第三百十二話 報告への長い道のり
ベルグラードでは、少しずつ住民から頼られ始めるユウト。
そしてその頃、アルヴェインへ向かったシアたちもようやく帰還目前となっていました――。
「ありがとうございました!」
「お、おう!」
工房を出たユウトは、深々と頭を下げる人間族の男を前に、少し戸惑っていた。
「……そんな大したことしてないよ?」
「いや、本当に助かったんだ」
男は顔を上げると、安堵したように笑った。
「あのままだったら、また言い争いになってただろうしな。下手すりゃ、賃金の見直し自体がなくなってたかもしれねぇ」
「……そう?」
「ああ。お前が間に入ってくれたおかげで、何とか話がまとまったよ」
男はもう一度頭を下げた。
結局、工房での話し合いは一時間ほど続いた。
人間族の従業員たちは、同じ仕事をしているのであれば、他の種族と同じ基準で賃金を決めてほしいと訴えた。
しかし、工房の主人にも事情があった。
これまでの賃金体系を一度に変更すれば、経営への負担が大きくなる。さらに、一部の従業員からは、賃金を見直すのであれば仕事の割り振りについても考え直すべきだという意見が出ていた。
誰もが自分なりの理由を持ち、簡単には譲れない状況だったのである。
そこでユウトは、まず全員の話を聞くことから始めた。
誰が、何に不満を持っているのか。
それぞれが、何を変えてほしいと思っているのか。
そして、どこまでなら現実的に対応できるのか。
「まず確認させてください。今回の賃金見直しは、人間族の方だけを特別扱いするためのものではありませんよね?」
「……そりゃ、そうだが」
「でしたら、仕事の内容や技術、経験によって賃金に差が出ることと、種族だけを理由に差が設けられていることは、分けて考えましょう」
ユウトは落ち着いた声で続けた。
「工房として、同じ仕事に対して同じ基準で賃金を決めることには、問題ありませんか?」
「……それなら構わん」
工房の主人が頷く。
「ただ、すぐに全員の賃金を上げるのは難しい」
「承知しました。では、一度に変更するのではなく、段階的に見直す方法ではいかがでしょうか?」
「……段階的に?」
「はい。まず、種族だけを理由に生じている差がどの程度あるのかを確認する。そのうえで、工房の収支を考慮しながら、いつまでに見直すかを決めるんです」
「…………」
「もちろん、働いている皆さんにも、変更の内容と時期をきちんと説明していただく必要があります。いつ変わるのか分からないままでは、不安が残ってしまいますから」
その言葉に、人間族の従業員たちも頷いた。
さらに、仕事内容による賃金の違いについては、工房側が基準を説明することになった。
誰がどの仕事を担当しているのか。
技術や経験による違いはあるのか。
そして、今後どのような基準で賃金を決めていくのか。
それらを一つずつ確認していった結果、双方が納得できる方向性が見えてきたのである。
人間族という理由だけで設けられていた賃金差は、なくしていく。
ただし、工房の経営状況も考慮し、一定期間をかけて段階的に見直す。
具体的な金額と変更時期については、工房の主人が改めて計算し、従業員たちへ提示することになった。
その内容について、従業員側も確認したうえで最終的に決める。
今日のところは、そこまでの合意だった。
「……いやぁ、なんとかなったな!」
ユウトが大きく伸びをする。
「そうね」
隣に立つシエルが微笑んだ。
「でもさ」
「……何?」
「俺、ほとんど話聞いてただけじゃない?」
「…………」
シエルは呆れたようにユウトを見つめた。
「……あなたは、自分が何をしているのか、もう少し理解した方がいいわ」
「……なんで?」
「……それよ」
「何が!?」
ユウトが首を傾げる。
シエルは小さくため息を吐くと、何も答えず歩き始めた。
「……ちょっと待てよ!」
ユウトが慌ててその後を追う。
工房の中では、つい先ほどまで落ち着いた態度で双方の意見を整理していたというのに、話し合いが終わった途端にいつもの調子へ戻ってしまった。
シエルにとっても、未だに不思議な変化だった。
(……本当に、あれだけ話ができるなら、普段からもう少し落ち着いてくれればいいのに)
そんなことを考えながら歩いていると――。
「……ユウト!」
「……ん?」
今度は通りの向こうから別の男が声を掛けてきた。
「ちょっといいか?」
「……何?」
「時間あるか?」
「……あるけど?」
