第二百八十六話 それとこれとは別です
討伐隊全員の救助に成功し、無事に鉱山から戻ってきたユウトたち。
結果だけを見れば文句なしの大活躍。
しかし彼らには、どうしても避けて通れない場所が残っていました。
それでは、第286話をお楽しみください!
「…………」
「…………」
「……二人とも、ちゃんと歩きなさい」
「歩いてるよ!」
「遅いわよ」
「怪我人に合わせてるんだよ!」
ユウトがもっともらしい理由を口にすると、シエルは呆れたようにため息を吐いた。
「さっきまで先頭を歩いていたでしょう?」
「…………」
ユウトは黙り込んだ。
鉱山を出た一行は、負傷した討伐隊の冒険者たちを連れ、ルーンガルドの街へ戻る途中だった。
夜の街道はすっかり暗くなっていたが、シエルが魔法の灯りを浮かべているため、足元を確認することには困らない。
自力で歩けない者はユウトたちや比較的軽傷の冒険者が協力して運び、他の者たちも互いに肩を貸し合いながら進んでいた。
幸い、討伐隊に死者はいなかった。
鉱山で遭遇したブラックアームドビーストとロックリザードも倒し、取り残されていた冒険者たちを全員救助することができた。
当初の目的である人命救助については、これ以上ないほどの結果だったと言えるだろう。
しかし、そんな成果とは裏腹に、ユウトの表情は暗かった。
「……主」
隣を歩いていたシアが、小さく声を掛けてくる。
「……なんだ?」
「あーし、急に足が痛くなってきたっす」
「……奇遇だな。俺もだ」
二人は顔を見合わせ、深刻そうに頷いた。
「……二人とも、置いていくぞ」
リトが呆れたように言い放つ。
「待って!」
「薄情っす!」
「さっきまで元気に魔物を倒してた奴らが、何言ってんだよ!」
リトの突っ込みに、討伐隊の冒険者たちから小さな笑い声が漏れた。
命の危険から解放されたことで、ようやく冗談を言える余裕も戻ってきたらしい。
しかし、ユウトとシアにとっては笑い事ではなかった。
街へ帰るということは、冒険者ギルドへ戻るということ。
そして、そこには自分たちが制止を振り切って鉱山へ向かったことを知っている受付嬢が待っているはずなのだ。
「……なあ、シエル」
「何?」
「俺たち、人助けしたんだよな?」
「そうね」
「しかも、全員助けたんだよな?」
「そうね」
シエルは淡々と答える。
その様子を見たユウトは、少しだけ希望を感じた。
「……じゃあ、怒られない可能性もあるんじゃない?」
「それは知らないわよ」
「即答!?」
「人を助けたことと、ギルドの指示を無視したことは別でしょう?」
「……ぐっ!」
ユウトが言葉を詰まらせる。
しかし、隣にいたシアが勢いよく顔を上げた。
「主! まだ分からないっす!」
「……シア!」
「助けた人たちが説明してくれれば、きっと大丈夫っす!」
「……そうだよな!」
二人は希望を取り戻したように頷き合った。
しかし、その後ろから冷静な声が飛んでくる。
「……どうだろうな」
リトだった。
「なんだよ!」
「そもそも、ギルドに止められたのに勝手に行ったんだろ?」
「でも助けた!」
「結果論だろ」
「ぐっ……!」
「正論っす……!」
ユウトとシアは揃って肩を落とした。
確かに、今回は全員を救助することができた。
しかし、結果が違っていた可能性もある。
もし自分たちまで危険な目に遭っていたら、ギルドはさらに多くの冒険者を救助に向かわせなければならなかっただろう。
「それに、怒られる理由は、あなたたちが無事だったから消えるものじゃないでしょう?」
シエルが静かに付け加えた。
「…………」
「…………」
「……急に黙るなよ」
リトが苦笑する。
そんな四人のやり取りを聞いていた討伐隊の男が、不思議そうに口を開いた。
「……お前ら、そんなに怒られるのが嫌なのか?」
「嫌だよ!」
「嫌っす!」
「……即答かよ」
男は思わず笑ってしまった。
鉱山ではあれほど頼もしかった冒険者たちが、今は叱られることを恐れて肩を落としている。
その落差が、どうにもおかしかったのだ。
「……まあ、安心しろ」
「……え?」
ユウトが顔を上げる。
「俺たちからもちゃんと説明する。お前らが来てくれなかったら、全員生きて帰れたかどうか分からねぇからな」
「……本当か!?」
