第二話 スライムダンジョン無双(できてない)
第二話です!
まだまだ終焉竜は弱いです。
むしろスライム側が強い説あります。
大量のスライムを前に、ユウトは静かに息を吐いた。
いや、ドラゴンなので実際には熱風だった。
ふおぉぉ……と漏れた吐息だけで、目の前のスライムたちがビクビク震える。
「……威圧だけは強いんだよな」
見た目も強い。
声も強い。
存在感も強い。
でもレベルは2。
ユウトは改めて現実を噛み締めた。
目の前には二十匹近いスライム。
普通なら雑魚。
しかし今のユウトにとっては、十分脅威だった。
「落ち着け……さっきよりは強くなってる」
HP120。
防御35。
敏捷18。
レベル1の頃とは別物だ。
だが油断はできない。
ほんの数分前まで、スライム二匹で死にかけていたのだから。
ぽよん。
一匹のスライムが跳ねた。
「来たっ!」
ユウトは反射的に前脚を振る。
べちゃっ。
スライムが潰れた。
《経験値を取得》
「おっ!」
いける。
明らかに力が違う。
しかしその直後。
左右から別のスライムが飛び込んできた。
「うおっ!?」
片方は避けた。
だがもう片方が胴体にぶつかる。
《1ダメージ》
「……あれ?」
痛くない。
いや、多少は痛い。
でもレベル1の頃みたいな絶望感がない。
「防御上がってる……!」
その瞬間、ユウトの中で恐怖が少し薄れた。
「なら!」
前脚を振る。
尻尾を叩きつける。
だが、やはり身体がデカすぎる。
攻撃範囲は広いが、小回りが利かない。
スライムたちはその隙を突いて、足元へ潜り込んでくる。
「うわっ!? 足元来るな!!」
ズルッ。
粘液で足を滑らせる。
「またかよぉぉぉ!!」
ズドォォォォン!!
巨大な身体が横転した。
地面が揺れる。
そして下敷きになったスライム数匹が潰れた。
《経験値を取得》
《経験値を取得》
《Lvが3になりました》
「……転ぶの強くない?」
レベルアップの熱が身体を巡る。
筋肉が膨らみ、呼吸が軽くなる。
さっきより明らかに動きやすい。
「なるほどな……」
ドラゴンの戦い方なんて分からない。
だが、自分の身体が武器になることは理解してきた。
デカい。
重い。
それだけで凶器だ。
その時だった。
洞窟の奥から、さらに大きな気配が現れる。
ぺちゃ。
ぺちゃ。
普通のスライムより重い音。
「……なんだ?」
暗闇から現れたのは、紫色の巨大スライムだった。
通常のスライムの三倍はある。
身体から紫色の液体を垂らしており、それが地面に落ちるたび、じゅう、と音を立てていた。
「絶対ヤバいやつじゃん……」
《個体識別:ポイズンスライム》
《推奨討伐Lv:8》
「いや待て待て待て」
ユウトは後ずさった。
現在レベル3。
推奨8。
「中ボス出るの早すぎだろ!!」
ポイズンスライムはゆっくり近づいてくる。
その圧力は、通常スライムとは別格だった。
本能が警告を鳴らす。
逃げろ、と。
「撤退!!」
ユウトは全力で振り返った。
しかし。
翼が岩壁に引っかかった。
「うそだろ!?」
抜けない。
狭い洞窟が完全に罠だった。
その間にもポイズンスライムが迫る。
ぽよん。
紫色の巨体が跳ねた。
「やばっ!」
ユウトは咄嗟に前脚で受ける。
紫の粘液が鱗に触れた瞬間。
じゅうっ。
「熱っ!?」
《5ダメージ》
《毒状態を受けました》
視界の端でHPが減り始める。
《HP -2》
《HP -2》
「毒ぅぅぅ!?」
普通にヤバかった。
ユウトは必死に翼を引き抜く。
「落ち着け……落ち着け……!」
自分の武器を整理する。
爪。
尻尾。
落石。
そして――火。
さっき、ほんの少しだけ火の粉が出た。
なら。
「やるしかねぇ!」
ユウトは大きく息を吸い込んだ。
胸の奥に熱が集まる。
だが制御が難しい。
無理にやれば自爆する。
それでも。
「燃えろ!!」
ボッ。
小さな火の粉が飛んだ。
それがポイズンスライムに付着した瞬間。
ボワッ!!
