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転生したら最強種だけどレベルが最弱でした。  作者: マッティー
第三章 魔族大陸

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第二百八十五話 帰りたくない

討伐隊を救出するため、鉱山の奥へと進むユウトたち。


魔物を退けながら残された冒険者を探していきますが――。


救助を終えた彼らには、もう一つ避けては通れない問題が残っていました。


それでは、第285話をお楽しみください!


後書き

「誰かいるかー!」


 ユウトの声が坑道に響き渡った。


 ブラックアームドビーストと戦っていた冒険者たちを救助した後、ユウトとシエルは取り残された者がいないか確認するため、さらに奥へ進んでいた。


 リトとシアは負傷者たちを連れて先に入口へ向かっている。今ここにいるのは、ユウトとシエルの二人だけだった。


「おーい! いたら返事してくれー!」


「……ユウト、少し静かにしなさい」


「でも、呼ばないと向こうも分からないだろ?」


「あなたの声で、返事が聞こえなくなってしまうでしょう?」


「……なるほど」


 ユウトは納得したように頷き、ようやく口を閉じた。


 シエルは小さくため息を吐くと、周囲へ視線を向ける。


 坑道は先ほどの広い採掘場から再び細くなり、場所によっては二人が並んで歩くのも難しいほどだった。


 壁には採掘によって削られた跡が残り、足元には砕けた岩が散乱している。


 シエルが浮かべた魔力の光が、暗い通路を照らしていた。


「……何か聞こえない?」


「……え?」


 ユウトも足を止め、耳を澄ませた。


 先ほどまで聞こえていた戦闘音は、もうない。


 代わりに聞こえてくるのは、どこかから滴り落ちる水の音と、僅かに吹き抜ける風の音だけだった。


 しかし、しばらく静かにしていると――。


「……おーい……!」


「……っ!」


 微かな声が、坑道の奥から響いた。


「今、聞こえた!」


「右の方ね」


 シエルが光を向けると、少し先に通路の分岐が見えた。


 二人は急いでそこまで進み、右側へ続く坑道を覗き込んだ。


「……こっちだな!」


 声のした方向を確かめ、ユウトが先へ進む。


 通路の奥では、岩の破片が散乱し、壁の一部が崩れていた。


 その陰に、何人かの人影が見える。


「……いた!」


 ユウトは思わず声を上げた。


 壁際には三人の冒険者が身を寄せ合うように座っていた。


 全員が傷を負っており、装備もひどく傷んでいる。しかし、幸いなことに三人とも意識はあるようだった。


「……誰だ?」


 一人の男が警戒するように顔を上げた。


「助けに来た!」


「……救援隊か……!」


 その声には、安堵の色が滲んでいた。


「まあ、そんな感じ!」


「……そんな感じ?」


「細かいことは気にしないで! それより、怪我は大丈夫?」


 ユウトが近付くと、男は困惑した表情を浮かべながらも、仲間たちの状態を説明し始めた。


 三人とも戦闘で負傷しているが、二人は何とか自力で歩けるらしい。


 しかし、残る一人は脚を痛めており、立ち上がることすら難しい状態だった。


「……こいつだけは無理だ。脚をやられてる」


「分かった!」


 ユウトはすぐに負傷した男の前へしゃがみ込んだ。


「ほら、乗って!」


「……え?」


「背負っていくから!」


「いや、でも……」


 男はユウトの身体を見て、少し戸惑ったように眉を寄せた。


「……お前、俺より随分小さいだろ?」


「それ関係ある!?」


「普通はあるわよ」


 隣からシエルが冷静に答える。


「シエルまで!?」


 ユウトは不満そうに振り返った。


 確かに、今のユウトは成人男性と比べれば小柄な体格をしている。


 しかし、見た目と実際の身体能力が一致しないことなど、仲間たちは嫌というほど知っているはずだった。


「……とにかく、大丈夫だから!」


 ユウトは男の腕を自分の肩へ回し、慎重に背負った。


「お、おい! 無理すんなよ!」


「よっと!」


 そのまま立ち上がる。


