第三話 終焉竜、討伐対象になる
第三話です!
終焉竜、ついに討伐対象になりました。
でも本人はまだスライム相手に必死です。
「逃げろぉぉぉ!!」
冒険者たちは一目散に洞窟から逃げ出していく。
ユウトは呆然とその背中を見送った。
「いや待って!? 話を――!」
『グルルァァァァ!!』
「だから違うんだって!!」
完全に化け物の咆哮だった。
コミュニケーションが成立しない。
ユウトは頭を抱えた。
いや、前脚だった。
「終わった……」
絶対勘違いされた。
というか、“終焉竜”という時点で説明以前の問題な気もする。
すると頭の中に、いつもの無機質な声が響いた。
《周辺国家に脅威認定される可能性があります》
《生存難度が上昇しました》
「“可能性”じゃなくて確定だろもう!!」
ユウトは洞窟の壁に頭を打ちつけた。
ゴォン!!
「痛っ!!」
普通に痛い。
レベルが上がってもドジは治っていなかった。
その時だった。
洞窟の外から、微かに金属音が聞こえてくる。
カチャ。
カチャ。
鎧の音。
「……まさか」
ユウトの嫌な予感は当たった。
「討伐隊だ!!」
「洞窟を包囲しろ!!」
「終焉竜を外へ出すな!!」
「早っ!!」
仕事が早すぎた。
異世界人、危機管理能力が高い。
ユウトは慌てて洞窟の奥へ下がる。
だが。
ズシン。
ズシン。
「うるせぇぇぇ!!」
隠密性ゼロだった。
しかも身体がデカい。
狭い洞窟では、まともに身を隠すことすらできない。
「どうすんだこれ……」
戦う?
無理だ。
スライム相手に命懸けだったのに、人間の討伐隊なんて勝てるわけがない。
しかし逃げ場もない。
その時。
洞窟のさらに奥から、低い唸り声が響いた。
『グルルルル……』
ユウトは凍りついた。
「……え?」
暗闇の中で、赤い瞳が開く。
巨大な影。
そして。
自分と同じ、漆黒の鱗。
「ドラゴン……?」
頭の中に表示が浮かぶ。
《同族個体を確認》
《危険度判定:SS》
「いやいやいやいや」
ユウトは後ずさる。
「今それどころじゃないんだけど!?」
だが、漆黒のドラゴンはゆっくりとユウトを見つめていた。
まるで何かを確かめるように。
そして。
『……グルァ』
低い唸り声。
だが不思議と、敵意は感じなかった。
「……もしかして、同族だから?」
終焉竜。
同じドラゴン種。
少なくともスライムよりは会話できそうな気がした。
すると黒竜は、ゆっくりとユウトへ近づいてくる。
デカい。
いや、自分もデカいのだが、相手はさらにデカかった。
「うわ、圧すご……」
黒竜が顔を近づけてくる。
ユウトは反射的に身構えた。
だが。
くんくん。
「……匂い嗅がれてる?」
犬だった。
完全に大型犬のノリだった。
黒竜はユウトの周囲をぐるりと回る。
翼。
尻尾。
角。
そして最後に、ぺろっ、とユウトの顔を舐めた。
「うわっ!?」
熱い。
ドラゴンの唾液なのか、妙に熱かった。
だが、敵意はない。
むしろ。
「懐かれてる……?」
すると。
外から怒号が響いた。
「いたぞ!!」
「洞窟の奥だ!!」
「魔力反応が二つある!?」
「まさか……終焉竜が二体だと!?」
「いや違う違う違う!!」
『グルァァァァ!!』
「だからなんで威嚇になるんだよ!!」
黒竜まで咆哮した。
洞窟全体が揺れる。
外から悲鳴が上がった。
「ひっ……!」
「終わりだ……」
「王都へ……王都へ報告を……!」
完全にパニックだった。
ユウトは半泣きになる。
「俺そんな悪いやつじゃないのに……」
だが、客観的に見れば完全に災厄だった。
巨大な黒竜が二体。
洞窟の奥で咆哮している。
そりゃ逃げる。
ユウトでも逃げる。
その時だった。
黒竜がユウトの身体をぐいっと押した。
「……え?」
そのまま洞窟のさらに奥へ押し込まれる。
まるで。
「逃がそうとしてる?」
黒竜は短く唸った。
『グル』
そして翼を広げる。
直後。
ドゴォォォォン!!
洞窟入口付近が爆炎に包まれた。
「うおっ!?」
熱風が吹き荒れる。
人間たちの悲鳴が響く。
「ブレス……」
ユウトは目を見開いた。
これが本物のドラゴンブレス。
自分の火の粉とは格が違った。
黒竜はそのまま入口方向へ向かう。
まるで討伐隊を引き付けるように。
「待て!」
ユウトは思わず叫んだ。
『グルァ?』
「そっち行ったら戦うことになるだろ!」
だが黒竜は静かにユウトを見るだけだった。
そして。
ゆっくりとユウトの頭へ、自分の額を軽くぶつける。
ゴン。
「いった」
でも、どこか優しかった。
次の瞬間。
黒竜は洞窟入口へ飛び出した。
轟音。
悲鳴。
爆炎。
戦闘が始まる。
「……なんなんだよ」
ユウトは呆然と立ち尽くした。
自分を助けたのか?
なぜ?
終焉竜だから?
それとも。
考えようとした、その時だった。
《特殊個体との接触を確認》
《条件の一部を達成しました》
《未解放スキル《人化》の解放条件が進行しました》
「……え?」
ユウトは目を見開いた。
人化。
ついに進展した。
「マジか……!」
その瞬間。
洞窟入口側から、凄まじい咆哮が響く。
『グォォォォォォォォォ!!』
空気が震える。
岩壁が軋む。
討伐隊の悲鳴が混ざる。
ユウトは反射的に入口方向を見た。
黒竜が戦っている。
自分を逃がすために。
「……っ」
逃げるべきか。
それとも。
ユウトは爪を握りしめた。
怖い。
正直めちゃくちゃ怖い。
でも。
「……助けてもらったんだよな」
レベル6。
まだ弱い。
それでも。
ユウトはゆっくり前へ踏み出した。
ズシン、と洞窟が揺れる。
「俺、営業時代も逃げるの嫌いだったんだよな……」
クレーム対応。
謝罪。
無茶振り。
逃げたくなることは何度もあった。
でも結局、最後は向き合うしかなかった。
それは異世界でも同じなのかもしれない。
ユウトは大きく息を吸い込む。
胸の奥に熱が溜まる。
まだ火の粉しか出せない。
それでも。
「ちょっとだけ頑張るか……!」
終焉竜ヴァルグレイア。
世界最強種。
だがその中身は。
まだ人間にもなれない、元不動産営業だった。
黒竜登場回でした。
そして少しだけ「人化」の条件が進みました。
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