「ああ。命を助けられたんだ。そのくらいは当然だろ」
「……主!」
「……シア!」
二人は顔を見合わせた。
「助かった!」
「これで安心っす!」
しかし、男は苦笑しながら続けた。
「……だからって、怒られないとは言ってねぇぞ」
「…………」
「…………」
「……お前ら、都合の悪いところだけ聞こえなくなるのか?」
男の呆れ声に、リトが盛大に笑い出した。
そんなやり取りを続けているうちに、街を囲む城壁が見えてきた。
夜間の通行を確認していた門番たちは、負傷者を連れた一行を見つけると、慌てて駆け寄ってきた。
事情を説明して門を通してもらうことになったのだが、その直前。
「……あっ」
ユウトが足を止めた。
「……着いたっす」
シアも立ち止まる。
「…………」
「…………」
「……おい、止まるなって」
リトが振り返った。
「……リト」
「なんだよ」
「俺、鉱山に忘れ物した気がする」
「してねぇよ」
「いや、確認してくる!」
「逃げるな!」
リトがすかさずユウトの肩を掴む。
「主! あーしも手伝うっす!」
「お前も行くな!」
「……冗談だって!」
「冗談っすよ!」
ユウトとシアは揃って笑ってみせた。
しかし、その顔は明らかに引きつっている。
「……目が本気だったわよ」
シエルは呆れたように呟くと、二人の背中を押した。
「ほら。門番の人たちも待っているんだから、早く入りなさい」
「……はーい」
「……了解っす」
こうして一行は、無事にルーンガルドの街へ戻った。
◇
「…………」
「…………」
冒険者ギルドの前。
ユウトとシアは、建物を見上げたまま固まっていた。
夜になってもギルドには灯りがついており、窓の向こうには職員たちの姿が見える。
先ほど連絡を受けた門番から、鉱山の討伐隊が戻ってきたことは伝わっているはずだった。
負傷者たちの治療の手配も必要なため、一行はそのままギルドへ向かってきたのだが――。
「……主」
「……シア」
「着いちゃったっす」
「着いちゃったな……」
二人の声には、どこか悲壮感が漂っていた。
「……入るわよ」
シエルが扉へ手を伸ばす。
「待って!」
「……何よ?」
「心の準備が!」
「あーしもっす!」
「そんなもの、鉱山から戻ってくる間に済ませとけよ」
リトが呆れたように言った。
「無理だったんだ!」
「無理っす!」
「……はぁ」
シエルは深いため息を吐いた。
このままではいつまで経っても中へ入れそうにない。
彼女が扉へ手を掛けると、ユウトが慌てて声を上げた。
「待って待って待って!」
「今度は何?」
「……俺が先に入るの?」
「言い出したのはあなたでしょう?」
「そうだけど!」
ユウトは隣にいるシアへ顔を向けた。
「……シア!」
「……主!」
二人は真剣な表情で見つめ合う。
「……骨は拾うっす!」
「一緒に来いよ!」
「嫌っす!」
「裏切った!?」
ユウトが叫ぶと、シエルは容赦なく扉を開けた。
――ギィィ……。
開かれた扉の向こうから、ギルド内の灯りが漏れる。
「…………」
ユウトは恐る恐る中を覗き込んだ。
そして、受付カウンターへ視線を向けた瞬間。
「……おかえりなさい」
「…………」
いた。
朝にも話をした受付嬢が、カウンターの向こうに立っていた。
しかも――笑顔だった。
「……主」
シアが小声で話し掛ける。
「……何?」
「笑ってるっす」
「……うん」
「怒ってないんじゃないっすか?」
「……いや」
ユウトは小さく首を振った。
「……これは怒ってるやつだ」
「なんで分かるっすか?」
「……経験」
「何の経験よ」
シエルが呆れたように呟く。
ユウトの脳裏には、アルヴェインで何度も見たミレアの笑顔が浮かんでいた。
最初は穏やかに微笑んでいるのに、話が進むにつれて逃げ道がなくなっていく、あの恐ろしい時間。
今、目の前にいる受付嬢からも、どこか似た雰囲気を感じる。
「……皆さん、どうぞ中へ」
受付嬢の笑顔が、僅かに深くなった。
「…………帰っていい?」
「帰ってきたんでしょう?」
「……そうだった」
「アニキ、諦めろ」
「……はい」
ユウトは観念したように肩を落とし、ギルドの中へ足を踏み入れた。
その後ろにシエル、シア、リトが続き、さらに負傷した討伐隊の冒険者たちも入ってくる。
彼らの姿を確認した職員たちは、すぐに行動を始めた。
