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転生したら最強種だけどレベルが最弱でした。  作者: マッティー
第三章 魔族大陸

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第二百九十八話 近づく故郷の影

ベルグラードへ向けた旅は続く。


ユウトたちの実力を目の当たりにし、その見る目が変わったミレア。


そして旅を進めるうちに、ベルグラードへ近づいていることを感じさせる出来事が――。

「…………」


「……ミレアさん?」


「なんですか?」


「さっきからずっと俺たちのこと見てない?」


「……見ていますよ」


「なんで!?」


 ユウトが思わず聞き返すと、ミレアは呆れたようにため息を吐いた。


 危険度B相当の魔物四体を倒し、再びベルグラードへ向けて歩き始めてから、すでにしばらく経っている。


 しかし、ミレアは先ほどから何度もユウトたちへ視線を向けていた。


 その様子は、まるで初めて見る珍しい生き物を観察しているかのようだった。


「……主」


 シアがユウトの袖を引く。


「ん?」


「ミレアさんの見る目が変わったっす」


「やっぱり!?」


「……変わりましたよ」


 ミレアがあっさり認めた。


「認めた!?」


「当然でしょう。危険度B相当の魔物を一人で倒せる方が四人もいるなんて、普通は思いません」


「……でも、報告書に書いてあったんだろ?」


 ユウトが不思議そうに尋ねる。


「討伐したとは書いてありました。ですが、誰がどのように倒したのか、どれくらい余裕があったのかまでは分かりません」


「……なるほど」


「それに、何より驚いたのはユウトさんです」


「……俺?」


 ミレアがじっとユウトを見つめた。


「危険度Bの魔物を目の前にして、戦闘中に何かを調べ始めるなんて聞いていませんでした」


「……ああ、あれ?」


「何をしていたんですか?」


「いや、なんかいいスキル持ってないかなって思ってさ!」


「……ですから、どうやって相手のスキルを調べていたんですか?」


「…………」


 ユウトの笑顔が固まった。


 確かに、普通は魔物を眺めているだけで保有するスキルを調べることなどできない。


 それを可能にしているのは、自分だけが持つ補佐機構の能力だった。


(……しまった。余計なこと言った!)


『不用意な発言には注意してください、マスター』


(……分かってるって!)


「……ユウトさん?」


 ミレアが首を傾げる。


「……なんでもない!」


「主! 誤魔化したっす!」


「シア!」


 ユウトが慌てて振り返る。


 しかし、ミレアはすでに怪しむような目を向けていた。


「……何か隠していますね?」


「誰だって、一つや二つ秘密はあるだろ!」


「……アニキの場合、一つや二つじゃ済まなそうだけどな」


 リトが楽しそうに笑う。


「リト!?」


「……そうね」


 シエルまで頷いた。


「シエルまで!?」


「主! あーしは味方っす!」


「シア!」


 ユウトが嬉しそうに振り返る。


「でも、主って秘密いっぱいあるっすよね!」


「……どっちだよ!」


 結局、誰も味方をしてくれなかった。


 そんな四人のやり取りを眺めながら、ミレアは小さく息を吐く。


「……皆さん、本当に何者なんですか?」


「Eランク冒険者!」


 ユウトが即答した。


「それはもう聞きました」


「ピチピチの――」


「シアさん、それも結構です」


「最後まで言わせてもらえなかったっす!」


「……むしろ助かったな」


 リトが苦笑する。


 ミレアも思わず笑みを浮かべたが、すぐに考え込むような表情になった。


 彼らは確かに、少し変わった冒険者たちだ。


 しかし、戦闘能力だけで見れば、自分など比較にならないほどの実力を持っている。


 それほどの力を持ちながら、普段はこうしてくだらないことで言い争っているのだから、理解に苦しむというものだった。


(……この方々と一緒なら、道中の心配は少なそうですね)


 ミレアは改めて四人を見つめた。


 少なくとも、魔物に襲われた程度で命の危険を感じることはなさそうだ。


 ただし、彼らの行動を管理するという別の問題は残っている。


(……ギルド長が私を同行させた理由、少し分かった気がします)


