第二百九十七話 報告書の向こう側
ベルグラードへ向けた旅は二日目へ。
ユウトたちの実力について、報告書を通じてある程度把握しているというミレア。
しかし――知っていることと、実際に目にすることは少し違うようで。
ベルグラードへ向けてアルヴェインを出発してから、二日目。
ユウトたち五人は、朝から北西へ延びる街道を進んでいた。
昨日と比べると周囲の景色も少しずつ変わり始めており、道の両側には森が広がっている。時折、遠くに山々の姿も見えるようになっていた。
「……今日は何か出るかな!」
「主! 楽しみっす!」
ユウトとシアが、期待に満ちた表情で街道の先を眺めている。
そんな二人を見て、ミレアは呆れたようにため息を吐いた。
「……魔物との遭遇を期待しないでください」
「だって、昨日はミレアさんだけだったじゃん!」
「十分でしょう?」
「俺たちもいいところ見せたいんだよ!」
「……何と張り合っているんですか」
ミレアは苦笑しながらも、二人の気持ちが分からないわけではなかった。
昨日、自分が魔物と戦う姿を見て、ユウトたちは随分と興奮していた。
冒険者として、自分たちの実力を見せたいと思うのは自然なことなのかもしれない。
もっとも、だからといって魔物が現れることを期待されても困るのだが。
「それに、皆さんの実力については、ある程度把握していますよ」
「……そうなの?」
ユウトが振り返る。
「ええ。報告書を読んでいますから」
「……報告書ねぇ!」
「グレイホーンベアの討伐に、ルーンガルドの鉱山での救援。それから、以前の遺跡の件については……」
「…………」
ユウトの動きが止まった。
隣にいたシアも、何故か急に静かになる。
「……どうして黙るんですか?」
「……何となく!」
「主! あーしも嫌な予感がするっす!」
「別に叱っているわけではありませんよ?」
「本当!?」
「……今のところは」
「今のところ!?」
ミレアは小さく息を吐いた。
「少なくとも、Eランクという肩書だけで皆さんの実力を判断するつもりはありません。実績については、きちんと評価していますから」
「……おお!」
ユウトの顔が明るくなる。
「主! ようやく信用されたっす!」
「俺たちの実力が認められた!」
「……ですから、報告書の範囲では、です」
「そこ重要!?」
「重要です」
ミレアは即答した。
実際、報告書に記されている実績は、Eランク冒険者としては異例のものばかりだった。
危険度Bの魔獣を討伐し、危険な鉱山では討伐隊を救出している。
しかし、報告書だけでは実際の戦闘能力までは分からない。
複数人で協力して倒したのか、それとも何か特別な作戦があったのか。
そうした細かな部分までは、必ずしも記されていないからだ。
「でも、昨日のミレアさんも強かったよな!」
ユウトが話題を変えるように声を上げた。
「そうっす! 華麗だったっす!」
「ふふっ。ありがとうございます、シアさん」
「……俺が言った時と反応違くない?」
「気のせいですよ」
「絶対違う!」
そんなやり取りをしながら、五人は街道を進んでいく。
アルヴェインを離れるにつれて、道を行き交う人の姿は少なくなっていた。
昨日はまだ商人の馬車や旅人とすれ違うこともあったが、今日は朝からほとんど誰とも出会っていない。
「……この辺りは、もう人が少ないんだな」
リトが周囲を見回しながら呟いた。
「ええ。ここから先は、小さな集落が点在している程度です」
ミレアが答える。
「ベルグラードまで、ずっとこんな感じなの?」
「さらに人通りは減っていきます。山間部に入れば、数日間誰とも出会わないことも珍しくありません」
「……へぇ」
「その分、魔物と遭遇する可能性も高くなりますから、注意してくださいね」
「……魔物も増えるの!?」
ユウトの目が輝いた。
「主! 楽しみっすね!」
「……喜ばないでください!」
「はいっす!」
「返事だけはいいんだよな、お前ら……」
リトが呆れたように呟く。
その時だった。
「……待って」
シエルが足を止めた。
先ほどまでの穏やかな表情が消え、森の奥へ視線を向けている。
「……どうした?」
ユウトが尋ねる。
「何か来るわ」
「……え?」
ミレアの表情も変わった。
直後――。
――ズシンッ!!
