第三百九話 それぞれの役割
ベルグラードは、まだ変わり始めたばかり。
一方で、本来の調査依頼についてアルヴェインへの報告も必要です。
そこでユウトたちは、今後の動きについて話し合うことになります――。
その日の夕方。
ベルグラードの町で一通りの確認を終えたユウトたちは、宿へ戻っていた。
五人はいつものように一つの部屋へ集まり、今日の調査で分かったことを整理している。
評議会からの通達。
それを受けて対応を始めた商店や工房。
そして、武器の一部を自主的に保管し、話し合いの行方を見守ろうとしている人間族の者たち。
まだ小さな変化ではあるものの、昨日までとは確実に違う動きが生まれていた。
しかし、喜んでばかりもいられない。
今後のことについて、決めなければならない問題が残っていた。
「……それで」
椅子に腰掛けていたリトが口を開いた。
「結局、どうするんだ?」
「……どうするって?」
ベッドに腰掛けていたユウトが首を傾げる。
「アルヴェインへの報告だよ」
「……ああ!」
「アニキ、もう忘れてただろ」
「忘れてないよ!」
「今の間は忘れてたっす!」
シアが勢いよく指摘する。
「シアまで!?」
ユウトは不満そうに頬を膨らませた。
「ですが、本当に一度アルヴェインへ戻る必要があります」
机の上に記録を広げていたミレアが、改めて説明を始める。
「今回、私たちがギルド長から受けた依頼は、ベルグラードの現状を調査することでした」
「……調査だもんな」
「はい。ところが、実際には評議会と人間族の代表者による話し合いにまで関わることになりました」
「……そうだったなぁ」
「正式な第三者として双方の約束を確認するとなれば、当初の依頼の範囲を超えてしまいます」
ミレアは記録へ視線を落とした。
「ですので、ここまでの経緯をギルド長へ報告し、今後も関与することについて判断を仰ぐ必要があります」
「……なるほど」
ユウトは頷いた。
ギルド長のヴァルドからは、あくまで情報収集を目的として送り出されている。
ベルグラードの内情へ勝手に介入しないよう、念を押されてもいた。
それが今では、評議会と人間族の間に入り、具体的な改善策について話し合うところまで進んでしまっている。
(……これ、帰ったら怒られるやつかな?)
ユウトは少しだけ考えた。
(……いや、絶対怒られる気がする)
何故か、腕を組んでこちらを睨むヴァルドの顔が浮かんだ。
「……ユウト?」
シエルが顔を覗き込む。
「……何?」
「今、何か余計なことを考えてなかった?」
「……いや! 別に!」
「……そう」
シエルは小さく笑った。
どうやら、考えていることが顔に出ていたらしい。
「……でもさ」
ユウトは話を戻した。
「全員でアルヴェインに戻ったら、こっちはどうするの?」
「……そこなのよね」
シエルが腕を組む。
「評議会が出した通達も、まだ実際に守られているか分からないところが多いわ」
「うん」
「人間族の側だって、武器を集めるのをやめるよう全員が納得したわけじゃないでしょう?」
「……そうだったな」
「せっかく話し合いが始まったのに、誰も状況を確認しなくなったら、また元に戻ってしまう可能性もあるわ」
シエルの言葉に、ミレアも頷いた。
「もちろん、正式な監督役として動けるかどうかは、ギルド長の判断次第です。ですが、それまでの間も調査を続け、状況を把握しておく意味はあると思います」
「……なるほど」
「主……」
シアがユウトの顔を覗き込む。
「……何?」
「今、ちょっと逃げたいって思ってないっすか?」
「思ってないよ!」
「……本当に?」
シエルも横から尋ねる。
「なんでシエルまで!?」
「少し嫌そうな顔をしたからよ」
「……顔に出すぎじゃない!?」
ユウトが抗議すると、リトが豪快に笑った。
「ガッハッハ! まあ、仕事が増えたのは事実だからな!」
「だから、それ何回言うんだよ!」
「何度でも言うぞ!」
リトは笑いながら答えた。
そんなやり取りを聞いていたミレアが、小さくため息を吐く。
