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転生したら最強種だけどレベルが最弱でした。  作者: マッティー
第三章 魔族大陸

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第二百八十四話 救援

ギルドの制止を振り切り、討伐隊を救うため鉱山へ向かったユウトたち。


朝には受けることすらできなかったCランク依頼の現場で、彼らを待っていたものとは――。


それでは、第284話をお楽しみください!

「鉱山って、こっちで合ってるんだよな!?」


 夕暮れの街道を走りながら、ユウトは前方に広がる山々を見上げた。


 ルーンガルドの冒険者ギルドを飛び出した四人は、討伐隊が取り残されているという北の鉱山を目指していた。


 ギルドで道順は確認したものの、初めて訪れる土地である。街を離れてからは似たような景色が続いており、ユウトにはどこを進んでいるのか、いまひとつ実感がなかった。


「北って言ってたっす!」


「いや、それは知ってる!」


「……アニキ、ちゃんと道順を聞いてただろ?」


 リトが呆れたように声を掛ける。


「聞いたけどさ! こういう道って、途中で分かれたりするじゃん!」


「それを確認するために地図を見たんでしょう?」


 シエルが冷静に指摘した。


「……そうでした!」


「もう忘れたの!?」


 ユウトが慌てて答えると、リトが頭を抱えた。


 もっとも、実際に道順を確認していたのは主にシエルとリトだったため、二人が先導している限り迷う心配は少なかった。


 ユウトは周囲を見渡しながら、補佐機構へ意識を向ける。


(補佐機構、今の進路で合ってるか?)


『確認中の地形情報と照合。現在の進路に問題はありません』


(よし!)