「実は、少し相談したいことがあってな」
「……また?」
ユウトが思わず呟く。
男は申し訳なさそうに眉を下げた。
「……もしかして、今忙しかったか?」
「いや、別にいいけど」
「本当か!? 助かる!」
男の表情がぱっと明るくなる。
「…………」
隣でその様子を見ていたシエルが、小さく息を吐いた。
「……何?」
ユウトが振り返る。
「……別に」
「最近それ多くない?」
「あなたもね」
「……何が!?」
シエルは答えなかった。
昨日までは、ユウトたちの方から町を歩き、何か問題が起きていないかを確認していた。
しかし、今は違う。
町の人々の方から声を掛けてくる。
話を聞いてほしいと頼まれる。
時には、意見をまとめるために同席してほしいと相談される。
その回数が、少しずつ増えてきていたのである。
「……なあ、シエル」
「……何?」
「なんか、忙しくなってない?」
「なってるわね」
「……なんでだろうな?」
「あなたが全部引き受けるからでしょう?」
「だってさ、困ってるって言われたら断りづらいじゃん!」
「……でしょうね」
「シエルだって手伝ってるじゃん!」
「あなた一人に任せたら、もっと面倒なことになりそうだからよ」
「……信用ないな!」
「逆だと思うけれど」
「……え?」
ユウトが首を傾げる。
「……何でもないわ」
「またそれ!?」
シエルは小さく笑った。
ユウトが誰かに頼られること自体は、悪いことではない。
むしろ、これまで対立していた住民たちが、種族の違いを越えて同じ相手へ相談しようとしている。
その変化は、ベルグラードにとって大きな意味を持つだろう。
ただし――。
(……少しずつ、相談役というより便利屋になってきている気もするわね)
シエルは、次の相談を受けるために歩き始めたユウトの背中を見つめた。
(……ミレアたちが戻ってくる頃には、どうなっているのかしら)
その疑問には、まだ誰も答えられなかった。
◇
一方、その頃。
「……はぁ」
アルヴェインへ続く街道に、深いため息が響いた。
「……ミレアさん」
「……はい?」
「さっきから、ため息多くないっすか?」
シアが隣を歩くミレアを見上げる。
「……そうでしょうか?」
「多いっす!」
「……多いですね」
反対側を歩いていたリトも頷いた。
「…………」
ミレアは少しだけ黙った。
そして、再び前へ視線を戻す。
「……今さらなんですが」
「はいっす!」
「私は、ベルグラードの状況を調査するために同行しただけなんですよね」
「……そうっすね」
「俺たちもそう聞いてました」
「……ですよね」
ミレアが頷く。
そのまま、三人の間に妙な沈黙が流れた。
「……それが」
やがて、ミレアが口を開いた。
「人間族の武装集団と接触し」
「したっすね」
「評議会と直接話し合い」
「しましたね」
「双方を同じ席に着かせ」
「着かせたっす」
「待遇改善について具体的な協議を進め」
「進めましたね」
「武器の問題についても、今後の対応を話し合い」
「話し合ったっす!」
「そして、双方の約束が守られているかを、私たちが確認するという案まで出ている」
「…………」
「…………」
「…………」
三人は揃って黙った。
街道を吹き抜ける風が、乾いた草を揺らしていく。
「……どうして、こうなったんでしょう」
ミレアが前を向いたまま呟いた。
「主っす!」
「アニキですね」
即答だった。
「……早いですね」
「他にいないっす!」
「まあ、アニキが言い出したことですからね」
「……そうですよね」
ミレアは再びため息を吐いた。
思い返せば、ベルグラードへ向かう前、ギルド長のヴァルドから受けていた指示は明確だった。
現地の状況を調べ、事実を確認して報告すること。
必要以上に内情へ介入しないこと。
それが、今回の依頼の範囲だったはずである。
ところが、実際にベルグラードへ到着してみれば、ユウトが次々と人々に話を聞き始めた。
ガルドから町の様子を聞き、ハロルドから人間族の苦境を知り、武器を集めていたカイルとも直接話し合った。
さらに、評議会へ乗り込んで双方の主張を確認した挙げ句、ついには直接の会談まで実現させてしまったのである。
(……どこで止めればよかったのでしょう)
ミレアは少しだけ考えた。
最初にガルドの店を訪ねた時だろうか。
ハロルドから武装集団の話を聞いた時だろうか。
それとも、評議会へ向かった時だろうか。
しかし、どの場面を思い返しても、ユウトの行動そのものを簡単に否定することはできなかった。