 男の身体が軽々と持ち上がった。


「…………」


「……ほら! 余裕!」


「……は?」


 男は呆然としていた。


 自分よりも一回り小柄な冒険者が、まるで荷物でも持ち上げるように立ち上がったのだ。


「……軽いな!」


「軽いって言うな!」


「元気じゃん!」


「脚が動かねぇだけだ!」


「なら大丈夫だな!」


「何が大丈夫なんだよ!」


 男が声を荒らげる。


 しかし、その表情には先ほどまでの緊張が少し和らいでいた。


 シエルはそんな二人を横目に、残る冒険者たちへ向き直った。


「あなたたちは歩ける?」


「ああ……時間はかかるが、何とか」


「分かったわ。無理はしないで。私たちが支えるから」


 シエルは二人の負傷具合を確認すると、慎重に立ち上がるよう促した。


 全員が無事に歩ける状態ではないが、支えがあれば入口まで戻れそうだった。


「……よし! じゃあ戻ろう!」


 ユウトが声を掛けた、その時だった。


「……待ってくれ!」


 冒険者の一人が、慌ててユウトを呼び止めた。


「……ん?」


「まだ一人いるんだ!」


 その言葉に、ユウトとシエルの表情が変わった。


「……どこ?」


「この先だ。俺たちが逃げてきた方向に、もう一人残ってる」


 男は暗い坑道の奥を指差した。


「魔物に襲われた時、あいつが俺たちを逃がすために残ってくれたんだ。でも、それから戻ってこなくて……」


「……そうか」


 ユウトは短く頷いた。


 まだ救助できていない冒険者がいる。


 しかも、仲間たちを逃がすために魔物の前へ残ったというのなら、危険な状況にある可能性が高かった。


「……シエル」


 ユウトは背負っていた男を、壁際の平らな場所へゆっくりと下ろした。


「ちょっ! どうした!?」


 驚く男へ、ユウトは笑顔を向ける。


「もう一人、探してくる!」


「……ユウト!」


 シエルが声を上げた。


 しかし、ユウトはすでに坑道の奥へ目を向けていた。


「この人たち、先に連れて戻ってて!」


「……あなたね」


 シエルは一瞬、何か言いかけた。


 できればユウトを一人で奥へ向かわせたくはない。


 しかし、目の前には怪我をした三人の冒険者がいる。


 彼らをこの場へ残していくわけにもいかなかった。


「……分かったわ。でも、絶対に無茶しないこと。危険を感じたら、すぐに引き返しなさい」


「分かってる!」


「それと、残っている人を見つけたら、戦闘より救助を優先すること」


「おう!」


 ユウトは元気よく頷いた。


 シエルは少し心配そうに彼を見つめたが、これ以上引き止めても聞かないことは分かっていた。


「……気をつけてね」


「すぐ戻る!」


 ユウトはそう言い残し、坑道の奥へ走り出した。


「……お、おい!」


 残された冒険者が、驚いたようにシエルへ顔を向ける。


「……あいつ、一人で大丈夫なのか!?」


「大丈夫よ」


 シエルは落ち着いた口調で答えた。


「でも、この先にはまだ魔物が……!」


「心配するだけ無駄だと思うわ。むしろ気の毒なのは魔物の方ね……」


「……え?」


「それより、私たちも戻りましょう。あなたたちの手当ても必要でしょう?」


 シエルは負傷した男へ肩を貸し、残る二人にも無理のない速度で歩くよう声を掛けた。


 冒険者たちは何とも言えない表情を浮かべていたが、今は彼女の言葉に従うしかなかった。


 こうして三人の冒険者はシエルに付き添われ、坑道の入口へ向かって歩き始めた。


 ◇


「……おーい!」


 ユウトは坑道の奥へ向かって声を掛けながら進んでいた。


 先ほどシエルに注意されたばかりだが、取り残された冒険者を見つけるためには、ある程度声を掛ける必要もある。


 もっとも、今度は返事が聞こえるよう、呼び掛けるたびに足を止めて耳を澄ませていた。


「……誰かいるかー!」


 しかし、返事はない。


 坑道はさらに狭くなり、壁や床には新しい傷跡が増えていた。


 何かが激しくぶつかったような痕跡もあり、所々で岩が崩れている。


「……ん?」


 ユウトは足を止めた。


 通路の端に、一本の剣が落ちていたのだ。


