第三百二話 悪循環
ベルグラードで何が起きているのか。
久しぶりに再会したガルドから、現状を聞くことになったユウトたち。
そこで語られたのは、人間族と他種族との間に生まれてしまった深い溝だった――。
「……随分と、変わっちまったよ」
ガルドの言葉に、誰もすぐには口を開かなかった。
窓の外からは、普段どおりの町の喧騒が聞こえてくる。
行き交う人々の話し声や、荷車が石畳を通る音。時折、商人が客を呼び込む声も響いていた。
しかし、店内の空気はそれとは対照的に重苦しいものだった。
「……何があったんですか?」
沈黙を破ったのはミレアだった。
「私がいた頃から、人間族への扱いが良くなかったことは知っています。仕事や住む場所が制限されていたことも、決して忘れてはいません」
「ああ。そうだったな」
ガルドが静かに頷く。
「ですが、今は明らかに違います。町へ入ってから何度も、人間族が監視されているところを見ました。それに、以前は普通に利用できた店まで、人間族専用の入口を設けているようでした」
ミレアは一度言葉を切り、ガルドを真っ直ぐに見つめた。
「なぜ、ここまで状況が悪くなってしまったんですか?」
「……そうだな」
ガルドは深く息を吐くと、椅子に腰を下ろした。
長年商売を続けてきた男の顔には、どこか諦めにも似た疲れが滲んでいた。
「最初はな……人間族の連中が声を上げ始めただけだったんだ」
「……声?」
ユウトが首を傾げる。
「ああ。今の扱いを変えてほしいってな」
「それだけ?」
「そうだ」
ガルドは頷いた。
「同じ仕事をしてるなら、同じだけの給料を払ってほしい。人間族というだけで雇うのを断らないでほしい。店でも他の種族と同じように扱ってほしい。そんな、ごく当たり前の願いだった」
「…………」
「もちろん、それだけじゃねぇ。住める場所を自由に選ばせてほしいだとか、子供たちにも学ぶ機会を与えてほしいだとか、病気になった時にちゃんと診てもらえるようにしてほしいだとか……そういう話もあった」
ガルドは苦々しい表情を浮かべた。
「もっとも、この町じゃそれすら簡単には認められねぇんだがな」
「……普通じゃん」
ユウトが思わず呟いた。
「少なくとも俺は、どれも当たり前のことだと思うけど」
「俺もそう思うぜ」
リトが腕を組んで頷く。
「働いた分の金をちゃんともらいたいなんて、別に贅沢でも何でもねぇだろ」
「そうね。それに、学校や治療まで制限されているなら、生活そのものに関わる問題だわ」
シエルも静かに言った。
「病気になっても診てもらえないなんて、おかしいっす!」
「……だよな」
ユウトは小さく頷いた。
アルヴェインで会った家族も、似たようなことを話していた。
人間族の子供は学校へ通えず、病気になっても医者や治癒術師に診てもらえない。
働こうとしても職種を選べず、他の種族より低い賃金しかもらえない。
そんな環境では、いくら頑張っても暮らしを良くすることは難しいだろう。
「……それで?」
シエルがガルドへ視線を向ける。
「その訴えは、ちゃんと聞いてもらえたの?」
「……ほとんどな」
ガルドが首を横に振った。
「最初は町の有力者や商人たちに話を持ち掛けていたらしい。だが、まともに取り合ってもらえなかったそうだ」
「……評議会は?」
ミレアの声が僅かに低くなる。
「当然、そっちにも訴えは届いた。何度か話し合いの場を求めたとも聞いてる」
「……それで?」
「大きな変化はなかった」
「…………」
「評議会の中にも、話くらいは聞くべきだと言う奴がいなかったわけじゃねぇ。だが、結局は昔からのやり方を変える必要はないって意見が強かったらしい」
ミレアは黙って目を伏せた。
ガルドはそんな彼女を見つめながら、静かに続ける。
「お前も知ってるだろ? この土地じゃ、人間は人間、鬼人は鬼人、獣人は獣人。それぞれ立場が違うのが当たり前だって考える連中が多い」
「……はい」
「特に古くからの慣習を重んじる者にはな。何代も続いてきたやり方を、今さら変える必要はないってわけだ」
「……何それ」
ユウトが眉をひそめた。
「昔からそうだったら、ずっとそのままでいいの?」
「そう考えてる奴がいるんだよ」
「……なんで?」
「理由はいくつもあるんだろうな。人間族が同じ待遇を求めること自体が気に入らねぇ奴もいれば、今の仕組みが変わると困る奴だっている」
「……困る?」
ユウトが聞き返す。
