第一話 終焉竜、スライムに殺されかける
初投稿です!
「見た目だけラスボスなのに序盤めちゃくちゃ弱いドラゴン」を書きたくて始めました。
よろしくお願いします!
死んだ――と思う。
神崎ユウトの最後の記憶は、深夜の横断歩道だった。
仕事帰り。
コンビニで買ったカフェオレ。
スマホに並ぶ未読LINE。
『明日までに資料修正お願いします』
『ローン特約の件で至急確認を』
『神崎さん、電話ください』
「……帰ったらゲームやるか」
そう呟きながら信号待ちをしていた、その時だった。
耳を裂くようなクラクション。
視界を埋め尽くすヘッドライト。
そして。
轟音。
◇
「…………ん」
意識が浮上した瞬間、ユウトは違和感を覚えた。
身体が重い。
いや、“重い”なんてレベルじゃない。
まるで巨大な岩山を無理やり動かそうとしているような感覚だった。
ゆっくり目を開ける。
そこは薄暗い洞窟だった。
湿った空気。
岩肌を伝う水滴。
ひんやりした土の匂い。
「……どこだここ」
そう呟いたつもりだった。
だが実際に響いたのは。
『グルルルルル……』
低く、重い咆哮だった。
洞窟の空気がビリビリ震える。
「……は?」
ユウトは身体を起こそうとした。
その瞬間。
ゴォンッ!!
「っっっっっ!?」
頭に強烈な衝撃が走る。
天井に頭をぶつけたらしい。
洞窟が揺れ、小石がパラパラと降ってきた。
「いっっってぇぇぇぇ!!」
反射的に頭を押さえようとして――ユウトは固まった。
そこにあったのは、人間の腕ではなかった。
黒い鱗。
鋭い鉤爪。
丸太みたいに太い前脚。
「……え?」
恐る恐る身体を見下ろす。
巨大な胴体。
長い尻尾。
背中には巨大な翼。
全身を覆う漆黒の鱗。
「いやいやいやいや待て待て待て!!」
慌てて後ずさる。
ズシン。
地面が揺れた。
「嘘だろ……ドラゴン?」
夢か?
いや違う。
頭をぶつけた痛みも、岩肌に爪が擦れる感覚も、全部リアルすぎた。
すると、その時。
頭の中に無機質な声が響いた。
《個体認証完了》
《魂魄定着を確認》
《転生処理、正常終了》
《種族:終焉竜ヴァルグレイア》
《世界危険度:SSS》
「転生……?」
呆然と呟く。
だが、さらに目の前へ半透明のウィンドウが浮かび上がった。
【ステータス】
個体名:ユウト
種族:終焉竜ヴァルグレイア
Lv:1
HP:12
MP:9999
筋力:8
防御:5
敏捷:3
固有スキル:
《暴食進化》
《竜王の威圧》
《限界突破》
未解放スキル:
《人化》……解放条件未達成
「…………」
数秒、沈黙した。
そして。
「弱っっっっっ!!!」
洞窟中にツッコミが響いた。
「終焉竜ってなんだよ!?
世界危険度SSSじゃないのかよ!?
HP12!? 防御5!?