 剣身は途中から折れており、刃には何か硬いものとぶつかったような傷が残っていた。


 さらに、その近くの地面には赤黒い染みが見える。


「……血?」


 ユウトはしゃがみ込み、周囲を確認した。


 血痕は一か所だけではなかった。


 壁にも飛び散った跡があり、その先の地面にも点々と続いている。


「……こっちか」


 ユウトの表情から、いつもの軽い調子が消えた。


 誰かがこの場所で戦い、負傷したまま奥へ進んだのかもしれない。


 ならば、急ぐ必要がある。ユウトは血痕を辿りながら、慎重に坑道の奥へ進んだ。


 やがて通路が少し広がったところで、人影が目に入った。


「……くそっ……」


 岩壁にもたれるように、一人の男が座り込んでいた。装備はひどく傷付き、腹部には大きな傷がある。


 片手で傷口を押さえているものの、指の間から血が滲んでいた。


「……いた!」


 ユウトはすぐに駆け寄った。


「……誰だ?」


 男が弱々しく顔を上げる。


「助けに来た!」


「……救援……?」


「そう! もう他の人たちは見つけたから、あとはあんただけだ!」


 その言葉を聞いた男の表情が、僅かに緩んだ。


「……そうか。あいつら……無事だったんだな……」


「うん! みんな生きてる!」


「……よかった……」


 男は小さく息を吐いた。


 しかし、腹部の傷が痛むのか、すぐに顔を歪めてしまう。


「……動ける?」


「……無理だな。この傷じゃ、まともに歩けねぇ……」


「分かった。じゃあ俺が運ぶ!」


 ユウトは男の腹部を確認した。


 傷は深く、あまり無理に身体を動かすわけにはいかない。


 幸い、意識ははっきりしているようだったが、出血も続いている。


 ユウトはストレージから清潔な布を取り出すと、傷口に当てて応急処置を施した。


「……少し痛いかもしれないけど、我慢してくれよ」


「……すまねぇ……」


「謝ることないって!」


 ユウトが笑顔を向けた、その時だった。


「……待て」


「……何?」


 男が震える手を伸ばし、坑道の奥を指差した。


「……まだ、いる……」


「……え?」


「魔物だ……」


 男の表情が強張る。


 どうやら、この場所にも魔物が現れていたらしい。


「……別の魔物?」


「ああ……暗くてよく見えなかったが……まだ近くにいるはずだ……」


 その言葉を聞いたユウトは、ゆっくりと立ち上がった。


 そして、男を庇うように坑道の奥へ身体を向けた。


 その直後だった。


 ――ズズッ……。


 暗闇の向こうから、何かを引きずるような音が聞こえてきた。


「…………」


 ユウトは目を細めた。


 重いものが岩肌を擦るような、不気味な音だった。


 それが少しずつ、こちらへ近付いてくる。


「……どんな奴だった?」


「……分からねぇ。暗くて……」


「そっか」


 ユウトは男の前に立ち、奥の様子を窺った。


 魔力の光が届く範囲には、まだ何も見えない。


 しかし、音は確実に近付いていた。


「……逃げろ」


 背後から男の声が響く。


「……ん?」


「俺はいい……お前だけでも逃げろ……!」


 男は必死だった。


 自分を助けに来た冒険者まで危険に巻き込むわけにはいかない。


 そう思っているのだろう。


 しかし、ユウトは首を横に振った。


「……嫌だよ」


「……何?」


「助けに来たのに、置いて帰ったら意味ないだろ?」


「……だが!」


 男が何か言いかけた時、再び音が響いた。


 ――ズズッ……。


 先ほどよりも近い。


 ユウトは暗闇の奥を見つめながら、小さく笑った。


「……それに、多分大丈夫だから」


「……何を根拠に……」


 男が呟いた、その瞬間だった。


 暗闇の中に、二つの光が浮かび上がった。


「……来た!」


 ユウトが声を上げる。


 光の正体は、魔物の目だった。次の瞬間、巨大な蜥蜴のような魔物が暗闇から姿を現した。


 分厚い岩のような鱗に覆われた身体。大きく開いた口には鋭い牙が並び、太い尾を引きずりながらこちらへ近付いてくる。


「……逃げろ!!」


 男が叫んだ。


 しかし、ユウトは動かなかった。


(補佐機構、解析!)