「ああ。人間族を安い賃金で雇ってる商人にしてみりゃ、給料を上げろって話は面白くねぇだろ?」
「…………」
その言葉に、ユウトは少し考え込んだ。
確かに、今の待遇が誰かの利益につながっているなら、簡単に変えたがらない者もいるだろう。
しかし、それだけで人間族への差別のすべてを説明できるわけではない。
長年の偏見。
昔から続く習慣。
現在の仕組みで利益を得ている者たち。
様々なものが複雑に絡み合っているようだった。
「……それで終わらなかったのね」
シエルが静かに尋ねる。
「ああ」
ガルドは頷いた。
「何度訴えても変わらねぇ。話し合いを求めても、結局は昔からのやり方を続けると言われる。そうなりゃ、不満だって溜まっていく」
「…………」
「最初は穏やかに話してた連中も、だんだん声を荒らげるようになっていったそうだ」
ガルドの表情が曇る。
「そのうち、一部の連中が別のことを考えるようになった」
「……別のこと?」
ユウトが尋ねる。
「言葉で訴えても変わらねぇなら、力で変えるしかないんじゃないかってな」
店内が静まり返った。
「……武器?」
ユウトが小さく口を開く。
「……そういう話だ」
ガルドは頷いた。
「ただし、最初から戦おうとしていたわけじゃねぇ。少なくとも、俺が話を聞いた連中は、ずっと穏やかな方法で待遇を変えようとしていた」
「……でも、いつまで経っても変わらなかった?」
「ああ」
「だから、戦おうって考える人が出てきたんだ」
「……そうらしい」
ガルドは苦い表情を浮かべた。
「俺には、その気持ちがまったく分からねぇわけじゃない。だが、だからって武器を持ち出していいとも思わねぇんだよ」
「……うん」
ユウトは真剣な表情で頷いた。
ただ、ここで一つ気になることがあった。
「……おっちゃん」
「なんだ?」
「その武器って、本当に集めてるの?」
「…………」
ガルドは一瞬、言葉に詰まった。
「……集めてるって話は、確かに聞いてる」
「誰が?」
「そこまでは分からん」
「……じゃあ、実際に見たわけじゃないんだ?」
「ああ。俺自身は見てねぇよ」
「……そっか」
ユウトは小さく頷いた。
すると、ガルドは少し考えてから言葉を続けた。
「ただな……何も根拠がねぇ噂ってわけでもないんだ」
「……どういうことだ?」
リトが尋ねる。
「最近、この町や周辺の集落で、武器を買い求める人間族が増えた時期があったらしい」
「……武器を?」
「ああ。剣や槍を扱う店で、まとめて買おうとする奴らがいたって話だ。鍛冶屋の知り合いからも、似たようなことを聞いた」
「…………」
「その後は、農具や狩りに使う道具まで、いつの間にかなくなってるって話が出始めた」
「……盗まれたってこと?」
シアが首を傾げる。
「全部が盗難だったかどうかは分からん。普通に売れたものだってあるだろうし、単なる紛失も混ざってるかもしれねぇ」
ガルドは慎重に言葉を選んだ。
「ただ、普段とは違う動きがあったのは確からしい。そのせいで、武器を集めてる連中がいるって噂が一気に広まったんだ」
「……なるほど」
ユウトは腕を組んだ。
武器が普段より多く売れた。
農具や狩猟道具の紛失が相次いだ。
それらが事実だったとしても、すべて同じ集団によるものとは限らない。
まして、反乱を起こすために集めたと決まったわけでもなかった。
「……おっちゃん、もう一ついい?」
「おう」
「武器を買った人たちって、何のために必要なのか聞かれてた?」
「さあな。そこまでは知らん」
「……そっか」
「なんだ、気になるのか?」
「うん。だって、狩りをするために買う人もいるだろ? 自分の家を守るために買う人だっているだろうし」
「……そうね」
シエルが頷いた。
「買った理由まで分からない以上、すべてが反乱の準備だとは言えないわ」
「でも、武器を集めてるって噂が広まれば、警戒する人が出てくるのも当然だよな」
リトが言う。
「そこなんだよ」
ガルドは深く息を吐いた。
「評議会にも、そういう話が届いたらしい」
「……だから監視を強めたのね」
シエルが呟く。
「ああ。最近じゃ、人間族が何人か集まってるだけでも警戒される。町の出入りを確認されたり、誰と会うつもりなのか聞かれたりすることも増えた」
「…………」
「武器を買おうとすれば、当然疑われる。何か起きてからじゃ遅いって考えなんだろうな」
「……でもさ」
ユウトが顔を上げた。
「それって、武器を集めてない人も?」