 ミレアはもう一度、小さくため息を吐いた。


 ◇


 その日の夕方。


「あっ! 見えてきた!」


 ユウトが街道の先を指さした。


 緩やかな丘を越えた向こうに、小さな集落が見えてきたのだ。


 木造の家々が並び、その周囲には簡素な柵が設けられている。集落の外側には畑が広がり、仕事を終えたらしい人々が道を歩いていた。


「今日はあそこで休みましょう」


 ミレアが集落を指し示す。


「……宿ある?」


「ええ。小さいですが、旅人向けの宿があったはずです」


「……ベッドだ!」


「主! ベッドっす!」


 ユウトとシアが揃って喜びの声を上げた。


「……そこまで喜ぶこと?」


 シエルが呆れたように尋ねる。


「野宿じゃないって重要だろ!」


「重要っす!」


「……まあ、気持ちは分かるけどな」


 リトまで頷いた。


「リトまで!?」


「おいおい、シエル。俺だってたまにはちゃんとした寝床で休みたいんだよ」


「……私は別に、野宿でも構わないけど」


「さすがシエルっす!」


「……何がさすがなのよ」


 そんな会話をしながら、五人は集落へ入っていった。


 アルヴェインほど賑やかではないものの、道にはいくつかの店が並び、住民たちが行き交っている。


 獣人族や鬼人族の姿もあり、様々な種族が暮らしているようだった。


「……あ、人間族もいるんだ」


 ユウトが目を向けた先では、一人の人間族の男が荷車を押していた。


 荷車には大きな木箱がいくつも積まれており、男は額に汗を浮かべながら坂道を進んでいる。


「ええ。珍しいことではありませんよ」


 ミレアが答える。


「ルーンガルドにも普通にいたもんな」


「地域によって種族の割合は異なりますが、人間族が暮らしている集落は他にもあります」


「……ベルグラードに近づくほど少なくなるの?」


 ユウトが尋ねると、ミレアは少し考えるように黙った。


「……必ずしも、そうとは限りません」


「……そっか」


「ただ、ベルグラードへ近づくにつれて、人間族に対する考え方にも違いが見られるかもしれませんね」


「……違い?」


 ユウトが聞き返そうとした、その時だった。


「……おい!」


 少し離れた場所から、荒い声が響いた。


「それ、先に運んどけ!」


「……分かりました」


 声がした方を見ると、先ほどの人間族の男が足を止めていた。


 その前には、体格のいい獣人族の男が立っている。


 獣人族の男は荷車に積まれた木箱を指さし、何かを指示しているようだった。


「今日中だからな。分かってるだろ?」


「……はい」


「遅れたら、どうなるか分かってるよな?」


「…………はい」


 人間族の男は小さく頭を下げると、再び荷車を押し始めた。


 その背中は、どこか疲れ切っているように見えた。


「…………」


 ユウトは黙ってその様子を眺めていた。


「……今のさ」


「行きましょう、ユウトさん」


 ミレアが静かに声を掛けた。


「……ミレアさん?」


「ここはベルグラードではありません。それに、今のやり取りだけでは詳しい事情も分かりません」


「…………」


「仕事上の関係かもしれませんし、普段からああいう話し方をする間柄なのかもしれません。私たちには判断できないことです」


「……そうだな」


 リトが頷いた。


「確かに、何でもかんでも首を突っ込むべきじゃねぇな」


「……うん」


 ユウトは一度頷いたものの、もう一度人間族の男へ視線を向けた。


 男は相変わらず重そうな荷車を押し、集落の奥へ進んでいる。


「……でもさ」


「はい?」


「なんか、嫌な感じだったな」


「…………」


 ミレアは何も答えなかった。


 ただ、ユウトと同じように男の後ろ姿を見つめていた。


 ◇


「……五人です」


「五人ね。ちょっと待っておくれ」


 集落の小さな宿。


 木造の建物の一階には受付と食堂があり、奥には二階へ続く階段が設けられていた。


 受付に座っていた女性は、宿帳を確認すると顔を上げた。


「部屋は三つ空いてるよ」


「……おお!」


 ユウトが嬉しそうに声を上げる。


「じゃあ、どう分ける?」


「私とシアで一部屋ね」


 シエルが即答した。


「はいっす!」


「……じゃあ、俺とリト?」


「そうなるな」


「では、私は一人で使わせていただきますね」


 ミレアが微笑む。


