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転生したら最強種だけどレベルが最弱でした。  作者: マッティー
第三章 魔族大陸

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第二百九十一話 予定外の同行者

ルーンガルドから帰還して数日。


珍しく何事もなく依頼をこなし、順調な冒険者生活を送るユウトたち。


そんな中、ミレアから新たな依頼を持ちかけられる。

「終わったー!」


「今日も平和だったっす!」


 アルヴェイン郊外の街道に、ユウトとシアの元気な声が響いた。


 二人の前には、一体の魔物が倒れている。


 今回受けた依頼は、街道周辺に出没する魔物の討伐だった。


 危険度はE。


 一般的な冒険者にとっても、それほど難易度の高い相手ではない。


 まして、危険度Bのグレイホーンベアすら倒したユウトたちにとっては、苦戦するような相手ではなかった。


「これで今日の依頼も終わりね」


 シエルが周囲の安全を確認しながら声を掛ける。


「最近、順調じゃない?」


 ユウトは満足そうに頷いた。


「主! あーしたち、もう完全に一流の冒険者っす!」


「おお! そうだな!」


「……まだEランクだけどな」


 リトが呆れたように口を挟む。


「リト! そこは言わなくていい!」


「事実だろ?」


「気分の問題だよ!」


「ランクが上がってから言えって」


「ぐぬぬ……!」


 ユウトが悔しそうに顔を歪めると、シアが慰めるように肩を叩いた。


「主! 気持ちだけは一流っす!」


「……それ、慰めになってる?」


「微妙だな」


「リト!」


 そんな騒がしいやり取りをしながらも、四人の表情は明るかった。


 ルーンガルドから戻って以降、ユウトたちはアルヴェインの冒険者ギルドで、いくつかの依頼をこなしていた。


 薬草の採取に、街道周辺の魔物討伐。


 近隣の集落へ荷物を届ける仕事もあった。


 どれも特別な事件が起こることはなく、依頼を受け、目的を果たして、ギルドへ報告する。


 冒険者としては、ごく当たり前の毎日だった。


 しかし、ユウトたちにとっては、その当たり前が妙に新鮮だった。


「……なんかさ」


 ユウトが嬉しそうに笑う。


「普通に依頼を終わらせるのって、気持ちいいな!」


「やればできるじゃない」


 シエルが微笑んだ。


「シエルまで!?」


「だって、今までが今までだもの」


「確かに、依頼を受けるたびに何かしら騒ぎが起きてたからな」


 リトも苦笑する。


 その言葉に、ユウトは不満そうな顔をした。


「俺が好きで騒ぎを起こしてるわけじゃないんだけど!」


「……本当に?」


「シエル!?」


「でも、あーしたちは確実に成長してるっす!」


「そうだよな!」


 二人は嬉しそうに頷き合った。


 その様子を見たリトが、小さく息を吐く。


「……冒険者が依頼を普通に達成するのは、成長って言うのか?」


「リト! 今日は厳しくない!?」


 ユウトの抗議が、穏やかな街道に響いた。


 ◇


「はい。討伐対象の確認が取れました」


 アルヴェインへ戻った四人は、いつものように冒険者ギルドで依頼達成の報告を済ませていた。


 受付カウンターでは、ミレアが提出された討伐証明を確認している。


「今回も問題ありませんね。依頼達成です」


「……よし!」


「また完璧っす!」


 ユウトとシアが嬉しそうに声を上げた。


 ミレアはそんな二人を見ながら、小さく笑みを浮かべる。


「最近、本当に普通ですね」


「……ミレアさん!?」


 ユウトが思わず声を上げた。


「……何でしょう?」


「それ、褒めてる!?」


「もちろん、褒めていますよ?」


「絶対褒めてない!」


「ふふっ。少なくとも、以前のように心配することは減りましたから」


「……ほら! 成長してる!」


「主! 証明されたっす!」


「だから、普通に依頼を達成するのは当たり前だろって……」


 リトが呆れたように呟く。


 しかし、ミレアは楽しそうに笑いながらも、どこか嬉しそうだった。


 実際、ここ最近の四人は目立った問題を起こしていない。


 依頼内容をきちんと確認し、指定された範囲で行動し、達成後には報告をする。