「……ああ」
「何もしてない人も?」
「そうだ」
「…………」
「誰が何を考えてるのか分からねぇから、人間族全体が疑われるようになっちまったんだよ」
ガルドは吐き捨てるように言った。
その声には、強い苛立ちが滲んでいた。
「……おかしくない?」
ユウトが眉をひそめる。
「おかしいわね」
シエルが答えた。
「ただ、警戒する側の事情も分からなくはないわ」
「……え?」
「もし本当に武装した集団がいて、町で争いを起こそうとしているなら、それを放置するわけにはいかないでしょう?」
「……うん」
「何も対処しなければ、関係のない住民まで危険に晒される可能性があるもの」
「……そっか」
「でも、それと人間族全体を疑っていいかどうかは別の話よ」
シエルは静かに続けた。
「根拠もなく監視されたり、行動を制限されたりすれば、何もしていない人たちまで反発するでしょうね」
「……なるほどな」
リトが腕を組んだ。
「その反発を見て、今度は評議会側がさらに警戒を強めるってわけか」
「……そういうことだ」
ガルドが深く頷いた。
「人間族が待遇を変えてほしいと訴える。だが、聞いてもらえねぇ。やがて武器を持とうとする奴がいるって噂が広がり、評議会側が警戒を強める」
ガルドはそこで一度言葉を切った。
「すると、今度は何もしてねぇ人間族まで監視されるようになる。それに怒る奴が増えて、また疑われる……その繰り返しだ」
「……最悪じゃん」
ユウトが呟く。
「ああ。俺もそう思う」
「……どっかで止められなかったの?」
「止めようとした奴はいるさ」
「……いるんだ」
「ああ。人間族の中にも、他の種族の中にもな」
その言葉に、ミレアが顔を上げた。
「……ガルドさんも?」
「……俺にできることなんて、たかが知れてるがな」
ガルドは苦笑した。
「人間族の客だからって追い返したことはねぇし、困ってる奴がいれば話も聞いてきた。だが、俺一人が何か言ったところで、町全体を変えられるわけじゃねぇ」
「…………」
「それに、最近じゃ人間族の味方をするだけで、妙な目を向けられることもある」
「……そんな」
ミレアの声が沈む。
「昔はもう少し、違う考えの奴同士でも話ができたんだがな」
ガルドは首を振った。
「今じゃ、お互いに相手を信用してねぇ」
「…………」
「人間族の側からすりゃ、何を言っても聞いてくれねぇ連中。評議会側からすりゃ、いつ襲ってくるか分からねぇ連中だ」
「……それじゃ、話し合いも難しいわね」
シエルが呟いた。
「ああ。誰かが間に入ろうとしても、どっちの味方なのかって話になっちまう」
「……どっちの味方、か」
ユウトは小さく繰り返した。
状況は少しずつ見えてきた。長年にわたって続いてきた差別。それを改善してほしいと願う人々。変化を受け入れようとしない者たち。武装の噂によって強まった警戒。
そして、その警戒が新たな不満を生み出している。
(……これ、どっちかだけ何とかしても終わらないやつだな)
ユウトは腕を組み、しばらく考え込んだ。
人間族への不当な扱いを放置したまま、武器を持つなと言っても納得は得られないだろう。
しかし、差別があるからといって武力に訴えれば、それを理由にさらに厳しい取り締まりが行われる可能性がある。
どちらにとっても、良い結果にはなりそうになかった。
「……ミレアさん?」
ユウトが顔を向けると、ミレアは俯いたまま黙っていた。
「……私がいた頃は」
やがて、彼女が静かに口を開く。
「ここまでではありませんでした」
「…………」
「確かに、人間族への待遇は良くありませんでした。でも、町の中で争いが起きるかもしれないなんて……そんなことを考えたことはありませんでした」
「……そうだろうな」
ガルドが答えた。
「だが、急にこうなったわけじゃねぇんだ」
「…………」
「小さな不満が積み重なって、それを放っておいた。そうしてるうちに、少しずつ相手への不信感が大きくなっていったんだよ」
ミレアは何も言わなかった。
ガルドの言葉は、彼女にとって重いものだった。
自分が故郷を離れた理由の一つだった差別。
その問題が解決されないまま年月が経ち、今では町全体を巻き込む争いへ発展しかねない状況になっている。
そう考えると、胸の奥が苦しくなった。
「……なあ、おっちゃん」
静まり返った店内で、ユウトが口を開いた。
「なんだ?」
「もし、本当に人間族が反乱を起こしたらどうなる?」
「…………」
