第三百十一話 なんか今日優しくない?
グランドライノ討伐の翌日。
ベルグラードの町を歩くユウトたちに、昨日までとは少し違う視線が向けられ始めます――。
翌朝。
「おはよう!」
「……お、おはよう」
宿を出たユウトが道端にいた獣人族の男へ声を掛けると、男は少し驚いたように顔を上げた。
しかし、すぐにその表情を和らげる。
「……あんた、昨日南門で魔獣を倒した冒険者だろ?」
「ん? そうだけど」
「やっぱりそうか!」
男は嬉しそうに頷くと、ユウトへ向き直った。
「昨日はありがとな」
「……え?」
「南門の魔獣だよ。グランドライノが出ただろ?」
「ああ!」
ユウトが手を叩く。
「昨日のやつか!」
「実は、うちの弟があそこで材木を運んでたんだ」
「……そうなんだ」
「ああ。あんたたちが助けてくれたおかげで、無事に帰ってこられた。少し怪我はしてたが、大したことはなかったよ」
「……そっか!」
ユウトの顔が明るくなる。
「よかったな!」
「ああ。本当に助かった」
男は深く頭を下げた。
「弟も礼を言いたがってたよ。昨日は騒ぎでちゃんと話せなかったらしいからな」
「そんなの気にしなくていいよ!」
ユウトが笑う。
「無事だったんなら、それで十分だし!」
「……そうか」
男も笑顔を浮かべた。
「でも、礼くらいは言わせてくれ。本当にありがとうな」
「おう!」
男はもう一度頭を下げると、仕事へ向かうのか、大通りの方へ歩いていった。
「…………」
ユウトはその背中を見送っていた。
「……何?」
隣に立つシエルが尋ねる。
「……いや」
ユウトは周囲を見渡した。
「なんか今日、みんな優しくない?」
「……そう?」
「うん。昨日よりさ」
実際、宿を出てからというもの、すれ違う住民たちが何度かこちらへ視線を向けていた。
中には、軽く頭を下げる者もいる。
昨日までは珍しい余所者を見るような視線が多かったが、今日はどこか親しみが込められているようだった。
「……理由が分からないの?」
シエルが呆れたように尋ねる。
「……町が少しずつ変わってるから?」
「それもあるかもしれないけれど」
「……じゃあ何?」
「少しは自分で考えなさいよ」
「なんで教えてくれないんだよ!」
ユウトが不満そうに声を上げると、シエルは小さく笑いながら歩き始めた。
「ほら、行くわよ」
「……はいはい」
ユウトもその後に続く。
朝の大通りは、すでに多くの住民で賑わっていた。
荷車を引く商人や仕事へ向かう職人たち。
店先では、開店の準備を進める者たちが忙しそうに動いている。
昨日までと変わらない日常の中で、少しずつ町の空気が変わり始めていた。
すると――。
「おい! そこの兄ちゃん!」
「……ん?」
今度は、店先に立っていた鬼人族の男が手招きをしていた。
「ちょっとこっち来い!」
「……何?」
ユウトが近づくと、男は何かを放り投げてきた。
「ほら、これ持ってけ!」
「うおっ!?」
慌てて受け止める。
手の中にあったのは、紙に包まれた焼き菓子だった。
まだ少し温かく、甘い香りが漂ってくる。
「……おお!」
ユウトの目が輝いた。
「これ、何!?」
「見りゃ分かるだろ。焼き菓子だよ」
「……くれるの?」
「ああ。昨日の礼だ」
「……昨日?」
ユウトが首を傾げる。
「俺、この店助けたっけ?」
「そういう意味じゃねぇよ」
「……じゃあ何?」
店主は呆れたように笑った。
「町の連中を助けてくれた礼だ。南門で魔獣が出たんだろ?」
「……ああ!」
「うちの店にも、あそこで働いてる奴らがよく買い物に来るんだよ。無事だったって聞いて安心したんだ」
「……なるほど!」
ユウトが頷く。
「でも、別にお礼なんていらないよ?」
「……そうか。じゃあ返せ」
「やっぱ、いる!」
即答だった。
「…………」
シエルがじっとユウトを見る。
「……何?」
「即答ね」
「食べ物は大事だろ!」
「さっきはいらないって言ってたでしょう?」
