第二百八十九話 無事帰還
ルーンガルドを出発し、アルヴェインへの帰路についたユウトたち。
道中では何度か魔物に襲われながらも、商隊護衛は順調そのもの。
果たして最後まで無事に依頼を終えることができるのでしょうか。
それでは、第289話をお楽しみください!
「アニキ! 魔物だ!」
「どこ!?」
「右の森だ! こっちに向かってきてる!」
リトの声に、ユウトはすぐさま森へ視線を向けた。
グレイホーンベアを倒してから、しばらく経った頃だった。
商隊は再び順調に街道を進んでいたが、どうやら平穏な時間は長く続かなかったらしい。
木々の間から、二つの影がこちらへ近付いてくる。
「主! 二体いるっす!」
「了解! 一体任せた!」
「了解っす!」
シアが元気よく答え、馬車の前方へ移動した。
ユウトもすぐに魔物の進行方向を確認する。
「リト! 馬車から離れすぎるなよ!」
「分かってる!」
「シエル!」
「こっちは問題ないわ。商人たちは私が守るから、あなたたちは前方をお願い」
「おう!」
すでに四人の連携は取れていた。
リトが馬車の周囲を警戒し、シアが片方の魔物を引きつける。
ユウトはもう一体の前へ飛び出し、商隊へ近付かせないように進路を塞いだ。
森から現れた魔物たちは牙を剥き、獲物を見つけたと言わんばかりに襲い掛かってきた。
しかし、相手が悪かった。
「……よっと!」
ユウトは飛び掛かってきた魔物を軽く躱すと、すれ違いざまに拳を叩き込んだ。
――ドゴッ!
「ギャッ!?」
魔物は短い悲鳴を上げ、そのまま地面へ転がった。
一方のシアも、もう一体の攻撃を難なく避け、素早く反撃を仕掛けている。
リトはその間も馬車の周囲から離れず、他に魔物が潜んでいないか警戒を続けていた。
そして、数分後。
「……終わり!」
「こっちも終わったっす!」
ユウトとシアが揃って声を上げた。
街道脇には二体の魔物が倒れており、もはや動く気配はない。
「……よし。他にはいなさそうだな」
リトが剣を収める。
「そうね。周囲にも気配はないわ」
シエルも確認を終え、商人たちへ顔を向けた。
「もう大丈夫ですよ」
「…………」
バルガは倒れた魔物たちを見つめていた。
少し前までは、魔物が現れるたびに青ざめていたというのに、今は随分と落ち着いている。
「……皆さん、怪我はなさそうですね」
「おう!」
「余裕っす!」
「……では、出発しましょう」
「了解!」
ユウトは元気よく頷いた。
バルガが御者たちへ指示を出すと、三台の馬車が再び動き始める。
その様子を見ていたリトが、思わず笑った。
「……慣れたな」
「……え?」
バルガが振り返る。
「最初はあんなに心配してたのに、今じゃ普通に出発しようとしてるじゃねぇか」
「……ああ、そのことですか」
バルガは少し困ったように苦笑した。
「危険度Bのグレイホーンベアをあれだけ簡単に倒すところを見せられましたからね。今さら少々の魔物では驚かなくなってしまいました」
「……おお!」
ユウトが嬉しそうに声を上げた。
「俺たち、信頼されてるってこと?」
「もちろんです」
「やった!」
「主! ついに認められたっす!」
二人は顔を見合わせ、嬉しそうに笑った。
しかし、バルガは一つだけ付け加える。
「……ただし、馬車から離れすぎないでくださいね」
「分かってる!」
「本当に?」
「…………」
「……ユウトさん?」
「……分かってます!」
ユウトは慌てて答えた。
「主、強さは信用されてるけど、行動は信用されてないっす!」
「どっちなんだよ!」
「ガッハッハ! 妥当な評価じゃねぇか?」
リトが笑う。
「強さは信頼できる。でも、何をしでかすか分からねぇからな」
「リト!?」
「私もそう思うわ」
シエルまで静かに頷いた。
「シエルまで!?」
ユウトは思わず頭を抱える。
そんな四人のやり取りを眺めながら、バルガは楽しそうに笑っていた。
最初は、随分と賑やかな冒険者たちだと思っていた。
しかし、実際に魔物と遭遇してみれば、彼らは状況に応じて的確に役割を分担し、商隊を危険にさらすことなく戦っている。
普段の言動からは想像できないほど、護衛としての仕事は確かだった。
もっとも、ユウトが突然何かに興味を持って走り出そうとすることだけは、今後も注意が必要そうだったが。