「大丈夫! 合ってるってさ!」


「……補佐機構が言ってるなら大丈夫だな」


 一瞬思考を巡らせたリトが答える。


「なんでわかったの!?」


「アニキでは信用できねぇ!」


「なんでだよ!」


 ユウトが抗議すると、シアが足元を指差した。


「でも主! 馬車の跡もあるっす!」


 街道には、何台もの荷車が行き来したと思われる轍が残っていた。鉱石の運搬に使われていた道なら、荷車が通った跡があっても不思議ではない。


 さらに進んだところで、リトが地面に残された足跡に気付いた。


「……こっちは人の足跡だな」


「討伐隊の?」


「そこまでは分からねぇけど、複数人が通ったみたいだ」


「じゃあ、ますます間違いなさそうだな!」


 ユウトが嬉しそうに頷く。


「足跡だけで決めつけるのは早いわよ。でも、道順は合っているはずだから、このまま進みましょう」


「おう!」


 シエルの言葉を聞き、四人は再び速度を上げた。


 山が近付くにつれて道は緩やかな上り坂となり、周囲には大きな岩が目立ち始める。


 街の喧騒はすでに遠く、聞こえてくるのは風の音と、自分たちが地面を蹴る足音ばかりだった。


 やがて、山の麓に大きな岩壁が見えてきた。


「あった!」


 ユウトが声を上げる。


 岩肌には大きな坑口が開いており、その周囲には採掘用の道具や荷車が置かれていた。


 さらに、入口近くには作業員が使うものと思われる小屋も建っている。


 しかし、人の姿は見当たらなかった。


「……あそこだな」


「誰もいないっすね」


 シアが周囲を見回す。


「採掘が止まってるって話だったからな」


 リトが答えた。


 坑口の脇には、危険を知らせる札が立てられていた。


 今は採掘作業が中断され、関係者以外の立ち入りが制限されているのだろう。


 ユウトは入口の奥へ視線を向けた。


 坑道の内部は薄暗く、ここからでは何も見えない。


 しかし、その奥には救助を待っている冒険者たちがいるかもしれなかった。


「……行こう!」


「ええ。ただし、周囲の状況を確認しながら進むわよ」


「分かってる!」


 ユウトは頷くと、仲間たちとともに坑道へ足を踏み入れた。


 ◇


「……暗いな」


 坑道の中へ入ると、外の光はすぐに届かなくなった。


 岩肌を削って造られた通路は、四人が並んで歩ける程度の広さがあった。


 壁や天井の一部は木材で補強されており、床には鉱石の運搬に使われていたと思われる溝や、作業用の道具が残されている。


 採掘が盛んに行われていた頃は、多くの作業員が行き来していたのだろう。


 しかし、今は人の気配が感じられなかった。


「シエル、灯り頼める?」


「ええ」


 シエルが手をかざすと、淡い光を放つ魔力の球が現れた。


 光球は四人の頭上へ浮かび上がり、坑道の壁や足元を柔らかく照らし始める。


「おお、助かる!」


「足元に気をつけなさい。石が崩れている場所もあるみたいだから」


「了解!」


 ユウトは足元を確認しながら、奥へと進んだ。


 魔力の光に照らされた坑道には、作業途中で放置された道具や、砕けた鉱石の破片が散らばっている。


 奥へ進むにつれて、壁には新しい傷跡も目立ち始めた。


 何か硬いものが擦れたような跡や、岩の表面が大きく欠けた部分もある。


「……結構荒れてるな」


 リトが壁を見ながら呟く。


「魔物が暴れたのかもしれないわね」


 シエルが慎重に答えた。


「……討伐隊!」


 ユウトが奥へ向かって声を上げる。


「誰かいたら返事してくれー!」


 声は坑道の壁に反響し、遠くまで響いていった。


「……主、そんな大声出したら魔物も来るんじゃないっすか?」


 シアが心配そうに尋ねる。


「来たら倒せばいいだろ!」


「……アニキ」


 リトが呆れたように振り返る。


「救助に来たのか、討伐に来たのか分からなくなってきたぞ」


「救助!」


 ユウトは即答した。


「今日はちゃんと人を助けに来たんだから!」


「……無断でな」


「それはもういいだろ!」


 リトの指摘に抗議しながらも、ユウトは声を落とした。


 確かに、敵の居場所が分からない状況で大声を出すのは危険かもしれない。


 救助を急ぎたい気持ちはあるが、鉱山そのものを崩してしまっては意味がないのだ。


「……補佐機構、周囲に反応はあるか?」


 ユウトは心の中で問い掛けた。


『周辺の魔力反応を解析中。坑道内部は岩盤の影響により、遠方の反応を正確に把握できません』


(……そう簡単には分からないか)


 ユウトは小さく息を吐いた。


 人間の目には見えないものでも補佐機構なら分かることは多い。


 しかし、万能というわけではない。


 特に初めて訪れる場所では、内部の構造を把握するまで時間がかかることもある。


 そんなことを考えながら進んでいた時だった。


「……待って」


 突然、シエルが足を止めた。


「どうした?」


 ユウトが振り返る。


 シエルは片手を上げ、仲間たちへ静かにするよう合図した。


「……何か聞こえるわ」


 その言葉に、四人は一斉に口を閉じた。


 耳を澄ませる。


 最初は何も聞こえなかったが、やがて坑道の奥から微かな物音が届いた。


 ――キィン!