「それとこれとは別!」
「……都合がいいわね」
鬼人族の店主が声を上げて笑った。
「ハッハッハ! 面白い兄ちゃんだな!」
「……そう?」
「ああ。遠慮なんかしなくていいから食ってくれ!」
「ありがとう!」
ユウトは嬉しそうに包みを開いた。
中には、こんがり焼き色のついた小さな菓子がいくつも入っている。
「……おお、美味そう!」
早速一つ手に取り、口へ運ぼうとしたところで――。
「……ユウト」
シエルの声が響いた。
「……何?」
「食べながら歩かないの」
「……一個だけ!」
「子供みたいね」
「大人だよ!」
「その言い方がもう子供なのよ」
「ひどい!」
ユウトは不満そうに頬を膨らませたものの、結局その場で一つだけ食べることにした。
「……ん!」
口の中に広がる甘さに、思わず目を見開く。
「これ美味い!」
「そりゃよかった!」
店主が嬉しそうに笑った。
「シエルも食べる?」
「……そうね。一ついただこうかしら」
ユウトから渡された焼き菓子を、シエルも一口食べる。
「……あら、美味しいわね」
「だろ!?」
「あなたが作ったわけじゃないでしょう」
「そうだけど!」
再び始まった二人のやり取りに、店主は楽しそうに笑っていた。
◇
それからも、二人は大通りを歩いていった。
すると、今度は向こうから声が掛かった。
「おーい! 昨日は助かったよ!」
「おう!」
「お前、本当にEランクなのか!?」
「Eランクだってば!」
「また何かあったら頼むぞ!」
「……何も起きない方がいいだろ!」
「そりゃそうだ!」
そんなやり取りが、通りのあちこちで繰り返された。
中には、ユウトたちを見つけてわざわざ頭を下げる者もいた。
人間族、獣人族、鬼人族。
種族は様々だったが、向けられる言葉には感謝や親しみが込められていた。
「…………」
ユウトは歩きながら、何度も周囲を見回していた。
「……どうしたの?」
シエルが尋ねる。
「……やっぱり変だ」
「何が?」
「昨日まで、こんなに話しかけられなかったよな?」
「……そうね」
「やっぱり、町の人たちが仲良くなってきてるのかな?」
「……どうしてそうなるのよ」
シエルが呆れたように眉を寄せる。
「……違うの?」
「町の人たちの関係が少しずつ変わっているのは確かでしょうけど、今あなたに声を掛けている理由は別よ」
「……何?」
「昨日、魔獣を倒したでしょう?」
「……ああ」
「しかも、町の人たちを助けた」
「……うん」
「だから、お礼を言っているのよ」
「…………」
ユウトが首を傾げた。
「……魔獣倒しただけで?」
「……あなたね」
シエルは大きくため息を吐いた。
「私たちにとっては、そうかもしれないわ。でも、普通の人にとって危険度Cの魔獣が四体も現れるのは、命に関わる大事件なのよ」
「……あー」
「しかも、それを二人だけで片付けたんだから」
「……シエルが速かったからな!」
「あなたもグランドライノを投げていたでしょう?」
「一度に二体倒せたから効率よかったよな!」
「……そういう問題じゃないわ」
「……?」
ユウトが不思議そうに首を傾げる。
シエルはしばらくその顔を見つめていたが、やがて首を振った。
「……もういいわ」
「最近シエル、諦めるの早くない!?」
「あなたに説明していると疲れるのよ」
「ひどい!」
しかし、シエルの口元には小さな笑みが浮かんでいた。
ユウトにとっては、危険な魔獣を倒したことも、誰かを助けたことも、特別なことではないのだろう。
困っている人がいたから助けた。
ただ、それだけ。
だが、助けられた人々にとっては違う。
命を救われたという事実は、決して忘れられるものではない。
(……本当に、あなたらしいわね)
シエルは隣を歩くユウトを横目に見ながら、静かに微笑んだ。
◇
「……お?」
大通りを進んでいたユウトが、ふと足を止めた。
少し先に、見覚えのある店が見えてきたのである。