終焉する前に俺が終わるだろこれ!!」
見た目は完全にラスボスだった。
だが中身は、どう考えてもチュートリアル雑魚。
「しかもMPだけ無駄に高ぇ!!」
宝の持ち腐れだった。
その時。
グゥゥゥゥ……。
腹が鳴った。
「……腹減った」
猛烈な空腹感。
身体から力が抜けていく。
歩くだけで疲れる。
「マジで弱いのかこの身体……」
ユウトは重い身体を引きずりながら、洞窟の奥へ進み始めた。
ズシン。
ズシン。
静かに歩いているつもりなのに、毎回地震みたいな音が鳴る。
「隠密性ゼロかよ……」
翼が壁に擦れる。
尻尾が岩にぶつかる。
角が天井に引っかかる。
「住みにくすぎるだろこの身体!!」
数十歩進んだだけで息が切れた。
すると、小さな地下湖が見えてくる。
「水だ……」
ユウトは顔を近づけた。
その瞬間、水面に映った自分の姿を見て固まる。
黒曜石みたいな鱗。
真紅に光る瞳。
巨大な角。
圧倒的な威圧感。
「絶対強い見た目してんのに……」
レベル1。
その事実がすべてを台無しにしていた。
水を飲もうとして口を近づける。
だが口が大きすぎる。
軽く飲んだつもりが。
ゴボッ。
水が一気に減った。
「うわっ!? 飲みすぎた!」
しかも顔を上げた拍子に角が天井に引っかかる。
「痛っ!! もう嫌だこの身体!!」
その時、ふとステータスの一文を思い出した。
《人化》……解放条件未達成
「……人になれるのか」
その言葉だけが希望だった。
強くなりたいとか、無双したいとか、その前に。
普通に生活したい。
切実だった。
その時だった。
ぴょこん。
背後で何かが跳ねた。
振り返る。
そこにいたのは、緑色のゼリー状生物だった。
「……スライム?」
異世界テンプレ第一号。
ゲームなら最初に倒す雑魚敵。
ユウトは少しだけ安心した。
「さすがにスライムには負けないだろ……」
その瞬間。
《竜王の威圧が発動しました》
スライムがビクッと震える。
「お?」
やっぱり最強種の威圧はあるらしい。
ユウトは少し得意になった。
「悪いな、こっちも腹減ってんだ」
そう言って前脚を振り下ろす。
ぺち。
「…………」
スライムは無傷だった。
「え?」
次の瞬間。
ぽよん。
スライムが跳ねる。
《3ダメージ》
「いったぁぁぁぁぁ!?」
HPが9になった。
終焉竜、スライムに押される。
「待って待って待って!!
おかしいだろ!?
俺ドラゴンだぞ!?」
だがスライムは待ってくれない。
ぽよん!
《2ダメージ》
「ぐあっ!?」
HP7。
普通に死が見えてきた。
「なんで転生初日で死にかけてんだよぉぉぉ!!」
ユウトは慌てて逃げようとする。
だが身体が大きすぎてうまく動けない。
翼が壁に引っかかる。
足元の水で滑る。
「うおっ!?」
ズドォォォォン!!
巨大な身体が横転した。
その下敷きになったスライムが。
べちゃ。
「…………」
潰れた。
数秒後。
《経験値を取得》
《Lvが2になりました》
「……え?」
次の瞬間。
身体の奥から熱が溢れた。
筋肉が軋む。
魔力が全身を駆け巡る。
さっきまでの倦怠感が、一瞬で吹き飛んだ。
「な、なんだこれ……!?」
慌ててステータスを開く。
Lv:2
HP:120
MP:12000
筋力:40
防御:35
敏捷:18
「は?????」
一レベルで別物になっていた。
すると再び声が響く。
《終焉竜ヴァルグレイアの種族特性を確認》
《低レベル時、超倍率成長補正が適用されています》
「……つまり、序盤だけ異常成長するってことか?」
その時。
グゥゥゥゥ……。
再び腹が鳴る。
そして足元には、潰れたスライムの残骸。
すると。
《暴食進化が使用可能です》
「……食えってこと?」
嫌な予感しかしない。
だが空腹には勝てなかった。
「……いただきます」
恐る恐る口へ運ぶ。
ぬるっ。
「うわ最悪……」
食感が終わっていた。
だが次の瞬間。
《暴食進化が発動しました》
《耐酸性 Lv1を獲得しました》
《粘体適応 Lv1を獲得しました》
「……能力増えた?」
ユウトは固まった。
捕食で能力獲得。
つまり。
「食えば強くなるのか?」
その瞬間だった。
ぽよん。
ぽよん。
ぽよん。
洞窟の奥から大量の音が響く。
暗闇の中に、いくつもの緑色が浮かび上がった。
「……多くない?」
十匹。
二十匹。
いや、もっといる。
普通なら絶望する光景。
だが、ユウトはゆっくり立ち上がった。
先ほどまでとは違う。
身体に力が入る。
動ける。
「なるほどな……」
黒き終焉竜が、一歩前へ出る。
ズシン、と洞窟が揺れた。
「この世界――食ったもん勝ちってわけか」
スライムたちが、一斉に震える。
終焉竜ヴァルグレイア。
世界を滅ぼすと恐れられる最強種。
だがその中身は。
まだスライムに殺されかける、レベル2の元不動産営業だった。
スライム相手に死にかける終焉竜でした。
次回は「スライムダンジョン無双」です。
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