 冒険者としての実績も、少しずつ積み重なっていた。


「……ですが、ちょうどよかったです」


 ふと、ミレアが思い出したように口を開いた。


「……ん?」


 ユウトが顔を上げる。


「皆さんにお願いできそうな依頼が、一つあるんです」


「……依頼?」


「はい」


 ミレアはカウンターの下から一枚の依頼書を取り出した。


「商隊の捜索です」


「……商隊?」


 ユウトが首を傾げる。


 つい先日までバルガの商隊を護衛していたこともあり、聞き覚えのある仕事内容だった。


「何かあったの?」


 シエルが尋ねる。


「本来であれば、昨日アルヴェインへ到着する予定だった小規模な商隊があるのですが、まだ到着していないんです」


「……遅れてるってこと?」


「ええ。予定を過ぎても連絡がなく、依頼主の方が心配されていまして」


 ミレアは依頼書を示しながら説明を続けた。


「ただし、この商隊が利用している街道は比較的安全な道です。馬車の故障や天候などの影響で、単純に遅れているだけかもしれません」


「……なるほど」


 ユウトは小さく頷いた。


 商隊が予定どおりに到着しないからといって、必ずしも魔物に襲われたとは限らない。


 荷物の積み直しや馬車の故障など、旅をしていれば予想外のことも起こるのだろう。


「ですので、まずは予定されていた街道を進み、商隊を捜索していただきたいんです」


「見つけたらどうするの?」


「状況を確認してください。何か問題が起きているようなら、必要に応じて支援し、アルヴェインまで護衛していただければと思います」


「……ふむふむ」


 ユウトは依頼書を覗き込んだ。


 商隊の特徴や利用予定の街道、目的地などが記されている。


 少なくとも、今の説明を聞く限りでは、それほど難しい依頼ではなさそうだった。


「……それなら問題なさそうね」


 シエルが頷く。


「だな。商隊の場所を確認して、必要なら護衛して戻ってくればいいんだろ?」


 リトも賛成した。


「受けるっす!」


「俺もいいぞ!」


 ユウトは元気よく手を挙げた。


 仲間たちも異論はないようだった。


「……じゃあ、決まり!」


 ユウトは依頼書へ視線を落とし、内容を確認する。


「見つけて、無事に連れて帰ってくればいいんだな?」


「ええ。ただし――」


「勝手なことはしません!」


「…………」


 ミレアの言葉を遮るように、ユウトが勢いよく答えた。


 隣ではシアも背筋を伸ばしている。


「しませんっす!」


「……まだ何も言っていませんよ?」


「先に言っておこうと思って!」


「主! 成長したっす!」


「……そこだけはな」


 リトがぼそりと呟いた。


「リト!」


 ユウトが抗議すると、ミレアは小さく笑った。


「ふふっ。今回はあくまで捜索が目的です。危険な状況を発見した場合は、無理をせず判断してくださいね」


「了解!」


「分かりましたっす!」


「……本当にお願いしますよ?」


「信用して!」


 ユウトは胸を張った。


 その様子を見て、ミレアが僅かに不安そうな顔をしたことには、誰も触れなかった。


 ◇


 翌朝。


 ユウトたちはアルヴェインを出発した。


 向かうのは、行方の分からなくなっている商隊が利用する予定だった街道だ。


 ミレアから聞いた情報によれば、商隊はこの道を通ってアルヴェインへ向かっていたはずだった。


 まずは道沿いを捜索し、馬車や商人たちの痕跡を探すことになる。


「……いないなー」


 ユウトが周囲を見回しながら呟いた。


「まだ出発して、それほど経っていないでしょう?」


 シエルが答える。


「まあ、そうだけどさ!」


「どのくらい先にいるんすかね?」


 シアも街道の先を眺める。


「それが分かってたら、捜索依頼にならないだろ」


 リトが呆れたように答えた。


「……それもそうっす!」


 シアは納得したように頷いた。


 そんなやり取りをしながら、四人は街道を進んでいく。


 道は比較的整備されており、馬車が通るには十分な幅があった。


 周囲には草原が広がり、所々に小さな林や岩場が見える。


 時折、他の旅人や荷車とすれ違うことはあったものの、探している商隊の姿は見当たらなかった。


(……補佐機構、周囲に何かあるか?)