「……皆さん、話を戻してもよろしいですか?」
「……はい」
「はいっす!」
ユウトとシアが揃って返事をした。
◇
「つまり、全員でアルヴェインへ戻るわけにはいかないってことか」
リトが腕を組んだ。
「そうなりますね」
ミレアが頷く。
「こっちに残って調査を続ける者と、ギルド長へ報告するために戻る者。二手に分かれるのがよいと思います」
「……じゃあ、誰か残ればいいじゃん!」
ユウトが手を叩いた。
「そうね」
シエルが頷く。
「……誰が?」
「…………」
その瞬間、全員の視線がユウトへ集まった。
「……なんで俺を見るの?」
「主だからっす!」
「理由になってない!」
「そもそも、この話を始めたのはあなたでしょう?」
シエルが当然のように言った。
「またそれ!?」
「事実よ」
「……アニキが残るのは確定っぽいな」
リトが笑う。
「勝手に決めるなよ!」
「じゃあ、アニキがアルヴェインへ戻るか?」
「……え?」
「評議会の連中やカイルたちへの説明はどうする?」
「…………」
「武器の問題だって、まだ全部片付いたわけじゃねぇぞ」
「…………」
「それに、町の連中はこれから本当に待遇が変わるのか、様子を見てるところだ」
「…………」
「……残るよな?」
「……残ります」
「早いっす!」
シアが思わず声を上げた。
「仕方ないじゃん!」
ユウトは頭を掻いた。
「ここまでやっといて、途中で全部放り出すのも変だろ?」
「……その判断は正しいわね」
シエルが微笑む。
「それに、あなたがいれば評議会側もカイルたちも、何かあった時に話をしやすいでしょう」
「……そうかな?」
「少なくとも、どちらの代表者とも直接話をしてきたのはあなたでしょう?」
「……まあ、そうだけど」
ユウトは少し照れくさそうに頭を掻いた。
評議長もカイルも、最初はなかなか話を聞いてくれなかった。
しかし、今では互いの事情を確認しながら、改善へ向けて進み始めている。
まだ信頼関係が築けたとまでは言えないものの、話をすること自体はできるようになっていた。
それを途中で投げ出すのは、確かに無責任かもしれない。
「……じゃあ!」
シアが勢いよく手を挙げた。
「あーしも残るっす!」
「あなたは戻りなさい」
シエルが即答した。
「即答!?」
「アルヴェインへ戻る方にも人数が必要でしょう?」
ミレアが苦笑する。
「ここまでの道中でも魔獣が出現しましたし、帰路の安全を考える必要があります」
「……ミレアさん一人じゃ駄目なの?」
ユウトが尋ねる。
「もちろん、ある程度は自分の身を守れますよ」
ミレアは微笑んだ。
「ですが、道中では何が起きるか分かりません。護衛がいた方が安心です」
「……そうだった!」
ユウトが頷く。
「ミレアさん、強いけど、帰り道も結構長いもんな」
「ええ。できれば複数人で移動したいところです」
「……だったら」
リトが口を開いた。
「俺とシアでミレアさんをアルヴェインまで送るってのはどうだ?」
「……お?」
「帰り道の護衛は俺たちで引き受ける。ギルド長への報告が終わって、今後の方針が決まったら、またこっちへ戻ってくればいいだろ?」
「……なるほど!」
ユウトの表情が明るくなった。
「それなら三人で動けますね」
ミレアも頷く。
「シアさんも、それでよろしいですか?」
「もちろんっす!」
シアが元気よく答えた。
「あーしがいれば、道中の魔獣なんて怖くないっす!」
「ガッハッハ! 頼もしいな!」
リトが豪快に笑う。
「……じゃあ」
ユウトは隣へ視線を向けた。
「俺とシエルが残るの?」
「そうなるわね」
シエルは当然のように答えた。
「…………」
「……何よ?」
「……シエル、いいの?」
「何が?」
「ベルグラードに残って」
ユウトは少しだけ真面目な表情になった。
「だって、アルヴェインに戻った方が安全かもしれないしさ」
「……あら」
シエルが僅かに目を細めた。
「私の心配をしてくれているの?」
「……まあ、そりゃそうだろ」
「……ふふっ」
シエルは小さく笑った。