◇
帰路の二日目。
商隊は国境へ続く街道を順調に進んでいた。
途中、森や岩場の近くを通るたびに魔物の姿を見かけることはあったものの、いずれも大きな問題にはならなかった。
「……バルガさん!」
先頭付近を歩いていたユウトが声を上げる。
「はい、何でしょう?」
「左の方から魔物が来る!」
バルガはすぐに周囲を確認した。
「……何体ですか?」
「三体!」
「分かりました。馬車を止めます!」
すでに対応は慣れたものだった。
バルガが御者へ指示を出し、三台の馬車がゆっくりと停止する。
ユウトたちも素早く配置についた。
「シア、前方!」
「了解っす!」
「リト、後ろ頼む!」
「任せろ!」
「シエルは――」
「商人たちは私が守るわ」
「おう!」
確認を終えたユウトは、迫ってくる魔物たちへ視線を向けた。
数は三体。
しかし、昨日遭遇したグレイホーンベアと比べれば、動きも威圧感も大したことはない。
「……よし、行くぞ!」
ユウトが飛び出す。
その後をシアが追い、リトも馬車の周囲を守りながら、近付いてきた一体に対応した。
短い戦闘が終わる頃には、商人たちも落ち着いた様子で待っていた。
「……終わったぞ!」
「こちらも問題ないっす!」
「お疲れ様です。それでは、出発しましょう」
「……バルガさん」
ユウトが少し不満そうに声を掛けた。
「何でしょう?」
「……なんか、扱いが雑になってない?」
「そんなことはありませんよ」
バルガは笑顔で答えた。
「皆さんを信頼しているんです」
「……おお!」
ユウトの表情が一気に明るくなる。
「主! 信頼されてるっす!」
「やったな!」
「ただし、あまり遠くまで魔物を追いかけないでくださいね」
「…………」
ユウトの動きが止まった。
「……ユウトさん?」
「分かってます!」
「主! やっぱり信用されてないっす!」
「どっちなんだよ!」
ユウトが叫ぶと、リトが呆れたように肩をすくめた。
「強さは信頼されてるんだろ」
「……強さは?」
「それ以外は知らねぇ」
「リト!?」
シエルが小さく笑った。
「でも、馬車を守ることについてはちゃんとできているわ。そこは自信を持っていいと思うわよ」
「……シエル!」
思いがけない言葉に、ユウトの顔が明るくなる。
「ただし、余計な寄り道をしなければ、だけど」
「……結局それ!?」
ユウトの叫び声が街道に響いた。
そんな騒がしい帰路だったが、商隊の進行は順調だった。
魔物と遭遇しても、ユウトたちが素早く対応する。商人たちも必要以上に慌てることなく、指示に従って馬車を止め、安全を確認してから出発する。
そうした流れが、いつの間にか当たり前のものになっていた。
そして、特に大きな問題も起こらないまま、帰路の二日目が終わった。
◇
帰路三日目。
「……見えたっす!」
シアが嬉しそうに声を上げた。
「……おお!」
ユウトも顔を上げる。
街道の先には、見覚えのある大きな街が広がっていた。
高い城壁。
行き交う商人たち。
そして、街の門へ続く賑やかな道。
「……アルヴェインだ!」
ユウトは思わず笑顔になった。
「ようやく戻ってきたわね」
シエルも小さく微笑む。
「なんか、久しぶりな感じするな!」
「実際は数日しか経ってねぇけどな」
リトが答えた。
「でも、色々あったからなぁ」
「主が色々やったからっす!」
「お前もだろ!」
ユウトが即座に言い返す。
しかし、そんなやり取りをしながらも、その表情は明るかった。
アルヴェインを出発してから、ルーンガルドまでの往路は三日間。
現地では鍛冶工房を巡り、街を観光し、鉱山の騒動にも巻き込まれた。
そして、帰路も三日間。
途中では危険度Bのグレイホーンベアをはじめ、何体もの魔物と遭遇した。
決して何事もなかった旅とは言えない。
それでも――。
「……ちゃんと帰ってこられたな!」
ユウトは後ろを振り返った。
三台の馬車。
積み込まれた商品。
そして、商隊の人々。
誰一人欠けることなく、荷物もすべて無事だった。
「だから、護衛なんだからそれが仕事でしょう?」
シエルが呆れたように答える。
「分かってるよ!」
「往路も復路も、全員無事っす!」
シアが胸を張った。