 ユウトは心の中で問い掛けた。


『周辺を解析中です。現時点で、特筆すべき異常は確認されていません』


(……そっか)


 ユウトは小さく頷いた。


 今のところ、魔物が暴れたような痕跡もなければ、壊れた馬車が放置されている様子もない。


 商隊がどこかで足止めされているとしても、まだ手掛かりは見つかっていなかった。


「……本当に、ただ遅れてるだけだったりして」


 ユウトが呟く。


「それなら、それでいいじゃない」


 シエルが答えた。


「まあな」


「事故でもなければ、余計な心配をする必要もないだろ」


 リトも頷いた。


 確かに、何か大きな問題が起きているよりは、馬車の故障で遅れていたという方がずっといい。


 ユウトもそう考えながら、さらに先へ進んだ。


 ◇


 街を出てから、半日以上が経過していた。


 昼を過ぎても、探している商隊は見つからない。


 街道には目立った異変もなく、四人は少しずつ捜索範囲を広げながら先へ進んでいた。


「……そろそろ何か見つかってもよさそうだけどな」


 ユウトが小さく呟く。


「そうね。でも、もう少し進んでみましょう」


 シエルが答えた。


 その時だった。


「……ん?」


 ユウトが足を止めた。


「どうしたの?」


「……なんか聞こえない?」


「……音?」


 リトも立ち止まる。


 四人は口を閉じ、周囲へ耳を澄ませた。


 風が草原を揺らす音。


 遠くで鳴く鳥の声。


 そして、それらに混じって――。


 ――キィンッ!


「……っ!」


 微かに金属音が響いた。


 続いて、何かが激しくぶつかるような音と、人の叫び声が聞こえてくる。


「……戦ってる?」


 ユウトが表情を引き締める。


「そんな感じっす!」


 シアも頷いた。


 距離はまだあるが、明らかに普通の物音ではない。


 誰かが魔物に襲われている可能性もあった。


「……行くぞ!」


 ユウトが地面を蹴ろうとした、その瞬間。


「待ちなさい!」


 ――ガシッ!


「ぐえっ!」


 シエルがユウトの服を掴んだ。


「まず場所を確認する!」


「……はい!」


 ユウトは大人しく頷いた。


「……そこは成長しないんだな」


 リトが呆れたように呟く。


「今は急いだ方がいいだろ!」


「それはそうだけど、方向も分からず走り出したら意味ないでしょう?」


「……ごもっともです!」


 シエルの言葉に、ユウトは素直に頷いた。


 改めて耳を澄ませると、音は街道の先から聞こえてくるようだった。


 さらに、微かに人の叫び声も混じっている。


「……こっちね!」


「おう!」


 四人は音のする方向を確認し、一斉に走り出した。


 しばらく進むと、街道の先に複数の馬車が見えてきた。


「……あれだ!」


 ユウトが声を上げる。


 馬車は道の途中で停止しており、その周囲では何人もの人影が慌ただしく動いていた。


 そして――。


「……魔物っす!」


 シアが叫んだ。


 複数の魔物が、馬車を取り囲んでいたのだ。


 商人たちと思われる者たちが必死に抵抗しているものの、徐々に追い詰められているようだった。


「……商隊か!?」


「おそらく、探していた人たちでしょうね!」


 シエルが答える。


 ユウトは前方の状況を確認した。


 馬車は複数台。


 その周囲には逃げ場を失った商人たちの姿がある。


 このままでは、いつ誰かが襲われてもおかしくなかった。


「……シア! リト!」


「了解っす!」


「分かってる!」


「シエルは商人たちを頼む!」


「ええ!」


 仲間たちの返事を聞き、ユウトは地面を強く蹴った。


「……行くぞ!」


 ◇


 戦闘は、それほど長く続かなかった。


 ユウトが先頭の魔物へ飛び込み、シアが別の一体を引きつける。


 リトも馬車へ迫った魔物の前へ立ち、商人たちへ近付けないように剣を振るっていた。


 その間、シエルは魔法で魔物の動きを妨げ、逃げ場を失っていた商人たちを安全な位置へ誘導していく。


 最初こそ突然現れた四人に驚いていた商人たちだったが、あっという間に状況が変わっていくのを見て、呆然と立ち尽くしていた。


「……これで最後!」


 ユウトは迫ってきた魔物の攻撃を軽く躱すと、その腹部へ拳を叩き込んだ。


 ――ドゴッ!!