ガルドはすぐには答えなかった。
少し考えた後、重々しく口を開く。
「……恐らく、勝てねぇだろうな」
「……やっぱり?」
「ああ。人間族はこの地域じゃ少数派だ。仮に武器を集めていたとしても、実際に戦える奴がどれだけいるのか分からねぇ」
「…………」
「それに、鬼人族や獣人族には、生まれつき高い身体能力を持つ奴も多い。数でも力でも不利な状況で、まともにぶつかり合えばどうなるか……」
ガルドはそこで言葉を止めた。
「……大勢が死ぬだろうな」
はっきりとした言葉だった。
「人間族だけじゃねぇ。町の中で戦いが始まれば、関係のない住民だって巻き込まれる。店も家も壊れるだろうし、普通に暮らしてる奴らまで逃げなきゃならなくなるかもしれねぇ」
「…………」
「そして、もし反乱が失敗すれば……」
ガルドは苦い表情を浮かべた。
「人間族への扱いは、今よりずっと酷くなるだろうな」
「……関係ない人たちも?」
「ああ。実際に反乱に加わったかどうかなんて関係なく、同じ人間族だってだけで疑われるかもしれねぇ」
「…………」
「だから俺は、起きてほしくねぇんだよ」
ガルドは膝の上で拳を握った。
「差別されてる連中の気持ちは分かる。ずっと我慢してきた奴らが、もう限界だって思うのも無理はねぇ」
「…………」
「だが、武器を持った人間族がいるかもしれねぇと聞いて、怖がる住民がいるのも事実だ」
ガルドは一度、窓の外へ目を向けた。
「だからこそ、戦いになる前に何とかしたかったんだがな……」
その声には、悔しさが滲んでいた。
しばらく、誰も口を開かなかった。
争いを起こせば、多くの人々が傷つく。
だからといって、何もせずに今の状態を続ければ、不満はさらに大きくなっていくだろう。
どちらに転んでも、良い未来は想像できなかった。
「……そっか」
ユウトが静かに呟いた。
「……アニキ?」
リトが顔を向ける。
「やっぱりさ」
ユウトは顔を上げた。
「両方止めないと駄目じゃん」
「……両方?」
ガルドが首を傾げる。
「人間族だからって酷い扱いをするのはおかしいだろ?」
「……ああ」
「でも、だからって武器を持って暴れていいってことにもならないじゃん」
「……そうだな」
「どっちか片方だけ止めても、結局また同じことになると思うんだよ」
ユウトは真剣な表情で続けた。
「仮に武器を取り上げたって、差別が続けば不満はなくならないだろ? 逆に待遇を良くするって話だけ決めても、武器を持ったまま疑い合ってたら安心して暮らせないし」
「…………」
ガルドが驚いたようにユウトを見つめる。
先ほどまで、ミレアを困らせてばかりいた青年とは思えないほど、話の要点を捉えていたからだ。
「……ユウトさん」
ミレアも静かに彼を見る。
「だからさ、両方何とかしないと意味ないと思うんだ」
「……簡単に言うわね」
シエルが小さく息を吐いた。
「だって、他にある?」
「方法の話をしてるのよ」
「…………」
ユウトが黙った。
そして、少し考えてから答える。
「……これから考える!」
「……やっぱりね」
シエルが呆れたように笑った。
「ガッハッハ! アニキらしいな!」
リトが豪快に笑う。
「主らしいっす!」
シアも嬉しそうに頷いた。
「……褒められてる?」
「たぶんな!」
「絶対違うだろ!」
僅かに、店内の空気が和らいだ。
しかし、ユウトはすぐに真剣な表情へ戻った。
「……とりあえずさ」
ユウトはガルドへ視線を向ける。
「今の話って、おっちゃんが直接見たことと、人から聞いたことが混ざってるんだろ?」
「……ああ。最初にも言った通りだ」
「じゃあ、まだ分かってないことも多いよな」
「そうだな」
「武器を集めてる人が本当にいるのか。いるなら、何のために集めてるのか。それに、評議会が何を考えて監視を強めてるのかも、ちゃんとは分からない」
「……ええ」
ミレアが頷いた。
「その通りです。現段階で断定できることは、まだ限られています」
「……だよな」
ユウトは腕を組んだ。
そして、何かを整理するように口を開く。
「だったら、まずは人間族の人たちから直接話を聞きたい」
「……人間族から?」
ガルドが尋ねる。
「うん。おっちゃんが悪いとかじゃなくてさ、実際に困ってる人たちが何を考えてるのか、ちゃんと知りたいんだ」
「…………」
「どんなことに困ってて、何を変えてほしくて、どうしてそこまで追い詰められたのか。それを聞かないと、何も分かんないだろ?」