『解析を開始します』


(今度は早くしてくれよ!)


 魔物はユウトたちを見つけると、低い唸り声を上げた。


「グルルルル……!」


 そして、四肢に力を込める。


 次の瞬間、巨体を跳ね上げるようにして飛び掛かってきた。


「……危ない!」


 男の悲鳴が響いた。


「大丈夫!」


 ユウトは落ち着いた様子で拳を握った。


 魔物の動きは速かったが、今のユウトなら十分に対応できる程度だった。


 その時、頭の中に補佐機構の声が響く。


『解析が完了しました』


(おっ! 今回は早い!)


『対象名称、ロックリザード』


『危険度D』


(……Dか。さっきの魔物の方が強かったのか…)


 ユウトは目の前に迫った魔物を見つめた。


 身体は大きいが、危険度はそれほど高くない。


 もちろん、普通の冒険者にとっては十分に危険な魔物だろう。


 しかし、今のユウトにとっては――。


「……よし!」


「グギャァァァ!」


 ロックリザードが大口を開け、鋭い牙を剥き出しにして飛び掛かってきた。


 ユウトはその動きを見極め、身体を僅かに横へずらす。


 そして、すれ違いざまに拳を突き出した。


「……えいっ!」


 ――ゴンッ!!


「ギャッ――!」


 鈍い衝撃音が響いた。


 ユウトの拳を受けたロックリザードは、その巨体を大きく揺らしながら横へ吹き飛ぶ。


 ――ドォン!


 魔物は岩壁へ叩きつけられ、そのまま床へ崩れ落ちた。


 砕けた石の破片が周囲へ散らばる。


「…………」


 男は呆然としていた。


 つい先ほどまで自分を襲っていた魔物が、目の前の小柄な冒険者によって、たった一撃で倒されてしまったのだ。


「……よし!」


 ユウトは満足そうに頷いた。


 そして、倒れた魔物へ視線を向ける。


(せっかくだし……暴食進化!)


 ユウトが能力を発動すると、ロックリザードの身体が黒い霧に包まれ始めた。


 霧は魔物の姿を覆い隠し、やがてその巨体ごと消えていく。


(……お?)


 ユウトは少し期待した。


 今までにも、魔物を捕食することで様々な能力を手に入れてきたのだ。


 今回も何か新しいスキルが得られるかもしれない。


 しかし――。


『新規スキルの獲得はありません』


(……残念!)


