しく無言だった。
先ほどから一度も笑っていない。
◇
一方。
ユウトはその影を見つめていた。
なぜだろう。
怖くない。
むしろ。
どこか懐かしいような感覚すらあった。
◇
《同期率上昇》
《同期率3%》
補佐機構の声が響く。
また上がった。
意味は分からない。
だが確実に何かが進んでいる。
その時だった。
◇
『久しいな』
◇
声が響く。
男の声。
だがどこか遠い。
直接頭の中に響いているような不思議な感覚だった。
「……誰だ?」
ユウトが尋ねる。
影は少しだけ沈黙した。
そして。
◇
『忘れたか』
◇
「忘れたも何も知らねぇよ」
即答だった。
◇
数秒の沈黙。
◇
『そうであったな』
◇
納得された。
何に納得したのかは分からない。
「主、会話できるんすか?」
ヴァルシアが驚いたように言う。
「お前聞こえてないのか?」
「聞こえてないっす」
「え?」
ユウトはシエルを見る。
「何を話しているの?」
どうやら聞こえていないらしい。
影の声はユウトにしか届いていなかった。
「また補佐機構みたいなやつ?」
シエルが呆れたように言う。
「いや、多分違う」
補佐機構とは明らかに違う。
何というかもっと生々しい。
その時影が小さく笑った。
◇
『補佐機構』
『懐かしい名だ』
◇
ユウトの背筋が凍る。
「お前」
◇
『知っているとも』
影は静かに続けた。
『それは我が作ったものだからな』
◇
沈黙。
「……は?」
ユウトが固まる。
補佐機構を。
作った?
今そう言ったのか?
◇
《警告》
《情報開示制限を確認》
《強制終了します》
◇
「おい待て」
補佐機構の声が途切れる。
完全な沈黙。
◇
初めてだった。
補佐機構が自ら会話を切ったのは。
そして影は静かに言った。
◇
『さてどこから話そうか』
◇
玉座の間に重い静寂が落ちた。
第四十一話をお読みいただきありがとうございました!
シエルとヴァルシアには聞こえていません。
ユウトだけです。
傍から見ると一人で会話しているようにしか見えません。
それではまた次回!