「……あっ!」
ユウトの表情が明るくなる。
「ガルドのおっちゃん!」
「誰がおっちゃんだ!」
店先に立っていたガルドが、間髪入れずに怒鳴った。
「……反応早いな!」
「お前が毎回おっちゃんって呼ぶからだろうが!」
「おはよう!」
「今さら普通に挨拶するな!」
「……難しいな!」
ユウトが首を傾げると、ガルドは大きくため息を吐いた。
その横でシエルが呆れたように笑っている。
「……まったく、お前らしいな」
「……何が?」
「何でもねぇよ」
ガルドはそう言って笑うと、改めて二人を見た。
「それにしても、昨日は派手にやったらしいじゃねぇか」
「……何が?」
「グランドライノだよ!」
「……ああ!」
ユウトが手を叩いた。
「昨日の魔獣か!」
「昨日の魔獣か、じゃねぇよ。もう町中に話が広がってるぞ」
「……早くない?」
「こういう話は広まるのが早ぇんだよ」
「……そういうもん?」
「そういうもんだ」
ガルドは呆れたように答えた。
「危険度Cのグランドライノを四体も相手にして、傷一つ負わずに倒したんだってな」
「……シエルもいたから」
「だからって、普通はそうならねぇよ!」
「……そうなの?」
「……お前なぁ」
ガルドは頭を掻いた。
「お前、本当にEランクなのか?」
「最近みんな、そればっかり聞くんだよなぁ」
「そりゃ聞くわ!」
ガルドの声が店先に響いた。
そんなやり取りに、近くを歩いていた住民たちも思わず笑みを浮かべる。
「……それにしても」
ガルドは少しだけ真面目な表情になった。
「助けた作業員の中には、人間族も獣人族もいたそうだな」
「……そうだっけ?」
「……は?」
ガルドが目を瞬かせる。
「お前、助けた相手の種族も覚えてねぇのか?」
「だって、怪我してる人とか魔獣とか、そっちばっかり見てたし」
「…………」
「……何?」
ユウトが首を傾げる。
ガルドはしばらく黙っていたが、やがて小さく笑った。
「……いや、お前は本当に相手の種族なんか気にしてねぇんだなと思ってよ」
「……見るよ?」
「……は?」
「だって、耳とか角とか違うじゃん」
「そういう意味じゃねぇ!」
「……なんだよ!」
シエルが額に手を当てた。
「……ユウト」
「……何?」
「ガルドは、あなたが助ける相手を種族によって選ばないって言っているのよ」
「……ああ!」
ユウトが納得したように頷く。
「それならそう言ってくれよ、おっちゃん!」
「最初からそういう意味だ!」
「分かりにくいなぁ!」
「普通は分かるわよ!」
シエルまで声を上げた。
ガルドはそんな二人を見て、堪えきれずに笑い出した。
「ハッハッハ! まったく、お前らは面白ぇな!」
「……そう?」
「ああ」
ガルドは笑いながらも、どこか嬉しそうだった。
この町では長い間、種族の違いによって人々の扱いが変えられてきた。
それが当たり前だと考える者も、決して少なくない。
しかし、目の前の青年は違う。
人間族だから助けたわけでも、獣人族だから助けなかったわけでもない。
危険な状況にいる人々を、ただ助けただけなのだ。
しかも本人は、それが特別なことだとすら思っていない。
「……まあ、それでいい」
ガルドが小さく呟いた。
「……何が?」
「お前は、そのままでいろってことだ」
「……急になんだよ」
「気にすんな」
「最近みんな、それ言う!」
「気にするな」
「また!」
ユウトが抗議すると、ガルドは再び声を上げて笑った。
その時だった。
「……ガルド!」
通りの向こうから、慌ただしい足音とともに声が響いた。
「……ん?」
ガルドが振り返る。
そこには、一人の人間族の男がいた。
仕事の途中なのか、衣服には木屑や埃が付着している。
男は少し息を切らしながら、ガルドの店先まで駆け寄ってきた。
「どうした?」
ガルドが尋ねる。
「評議会の通達の件なんだが……!」
「……通達?」
「ああ。ちょっと困ったことになっててな」