 ユウトは少し肩を落とした。


 もっとも、今回はそもそも救助が目的だ。


 魔物を倒して能力を得られなかったからといって、文句を言うような場面でもなかった。


「……さて!」


 ユウトは気を取り直し、男へ振り返った。


「もう大丈夫だぞ!」


「…………」


「……ん?」


 男は口を開けたまま、動かなかった。


「……おーい?」


「…………」


「大丈夫?」


「……なんなんだ、お前……」


 男がようやく声を絞り出した。


「Eランク冒険者!」


 ユウトは胸を張って答えた。


「……嘘つけ」


「なんで!?」


「Eランクが、あんな魔物を殴り飛ばして壁に叩きつけるか!」


「いや、俺ちゃんとEランクなんだけど!」


「知らねぇよ!」


「理不尽!」


 ユウトが思わず叫ぶ。


 しかし、男はまだ信じられない様子だった。


 強力な魔物を素手で倒したばかりか、その魔物が黒い霧となって消えてしまったのだ。


 何がどうなっているのか、理解できないのも無理はなかった。


「……まったく」


 ユウトは呆れたように息を吐いた。


 ただ、先ほどよりも男の声に力が戻っているのを見て、少しだけ安心した。


「……まあ、元気そうで何より!」


「誰のせいだと思ってるんだ!」


「俺が助けたんだろ!?」


「……ぐっ!」


 今度は男が言葉に詰まった。


 ユウトは楽しそうに笑うと、再び男の前へしゃがみ込んだ。


「……ほら、帰るぞ!」


「……お、おい!」


「傷が開かないように、ゆっくり動くからな」


 ユウトは男の身体を慎重に支えながら背負った。


 腹部の傷に負担を掛けないよう姿勢を整え、来た道へ向かって歩き始める。


「……待て! お前、俺を背負って……」


「大丈夫! 全然重くないから!」


「……お前、本当に何者なんだ……?」


「……Eランク冒険者!」


「もうそれは聞いた!」


 男の声が坑道に響いた。


 ユウトは笑いながら足を進める。


 しかし、胸の内では少しだけ安堵していた。


 これで、少なくとも今見つけた負傷者を連れて戻ることができる。


 あとは他に取り残された者がいないことを確認するだけだ。


「……よし、急ぐぞ!」


 ユウトは足元を確認しながら、坑道の入口へ向かって歩き始めた。


 ◇


「……主ー!」


「おーい! 戻ったぞ!」


 坑道の入口付近まで戻ると、聞き慣れた声が響いてきた。


 シアだった。


 どうやら、先に負傷者たちを運んでいたリトとシアは、無事に入口まで戻っていたらしい。


 周囲には討伐隊の冒険者たちも集まっており、比較的軽傷の者が重傷者の手当てを手伝っていた。


 そして、その中にはシエルの姿もあった。


「……ユウト!」


 シエルが駆け寄ってくる。


「大丈夫だった?」


「余裕! ほら、もう一人見つけた!」


 ユウトは背負っていた男を見せた。


「……っ! お前!」


 討伐隊の冒険者たちが驚いたように声を上げる。


 どうやら、男は仲間たちの中でも特に心配されていたらしい。


「……生きてたのか!」


「……ああ。こいつに助けられた……」


 男は弱々しく笑った。


 ユウトはシエルたちの手を借り、男を慎重に下ろした。


 すぐに周囲の冒険者たちが集まり、傷の状態を確認し始める。


「……シエル、どう?」


 ユウトが尋ねる。


「応急処置はできるけど、街でちゃんと治療してもらう必要があるわね」


「……そっか」


 ユウトは少し心配そうに男を見つめた。


 しかし、男は意識もはっきりしており、先ほどより顔色も落ち着いているようだった。


「……大丈夫だ。これくらいで死んでたまるかよ」


「……おお! その意気!」


 ユウトが嬉しそうに笑う。


 その様子を見て、周囲の冒険者たちも少しだけ表情を緩めた。


「……それで、他に残ってる人は?」


 ユウトが尋ねると、討伐隊の男が頷いた。


「今、人数を確認したところだ」


「……どうだった?」


「街へ助けを求めに行った一人も含めれば、全員の所在が確認できた。少なくとも、行方が分からなくなってる奴はいねぇ」


「……本当!?」


「ああ。全員生きてる」


 その言葉を聞いた瞬間、ユウトの表情が明るくなった。


「……よかった!」


 胸の奥にあった重苦しいものが、ようやく消えた気がした。


 怪我をした者は多い。


 それでも、全員の生存が確認できたのなら、救助に来た意味はあったはずだ。