「大丈夫よ。そもそも、あなた一人をここへ残す方がよっぽど心配だもの」
「……どういう意味!?」
「そのままの意味よ」
リトが吹き出した。
「ガッハッハ! アニキなら、俺たちが戻ってくる頃には、また何か増えてそうだしな!」
「……何が!?」
「仕事だよ」
「……ああ、それはありそうね」
シエルが即答した。
「シエルまで!?」
ミレアは額に手を当てた。
「……本当に、お二人だけで大丈夫でしょうか」
「……何が!?」
ユウトが抗議する。
「まあ、そのために私がいるんだから大丈夫でしょう」
シエルが涼しい顔で答えた。
「……なんか保護者みたいになってない!?」
「違うの?」
「違うよ!」
「……主」
シアが急に真顔になった。
「……何?」
「シエル姐さんの言うこと、ちゃんと聞くっすよ」
「なんで出発前の子供みたいになってるんだよ!」
「知らない人について行っちゃ駄目っす!」
「行かないよ!」
「拾ったものも食べるなよ、アニキ」
リトまで真面目な顔で言い始める。
「俺を何だと思ってるんだ!」
「……魔獣は食べるっすけどね」
シアが付け加えた。
「それは別!」
「……別なのね」
シエルが呆れたように呟いた。
そんな四人のやり取りを見ながら、ミレアは小さく笑っていた。
ベルグラードへ向かう道中は、何度もこの騒がしさに振り回されたものだ。
しかし、こうして見ていると、不思議と安心できる。
昨日の会議で見せたユウトの姿。
そして今、目の前で騒いでいるユウトの姿。
まるで別人のようではあるものの、根本にあるものは同じなのかもしれない。
困っている人を放っておけない。
相手が誰であっても、まず話を聞こうとする。
そして、時には自分の立場さえ忘れて首を突っ込んでしまう。
(……本当に、不思議な方ですね)
ミレアはそう思いながら、静かに微笑んだ。
◇
「……では」
ひとしきり騒ぎが落ち着いたところで、ミレアが改めて口を開いた。
「明日の朝、私たち三人はアルヴェインへ向かいます」
「……早いな」
ユウトが呟く。
「報告は、これ以上遅らせない方がいいでしょう」
「……そりゃそうか」
「今回の件については、ギルド長からも慎重に行動するよう指示されています。正式な判断をいただかないまま、いつまでもこちらへ滞在するわけにはいきませんからね」
「……うん」
ユウトは頷いた。
ミレアは机に広げていた記録をまとめ、必要な書類を確認していく。
ギルドへ提出する調査報告。
評議会と人間族の代表者が確認した協議の記録。
町で実際に見聞きしたこと。
そして、まだ確認できていない情報。
それぞれを混同しないよう整理してある。
「……ミレアさん」
ユウトが声を掛けた。
「……はい?」
「結構、書類いっぱいあるな」
「……誰のおかげでしょうね?」
「…………」
ユウトは目を逸らした。
「主、逃げたっす!」
「逃げてないよ!」
「まあ、報告する側も大変そうだな」
リトが苦笑する。
「……ええ。ギルド長へ説明しなければならないことが、随分増えてしまいました」
ミレアも苦笑した。
「ただ、今回の調査で得られた情報は、今後の判断にも重要なものですから」
「……そっか」
ユウトは静かに頷いた。
すると、ミレアが少しだけ真剣な表情になった。
「……それから、ユウトさん」
「……ん?」
「一つだけ、お願いがあります」
「……何?」
「ベルグラードで何か大きな問題が起きても、無理に一人で抱え込まないでください」
「……シエルもいるよ?」
「そういう意味ではありません」
「……?」
ユウトが首を傾げる。
「困った時は、評議会やカイルさんたちにも相談してください。ガルドさんやハロルドさんも、きっと力になってくださると思います」
「……うん」
「何でも自分たちだけで解決しようとせず、現地の方々にも協力していただいてください」
「……そんなことするかな?」
「する可能性があるから言ってるのよ」
シエルが即答した。
「俺、そんなに信用ない!?」
「……逆ですよ」