男はそこまで話したところで、ユウトとシエルの存在に気づいた。
「……あ」
「おはよう!」
ユウトが元気よく挨拶する。
「あ、ああ……おはよう」
男は少し驚いた様子だったが、すぐに頭を下げた。
どうやら、二人のことは知っているらしい。
「それで、何があった?」
ガルドが改めて尋ねる。
「……実は、俺が働いている工房で揉めてるんだ」
「……揉めてる?」
「ああ」
男は困ったように頭を掻いた。
「評議会からの通達を受けて、人間族の賃金を見直そうって話になったんだ」
「……それは、いいことじゃねぇか」
「最初はそう思ったんだが……」
男は言いづらそうに視線を落とした。
「その話に反対してる連中もいるんだよ」
「……なるほどな」
ガルドが眉をひそめる。
「雇い主が反対してるのか?」
「いや、そういうわけじゃねぇ。工房の中で意見が割れちまってるんだ」
「……意見が?」
「ああ。今まで通りでいいって言う奴もいれば、賃金を変えるなら仕事の割り振りも見直すべきだって言う奴もいてな」
男は大きく息を吐いた。
「それで、朝から言い合いになっちまった」
「……そりゃ面倒だな」
ガルドが呟く。
「だろ? だから評議会に相談しようかと思ってたんだが……」
そこで、男はユウトへ視線を向けた。
「……その」
「……何?」
ユウトが首を傾げる。
「……あんたたちにも、一度来てもらえないか?」
「……俺たち?」
「ああ」
男は真剣な表情で頷いた。
「評議会と人間族の話し合いに立ち会ってたんだろ?」
「……うん」
「それに、昨日は町の外で魔獣に襲われた連中も助けてくれたって聞いた」
「……ああ」
「だから、ちょっと相談に乗ってほしいんだ」
ユウトは不思議そうに首を傾げた。
「……俺たちでいいの?」
「……ああ」
「なんで?」
男は少し考えてから答えた。
「……あんたなら、どっちかだけの味方はしないだろ?」
「…………」
「人間族だからって、俺たちの言うことを全部正しいとは言わない」
「……うん」
「かといって、獣人族だからって向こうの肩を持つわけでもない」
「……そりゃそうじゃない?」
ユウトが当然のように答える。
その言葉に、男は小さく笑った。
「……そういうところだよ」
「……?」
「俺たちじゃ話がまとまらなくなってきてるんだ。だから、一度お互いの話を聞いてもらいたい」
「……なるほど」
ユウトは少し考え込んだ。
賃金の見直し。
仕事の割り振り。
そして、工房の中で生まれてしまった意見の対立。
話を聞く限りでは、単純に賃金を上げれば済む問題ではなさそうだった。
(……まあ、そうなるよなぁ)
前世でも、待遇や条件を変更する際には、思いもよらないところから反対意見が出ることがあった。
誰かにとって都合のいい変更が、別の誰かにとっても同じとは限らない。
だからこそ、実際に何が問題になっているのかを確かめる必要がある。
「……シエル」
ユウトが隣へ顔を向けた。
「……何?」
「どうする?」
「……あなたは、もう決めている顔ね」
「……そう?」
「ええ」
シエルは小さく笑った。
「困っているみたいだから、話を聞いてあげたいんでしょう?」
「……うん」
ユウトは素直に頷いた。
「でも、俺たちだけで勝手に何か決めるわけにはいかないんだよな?」
「……そうね」
シエルの表情が少しだけ和らいだ。
「ちゃんと覚えていたのね」
「……ひどくない!?」
「ふふっ。褒めてるのよ」
「絶対違うだろ!」
シエルは笑いながら、改めて男へ向き直った。
「私たちは、まだ正式な監督役ではないの。それでも、話を聞くくらいならできると思うわ」
「……ああ!」
男が嬉しそうに頷く。
「それで十分だ。まずは何が問題になってるのか、聞いてもらえるだけでも助かる」
「……分かりました」
ユウトは静かに頷いた。
その声が、先ほどよりも少しだけ落ち着いたものへ変わる。
