第三十六話 再会
遺跡の奥へ進むユウトたち。
石碑に刻まれていた「王の帰還」。
そして補佐機構が追跡する謎の存在。
ようやく追いついたその相手は――思っていたよりずっと気軽な相手でした。
《対象を確認》
《追跡を推奨》
補佐機構の声を聞きながら。
ユウトとシエルは通路を進んでいた。
「なぁ」
「何?」
「やっぱ帰っていい?」
「まだ言うの?」
シエルが呆れたようにため息を吐く。
「だって絶対面倒事じゃん」
「それは否定できないわね」
珍しく即答だった。
◇
しばらく進む。
すると。
通路の先に人影が見えた。
「いた」
ユウトが足を止める。
長い黒髪。
黒い服。
女性だった。
こちらに背を向けて立っている。
間違いない。
今まで追っていた相手だ。
「おい」
ユウトが声をかける。
女性の肩がぴくりと動く。
そして。
ゆっくりと振り返った。
「あぁっ!」
第一声はそれだった。
「来たっすね」
「来たっすね?」
ユウトは即座にツッコむ。
「誰だお前」
女性はきょとんとした。
「誰だと思うっす?」
「いや、わかるわけないだろ!」
「それもそうっすね」
軽かった。
異様なほど軽かった。
もっとこう。
遺跡の奥で待ち構える謎の人物らしい雰囲気はないのだろうか。
◇
女性はユウトをじっと見つめる。
そして。
「だいぶ人化が馴染んできたっすね」
「は?」
「前は角と尻尾がしっかり見えてたのに」
ユウトの顔が引きつった。
「……俺を知ってるのか?」
「知ってるっす」
にこり。
満面の笑みだった。
「だって一緒に戦ったじゃないっすか」
その瞬間。
ユウトの脳裏に巨大な黒龍の姿が浮かんだ。
圧倒的な存在感。
そして自分を逃がしてくれた竜。
「まさか」
「まさかっす」
女性は胸を張った。
「黒龍っす!」
◇
沈黙。
「……は?」
ユウトが固まる。
「……は?」
シエルも固まる。
◇
「黒龍っす」
「いやいやいや」
ユウトが首を振る。
「人じゃん」
「人じゃないっす」
「じゃあ何なんだよ」
「黒龍のヴァルシアっす」
堂々としていた。
全く隠す気がない。
「待ちなさい」
シエルが口を開く。
「なんすか?」
「今なんて?」
「黒龍のヴァルシアっす」
即答だった。
◇
シエルが固まった。
数秒固まった。
そして。
「今」
「はい?」
「今、真名を言わなかった?」
ヴァルシアが首を傾げる。
「言ったっすよ?」
「あれ?竜の真名ってたしか…」
ユウトがそっとシエルの方を向く。
ヴァルシアはしばらく考えた。
そして。
「あ」
今気付いたらしい。
「まぁいっか!」
「よくないわよ!」
シエルの叫びが遺跡に響く。
「真名は竜にとって重要なものなのよ!?」
「そうだったっす!」
「そうよ!」
「これはうっかりっす!」
「嘘でしょう!?」
シエルが頭を抱えた。
ユウトは横で笑いを堪えていた。
◇
しばらくして。
ようやく落ち着いた頃。
ユウトが尋ねる。
「で?」
「なんすか?」
「なんでここにいる」
その瞬間だった。
ヴァルシアの表情が変わる。
笑顔は消えていない。
だがどこか真剣だった。
「待ってたんすよ」
「俺を?」
「主を」
空気が変わる。
ユウトの表情も真面目になる。
「理由は?」
ヴァルシアは静かに答えた。
「王が目覚めそうなんす」
その言葉にユウトとシエルは顔を見合わせた。
王の帰還。
石碑に刻まれていた言葉。
そして今まで起きていた異変。
全てが一本に繋がり始める。
そんな気がした。
第三十六話をお読みいただきありがとうございました!
新キャラ、ヴァルシア登場です!
なお本人は登場から数分で真名を公開しました。
シエルが頭を抱えるのも仕方ありません。
しかしヴァルシアは気にしていません。
たぶんこれからも気にしません。
そして物語はいよいよ「王の帰還」の核心へ。
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