「……決まりね」


「……こういうこと決めるの、早いな!」


「あなたたちに任せたら、いつまで経っても決まらないでしょう?」


「そんなことないって!」


「主! あーしは主と一緒でもよかったっすよ!」


「……それは駄目」


 シエルが即答した。


「なんでっすか!?」


「……説明が必要?」


「……必要ないっす!」


 シアが慌てて首を振った。


 その様子に、宿の女性も小さく笑った。


「賑やかなお客さんたちだねぇ。それで、食事はどうする?」


「……食事もあるの!?」


「ああ。宿泊客には一階で夕食を出してるよ。日が落ちた頃には用意できるからね」


「やった!」


「主! 飯っす!」


「……お前ら、本当に元気だな」


 リトが呆れたように笑う。


 宿泊の手続きも終わり、あとは部屋へ荷物を運ぶだけとなった。


 しかし、その時だった。


 ――カラン。


 宿の扉が開いた。


「……すみません」


 一人の男が入ってきた。


 年齢は中年ほどだろうか。


 旅装には土埃が付き、肩から小さな荷物を下げている。


 見たところ、人間族のようだった。


「……今夜、空いている部屋はありますか?」


 男が尋ねると、宿の女性は申し訳なさそうに首を振った。


「ああ、悪いね。今のでいっぱいになっちまったよ」


「……そうですか」


 男は僅かに肩を落とした。


「この辺りに、他に泊まれるところはありますか?」


「ないねぇ。一番近い宿でも、ここから歩いて二時間はかかると思うよ」


「……二時間」


 男が小さく呟く。


 外はすでに日が傾き、間もなく暗くなる頃だった。


 ここからさらに二時間歩くとなれば、夜道を進まなければならない。


「野宿するなら、集落の外で頼むよ」


「……分かりました」


 男は小さく頭を下げた。


「失礼しました」


 そのまま扉へ向かおうとした時だった。


「……ちょっと待って!」


「……はい?」


 男が足を止める。


 声を掛けたのはユウトだった。


「……ミレアさん!」


「はい?」


「シエルとシアの部屋、一緒じゃ駄目?」


「…………え?」


 ミレアが目を瞬かせる。


「三人で一部屋!」


 ユウトが当然のように答えた。


「……ああ、なるほど」


 シエルが頷く。


「私は構わないわよ」


「あーしもいいっす!」


「……ほら!」


 ユウトは嬉しそうに笑った。


「だったら、一部屋空くじゃん!」


「…………」


 ミレアは少し驚いたようにユウトを見つめた。


 自分の部屋を他人へ譲るために、三人で一部屋を使おうというのだ。


 しかも、ユウトにとっては見ず知らずの相手である。


「……私は構いませんよ」


 ミレアが微笑む。


「……決まり!」


 ユウトが勢いよく頷く。


 しかし、当の人間族の男は慌てた様子だった。


「い、いえ! そこまでしていただかなくても……!」


「……なんで?」


「皆さんの部屋を、私のために変えていただくなんて……」


「だって、ここから二時間歩くんだろ?」


「……はい」


「もう暗くなるし、危ないじゃん!」


「…………」


 男は驚いたようにユウトを見つめた。


 まるで、そんなことを言われるとは思っていなかったかのようだった。


「……でも」


 男が口を開きかけたところで、宿の女性が声を掛けた。


「……待ちな」


「……ん?」


 ユウトが振り返る。


「部屋をどう使うかは、あんたたちの自由だよ。ただし、三部屋分の料金は変わらないからね」


「……いいよ!」


 ユウトは即答した。


「主! 太っ腹っす!」


「……まあ、俺たちも払うんだけどな」


 リトがぼそりと呟く。


「そうだったっす!」


「忘れてたのかよ!」


 宿の女性は改めて宿帳を見直した。


「じゃあ、そっちの五人で二部屋。残った一部屋をこの人に貸すってことだね」


「……うん!」


「分かったよ」


 女性は頷くと、今度は人間族の男へ視線を向けた。


「……ただし」


「……はい?」


「その部屋に泊まるなら、宿代は前払いだよ」


「……分かりました」


 男は慌てて懐を探り、小さな袋を取り出した。


「それから、食事は別料金になるからね。寝具を汚した場合も、追加で代金をもらうよ」


「……はい」


 男は何度も頷いた。