ミレアが小さく微笑んだ。
「……え?」
「ユウトさんは、困っている方を見ると放っておけないでしょう?」
「…………」
「だからこそ、心配しているんです」
ミレアの声は穏やかだった。
「今回の件は、ベルグラードに暮らしている方々自身が向き合わなければならない問題でもあります。ユウトさんがすべて背負う必要はありません」
「…………」
「手助けすることと、代わりに全部やってあげることは違いますからね」
その言葉に、ユウトは少しだけ考え込んだ。
確かに、自分が代わりにすべてを決めてしまえば、話は早いかもしれない。
だが、それでは自分がいなくなった後、また同じ問題が起きてしまう可能性がある。
ここで暮らしていくのは、ユウトたちではない。
ベルグラードの人々なのだ。
「……そっか」
ユウトは小さく頷いた。
「俺が全部やるんじゃなくて、みんなが自分たちでできるようにしなきゃいけないんだな」
「……はい」
ミレアは嬉しそうに微笑んだ。
「そういうことです」
「……分かった!」
ユウトが元気よく答える。
「……本当ですか?」
「たぶん!」
「不安になる返事をしないでください!」
「……じゃあ絶対!」
「今度は軽いですね……」
「どう答えればいいんだよ!」
再び、部屋の中に笑い声が広がった。
◇
翌朝。
ベルグラードの町の入口には、五人の姿があった。
朝日が町の外壁を照らし、街道には早くも荷車を引く商人たちの姿が見えている。
これからアルヴェインへ向かうミレア、リト、シア。
そして、ベルグラードに残るユウトとシエル。
五人は互いに顔を見合わせていた。
「……じゃあ、行ってくるっす!」
シアが大きく手を振った。
「おう!」
ユウトも笑顔で手を振り返す。
「……アニキ」
リトが声を掛けた。
「……何?」
「余計なことするなよ」
「なんで俺が言われる側なの!?」
「経験則だ」
「ひどい!」
「ガッハッハ! まあ、何かあったらシエルに相談しろよ!」
「分かってるって!」
「……本当にな」
リトは念を押すように言った。
「……なるべく早く戻ります」
ミレアが静かに頭を下げる。
「調査記録はすべて持っていきますので、ギルド長へ詳しく報告してきますね」
「……うん」
ユウトが頷いた。
「でも、無理して急がなくていいからな」
「……ですが」
「帰り道も結構長いし、魔獣だっているだろ?」
ユウトは三人を見回した。
「こっちは俺とシエルで何とかするから、ちゃんと安全に帰ってきてよ」
「…………」
ミレアが一瞬だけ黙った。
そして、少し困ったように微笑む。
「……その言葉が、一番不安なんですが」
「なんで!?」
「……気にしなくていいわ」
シエルが小さく笑った。
「シエル!?」
「では、行きましょうか」
ミレアが二人へ声を掛ける。
「了解っす!」
「おう!」
リトとシアが頷いた。
「……またな、アニキ」
「おう! 気をつけてな!」
「主! ちゃんとご飯食べるっすよ!」
「お前に言われたくない!」
「シエル姐さん! 主のことよろしくっす!」
「任せておきなさい」
「なんで二人で勝手に決めてるの!?」
最後まで騒がしいやり取りを交わしながら、三人は街道へ向かって歩き始めた。
少し離れたところで、シアがもう一度大きく手を振る。
「主ー! いってきまーす!」
「おーう!」
ユウトも手を振り返した。
やがて三人の姿は街道の先へと小さくなり、緩やかな丘の向こうへ消えていった。
「…………」
ユウトはしばらく、その方向を眺めていた。
「……行っちゃったな」
「そうね」
隣に立つシエルが頷く。
「……なんか、急に静かになったな」
「シアがいないからでしょうね」
「……リトも結構うるさいけどな」
「あなたもね」
「俺!?」
ユウトが思わず振り返る。
シエルは小さく笑った。
「まあ、二人だけになるのも久しぶりね」
「……そうだな」
ユウトも頷いた。
仲間が増えてからは、いつも誰かが近くにいた。
シアが騒ぎ、リトが笑い、シエルが呆れたように突っ込む。