困っている者がいた。
その理由を聞いた。
相手側にも事情があると分かれば、そちらの話も聞いた。
そして、双方が納得できる方法を探そうとした。
ただ、それだけなのだ。
もっとも――。
(……その『ただ、それだけ』で、ここまで話が大きくなるとは思いませんでしたが)
ミレアは額に手を当てた。
「……でも」
その様子を見ていたリトが口を開く。
「結果的には、よかったんじゃないですか?」
「……ええ。それはそうなんですが」
「このまま何もしなかったら、たぶん本当に戦いになってましたよね」
「……その可能性は高かったでしょう」
ミレアは頷いた。
「武器を集めていた方々の不満は、かなり大きくなっていましたから」
「だったら、アニキが首を突っ込んだ意味はあったと思いますよ」
「……そうですね」
リトは前方へ視線を向けたまま続けた。
「俺には難しい話はよく分かりませんけど、アニキは評議会の連中にも、カイルたちにも、同じように話してましたからね」
「……ええ」
「どっちかが悪いって決めつけるんじゃなくて、まず話を聞く。それだけでも、少しは違ったんじゃないですか?」
その言葉に、ミレアは静かに微笑んだ。
「……そうかもしれませんね」
「主は何も考えてないっすけどね!」
シアが元気よく付け加えた。
「……そこは否定できません」
「ミレアさん!?」
何故かシアが驚いた。
「自分で言ったんでしょう……」
リトが呆れたように突っ込む。
「いや、ミレアさんが即答するとは思わなかったっす!」
「……私も、随分と影響されてしまったのかもしれませんね」
ミレアは苦笑した。
もっとも、ユウトが何も考えていないわけではないことも、今では分かっている。
評議会との会談で見せた、あの落ち着いた態度。
双方の条件を整理し、実際に何を決めるべきなのかを明確にしていく話し方。
あれは、単なる思いつきでできるものではない。
(……本当に、以前は何をされていたのでしょう)
ミレアの脳裏に、ユウトの姿が浮かぶ。
『失礼ですが、一度お話を整理させていただいてもよろしいでしょうか?』
そう言って会議を進めていた青年が、話し合いの後には――。
『なんで仕事増えたんだよ!』
と騒いでいた。
「…………」
ミレアは思わず首を振った。
(……考えれば考えるほど、分からなくなりますね)
「……ミレアさん?」
シアが不思議そうに顔を覗き込む。
「……はい?」
「また難しい顔してるっす」
「……そうですか?」
「そうっす!」
シアは少し考え、突然笑顔になった。
「それより、主たちは今頃どうしてるっすかね!」
「……ユウトさんたちですか?」
「そうっす!」
「シエルさんが一緒ですから、大丈夫だとは思いますが……」
ミレアが答える。
「……まあ、シエルがいますからね」
リトも頷いた。
「アニキ一人だったら、ちょっと心配ですけど」
「そんなにっすか?」
「……お前も出発前に散々注意してただろ」
「そうだったっす!」
シアが手を叩いた。
「シエル姐さんの言うこと聞いてるっすかね!」
「……どうでしょうね」
ミレアは少しだけ笑った。
すると、リトが何かを思い出したように口を開いた。
「……でもなぁ」
「……何ですか?」
「俺たちが戻る頃には、また仕事が増えてそうな気がするんですよね」
「……またっすか?」
シアが目を丸くする。
「……アニキだからな」
「……ありそうっす!」
シアは嬉しそうに頷いた。
しかし――。
「…………」
ミレアの足が、一瞬だけ止まった。
「……ミレアさん?」
「……それは困りますね」
静かな声だった。
「……え?」
シアが首を傾げる。
「いえ、もちろんユウトさんが人助けをされること自体は、素晴らしいと思います」
「……はいっす」
「ですが、私たちはまだ正式な第三者としての役割を引き受けたわけではありません」
「……そうですね」
リトが頷く。
「ギルド長へ確認しなければならないことも残っています。それなのに、私たちが戻るまでに新しい話が増えてしまったら……」
「…………」
「…………」
シアとリトが顔を見合わせた。
「……どうしたんですか?」
ミレアが尋ねる。
「……いや」
リトが苦笑した。
「それ、たぶん無理じゃないかなって」
「……リトさん?」
「だって、アニキですよ?」
「主っすよ?」
「…………」
ミレアは何も言わなかった。
ただ、少しだけ遠い目をした。