「承知しています」


「…………」


 ユウトが首を傾げる。


 そして、宿の女性へ尋ねた。


「……あれ?」


「なんだい?」


「俺たちは前払いじゃなかったよな?」


「……ああ、そうだね」


「それに、さっき夕飯は宿代に入ってるって言ってなかった?」


「…………」


 女性の手が止まった。


 シエルも何かに気づいたように、静かに顔を上げる。


「……ユウト」


「……ん?」


 シエルはそれ以上何も言わず、宿の女性へ視線を向けていた。


 ユウトも改めて女性を見る。


「……なんで違うの?」


「…………」


「同じ宿の同じ部屋に泊まるんだろ?」


「……そうだけどね」


「じゃあ、条件も同じでよくない?」


 ユウトが尋ねると、女性は小さく息を吐いた。


「……この辺りじゃ普通のことだよ」


「……何が?」


「人間族を泊めるなら、そういう条件にする宿は珍しくないってことさ」


「…………」


 ユウトは人間族の男へ視線を向けた。


 男は俯いたまま何も言わない。


 その表情に、驚きや不満の色は見られなかった。


 まるで、それが当然のことだと受け入れているかのようだった。


「……なんで?」


 ユウトが小さく呟く。


 しかし、女性はそれ以上説明する様子もなく、宿帳に視線を戻していた。


「……ユウトさん」


 そこでミレアが静かに名前を呼んだ。


「……ん?」


「とりあえず、部屋へ行きましょう」


「……でもさ」


「今ここで、この方を困らせたいわけではないでしょう?」


「…………」


 ユウトはもう一度、人間族の男を見た。


 男は両手で硬貨の入った袋を握り締め、どうすればいいのか分からない様子で立っている。


 自分たちがここで言い争いを始めれば、かえって彼を困らせてしまうかもしれない。


「……うん」


 ユウトは小さく頷いた。


「……分かった」


「……ありがとうございます」


 人間族の男が、深く頭を下げた。


「本当に、ありがとうございます」


「……いや、別に俺は何もしてないけど」


「いいえ」


 男は首を横に振った。


「おかげで、今夜は安心して眠れます」


「…………」


 ユウトは少し照れたように頭を掻いた。


「……なら、よかった!」


 その笑顔を見て、男はようやく少しだけ表情を和らげた。


 ◇


 宿の二階。


 それぞれの部屋へ荷物を運ぶため、五人は廊下を歩いていた。


「……ユウトさん」


 ミレアが静かに声を掛ける。


「……ん?」


「先ほどは、ありがとうございました」


「……俺?」


 ユウトが不思議そうに振り返る。


「はい」


「なんでミレアさんがお礼言うの?」


「…………」


 ミレアは一瞬、言葉を失った。


 先ほどの出来事は、彼女にとって決して他人事ではなかった。


 ベルグラードで暮らしていた頃、似たような光景を何度も目にしてきたからだ。


 人間族というだけで、利用できる店や施設が制限される。


 同じものを買おうとしても、他の種族より高い金額を請求されることがある。


 それを不当だと訴えても、昔からそうだからという理由で片づけられてしまう。


 そして、そうした扱いに慣れてしまった人間族の中には、何も言わず受け入れる者も少なくなかった。


 先ほどの男も、その一人だったのかもしれない。


「……いえ」


 ミレアは小さく首を振った。


「そうですね。何でもありません」


「……変なの」


 ユウトが首を傾げる。


「主! あーし分かったっす!」


 突然、シアが声を上げた。


「……何が?」


「主はいい奴ってことっす!」


「なんだよ急に!」


「褒めたっす!」


「……それならいいけど!」


「……単純ね」


 シエルが呆れたように笑う。


「シエル!?」


「ガッハッハ! でも、アニキらしいじゃねぇか!」


 リトも楽しそうに笑った。


 そのやり取りを見て、ミレアも小さく微笑んだ。


 しかし、その笑顔は長く続かなかった。


「……ベルグラードは、まだ先です」


 ミレアが呟く。


「……うん?」


 ユウトが振り返る。


「それでも、この辺りまで来ると……少しずつ影響が見えてくるんですね」


「……さっきみたいなの?」


「……ええ」


 ミレアは静かに頷いた。