地面が僅かに揺れた。
「……お?」
ユウトが顔を上げる。
街道脇に広がる森の奥から、低い唸り声が響いてきた。
続いて、木々を押し分けるような大きな物音が聞こえてくる。
「……皆さん、警戒してください!」
ミレアが長柄の武器を構えた。
そして次の瞬間、木々の間から巨大な影が姿を現した。
一体……さらに、その後ろから二体、三体と続く。
「……四体!?」
ミレアが息を呑んだ。
現れたのは、いずれも巨大な魔物だった。
全身を覆う硬そうな毛。
太く発達した四肢。
そして、額から伸びる一本の鋭い角。
重そうな身体に反して動きは鈍くなく、四体は互いに距離を取りながら、五人を囲むように街道へ広がっていった。
「……まずいですね」
ミレアの声が低くなる。
「……強いの?」
ユウトが尋ねた。
「危険度B相当の魔物です」
「……おお!」
「主! やっと来たっす!」
「分かってるって!」
「……何を喜んでいるんですか!?」
ミレアは思わず振り返りそうになったが、すぐに魔物へ視線を戻した。
危険度B……一般的な冒険者にとっては、決して軽く考えていい相手ではない。
昨日ミレアが倒した狼型の魔物とは、明らかに危険度が違っていた。
「一体なら、皆さんの実績を考えれば何とかなるでしょう。ですが、四体同時となると話は別です」
「……そう?」
「そうです!」
ミレアは即答した。
いくら実力のある冒険者が揃っているとしても、四体の危険度Bを同時に相手にするのは容易ではない。
まして、ここは見通しの悪い森の中だ。
不用意に散らばれば、各個撃破される危険もある。
「……どうする?」
リトが尋ねた。
「まずは一体に攻撃を集中させましょう」
ミレアは状況を確認しながら、素早く答える。
「私が一体を牽制します。その間に皆さんで一体ずつ確実に倒して――」
「……じゃあ俺、右!」
「主! あーしは左に行くっす!」
「私は奥の一体ね」
「じゃあ、俺は手前だな」
「…………え?」
ミレアが振り返った。
しかし、その時にはすでに四人がそれぞれ違う方向へ動き始めていた。
「……ちょ、ちょっと待ってください!」
「……何?」
ユウトが首を傾げる。
「何をしているんですか!?」
「……倒すんだけど?」
「どうして四人とも別々の魔物へ向かっているんですか!?」
「……だって、四体いるから」
「四人いるっす! ちょうどいいっすね!」
シアが嬉しそうに頷いた。
「……そういう問題ではありません!!」
ミレアが思わず声を荒らげた。
四人とも危険度Bの魔物へ一人ずつ向かっている。
昨日の狼型の魔物とは違う。
ほんの一瞬の油断が命取りになってもおかしくない相手なのだ。
「皆さん! まずは連携を――!」
しかし、その言葉が終わるより早く、戦闘は始まってしまった。
◇
「グォォォッ!!」
最初に動いたのは、森の奥にいた一体だった。
巨大な身体で地面を蹴り、シエルへ向かって突進する。
「……シエルさん!」
ミレアが思わず叫んだ。
魔物の巨体が、シエルの目前へ迫る。
しかし――。
「……遅いわ」
シエルは静かに呟いた。
次の瞬間、魔物の足元に魔力が集まる。
――パキィンッ!!
地面から突き出した氷が、魔物の四肢を一瞬で拘束した。
「グォッ!?」
突然動きを封じられた魔物が、勢いを失って前のめりになる。
その間に、シエルは軽やかに距離を取っていた。
そして、差し出した手の先に新たな氷の刃が形成される。
「……これで終わり」
――シュンッ!!
鋭い氷刃が一直線に放たれ、魔物の身体を貫いた。
巨体が大きく揺れる。
次の瞬間、支えを失ったように崩れ落ち、そのまま動かなくなった。
「…………」
ミレアは呆然と立ち尽くした。
「……終わったわ」
シエルは何事もなかったかのように手を下ろす。
「……え?」
ミレアの口から、間の抜けた声が漏れた。
危険度Bの魔物を、たった一人で。
それも、ほとんど時間を掛けずに倒してしまった。
「……シエル! 早い!」
ユウトが遠くから声を上げる。
「主! あーしも負けないっす!」
今度はシアが動いた。
左側の魔物が巨大な腕を振り上げ、彼女へ叩きつけようとしている。
「……シアさん!?」
ミレアが慌てて視線を向けた。
しかし、シアはまったく慌てていなかった。
振り下ろされた腕を軽く躱すと、魔物の懐へ潜り込む。
「……よいしょっす!」
そして、その小さな身体からは想像もできないほどの一撃を叩き込んだ。
――ドゴォォッ!!
「…………」
魔物の巨体が、宙を舞った。
「……飛ん……」
ミレアの言葉が途切れる。
先ほどまで目の前にいた巨大な魔物が、数メートルも地面から浮き上がり、そのまま後方へ吹き飛んでいったのだ。
――ズドォォン!!