「荷物もな」
リトが付け加える。
「……完璧じゃん!」
ユウトが嬉しそうに笑う。
その時、後ろからバルガの声がした。
「途中で危険度Bの魔獣に襲われましたけどね」
「倒したから大丈夫!」
「……そういう問題なのかしら」
シエルが苦笑する。
しかし、バルガは楽しそうに笑っていた。
「……ですが、本当に助かりました」
「……ん?」
ユウトが振り返る。
「皆さんに護衛をお願いして正解でした。おかげで、無事にアルヴェインまで戻ってくることができましたから」
「……!」
ユウトの顔がぱっと明るくなった。
「……聞いた!?」
「聞いたっす!」
「俺たち、ちゃんと護衛できてた!」
「できてたっす!」
二人は嬉しそうに顔を見合わせた。
「……そこを心配してたのかよ」
リトが呆れたように呟く。
「だって最近、怒られてばっかりだったから!」
「それと護衛の仕事は関係ないでしょう?」
シエルが笑う。
「……今回は怒られるようなこと、何もしてないからな!」
ユウトが得意げに胸を張った。
「…………」
シアが少し考え込む。
「……何?」
「主、それは言わない方がいいと思うっす」
「なんで!?」
ユウトが不思議そうに聞き返す。
「……なんとなくっす!」
「理由になってない!」
そんなやり取りを続けながら、商隊はアルヴェインの門へ到着した。
通行の確認を済ませ、三台の馬車がゆっくりと街の中へ入っていく。
「……帰ってきたぁ!」
「ただいまっす!」
ユウトとシアが揃って声を上げた。
「……誰に言ってるんだ?」
リトが首を傾げる。
「街!」
「街は返事しねぇよ」
「気分だよ、気分!」
ユウトは楽しそうに笑った。
門を抜けた先には、見慣れ始めた街並みが広がっている。
様々な種族が行き交う大通り。
店先から聞こえてくる商人たちの声。
道沿いに並ぶ露店や、行き交う荷馬車。
少し離れていただけなのに、どこか懐かしさを感じる景色だった。
「……さて、皆さん」
バルガが声を掛ける。
「まずは商品の引き渡しを済ませます。もう少しだけお付き合いください」
「もちろん!」
「最後まで護衛するっす!」
ユウトたちは頷き、引き続き馬車の周囲を警戒しながら、商隊の目的地へ向かった。
◇
商隊が目的地へ到着すると、荷物の引き渡しが始まった。
ルーンガルドで仕入れた武具や工具、加工された金属製品などが、木箱ごと慎重に運び下ろされていく。
受け取り側の商人たちは、箱に付けられた印と数量を確認しながら、商品を一つずつ受け取っていた。
ユウトたちも最後まで周囲を警戒し、問題が起きないよう見守っていた。
そして、すべての荷物の確認が終わった頃。
「……これで完了です」
バルガが満足そうに頷いた。
「……終わった?」
ユウトが尋ねる。
「ええ。荷物もすべて引き渡せましたし、今回の商隊護衛はこれで終了です」
「……よっしゃ!」
ユウトが拳を突き上げた。
「依頼達成っす!」
シアも嬉しそうに声を上げる。
「……今回はちゃんとした依頼だからな」
リトがぼそりと呟いた。
「……リト、それどういう意味?」
「そのまんまだよ」
「俺たち、いつもちゃんとやってるだろ!」
「……どうだろうな」
「なんで!?」
そんな二人のやり取りを見ながら、バルガは楽しそうに笑った。
「皆さん、本当にありがとうございました」
そして、改めて四人へ頭を下げる。
「往復ともに商人や荷物への被害はありませんでしたし、危険な魔獣からも守っていただきました。私としては、これ以上ないほど満足しています」
「……おお!」
ユウトの目が輝いた。
「それと、ギルドへの報告も私からしっかりさせていただきます」
「……マジで!?」
「ええ。皆さんがどれほど頼りになる護衛だったか、きちんと伝えておきますよ」
「……主!」
「……シア!」
二人は顔を見合わせた。
「これは評価爆上がりっす!」
「ついに俺たちの時代が!」
「……大袈裟だろ」
リトが笑う。
「でも、悪い評価にはならないでしょうね」
シエルも頷いた。
「だろ!?」
ユウトは得意げに胸を張った。
ここ最近、冒険者ギルドでは何かと注意されることが多かった。
アルヴェインでも、ルーンガルドでも、受付嬢からお説教を受けている。