「もちろん、この集落の人たち全員が同じ考えだとは限りません。それに、ベルグラードの考え方が直接広まっているのかどうかも、今の段階では分かりません」


「……うん」


「ですが、人間族への扱いに差があるという点では、似たところがありますね」


 ユウトは少し考え込んだ。


 アルヴェインでは、人間族も他の種族も同じように店を利用していた。


 ルーンガルドでも、種族によってここまで露骨に扱いが違う場面を見た記憶はない。


 しかし、今夜の宿では違った。


 同じ場所に泊まるだけなのに、種族によって条件が変わる。


 しかも、宿の女性も、人間族の男も、それを当たり前のこととして受け入れていた。


「……やっぱり、分かんないな」


 ユウトが呟いた。


「……何がですか?」


「人間族だからって、なんで扱いを変えるの?」


「…………」


「泊まる部屋だって同じだろ? ベッドも、食べる飯も」


「……そうですね」


「だったら、同じでいいじゃん」


 ユウトは当たり前のように答えた。


 その言葉に、ミレアは何も返せなかった。


 長い間続いてきた習慣。


 誰もが当然のように受け入れている考え方。


 それらを変えることが、どれほど難しいのか。


 ミレアは故郷で嫌というほど見てきた。


 だからこそ、ユウトの言葉があまりにも単純に聞こえてしまう。


 しかし――。


「……ふふっ」


 ミレアは小さく笑った。


「……何?」


「いえ。何でもありませんよ」


「……またそれ?」


「そうですね」


 ミレアは柔らかく微笑んだ。


 目の前の青年にとって、種族の違いなど人を不当に扱う理由にはならないのだろう。


 だからこそ、先ほども何の迷いもなく見知らぬ人間族の男へ手を差し伸べた。


 特別なことをしたつもりもなく、見返りを求めるわけでもない。


 ただ、困っている人がいたから助けた。


 それだけなのだ。


「……ユウトさん」


「……ん?」


「その考え方、私は嫌いではありませんよ」


「……え?」


「むしろ、素敵だと思います」


「…………」


 ユウトは一瞬、目を瞬かせた。


 そして――。


「……ミレアさんが褒めた!?」


「……そんなに驚くことですか!?」


「主! 珍しいっす!」


「シアさんまで!?」


 再び廊下が騒がしくなる。


「……ほら、早く部屋に入りましょう」


 シエルが二人を促した。


「おう!」


「了解っす!」


 ユウトとシアは元気よく返事をすると、それぞれの部屋へ向かっていった。


 その背中を見送りながら、ミレアはもう一度、小さく息を吐いた。


 ベルグラードまでは、まだ長い道のりが続く。


 しかし、故郷へ近づくにつれて、自分がかつて嫌悪していた考え方の片鱗が、少しずつ目の前に現れ始めていた。


 先ほどの宿での出来事も、その一つに過ぎないのかもしれない。


 これから先、ユウトたちは何を見ることになるのだろうか。


 そして、ベルグラードの現状を目の当たりにした時、彼らはどのような反応を示すのだろうか。


 ミレアには、まだ想像できなかった。


 ただ、少なくともこの四人が、人間族への差別を当然のものとして受け入れることはないだろう。


 そのことだけは、確信できた。


 アルヴェインでは、ほとんど感じることのなかった違和感。


 それが今、ベルグラードへ向かう道の途中で、少しずつ形を持ち始めていた。

第298話をお読みいただき、ありがとうございます!


前回の戦闘を経て、ユウトたちを見る目がすっかり変わってしまったミレア。


しかし今回、彼女が目にしたのはその規格外の強さだけではありませんでした。


困っている人がいれば、種族など関係なく自然に手を差し伸べるユウト。


本人にとっては特別なことではなく、ただ「同じでいいじゃん」というだけのこと。


そんなユウトの何気ない行動を見て、ミレアの見る目もまた少し変わったのかもしれません。


そしてベルグラードへ近づくにつれ、少しずつ見え始めた人間族を取り巻く現実。


果たしてミレアの故郷では、今何が起きているのでしょうか。


次回もよろしくお願いします!


「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!


それでは、また次回お会いしましょう!

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