地面が揺れる。
巻き上がった土煙の向こうで、魔物は完全に動きを止めていた。
「……終わったっす!」
シアが元気よく手を振る。
「…………」
ミレアの口が、さらに開いた。
理解が追いつかない。
確かに、今の一撃は見えた。
見えてはいたのだが、だからといって納得できるものではなかった。
(……あの小さな身体の、どこにそんな力が……?)
「……よし、俺も行くか!」
続いて声を上げたのは、リトだった。
「……リトさん!?」
ミレアが振り返る。
正面から迫っていた魔物が、太い腕を大きく振り上げた。
その一撃をリトは軽く躱すと、相手の懐へ踏み込む。
「……おらぁっ!!」
――ドンッ!!
強烈な一撃が魔物の腹部へ叩き込まれた。
「グォォッ!!」
巨体が大きくよろめく。
しかし、リトはそこで止まらなかった。
素早く距離を取り、魔物へ向けて片手を突き出す。
「……もう一発! フレイム・バースト!」
――ゴォォォォッ!!
轟音とともに、巨大な火柱が立ち上った。
魔物の身体が炎に包まれ、周囲の空気が一気に熱を帯びる。
リトは炎が周囲の木々へ広がらないよう、魔物へ向けて魔力を集中させていた。
やがて火柱が消えると、黒く焦げた巨体が地面へ崩れ落ちた。
「……ふぅ」
リトが小さく息を吐く。
「…………」
ミレアは、もう何も言えなかった。
三体。
危険度B相当の魔物が、ほんの僅かな時間で倒されてしまった。
しかも、四人で協力したわけではない。
それぞれが、自分の担当した魔物を一人で倒している。
(……待ってください)
ミレアは混乱する頭を必死に整理しようとした。
(……危険度Bですよね?)
何か、自分の認識がおかしいのだろうか。
昨日の時点で、彼らが普通のEランク冒険者ではないことは理解していた。
しかし、ここまでとは思っていなかった。
そして――。
「……ユウトさん!」
ミレアが最後の一人へ視線を向けた。
そこでは、ユウトが残る一体の魔物と向き合っていた。
巨大な魔物は鋭い角を突き出し、今にも襲い掛かろうとしている。
「……ん?」
ユウトが振り返る。
「……危ない!」
魔物が大きく口を開けた。
「グォォォォッ!!」
「……うるさっ!」
ユウトは顔をしかめると、振り下ろされた腕を軽く横へ避けた。
その動きには、まるで危機感がない。
「……えっと」
「……何してるんですか!?」
ミレアが思わず叫んだ。
「……ちょっと待って!」
ユウトは魔物の攻撃を避けながら、何かを考えているようだった。
(……補佐機構、こいつ何か使えそうな能力持ってない?)
『対象の能力を解析中です』
(……お、頼む!)
ユウトは魔物の動きを観察した。
大きな角と頑丈そうな身体。
確かに力は強そうだが、今のところ特別な能力を使っている様子はない。
せっかく遭遇したのだから、何か新しい能力でも見つかればと思ったのだが。
『解析完了。新たな獲得対象となる特殊能力は確認されませんでした』
(……ないのかよ!)
ユウトは思わず肩を落とした。
「……ユウトさん!?」
ミレアの声が響く。
「何をしているんですか!?」
「……いや、ちょっと調べてた!」
「何をですか!?」
「……なんか、いいスキル持ってないかなって!」
「……どういうことですか!?」
ミレアには、まるで意味が分からなかった。
危険度Bの魔物を目の前にして、何かを調べていたという。
それも、まるで買い物でもしているかのような気軽さで。
「……まあ、ないなら仕方ないか!」
ユウトが小さく息を吐く。
「……じゃあ、終わり!」
そして、地面を軽く蹴った。
「……えいっ!」
――ドゴォォォン!!
「…………」
ミレアの視界から、魔物の巨体が消えた。
いや、正確には違う。
ユウトの拳を受けた魔物が、凄まじい勢いで吹き飛んでいったのだ。
――バキバキバキッ!!
巨体は街道脇の木々を数本巻き込み、ようやくその勢いを失った。
――ズズンッ!!