しかし、今回は違う。正式に受けた依頼を、最後まできちんと達成したのだ。
しかも、依頼主からは感謝の言葉までもらっている。
「……今回は完璧だった!」
「主! あーしたち、成長したっす!」
「したな!」
二人は嬉しそうに頷き合った。
「…………」
シエルとリトは顔を見合わせた。
「……何?」
ユウトが不思議そうに尋ねる。
「……別に」
リトが答える。
「なんだよ!」
「ほら、ギルドへ報告に行くわよ」
シエルが話を切り上げた。
「……お、おう!」
ユウトは頷き、仲間たちとともに歩き始めた。
こうして、ルーンガルドへの商隊護衛依頼は無事に完了した。
往路も復路も、商人たちに怪我はない。
荷物の損失もなし。
さらに、危険度Bの魔獣を含む、道中で遭遇した魔物たちも撃退している。
護衛依頼の成果として見れば、文句のつけようがない結果だった。
「……今回こそ褒められるな!」
「褒められるっす!」
二人は意気揚々と歩いていく。
「……そうだといいな」
リトが小さく呟いた。
「なんだよ、その言い方!」
「……いや、別に」
「絶対何か言いたそうじゃん!」
「……早く行くわよ」
シエルに促され、四人は冒険者ギルドへ向かった。
◇
――ギィィ……。
「ただいま!」
「ただいまっす!」
ユウトとシアが勢いよく扉を開けた。
アルヴェインの冒険者ギルド。
数日ぶりに戻ってきたその場所は、相変わらず多くの冒険者たちで賑わっていた。
依頼掲示板の前で話し合う者たち。
受付で報告をする者たち。
奥の席で談笑する者たち。
いつもと変わらない光景だった。
そんな中、受付カウンターの向こうに見覚えのある人物がいた。
「……おかえりなさい」
「……あっ! ミレアさん!」
ユウトが嬉しそうに声を上げる。
そこには、いつものように穏やかな笑顔を浮かべたミレアが立っていた。
「皆さん、無事に戻られたんですね」
「もちろん!」
「完璧な護衛だったっす!」
シアも胸を張る。
「……そうですか。それは何よりです」
ミレアは安心したように頷いた。
「バルガさんも褒めてくれたぞ!」
「商人さんも荷物も、全部無事っす!」
「それはよかったですね。お疲れ様でした」
「……おお!」
ユウトの顔が明るくなる。
久しぶりに、ギルドの受付で素直に褒められた気がした。
しかし、そこでシアが余計な一言を付け加える。
「危険度Bの魔獣も倒したっす!」
「……シア!」
ユウトが慌てて振り返った。
「……何すか!?」
「余計なこと言うなよ!」
「なんでっすか!? 今回は護衛中に襲われたんすよ!?」
「……あ、そっか」
ユウトは納得したように頷いた。
確かに、今回は勝手に魔物を探しに行ったわけではない。
正式な護衛依頼の最中に襲われたため、商隊を守るために戦ったのだ。
何も後ろめたいことはなかった。
「……そうそう! 今回はちゃんと仕事したんだよ!」
ユウトは得意げに胸を張った。
しかし――。
「……今回は、ですか?」
「…………」
ミレアが静かに聞き返した。
その声を聞いた瞬間、ユウトの笑顔が固まった。
「……え?」
受付の向こうでは、ミレアが変わらぬ笑顔を浮かべている。
しかし、なぜだろう。
さっきまでの笑顔と、少しだけ雰囲気が違う気がした。
「……ところで、ユウトさん」
「……はい?」
「ルーンガルドはいかがでしたか?」
「……え?」
思いがけない質問に、ユウトは一瞬戸惑った。
しかし、特に隠すような話でもない。
「……いいところだったぞ! すごく楽しかった!」
「食べ物も美味しかったっす!」
シアも嬉しそうに答える。
「そうですか。それはよかったですね」
ミレアは穏やかに頷いた。
「鍛冶屋もいっぱいあったぞ! すごい武器もたくさん見た!」
「へえ、さすが鍛冶で有名な国ですね」
「それに、鉱山にも行ったっす!」
「……シア!!」
ユウトの叫び声がギルド内に響いた。
「……え?」
シアが不思議そうに振り返る。
「……何すか?」
「お前、今なんて言った!?」
「鉱山にも行ったって……」
「言わなくていいだろ!!」
「なんでっすか!?」
シアは本当に分かっていない様子だった。
しかし、ユウトの表情はみるみる青ざめていく。
恐る恐る受付へ視線を戻すと――。