「……無事とは言い難いけどな」


 リトが苦笑する。


「生きてれば、まだ何とかなるだろ!」


「……そうね。まずは全員を街へ戻しましょう」


 シエルも頷いた。


 まだ治療が必要な者もいる以上、いつまでも鉱山に留まっているわけにはいかなかった。


「……そういえば」


 討伐隊の男がユウトたちへ顔を向けた。


「奥にも魔物はいたのか?」


「いたぞ! でっかい蜥蜴みたいな奴!」


「……蜥蜴?」


「ロックリザードっていう魔物だった。危険度はDだったけど」


「……倒したのか?」


「倒した!」


 ユウトが胸を張る。


「……また倒したんすか!?」


 シアが驚いたように声を上げた。


「余裕だったぞ!」


「……アニキなら、その程度は問題ないだろうけどな」


 リトは苦笑した。


「ただ、今回はスキルが手に入らなかったんだよなぁ」


 ユウトが少し残念そうに呟く。


「……アニキ、また食ったのかよ」


「せっかくだからな!」


「……本当にぶれねぇな」


 リトは呆れたように肩をすくめた。


 そんな二人を見て、討伐隊の冒険者たちは何とも言えない表情を浮かべていた。


「……なあ」


 男の一人が口を開いた。


「……何?」


「お前ら、本当にEランクなんだよな?」


「そうだって!」


 ユウトが元気よく答える。


「なったばっかりっす!」


 シアも胸を張った。


「……つい最近、だろ?」


 リトが訂正する。


「そうだったっす!」


「…………」


 冒険者の男は頭を抱えた。


「……意味が分からねぇ」


「俺たちも時々分からねぇから、気にすんな」


 リトがさらりと答える。


「リト!?」


 ユウトが思わず振り返った。


 しかし、リトは笑っているだけだった。


 それを見て、シエルも小さく笑みを浮かべる。


 どうやら、今度こそ救助活動は一段落したらしい。


「……さて」


 シエルは入口の向こうへ視線を向けた。


 外はすでに暗くなり始めていた。


 これ以上時間が経てば、負傷者を連れて山道を移動するのも難しくなる。


「……街へ戻りましょう」


「おう!」


「帰るっす!」


 リトとシアが元気よく答える。


 討伐隊の冒険者たちも頷き、負傷者を支えながら移動の準備を始めた。


 しかし――。


「…………」


 ユウトだけは、その場で動かなかった。


「……主?」


 シアが振り返る。


「どうしたんすか?」


「……ユウト?」


 シエルも不思議そうに顔を向けた。


 ユウトはしばらく考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。


「……なあ」


「何よ?」


「……このまま鉱山で一泊しない?」


「嫌よ」


「即答!?」


 ユウトが驚いたように声を上げる。


「宿取ってるだろ」


 リトも呆れたように答えた。


「そうだけどさ!」


「それに、負傷者もいるのよ? 早く街へ戻らないと」


「……それはそうなんだけど」


 ユウトは口を尖らせた。


 もちろん、怪我人を放っておきたいわけではない。


 ただ、どうしても気になることがあったのだ。


「……じゃあ、みんなを街まで送ってから、俺たちだけ戻ってくるとか!」


「……何でそんなことする必要があるのよ」


「…………」


 ユウトは答えなかった。


「……アニキ?」


 リトが怪訝そうに顔を覗き込む。


「……帰りたくない」


「……なんでだよ」


「分かるだろ!?」


 ユウトは勢いよく振り返った。


「俺たち、ギルドの制止を振り切って来たんだぞ!?」


「……そうね」


 シエルが頷く。


「勝手に鉱山へ入ったんだぞ!?」


「そうね」


「……帰ったら絶対怒られるじゃん!」


「今さら気付いたのかよ!」


 リトの突っ込みが響いた。


「助けるのに必死だったんだよ!」


 ユウトが叫ぶ。


 確かに、鉱山に取り残された冒険者たちを助けるためには、仕方のない行動だったと思っている。


 実際に全員を救助できたのだから、結果としては間違っていなかったはずだ。


 しかし、それとギルドの許可を無視したことは別問題だろう。


 しかも、今回は受付嬢に正面から止められている。


 言い逃れの余地など、ほとんどなかった。


「……主!」


 突然、シアがユウトの肩へ手を置いた。


「……なんだ?」