遠くで大きな音が響く。
しばらくして土煙が晴れると、魔物は地面に倒れたまま、ぴくりとも動かなくなっていた。
「……よし!」
ユウトは満足そうに頷いた。
そして、何事もなかったかのように仲間たちへ振り返る。
「……終わったぞ!」
「主! あーしの方が早かったっす!」
シアが得意げに胸を張った。
「俺は解析してたから!」
「言い訳っす!」
「違うって!」
「ガッハッハ! まあ、アニキが一番遅かったのは確かだな!」
「リトまで!?」
そんなやり取りをしながら、四人は自然と街道の中央へ集まってきた。
「……全員終わったわね」
シエルが周囲を確認する。
「ああ。怪我もなしだ」
リトが頷いた。
「楽勝だったっす!」
「……だから、俺も楽勝だったって!」
「でも遅かったっす!」
「だから解析してたんだよ!」
再び騒がしくなる四人。
その横で――。
「…………」
ミレアは、口を開けたまま固まっていた。
◇
「……ミレアさん?」
ユウトが首を傾げた。
「…………」
「……おーい!」
目の前で手を振る。
しかし、ミレアは反応しない。
「……ミレアさん?」
「…………」
しばらくして、ようやく彼女の口が動いた。
「……一つ」
「……ん?」
「一つ、確認してもいいですか?」
「……いいよ?」
ユウトが不思議そうに答える。
ミレアは深く息を吸うと、ゆっくりと口を開いた。
「ルーンガルドからの帰路で、グレイホーンベアを討伐しましたよね?」
「……うん」
「報告書には、危険度Bの魔獣を討伐したと記されていました」
「……そうだね」
「……あれは」
ミレアは一度言葉を止めた。
「皆さんで協力して倒したのではないんですか?」
「……え?」
ユウトが首を傾げる。
「……俺一人だけど?」
「…………」
ミレアの表情が止まった。
「主! 速攻だったっす!」
「シア! そこは言わなくていい!」
「……一人?」
ミレアが確認する。
「……うん」
「……危険度Bのグレイホーンベアを?」
「そうだけど?」
「…………」
ミレアはゆっくりとシエルへ視線を向けた。
「……では、ルーンガルドの鉱山で討伐されたブラックアームドビーストは……」
「……私ね」
シエルが答える。
「……お一人で?」
「ええ」
「…………」
「一撃だったっす!」
シアが嬉しそうに付け加えた。
「……シアさん」
「なんすか?」
「今は少し、静かにしていてください」
「……なんでっすか!?」
ミレアは額に手を当てた。
報告書には、確かに危険度Bの魔物を討伐したと記されていた。
しかし、そこに書かれた実績から、ここまでの戦闘能力を想像することはできなかった。
てっきり四人が協力し、何らかの作戦を立てて倒したのだと思っていたのだ。
「……私は」
「……うん?」
「てっきり皆さんは、パーティーとして危険度Bの魔物を討伐できるほどの実力があるのだと……」
「……違うっす!」
シアが元気よく答えた。
「……シア?」
シエルが振り返る。
「あーしたち、一人でも倒せるっす!」
「…………」
ミレアが完全に沈黙した。
「……トドメ刺したな」
リトがぼそりと呟く。
「……え?」
ユウトが振り返る。
「いや、何でもねぇ」
リトは苦笑しながら首を振った。
ミレアは改めて四人を見つめた。
ユウト。
シエル。
シア。
リト。
そして、その周囲には倒された四体の魔物がいる。
つい先ほどまで、危険度Bの魔物四体を相手にどう戦うべきか、必死に考えていた。
しかし、目の前の四人にとっては、最初から一人一体で十分だったということらしい。
「…………」
ミレアは、ゆっくりと口を開いた。
「……皆さん」
「……何?」
「……本当に、Eランクなんですよね?」
「……そうだよ!」
「ピチピチのEランクっす!」
「……ピチピチはいらないわ」
シエルが呆れたように呟く。
「…………」
ミレアは再び沈黙した。
そして――。
「……どうして」
小さな声が漏れる。
「……どうして皆さん、Eランクなんですか?」
「…………」
ユウトが黙った。
「…………」
シアも黙った。
「…………」
リトが視線を逸らした。
「…………」
シエルは小さくため息を吐いた。
そして、四人の視線がゆっくりとミレアへ向いた。
「……なんで私を見るんですか!?」
「……だってさ」
ユウトが口を開く。
「ミレアさんがEランクにしたっす!」
シアが勢いよく付け加えた。
「実力だけでランクは決まらないと言ったでしょう!!」
「……そうだった!」
「忘れないでください!」
「主! また怒られたっす!」
「今回はシアもだろ!?」
「なんでっすか!?」
「なんでじゃないわよ……」
シエルが呆れたように呟いた。
そんな四人の騒がしいやり取りを前に、ミレアは深いため息を吐く。
彼らが強いことは理解した。
それも、自分が想像していた以上に。