「負傷者が戻りました! 治療の準備を!」
「自力で歩けない者が四人いる! 手を貸してくれ!」
「重傷者はこっちだ! 早く!」
ギルド内は一気に慌ただしくなった。
治療のために運ばれていく者。
仲間の無事を確かめて安堵する者。
そして、今回の出来事について職員へ説明する者。
討伐隊の冒険者たちが次々と対応を受ける中、ユウトたちは受付カウンターの前で立ち尽くしていた。
そんな四人へ、受付嬢がゆっくりと視線を向ける。
「……ユウトさん」
「はい!」
「シエルさん」
「はい」
「シアさん」
「はいっす!」
「リトさん」
「……はい」
「皆さん、こちらへお願いします」
「……四人とも!?」
ユウトが思わず声を上げた。
「当然でしょう? 皆さんで鉱山へ向かわれたんですよね?」
「……はい」
「主が全部やったっす!」
「シア!?」
「おいシア、売るの早すぎるだろ!」
リトが思わず突っ込む。
しかし、受付嬢は笑顔を崩さなかった。
「……全員、こちらへ」
「……はい」
四人は大人しくカウンターの前へ並んだ。
その姿は、まるで叱られるのを待つ子供たちのようだった。
受付嬢は一度深呼吸すると、静かに口を開いた。
「……まずは、討伐隊の救助、ありがとうございました」
「……!」
ユウトの顔がぱっと明るくなった。
「……ほら!」
「主! 褒められたっす!」
「俺たち、正しかった!」
二人が嬉しそうに顔を見合わせる。
しかし――。
「……ですが」
「…………」
「…………」
その一言で、二人の動きが止まった。
受付嬢は静かに続ける。
「私たちは皆さんに、ギルドで待機するようお願いしましたよね?」
「…………はい」
「状況を確認し、救援隊を編成するとお伝えしましたよね?」
「…………はい」
「それを無視して、Eランクの皆さんだけで鉱山へ向かった」
「…………」
「……間違っていますか?」
「…………合ってます」
ユウトの声が小さくなった。
受付嬢は頷くと、変わらぬ笑顔のまま尋ねた。
「……では、どうして行ったんですか?」
「…………」
「……ユウトさん?」
「……助けないとって、思ったから……」
「そのお気持ちは分かります」
「……じゃあ!」
「それとこれとは別です」
「…………」
ユウトは完全に言葉を失った。
逃げ道がない。
どこかで聞いたことのあるような、完璧なお説教の始まりだった。
「……主」
シアが小さく囁く。
「……何?」
「……強いっす」
「……うん」
「……聞こえていますよ」
「すみません!」
「すみませんっす!」
二人は揃って頭を下げた。
受付嬢は一度ため息を吐くと、改めて説明を始めた。
「いいですか? 冒険者ランクによる依頼制限には、きちんと理由があります」
「……はい」
「実力や経験が確認できていない冒険者を、必要以上に危険な場所へ向かわせないためです」
ユウトは大人しく頷いた。
「皆さんが実際にどれほどの力を持っていたとしても、ギルドにはそれを判断するための実績が十分にありません。だからこそ、ランクに応じた依頼を受けていただく必要があるんです」
「……はい」
「そして今回、皆さんは無事に戻ってこられました。討伐隊の方々も救助できた。それは本当によかったと思っています」
受付嬢はそこで一度言葉を止めた。
「……ですが、もし皆さんまで救助対象になっていたら、どうなっていたと思いますか?」
「…………」
ユウトは答えられなかった。
「ギルドは、皆さんを助けるためにも人員を割かなければなりません。結果として、もともと救助を待っていた方々への対応が遅れる可能性もあったんです」
「……はい」
「命を救おうとした気持ちを責めているわけではありません。でも、救助する側にも安全を確保する責任があることは、理解してください」
「……分かりました」
ユウトは素直に頭を下げた。
今回、自分たちが助けに向かったことを後悔しているわけではない。
あのまま待っていたら、間に合わなかった可能性だってある。
しかし、ギルドが危険を承知で止めていた理由も、今なら理解できた。
自分たちが無事だったからといって、誰もが同じように帰ってこられるわけではないのだ。
隣ではシアも、珍しく大人しく話を聞いていた。
「……なんかさ」
少し後ろにいたリトが、小声で呟く。