ガルドはゆっくりと頷いた。
「……そうだな」
「それから、評議会にも話を聞く」
「……ええ」
ミレアが答えた。
「双方の事情を確認する必要がありますからね」
「……うん!」
ユウトが頷く。
しかし、その直後。
「…………」
何故か、表情が曇った。
「……ユウトさん?」
ミレアが不思議そうに尋ねる。
「……どうしました?」
「……いや」
ユウトは少しだけ肩を落とした。
「やっぱり、偉い人と話すのかぁ……」
「……そこですか!?」
ミレアが思わず声を上げる。
「だって、評議会って偉い人たちの集まりだろ!?」
「そうですけど! 今さら何を言っているんですか!」
「主! あーしが代わりに話すっす!」
シアが勢いよく手を挙げた。
「……それはもっと駄目な気がする!」
「なんでっすか!?」
「自覚ないの!?」
「失礼っす!」
「お前ら、本当に何しに来たんだ……?」
ガルドが呆れたように呟いた。
「調査!」
「調査っす!」
二人の声が綺麗に重なる。
「…………」
ガルドはミレアへ視線を向けた。
「……ミレア」
「……はい」
「本当に大丈夫なのか、こいつら?」
「……実力については保証できます」
「……他は?」
「…………」
ミレアが黙った。
「……ミレアさん!?」
「私も今、それが心配になってきました」
「なんで!?」
「主! また信用されてないっす!」
「お前もだからな!」
「ええっ!?」
久しぶりに、店内に笑い声が響いた。
ガルドも呆れたように笑いながら、ようやく肩の力を抜いた。
しかし、状況は何一つ変わっていない。
人間族への差別は続いており、その改善を求める声も届いていない。
武器を集めているという噂の真相も、まだ分からない。
そして、その噂を理由に強まった監視は、人々の不満をさらに大きくしている。
今にも崩れそうな均衡の上で、町の日常が続いているのだ。
「……おっちゃん」
ユウトが改めて声を掛けた。
「なんだ?」
「人間族の人たちに、話を聞ける場所ってあるかな?」
「……そうだな」
ガルドは少し考え込んだ。
「まったく心当たりがねぇわけじゃない。ただ、今の状況じゃ、誰もが簡単に口を開いてくれるとは限らねぇぞ」
「……うん。それは分かる」
「下手に外部の人間が近づけば、相手まで疑われる可能性があるからな」
「……だったら、迷惑が掛からないようにしないとな」
ユウトは小さく頷いた。
力ずくで話を聞き出すことは簡単かもしれない。
だが、それでは意味がない。
相手が安心して話せる状況を作らなければ、本当に知りたいことは聞けないだろう。
「……ガルドさん」
ミレアが静かに口を開く。
「もし差し支えなければ、協力していただけませんか?」
「…………」
ガルドは、しばらくミレアを見つめていた。
そして、小さく息を吐く。
「……分かったよ」
「……ありがとうございます」
「ただし、無茶はするなよ。せっかく帰ってきたお前まで、面倒なことに巻き込まれちゃ困るからな」
「……はい」
ミレアが微笑んだ。
「それと、そっちの坊主もだ」
「……俺?」
「ああ。お前、何か見つけたらすぐ首を突っ込みそうだからな」
「……なんで初対面なのに分かるの!?」
「ガッハッハ! 見りゃ分かる!」
「おっちゃんまで!?」
再び店内に笑い声が響いた。
その一方で、ユウトの頭の中では、これから確認すべきことが少しずつ整理され始めていた。
人間族が何を求めているのか。
評議会は何を恐れ、何を守ろうとしているのか。
そして、互いの主張がどこですれ違ってしまったのか。
まだ答えは分からない。
だが、何から確かめるべきかは見えてきた。
(……まずは、ちゃんと話を聞かないとな)
ユウトはそう考えながら、静かに頷いた。
争いは、まだ起きていない。だからこそ、今なら間に合うかもしれない。
その可能性を確かめるため、ユウトたちはまず、人間族の側から直接話を聞くことにした。
第302話をお読みいただき、ありがとうございます!
少しずつ見えてきた、ベルグラードで起きている問題。
どうやら単純にどちらか一方だけの問題ではなさそうです。
そして次は、人間族の側から話を聞くことに。
果たして、彼らは何を語るのでしょうか。
次回もよろしくお願いします!
「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!
それでは、また次回お会いしましょう!