「でしたら、まずは工房の皆さんから、今の状況を詳しく伺わせてください」
「…………」
男が一瞬、目を瞬かせた。
「……あ、ああ。頼む!」
ユウトは小さく頷くと、すぐにいつもの笑顔へ戻った。
「……よし! じゃあ行こう!」
「……ああ!」
男が工房のある方向を指さした。
「こっちだ!」
その言葉を聞くや否や、ユウトが走り出そうとする。
「……ユウト」
シエルが静かに声を掛けた。
「……何?」
「あなた、場所を知らないでしょう?」
「……あ」
「案内してもらうんじゃなかったの?」
「……そうだった!」
男が思わず吹き出した。
「ハハッ! じゃあ、俺が先に行くよ!」
「頼む!」
三人はそんなやり取りを交わしながら、通りの先へ向かっていった。
「…………」
ガルドは、その背中を静かに見送っていた。
「……強いだけじゃねぇんだよな」
小さく呟く。
すると、少し遅れて歩き出そうとしていたシエルが振り返った。
「……ええ」
彼女は小さく微笑んだ。
「本人は、まったく分かっていないでしょうけれど」
「……だろうな」
ガルドも笑った。
「あいつ、自分がどれだけ人に頼られ始めてるか、気づいてねぇんだろ?」
「……そうね」
シエルはユウトの背中へ視線を向けた。
「きっと、困っている人がいるから話を聞いてあげよう、くらいにしか考えていないわ」
「……それが一番厄介だな」
「同感ね」
その時、少し離れたところからユウトの声が響いた。
「シエルー! 置いてくぞー!」
「今行くわ!」
シエルはガルドへ軽く頭を下げると、ユウトたちの後を追った。
ガルドはその姿を見送りながら、小さく笑った。
「……まったく」
あの青年がベルグラードへ来てから、まだそれほど日数は経っていない。
それなのに、町の空気は随分と変わり始めていた。
長年、口にすることすら難しかった問題について、人々が少しずつ話し合うようになった。
人間族と他の種族が、同じ入口から店へ入る光景も見られるようになった。
そして今度は、何か困ったことが起きた時に、種族の違う者同士が同じ相手へ相談しようとしている。
それは、ガルドにとっても予想していなかった変化だった。
「……面白くなってきたじゃねぇか」
ガルドは楽しそうに笑い、店の中へ戻っていった。
◇
昨日まで、ベルグラードでは何か問題が起きれば、まず評議会へ訴えるのが当たり前だった。
人間族に関わる問題であれば、人間族同士で相談する。
それでも解決しなければ、不満を抱えたまま我慢するしかないことも多かった。
しかし、その当たり前の中に、いつの間にか新しい選択肢が一つ増え始めていた。
評議会の人間でもない。
人間族の代表者でもない。
まして、ベルグラードの住民ですらない。
けれど、どちらの話にも耳を傾け、困っている人がいれば手を差し伸べる。
そんな不思議なEランク冒険者の存在が、少しずつ人々の間で知られるようになっていた。
何か困ったことがあれば、あの冒険者にも相談してみよう。
そう考える者が、確かに増え始めていたのである。
そして――。
「……なあ、シエル!」
「……何?」
「また仕事増えたよな!?」
「……そうね」
「なんでだよ!」
「あなたが引き受けたからでしょう?」
「……俺か!」
「あなたよ」
町の変化を生み出した張本人は、今日も自分で増やした仕事に頭を抱えていた。
もっとも、その先で待っている工房の問題が、彼の前世の経験を再び必要とすることになるとは――。
まだ、本人も気づいていなかった。
第311話をお読みいただき、ありがとうございます!
少しずつベルグラードの人々から頼られ始めたユウト。
本人はまだ、その変化にあまり気づいていないようです。
次回もよろしくお願いします!
「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!
それでは、また次回お会いしましょう!