紫色の身体が燃え上がる。
「効いた!?」
ポイズンスライムが激しく震える。
だが倒れない。
むしろ怒ったように膨張した。
「え、ちょ――」
次の瞬間。
大量の毒液が飛び散った。
「うわぁぁぁ!?」
ユウトは翼で身体を庇う。
じゅうじゅうと鱗が焼ける。
《12ダメージ》
「痛ぇぇぇぇ!!」
だが分かった。
火は効く。
なら、もう一発。
「今度は外さねぇ!!」
ユウトは岩壁へ爪を突き立てた。
バキィッ!!
落石が発生する。
ポイズンスライムがそちらへ気を取られた瞬間。
ユウトは再び火の粉を吐いた。
ボッ。
燃える。
そこへ落石。
ドゴォン!!
紫色の巨体が押し潰される。
だが、まだ動く。
「しぶとい!!」
ユウトは前脚を振り上げた。
「終われぇぇぇ!!」
渾身の一撃。
べちゃっ。
ポイズンスライムの核が砕け散る。
《ポイズンスライムを撃破しました》
《Lvが4になりました》
《Lvが5になりました》
「……勝った」
ユウトはその場に崩れ落ちた。
全身が痛い。
毒でHPも削れている。
だが、生きている。
「はは……最強種なのに命懸けすぎるだろ……」
その時、視界に表示が浮かぶ。
《暴食進化が使用可能です》
「……食うのか、これ」
紫色のスライムを見る。
どう見ても食べてはいけない色だった。
だが、ここまで来るともう慣れ始めていた。
「……いただきます」
恐る恐る口へ運ぶ。
ぬるっ。
「まずっ!?」
通常スライムより遥かに酷かった。
苦い。
痺れる。
臭い。
だが次の瞬間。
《毒耐性 Lv1を獲得しました》
《酸性粘液 Lv1を獲得しました》
「……やっぱ食えば強くなるのか」
ユウトは深く息を吐いた。
この世界で生き残る方法が、少しずつ見えてきた気がした。
その時だった。
洞窟の外側から、何かが崩れるような音が響いた。
ドゴォン!!
「……なんだ?」
地震?
いや違う。
複数の足音。
そして。
「この奥だ!!」
「間違いない! 魔力反応がある!」
「終焉竜を確認次第、即時撤退だ!」
人の声だった。
ユウトは固まる。
「……人間?」
初めて聞く、この世界の人間の声。
だが同時に理解した。
自分の見た目は完全に化け物だ。
終焉竜。
世界危険度SSS。
「……絶対ヤバい」
松明の明かりが近づいてくる。
そして。
一人の冒険者と、ユウトの目が合った。
沈黙。
数秒後。
男の顔から血の気が引いた。
「――いた」
声が震えている。
「終焉竜だぁぁぁぁぁぁ!!」
悲鳴が洞窟に響いた。
「待ってくれ!!」
ユウトは慌てて前脚を上げた。
だが。
『グォォォォォォォォ!!』
完全に威嚇だった。
「怒ってる!!」
「逃げろぉぉぉ!!」
「王都へ報告だ!!」
「違うんだって!!」
『グルァァァァァ!!』
どう聞いても化け物だった。
ユウトは絶望した。
「……人化、早く欲しい」
心の底からそう思った。
終焉竜なのに、まだ戦い方が「転んで押し潰す」です。
でも本人は必死です。
次回、ついに人類側から「災厄認定」されます。