「ギャッ!?」


 魔物は地面を転がり、そのまま動かなくなった。


「……よし!」


 ユウトが周囲を見回す。


「こっちも終わったっす!」


 シアが嬉しそうに手を振った。


「……他にはいなさそうだな」


 リトも剣を収める。


「ええ。周囲に新しい反応はないわ」


 シエルが確認を終え、商人たちの方へ視線を向けた。


「……怪我をしている人は?」


「大丈夫だ! 大きな怪我をした奴はいねぇ!」


 リトが馬車の周囲を確認しながら答える。


 幸い、商人たちは多少の擦り傷を負っている程度で、命に関わるような怪我をした者はいなかった。


「……よかった!」


 ユウトは安堵したように息を吐いた。


 その時、商人らしき男が一行のもとへ駆け寄ってきた。


「……助かった!」


 男は荒い息を整えながら、深く頭を下げる。


「お前たち、冒険者か?」


「そう! アルヴェインのギルドから来た!」


「……アルヴェイン?」


「あなたたちの商隊を捜しに来たの」


 シエルが説明すると、男は驚いたように目を見開いた。


「……そうだったのか!」


 男は大きく息を吐いた。


「いや、本当に助かった。もう少し遅かったら、どうなっていたことか……」


「……ところでさ」


 ユウトが尋ねる。


「本当なら昨日、アルヴェインに着く予定だったんだろ?」


「ああ、そうだ」


「何かあったの?」


「……それがな」


 男は少し困ったように頭を掻いた。


「途中で、少し寄り道をしたんだ」


「……寄り道?」


 ユウトが首を傾げる。


「ああ。予定の道から外れたところで、人を見つけてな」


「……人?」


「放っておけなかったんだ」


 男はそう言うと、商隊の後方へ視線を向けた。


 そこには、他の馬車とは少し様子の違う一台が停まっていた。


 荷物を積んだ馬車とは異なり、荷台には大きな幌が掛けられている。


「……あの馬車?」


 ユウトが尋ねる。


「ああ。見てもらった方が早いだろう」


 男はそう答えると、馬車へ向かって歩き始めた。


 ユウトたちもその後を追う。


 ◇


「……中に誰かいるの?」


 幌の掛かった馬車を前に、ユウトが尋ねた。


「ああ」


 商人の男は頷き、ゆっくりと幌を開いた。


 その瞬間、ユウトたちの表情が変わった。


「…………」


 荷台の中にいたのは、数人の人間族だった。


 男と女。


 そして、まだ幼い子供の姿もある。


 全員がひどく疲れ切っているようで、服は汚れ、身体にも旅の疲労が色濃く表れていた。


 手元にある荷物は僅かで、長い旅を続けてきたにしては、あまりにも身軽だった。


「……この人たちは?」


 シエルが静かに尋ねる。


「街道からかなり外れた場所で見つけたんだ」


 商人は小さく息を吐いた。


「最初は旅人かと思ったんだが、とてもそうは見えなくてな」


「……どういうこと?」


「食料もほとんど持っていなかったんだ。それに、こんな小さな子供までいる」


 男は荷台の奥へ視線を向けた。


 そこには、大人に寄り添うように座っている子供の姿があった。


 疲れ切っているのか、こちらを見つめる目にも力がない。


「このまま放っておいたら、命に関わるかもしれないと思ってな。ひとまず食べ物を分けて、馬車に乗せたんだ」


「……それで予定より遅れたのね」


 シエルが頷く。


「ああ。だが、そのせいで今度は魔物に襲われてしまった。助けたつもりが、余計に危険な目に遭わせちまうところだったよ」


 男は申し訳なさそうに頭を掻いた。


「でも、助けたんだろ?」


 ユウトが尋ねる。


「……え?」


「見捨てなかったんだから、それでいいじゃん!」


 ユウトが笑う。


 商人の男は少し驚いたように目を見開き、やがて照れくさそうに笑った。


「……そう言ってもらえると、ありがたいな」


 ユウトは改めて荷台の中へ視線を向けた。


 人間族。


 魔族大陸へ来てから、アルヴェインでも何度か見かけている種族だった。


 しかし、目の前にいる人たちは、これまで街で見てきた者たちとは明らかに様子が違う。


 疲れ切った表情。


 汚れた服。


 そして、僅かな荷物。


 何か事情があるのは間違いなさそうだった。


「……どこから来たんだ?」


 ユウトが思わず尋ねる。


「……ユウト」


 シエルが小さく名前を呼んだ。


 彼らがどのような状況にあるのか分からない以上、不用意に質問を重ねるべきではない。


 そう考えたのだろう。


「……あ、ごめん」


 ユウトは少し気まずそうに頭を掻き、一歩下がった。