「……ミレアさんに怒られてる時と同じだな」
「……言うなよ」
ユウトが小さく返す。
「主、フィーナさんも入れたら三人目っす」
「だから言うなって!」
「……聞いてますか?」
受付嬢が再び声を掛けた。
「なんでもありません!」
「何でもないっす!」
二人は慌てて背筋を伸ばした。
しかし、受付嬢の表情が僅かに変わる。
「……あなたたち、他のギルドでも同じようなことを?」
「してません!」
「してないっす!」
即答だった。
「……私の目を見て答えてください」
「…………」
「…………」
二人は揃って視線を逸らした。
「……はぁ」
受付嬢は額に手を当てた。
「分かりました。その件については、今は聞かないことにします」
「……助かった」
「主、危なかったっす」
「……ですが!」
「はいっ!」
「はいっす!」
再び二人の背筋が伸びる。
「今回の件については、後ほど正式な報告書を提出していただきます。鉱山で何を確認し、どのような行動を取ったのか、詳しく説明してください」
「……報告書!?」
「当然です」
「怒られるだけじゃないの!?」
「それで終わると思っていたんですか?」
「…………」
ユウトは絶句した。
まさか、お説教の後に書類仕事まで待っているとは思っていなかった。
「……主」
「……シア」
「……帰りたいっす」
「……俺も」
「まだ終わってませんよ」
「はい!」
「はいっす!」
そんな二人の様子に、リトは笑いを堪えるのに必死だった。
シエルも呆れながら見守っている。
しかし、その時だった。
「……ちょっと待ってくれ」
討伐隊の冒険者の一人が、受付へ近付いてきた。
先ほどまで負傷者の搬送を手伝っていた男だった。
「……どうされましたか?」
受付嬢が振り返る。
「こいつらを責めるのは、そのくらいにしてやってくれねぇか?」
「…………」
受付嬢は黙って男の言葉を待った。
「確かに、勝手に鉱山へ来たのは褒められたことじゃねぇのかもしれない。だが、こいつらが来なかったら、俺たちは全員生きて戻れたかどうか分からねぇ」
男は真剣な表情で続けた。
「俺たちが歯が立たなかった魔物を倒して、怪我人を運び出してくれた。奥に取り残された仲間まで助けてくれたんだ」
その声に、周囲の冒険者たちも頷いた。
「……ああ、そのとおりだ」
「俺たちだけじゃ、どうにもならなかったからな」
ギルド内が少し静かになる。
「……特に、あの二人だ」
男はユウトとシエルへ視線を向けた。
「俺たちを襲っていた魔物を、あっという間に倒しちまったんだ」
「……!」
受付嬢が驚いたようにシエルへ顔を向ける。
「……あなたが?」
「私は一体だけよ」
シエルは落ち着いた様子で答えた。
「……一体だけって」
「奥で現れたもう一体は、ユウトが倒したわ」
「……そうなのですか?」
受付嬢がユウトを見る。
「うん! 危険度Dだった!」
ユウトは得意げに頷いた。
「……あと食った!」
「……アニキ!」
リトが慌てて声を上げる。
「それは言わなくていいだろ!」
「……食った?」
受付嬢が怪訝そうに眉を寄せた。
「……気にしないでください!」
「気にしないでほしいっす!」
ユウトとシアが慌てて声を揃える。
「…………」
受付嬢は何とも言えない表情で二人を見つめた。
しかし、今ここで追及しても話が余計に長くなるだけだと判断したのか、小さく息を吐いて話を戻した。
「……とにかく!」
討伐隊の男が声を上げる。
「こいつらは俺たちの命の恩人だ。それだけは、ここにいる全員が保証する!」
「……分かっています」
受付嬢は静かに頷いた。
「皆さんが討伐隊の方々を救助したことについては、ギルドとしても感謝しています」
「……ほら!」
ユウトの顔が再び明るくなる。
「……主! 今度こそ!」
シアも目を輝かせた。
しかし――。
「……ですが」
「……また!?」
ユウトが思わず叫ぶ。
「救助したという事実と、こちらの制止を無視して危険な場所へ向かったことは別です」
「……やっぱり!!」
「だから、最初からそう説明しているでしょう!」
受付嬢の声が少し大きくなった。
「……主!」
「……何!?」
「この人、強敵っす!」
「……俺もそう思う!」
「……聞こえています!!」
「すみません!!」
「すみませんっす!!」