しかし――。
(……どうして普段は、こんなに落ち着きがないんでしょう……)
戦闘能力と日常の振る舞いが、あまりにも一致していなかった。
「……ミレアさん?」
ユウトが不思議そうに覗き込む。
「……何ですか?」
「……疲れた?」
「……誰のせいだと思っているんですか?」
「……え?」
「主! あーしたちじゃないっすよね!」
「……お二人ですよ!」
「なんで!?」
「……もう!」
ミレアは思わず頭を抱えた。
その様子を見て、リトが豪快に笑う。
「ガッハッハ! だから言っただろ、アニキ!」
「……何を!?」
「ミレアさんが可哀想だって!」
「……そういう意味だったの!?」
「そういうことだ!」
リトは楽しそうに笑い続けている。
シエルも口元を押さえながら、小さく笑みを浮かべていた。
「……まあ、これで分かったでしょう?」
シエルがミレアへ声を掛ける。
「……何が、ですか?」
「この二人、戦っている時だけは本当に頼りになるのよ」
「……戦っている時だけ!?」
ユウトが抗議する。
「普段も頼りになるっす!」
「……そうね。たまには」
「たまに!?」
再び始まった掛け合いに、ミレアは呆れながらも、ようやく小さく笑った。
少なくとも、この四人が一緒なら、道中の魔物について過度に心配する必要はなさそうだった。
もっとも、それとは別の意味で心配事が増えた気もするが。
◇
周囲の安全を確認した後、五人は再び街道を歩き始めた。
森の中には、先ほどまでの戦闘が嘘のように静けさが戻っている。
ミレアは先頭を歩きながら、時折後ろを振り返っていた。
そこではユウトとシアが、どちらが早く魔物を倒したかについて、まだ言い争っている。
「だから俺は解析してたんだって!」
「言い訳っす!」
「違う!」
「ガッハッハ! まだやってんのか!」
「……もう放っておきましょう」
シエルが呆れたように笑う。
「……そうですね」
ミレアも苦笑した。
しかし、その胸の内では、先ほどの戦闘が何度も思い返されていた。
昨日まで、彼女は四人を少し変わったEランク冒険者だと思っていた。
報告書には確かに驚くような実績が並んでいたが、危険度Bの魔物を討伐するには、四人の連携や何らかの工夫があったのだと考えていた。
ところが、実際はどうだろう。
四人は当然のように危険度Bの魔物へ一人ずつ向かい、あっという間に倒してしまった。
しかも、最後のユウトに至っては、戦闘の最中に何かを調べる余裕まであったらしい。
(……報告書に書かれていたことは、何一つ誇張ではなかったんですね)
ミレアは小さく息を吐いた。
むしろ、報告書だけでは彼らの実力を十分に伝えきれていなかったのかもしれない。
「……ミレアさん!」
突然、ユウトが声を掛けてきた。
「……はい?」
「……どうしたの? また難しい顔してる!」
「……ユウトさん」
「……ん?」
「一つ、お願いがあります」
「……何?」
ミレアは一度立ち止まり、四人へ向き直った。
そして、真剣な表情で告げる。
「……今後、危険度の高い魔物が現れた場合は、まず私にも状況を確認させてください」
「……うん!」
「それから、勝手に四方へ散らばらないでください」
「……はい!」
「そして、事前に相談した作戦がある場合は――」
「ちゃんと聞きます!」
「……最後まで話を聞いてください!」
「……はい!」
ユウトが反射的に背筋を伸ばした。
隣ではシアも同じように姿勢を正している。
「はいっす!」
「…………」
ミレアは二人をじっと見つめた。
そして、深くため息を吐く。
「……本当に、大丈夫なんでしょうか」
「大丈夫だって!」
「主! あーしたち最強っす!」
「……そういう問題ではありません!」
ミレアの声が、静かな森に響いた。
ベルグラードへの旅、二日目。
ミレアはようやく、自分がとんでもない実力者たちと同行していることを理解し始めていた。
ただし……その実力以上に、彼らの行動を管理する方が遥かに難しい。
そのこともまた、早くも理解しつつあった。
第297話をお読みいただき、ありがとうございます!
今回はついに、ミレアがユウトたちの戦闘を初めて目の当たりにすることになりました!
危険度B相当の魔物が四体。
当然、四人で連携して一体ずつ倒すものだと思っていたミレアでしたが――まさかの一人一体。
これまで報告書で目にしていた数々の実績も、どうやら彼女が想像していたものとは少し違っていたようです。
そしてミレアが知ったのは、まだ彼らの実力のほんの一部。
とんでもない四人とのベルグラードへの旅は、まだ始まったばかりです!
次回もよろしくお願いします!
「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!
それでは、また次回お会いしましょう!