「…………」
ミレアは笑顔のままだった。
ただし、その笑顔が先ほどよりも僅かに深くなったような気がした。
「……あの」
ユウトが小さく声を掛ける。
「……はい?」
「……今の話、聞かなかったことにできたり……」
「できませんよ?」
「…………」
即答だった。
ミレアは受付の書類を整えると、改めて四人へ顔を向けた。
「それに、その件でしたら、すでに聞いています」
「…………」
ユウトの動きが止まった。
「……主」
シアが小声で囁く。
「……何?」
「……バレてるっす」
「……うん」
「とっくにバレてるだろ」
リトが呆れたように呟いた。
「……なんで!?」
ユウトが思わず叫ぶ。
すると、ミレアは少し不思議そうに首を傾げた。
「ギルド同士で情報を共有するのは当然でしょう?」
「…………」
「ルーンガルドの冒険者ギルドから、今回の鉱山での出来事について報告をいただいています」
「…………」
ユウトは言葉を失った。
そういえば、ルーンガルドの受付嬢にも報告書を求められていた。
しかも、今回の件についてはギルドとして必要な対応を判断するとまで言われている。
当然、所属しているギルドへ連絡が入っていてもおかしくない。
むしろ、入っていないと思う方が不自然だった。
「……主」
「……シア」
「……どうするっすか?」
「……どうしよう」
二人は小声で相談を始めた。
しかし、そんな様子もミレアにはすべて見えていた。
「……ユウトさん」
「……はい!」
「……シアさん」
「……はいっす!」
「お二人とも」
「…………」
「…………」
二人は揃って背筋を伸ばした。
ミレアはにっこりと微笑む。
「……おかえりなさい」
「……ただいま」
「……ただいまっす」
先ほどまでの元気は、すっかり消え失せていた。
そんな二人の後ろで、リトは笑いを堪えながら顔を背けている。
シエルも呆れたようにため息を吐いた。
アルヴェインへの帰還は無事に果たした。
商隊の護衛も、文句のない結果で完了している。
バルガからの評価も上々。
冒険者としての実績も、少しずつ積み重ねられているはずだった。
ただし――。
「……さて、ユウトさん」
ミレアが笑顔のまま口を開いた。
「護衛依頼の報告が終わりましたら、ルーンガルドでの件についても少しお話を伺いたいのですが」
「…………」
ユウトの顔から血の気が引いた。
「……主」
「……シア」
「……またっすね」
「……まただな」
二人は深く肩を落とした。
そんな二人を見たリトが、とうとう堪えきれずに笑い出す。
「ガッハッハ! アニキ、せっかく帰ってきたのにな!」
「笑うなよ!」
「だって、また同じことになってんじゃねぇか!」
「……リトさん?」
ミレアが静かに名前を呼んだ。
「……はい?」
「もちろん、皆さんにもお話を伺いますからね?」
「…………」
今度はリトの笑顔が固まった。
「……おい、アニキ」
「……何?」
「……俺もか?」
「当たり前だろ!」
「……くそっ!」
ユウトが嬉しそうに笑った。
しかし、その隣からシエルが小さく呟く。
「……あなたたち、本当に懲りないわね」
「シエルだって一緒だろ!」
「私は別に逃げるつもりなんてないもの」
「……ぐぬぬ!」
ユウトは反論できなかった。
そんな四人を前に、ミレアは穏やかな笑顔を崩さない。
こうして無事にアルヴェインへ帰還し、商隊護衛を完璧に達成したユウトたちだったが、ルーンガルドでの行動については、どうやらまだ終わっていなかったらしい。
第289話を読んでいただきありがとうございます!
道中で何度か魔物に襲われながらも、大きな問題になることなくアルヴェインへ無事帰還!
商人にも荷物にも被害を出さず、往復の商隊護衛を見事に完遂することができました。
バルガからの評価も上々。
冒険者としては文句なしの結果を残したユウトたちですが――ルーンガルドでの行動については、すでにミレアの耳にも入っているようです。
果たして帰還したユウトたちを待っているものとは。
次回もぜひお楽しみに!
「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!
それでは、また次回お会いしましょう!