二人が同時に頭を下げる。
その光景を見た冒険者たちから、とうとう笑い声が漏れ始めた。
最初は遠慮がちだった笑いも、やがてギルド内のあちこちへ広がっていく。
「……お前ら、さっきまであんなに強かったのにな」
討伐隊の男が苦笑する。
「……強さじゃどうにもならないこともあるんだよ」
ユウトが遠い目をして答えた。
「……またそれかよ」
リトが呆れたように呟く。
シエルも小さく笑みを浮かべた。
少なくとも、今ここにいる討伐隊の冒険者たちが笑っていられるのは、ユウトたちが救助に向かったからこそだ。
その事実だけは、誰にも否定できなかった。
しかし、正しい結果を出したからといって、すべての行動が正しかったことになるわけではない。
受付嬢が伝えたかったのは、そういうことなのだろう。
「……いいですか?」
受付嬢が改めて四人へ向き直った。
「今回の件については、きちんと報告していただきます。その内容を確認した上で、ギルドとして必要な対応を判断します」
「……はい」
「そして、今後は独断で危険な依頼へ介入しないようにしてください。分かりましたか?」
「……分かりました」
ユウトは小さく頷いた。
「……次からは?」
「ちゃんと指示を聞きます……」
「本当に?」
「…………」
ユウトは一瞬、言葉に詰まった。
もちろん、今回のような緊急事態になれば、また同じことをするかもしれない。
誰かが命の危険にさらされていると分かっていて、ただ待っているだけというのは、やはり自分の性格には合わなかった。
しかし、それを今ここで正直に言うほど、ユウトも無謀ではない。
「…………努力します」
「そこは『はい』でしょう!!」
「はいぃぃぃ!!」
受付嬢の声がギルド内に響き渡った。
その隣ではシアが必死に笑いを堪えていたが、受付嬢に視線を向けられると、慌てて背筋を伸ばした。
「……シアさんもですよ?」
「はいっす!!」
「リトさん、シエルさんも」
「……はい」
「分かっています」
四人の返事を聞き、受付嬢はようやく肩の力を抜いた。
「……では、まずは皆さんの怪我がないか確認させてください。それから報告書について説明します」
「……まだ続くの?」
「当然です」
「…………」
ユウトは力なく肩を落とした。
ルーンガルド滞在二日目。
ユウトたちは、鉱山に取り残されていた冒険者たちを救助し、全員を生きて街へ連れ戻した。
普通なら、胸を張って誇れる成果だっただろう。
しかし、ギルドの制止を振り切って危険な鉱山へ向かったことも、また事実だった。
結果として――。
「……なあ、シエル」
「何?」
「……俺たち、結構頑張ったよな?」
「そうね。よく頑張ったと思うわ」
「……じゃあ、なんでこんなに怒られてるんだろう」
「あなたが言うことを聞かなかったからでしょう?」
「…………」
「……主」
「……シア」
「……次は怒られないように頑張るっす」
「……そうだな」
二人は神妙な顔で頷き合った。
その様子を見たリトが、ぼそりと呟く。
「……絶対またやるだろ」
「……そうね」
シエルも静かに頷いた。
「聞こえてるぞ!!」
ユウトの抗議が響く。
しかし、その直後。
「……ユウトさん?」
「はいっ!!」
再び受付嬢の声が飛んできた。
ユウトは反射的に背筋を伸ばす。
その姿に、周囲の冒険者たちはまた笑い出した。
こうしてユウトたちは、ルーンガルドの冒険者ギルドでも、無事にお説教を受けることになったのだった。
第286話を読んでいただきありがとうございます!
討伐隊と共に街へ戻ったユウトたちを待っていたのは、笑顔の受付嬢でした。
多くの冒険者を救ったことには感謝されながらも、ギルドの指示を無視して鉱山へ向かったことは別問題。
討伐隊からの助け舟も虚しく、しっかりとお叱りを受けることになりました。
こうしてルーンガルドでも無事に受付嬢から怒られることとなったユウトたち。
そして翌朝には、アルヴェインへ戻る商隊護衛の出発が待っています。
果たして帰り道では、何事もなく依頼を終えることができるのでしょうか。
次回もぜひお楽しみに!
「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!
それでは、また次回お会いしましょう!