 すると――。


「……大丈夫です」


 荷台の中から、小さな声が聞こえた。


 人間族の男だった。


 ひどく疲れた顔をしていたが、意識はしっかりしているようだった。


「……助けていただいたんですから」


「いや、俺たちは魔物を倒しただけだから」


 ユウトが答える。


「それでも……ありがとうございました」


 男はゆっくりと頭を下げた。


 その動作にも疲労が滲んでいたが、言葉には確かな感謝が込められていた。


「……気にしないで!」


 ユウトは笑顔で答えた。


 そして、少し考えてから口を開く。


「……かなり遠くから来たの?」


「……はい」


「そうなんだ。どこから?」


「…………」


 男はすぐには答えなかった。


 何かを迷うように視線を落とし、隣にいる者たちへ一度だけ目を向ける。


 その様子を見て、ユウトも口を閉じた。


 無理に聞き出すつもりはない。


 話したくないのなら、それでも構わなかった。


 しかし、男はやがて小さく息を吐き、ゆっくりと口を開いた。


「……ベルグラードです」


「…………え?」


 ユウトの動きが止まった。


 今、聞き覚えのある名前が出てきた気がした。


「……ベルグラード?」


 シアが首を傾げる。


 シエルとリトも顔を見合わせた。


「……それって」


「ああ」


 ユウトは小さく頷いた。


 つい数日前、アルヴェインの冒険者ギルドで聞いたばかりの名前だった。


 ミレアが生まれ育った故郷。


 どの国にも属さない、魔族大陸の辺境にある地域。


 そして――。


『ベルグラードでは、人間族は他の種族よりも劣っていると考える人が多いんです』


 ミレアの言葉が、ふと頭をよぎった。


「……ミレアさんの故郷だ」


 ユウトが小さく呟く。


「そうだったっす!」


 シアも思い出したように声を上げた。


 しかし、ユウトはすぐには次の言葉を続けなかった。


 目の前にいる人間族の者たちは、ひどく疲れ切っている。


 持ち物も少なく、小さな子供まで連れていた。


 彼らがどのような事情でベルグラードを離れ、これほど遠くまでやってきたのかは分からない。


 ただ、先ほど男が答えるのを躊躇ったことが、妙に気になった。


「……ベルグラードから、ここまで?」


 ユウトが静かに尋ねる。


 男は小さく頷いた。


「……はい」


「……そっか」


 ユウトはそれ以上、無理に聞こうとはしなかった。


 まずは、この人たちをアルヴェインへ連れて帰ることが先だ。


 事情を聞くのは、安全な場所へ着いてからでも遅くない。


「……とりあえずさ」


 ユウトは男へ笑顔を向けた。


「俺たち、アルヴェインまで商隊を送り届ける仕事だから、一緒に行こう!」


「…………」


「もう魔物に襲われないように、ちゃんと護衛するから!」


 男は少し驚いたようにユウトを見つめた。


 そして、ゆっくりと頭を下げる。


「……ありがとうございます」


「おう!」


 ユウトは元気よく頷いた。


 その隣では、シエルも静かに微笑んでいる。


 リトとシアも、商隊が安全に出発できるよう周囲の確認を始めていた。


 こうして四人は、行方の分からなくなっていた商隊を無事に発見することができた。


 しかし、今回の捜索で出会ったのは、商人たちだけではなかった。


 アルヴェインから遠く離れた辺境。


 ベルグラード。


 数日前まで、ユウトにとっては名前を知っているだけの場所だった。


 だが今、その地を離れ、遥か遠くまで辿り着いた人間族の者たちが、目の前にいる。彼らが故郷を離れた理由は、まだ分からない。


 それでも、この偶然の出会いが、ユウトにベルグラードという土地を強く意識させることになったのは確かだった。

第291話をお読みいただき、ありがとうございます!


今回は、予定日を過ぎても戻らない商隊の捜索へ向かったユウトたち。


無事に商隊を発見することはできましたが、そこには予定外の同行者たちがいました。


そして彼らが口にしたのは――ベルグラード。


つい先日知ったばかりのその名前が、思わぬ形でユウトたちの前に現れました。


彼らはなぜ、遠く離れた辺境ベルグラードからここまでやって来たのでしょうか。


次回、その事情が少しずつ明らかになります。


「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!


それでは、また次回お会いしましょう!

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