(……どうか、これ以上大きな問題になっていませんように)
そんな願いを胸に抱きながら、三人はアルヴェインへの街道を進んでいった。
◇
帰路は、決して短いものではなかった。
ベルグラードからアルヴェインまでは、いくつもの森や街道を抜ける必要がある。
道中では時折、魔獣の姿も確認された。
しかし、シアとリトが同行している以上、大きな問題になることはなかった。
「……退屈っすね!」
シアが大きく伸びをした。
「魔獣、さっき出てきたばっかりだろ!」
リトが呆れたように答える。
「弱かったっす!」
「お前の基準で考えるな!」
「でも、主だったら暴食してたっすよ?」
「……まあ、それはそうだな」
リトが頷いた。
「きっと、スキルが取れなかったって騒いでるぞ」
「ありそうっす!」
二人が楽しそうに笑う。
その横で、ミレアは少し困ったように眉を下げていた。
「……ユウトさんは、本当に何でも食べるんですね」
「何でもじゃないっす!」
シアが即座に否定する。
「……そうなんですか?」
「魔獣だけっす!」
「……それでも十分おかしいと思いますが」
「そうっすか?」
「……はい」
ミレアが苦笑する。
思い返せば、ユウトと行動を共にしてから、驚くような出来事ばかりだった。
普通なら危険な魔獣を前にしても、ユウトはほとんど怯まない。
倒した魔獣を黒い霧で取り込んでしまうこともあれば、突然妙なことを言い出すこともある。
そのうえ、評議会の会議室では、経験豊富な交渉人のような一面まで見せた。
(……本当に、Eランク冒険者というだけでは説明がつきませんね)
ミレアはそう考えながら、歩みを進めた。
そして、旅を続けるうちに、夜は明け、また日が暮れていった。
道中の休憩では、三人で焚き火を囲みながら食事を取った。
シアがユウトの食欲について話し始め、リトがそれに笑いながら突っ込む。
いつもなら、そこでユウト自身が大騒ぎを始めるところだった。
しかし、今はその姿がない。
「……なんか、静かっすね」
焚き火を見つめながら、シアが呟いた。
「……お前がそれを言うか」
リトが苦笑する。
「だって、主がいないっす!」
「……まあな」
「シエル姐さんもいないし!」
「……そうだな」
リトは焚き火へ視線を落とした。
「でも、あいつらなら大丈夫だろ」
「そうっすね!」
シアが頷く。
「主とシエル姐さんが一緒なら、魔獣が出ても安心っす!」
「……魔獣の方が気の毒だな」
リトが呟いた。
「確かにっす!」
シアが声を上げて笑う。
ミレアも、そんな二人を見ながら小さく微笑んだ。
しかし、心のどこかでは、やはりベルグラードのことが気になっていた。
評議会は約束通り動いているだろうか。
人間族の武装集団は、今も話し合いを続ける意思を持っているだろうか。
そして何より――。
(……ユウトさん、余計なお仕事を増やしていないでしょうね)
ミレアは小さく息を吐いた。
残念ながら、その願いがどこまで届くのかは分からなかった。
◇
それから、さらに数日が過ぎた頃。
「……あっ!」
街道の先を歩いていたシアが、突然声を上げた。
「見えてきたっす!」
「……お?」
リトが顔を上げる。
遠くに、大きな城壁が見えていた。
その向こうには、幾つもの建物の屋根が連なっている。
「……アルヴェインだな」
「ようやく戻ってきましたね」
ミレアがほっと息を吐いた。
見慣れた城壁。
人々の行き交う街道。
そして、遠くから聞こえてくる町の賑わい。
ベルグラードで過ごした日々を思い返すと、ここへ戻ってくるまでが随分と長かったように感じられた。
「じゃあ、まずはギルドっすね!」
シアが元気よく言った。
「そうなるな」
リトも頷く。
「ミレアさん、ヴァルドさんに報告しないといけないですからね」
「……はい」
ミレアが答えた。
しかし、その足取りが僅かに重くなる。
「……ミレアさん?」
シアが首を傾げる。
「……どうしたっすか?」
「……いえ」
ミレアは少しだけ考え込んだ。
「ギルド長へ、どこから説明すればよいものかと思いまして」
「……最初からじゃないっすか?」
「……そうなんですが」
ミレアは小さくため息を吐いた。
「調査結果だけを報告するには、少々話が大きくなりすぎました」
今回の依頼は、ベルグラードの状況調査だった。
しかし、実際に持ち帰った報告は、それだけでは済まない。
武装集団との接触。
評議会との協議。
双方の直接会談。
待遇改善に向けた具体的な検討事項。