 ユウトが振り返る。


 そこには、何とも真剣な表情をしたシアが立っていた。


「あーしも……帰りたくないっす!」


「……シア!」


 二人は顔を見合わせた。


 そして、互いの手を固く握り締める。


「……仲間!」


「主!」


「……何してんだ、お前ら」


 リトが呆れたように呟いた。


 しかし、ユウトたちは構わなかった。


 今の二人には、同じ恐怖を共有しているという強い連帯感があったのだ。


「……リト!」


「……何だよ」


「一緒に逃げよう!」


「嫌だよ!」


「即答!?」


「当たり前だろ!」


 リトが呆れたように肩をすくめる。


「……じゃあシエル!」


「嫌よ」


「まだ何も言ってない!」


「分かるわよ」


 シエルは小さくため息を吐いた。


「……薄情者!」


 ユウトが叫ぶ。


 しかし、シエルはまったく動じなかった。


「勝手に逃げたら、余計に怒られるでしょう?」


「…………」


 ユウトの動きが止まった。


 確かに、その通りだった。すでにギルドの制止を無視しているのだ。そこからさらに逃げ回ったとなれば、状況が悪化することは目に見えていた。


「……主」


 シアが小さく声を掛けた。


「……シア」


「……帰るしかないっす」


「……そうだな」


 二人は同時に肩を落とした。


 そんな様子を、討伐隊の冒険者たちは不思議そうに眺めていた。


「……お前ら、何をそんなに怖がってるんだ?」


 男の一人が尋ねる。


 ユウトは遠い目をしながら答えた。


「……ギルドの受付嬢」


「…………」


 男が固まった。


「魔物より怖いっす……」


 シアも真剣な表情で頷いた。


「……お前ら、さっきまであんなに強かっただろ」


 男は理解できない様子だった。


 討伐隊が手も足も出なかった魔物を倒し、怪我人を救助し、危険な坑道の奥まで一人で進んでいった冒険者たち。


 そんな彼らが、今は受付嬢に怒られることを恐れているのだ。


「……強さじゃどうにもならないこともあるんだよ」


 ユウトが静かに呟く。


「……深いっす!」


 シアが感心したように頷く。


「全然深くねぇよ!」


 リトの突っ込みが響いた。


 シエルはそんな三人を見ながら、呆れたように微笑んだ。


「……ほら、行くわよ。怪我人を早く運ばないと」


「……はーい」


「帰るっす……」


 ユウトとシアは、すっかり意気消沈した様子で歩き始めた。


 その後ろ姿を見て、討伐隊の冒険者たちが思わず笑い出す。先ほどまで死を覚悟していた彼らにも、ようやく笑顔が戻ってきたのだった。


 こうしてユウトたちは、鉱山に取り残された討伐隊の全員を発見し、生存を確認することができた。


 負傷者たちを街へ送り届ければ、今回の救助活動はひとまず完了となる。


 鉱山に残っている魔物の問題は、改めてギルドが対応する必要があるだろう。


 それでも、誰一人見捨てずに済んだことは、ユウトにとって何よりの成果だった。


 ただし、一つだけ問題が残っている。


「……なあ、シエル」


「何?」


「……怒られるかな?」


「怒られるでしょうね」


「……やっぱり?」


「当然よ」


「…………」


 ユウトは深いため息を吐いた。


 そして、街へ続く暗い山道を見つめる。


 魔物を倒し、討伐隊の救助にも成功した。


 それでも、ギルドの制止を振り切って鉱山へ向かった事実は消えない。


 無断で救助に向かったという一点を除けば、文句のない結果だったはずなのだが。


「……帰りたくねぇ」


「諦めなさい」


 シエルの容赦ない一言が、夜の山道に響いた。

第285話を読んでいただきありがとうございます!


鉱山の奥に取り残されていた冒険者たちを発見し、無事に全員を救出することができました。


途中で現れた魔物もユウトが難なく撃破。


これで討伐隊は全員生還し、ひとまず鉱山での救助は完了。


あとは街へ戻るだけなのですが――。


ギルドの制止を振り切って無断で鉱山へ向かったユウトたち。


果たして無事に帰還を報告することができるのでしょうか。


次回もぜひお楽しみに!


「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!


それでは、また次回お会いしましょう!

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