そんな日常が当たり前になっていたせいか、二人だけになると少し不思議な感覚があった。
「……さて」
シエルが町の方へ向き直る。
「今日も確認するんでしょう?」
「……ん?」
「評議会の通達が、その後どうなっているのか」
「……ああ」
「それから、人間族側の様子もね」
「……分かってるって」
ユウトは小さく肩をすくめた。
「ただし、正式な監督役としての仕事は、ギルド長の了承が出てからよ」
「……うん」
「今は、昨日までと同じように状況を確認して、必要な情報を集める。勝手に新しい約束を増やしたりしないこと」
「……分かってるよ!」
「……本当に?」
「本当!」
シエルはじっとユウトを見つめた。
「…………」
「…………」
「……何?」
「……あなた、また何か思いついてない?」
「思いついてないよ!?」
「……そう。ならいいけど」
シエルは小さく笑い、町へ向かって歩き始めた。
「……行くわよ、ユウト」
「はいはい」
ユウトもその後に続く。
朝のベルグラードは、昨日までと変わらず賑わっていた。
商店が開き始め、荷車が行き交い、人々がそれぞれの仕事へ向かって歩いている。
見慣れた日常。
しかし、その中では少しずつ変化が生まれ始めていた。
評議会からの通達を読み返す商人。
店先で入口の札を外そうとしている店員。
人間族の従業員と、何やら話し込んでいる工房の主人。
まだ、そのどれもが小さな動きに過ぎなかった。
「……お?」
ユウトが足を止める。
「……どうしたの?」
「いや、あそこ」
ユウトが指さした先では、人間族の女性が一軒の商店の正面入口へ向かっていた。
女性は一瞬だけ足を止め、店先を見上げる。
そこには、以前掲げられていたはずの札がなかった。
少し戸惑った様子で周囲を見回したあと、女性は恐る恐る正面の扉を開いた。
「……いらっしゃい」
中から、店主の声が聞こえる。
女性は驚いたように顔を上げた。
そして、小さく頭を下げて店の中へ入っていった。
「…………」
ユウトはしばらく、その光景を見つめていた。
「……ちゃんと入れたな」
「……ええ」
シエルが微笑んだ。
「昨日、札を外してもらった店ね」
「……うん」
「まだ様子を見る必要はあるけど、少なくとも今日は普通に入れたみたいね」
「……そっか」
ユウトは小さく頷いた。
昨日、店主と話をした時には、本当に変わるのか少し不安だった。
しかし、今こうして実際に人間族の客が正面から店へ入っていった。
たったそれだけのこと。
けれど、この町では長い間、それすら当たり前ではなかったのだ。
「……なんかさ」
ユウトが呟いた。
「……何?」
「こういうの見ると、ちょっと嬉しいな」
「……そうね」
シエルは静かに頷いた。
「でも、まだ始まったばかりよ」
「……分かってるって!」
ユウトは笑った。
「だから、今日も頑張るか!」
「……ええ」
二人は顔を見合わせ、町の中心へ向かって歩き始めた。
まだ、ベルグラードの問題が解決したわけではない。
すべての商店が対応を変えたわけでもなければ、人間族への差別がなくなったわけでもない。
武器を集めている者たちの中には、今も評議会を信用できずにいる者がいる。
それでも、昨日まで動かなかったものが、少しずつ動き始めていた。
そして、ユウトたちはまだ知らなかった。
シアたちがアルヴェインへ向かっている間に、ベルグラードの人々から向けられる自分たちへの視線が、これまでとは違うものへ変わり始めることを。
その変化は、町の片隅で交わされる小さな会話から、静かに広がろうとしていた。
第309話をお読みいただき、ありがとうございます!
ユウトとシエルはベルグラードへ残り、シアたちはアルヴェインへ。
しばらく別行動となった一行ですが、その間にベルグラードでは何やら変化が起こりそうです。
次回もよろしくお願いします!
「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!
それでは、また次回お会いしましょう!