武器の新規調達を止めるための働きかけ。
そして、第三者として継続的に関わることへの承認申請。
どれを取っても、当初の依頼からは大きく踏み込んでいる。
もちろん、正式な決定や武装解除が済んだと報告するわけにはいかない。
話し合いが進んだ部分と、まだ確認できていない部分を、正確に伝える必要があった。
(……まずは、そこを明確にしなければなりませんね)
ミレアは気持ちを切り替えようとした。
すると――。
「大丈夫っす!」
シアが元気よく声を掛けた。
「……何がですか?」
「主のせいって言えばいいっす!」
「……やめなさい」
ミレアが即座に答えた。
「でも、間違ってないっす!」
「……間違っていないのが困るんですよ」
ミレアが頭を抱えた。
その横でリトが豪快に笑い出す。
「ガッハッハ! まあ、ヴァルドさんなら分かってくれるんじゃないか?」
「……そうだといいのですが」
ミレアが苦笑する。
「だって、結果的にはベルグラードの状況が良くなり始めてるんですからね」
「……ええ。それは間違いありません」
「なら、そこをちゃんと話せばいいんですよ!」
「……そうですね」
ミレアは少しだけ表情を和らげた。
確かに、結果だけを見れば良い方向へ進んでいる。
しかし、ギルド長が問題にするのは、結果だけとは限らない。
依頼の範囲を超えたこと。
許可を得る前に話し合いへ深く関わったこと。
そして、今後も関与し続ける必要が生じていること。
それらをどう説明するべきか。
ミレアが考えていると、リトが付け加えた。
「……たぶん、分かってくれますよ!」
「…………」
ミレアが顔を上げた。
「……リトさん」
「……はい?」
「その『たぶん』が、一番不安なんです」
「……あ」
リトが口を閉じる。
シアが楽しそうに笑った。
「じゃあ、あーしが説明するっす!」
「……シアさんが?」
「はいっす!」
シアは胸を張った。
「主がベルグラードを良くしようとして、評議会と人間族の話をまとめたっす! それで仕事が増えたっす!」
「…………」
「以上っす!」
「短すぎます!」
ミレアが思わず叫んだ。
「えー! 分かりやすいっすよ!?」
「肝心な部分が抜けすぎています!」
「……じゃあ、主が悪いっす!」
「結論を変えなさい!」
リトが堪えきれずに笑い出す。
「ガッハッハ! ミレアさん、大変ですね!」
「……笑い事ではありませんよ、リトさん」
「……すみません!」
しかし、そう言いながらもリトはまだ笑っていた。
三人はそんなやり取りを交わしながら、アルヴェインの城門へ向かって歩いていく。
城門をくぐれば、そこは見慣れた町だった。
行き交う住民たち。
立ち並ぶ商店。
そして、冒険者たちが集まるギルド。
いつもの日常が、そこには広がっていた。
しかし、ミレアにとっては、今回の帰還は普段とは少し違っていた。
これから待っているのは、単なる依頼達成の報告ではない。
ベルグラードで起きている問題と、そこで始まった変化。
そして、その中心にいる一人のEランク冒険者について、ギルド長へ説明しなければならないのである。
「……さて」
ミレアは小さく息を吐いた。
「まずはギルドへ向かいましょう」
「了解っす!」
「おう!」
三人は揃って頷くと、ギルドへ続く大通りを歩き始めた。
その頃、ベルグラードでは――。
「……シエル!」
「何よ?」
「また相談来た!」
「……今度は何?」
「分かんない!」
「話も聞いてないの!?」
「今から聞くんだよ!」
ユウトは相変わらず、町の人々から持ち込まれる相談に追われていた。
昨日より今日。
今日より明日。
少しずつ、確実に増えていく相談事。
そして、それに応じるたびに広がっていく人々との繋がり。
ベルグラードでのユウトの名前は、本人が思っている以上の速さで知られ始めていた。
しかし、アルヴェインへ戻った三人は、そのことをまだ知らない。
そして、ギルド長へ報告を終えて再びベルグラードへ向かう頃には、あの町での二人の立場が、さらに変わっているかもしれないことも。
今はまだ、誰も知らなかった。
第312話をお読みいただき、ありがとうございます!
ベルグラードでユウトへの信頼が少しずつ高まる一方、報告組はついにアルヴェインへ。
次回はいよいよ、ギルドマスターへの報告です。
「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!
それでは、また次回お会いしましょう!