 金属同士が激しくぶつかるような音。


 続いて、遠くから人の叫び声が聞こえてきた。


「……戦ってる!」


 リトが表情を引き締める。


「まだ誰かいるっす!」


 シアも声を上げた。


 音はさらに奥の方から聞こえてくる。


 しかし、反響しているため、正確な位置までは分からない。


「……こっちよ!」


 シエルが音の方向を見極め、先へ進み始めた。ユウトたちもその後を追い、坑道の奥へと急いだ。


 ◇


「くそっ! まだ来るぞ!」


「下がれ! それ以上近付くな!」


 坑道の奥。


 採掘のために広く掘り抜かれた空間では、数人の冒険者たちが必死に戦っていた。


 すでに全員が傷を負っており、中には壁際へ座り込んだまま動けなくなっている者もいる。


 まだ戦える者たちは剣や槍を構えていたが、その動きには明らかな疲労が見えた。


 彼らの前に立ちはだかっていたのは、巨大な魔物だった。


 黒い甲殻に全身を覆われた獣のような身体。


 胴体の左右からは四本の太い腕が伸び、それぞれの先には鋭い爪が備わっている。


 魔物が腕を振るうたびに岩壁が削られ、床には深い傷跡が刻まれていた。


「グルルルル……!」


 低い唸り声が採掘場に響く。


「……くそ!」


 剣を構えた男が、荒い息を吐いた。


 仲間たちはすでに限界に近い。


 何度か攻撃を仕掛けたものの、魔物の甲殻は硬く、思うように傷を付けられなかった。


 しかも、四本の腕から繰り出される攻撃は激しく、少しでも隙を見せれば壁へ叩きつけられてしまう。


「……まだ動ける奴はいるか!?」


「俺は……まだ……!」


 壁際にいた冒険者が立ち上がろうとする。


 しかし、足に力が入らず、その場へ膝をついてしまった。


「無理すんな! お前は下がってろ!」


「でも、このままじゃ……!」


 男が歯を食いしばる。


 魔物はそんな冒険者たちを見下ろすように唸ると、四本の腕を広げた。


 どうやら、次の攻撃を仕掛けるつもりらしい。


「……来るぞ!」


 冒険者たちが身構えた、その瞬間だった。


「……いたぁぁぁ!!」


「……っ!?」


 坑道の奥から、場違いなほど大きな声が響いた。


「……なんだ!?」


「誰だ!?」


 冒険者たちが一斉に振り返る。


 そこへ、四人の男女が勢いよく駆け込んできた。


「助けに来た!」


 先頭に立っていたユウトが、大きく手を振る。


「……冒険者か!?」


「ああ!」


「救援隊……!」


 傷だらけの冒険者たちの表情に、僅かな希望が浮かんだ。


 しかし、ユウトは迷いなく首を横に振った。


「いや、勝手に来た!」


「……は!?」


 男の表情が固まった。


「アニキ! 今それ言わなくていいだろ!」


 リトが慌てて突っ込む。


「嘘ついても仕方ないだろ!」


「主、正直者っす!」


「そこは褒めるところじゃないわよ」


 シエルが呆れたように呟いた。


 目の前の冒険者たちは、突然現れた四人のやり取りについていけず、呆然としている。


「……お、お前ら!」


 ようやく我に返った男が声を上げた。


「冒険者ランクは!?」


「E!」


「……帰れ!!」


「なんで!?」


 ユウトが驚いたように聞き返す。


「なんでじゃねぇ! そいつは依頼にあった魔物とは別の奴だ! 俺たちでも歯が立たなかったんだぞ!」


 男は必死だった。自分たちよりも低いランクの冒険者が救援に来たところで、犠牲者が増えるだけだと思ったのだろう。


 しかし、ユウトは男の言葉を聞きながら、目の前の魔物を観察していた。


 四本の腕。


 全身を覆う黒い甲殻。


 そして、傷だらけの冒険者たちを追い詰めるほどの戦闘能力。


(補佐機構、あいつを解析してくれ)


『解析を開始します』


(……頼む!)


「おい! 聞いてるのか!?」


 男が声を上げる。


「聞いてる! でも、先にあいつを何とかしないと!」


「だから危険だって言ってるだろ!」


 その時、魔物が低く唸った。


「グルルルル……!」


 四本の腕を床へ叩きつけると、巨体を勢いよく前へ押し出す。


 狙いは、新たに現れたユウトたちだった。


「……来るぞ!」


 冒険者の一人が叫ぶ。


 黒い魔物は地面を蹴り、四本の腕を振り上げながら一気に距離を詰めてきた。


「……シエル!」


「分かってるわ」


 ユウトの声に、シエルが静かに答えた。


 彼女は一歩前へ進むと、迫ってくる魔物へ片手を向けた。


「……おい! 何してる!?」


 冒険者の男が叫ぶ。


「逃げろ! そいつの攻撃は――」


 しかし、男が言い終わるよりも早く、シエルの足元に魔力の光が広がった。


 冷たい空気が一気に満ち、床に薄い氷が走る。


「……え?」


 男が驚いたように目を見開いた。


 次の瞬間、魔物の足元から鋭い氷の塊が突き出した。


 ――ガキンッ!


「グルァッ!?」


 魔物の巨体が大きく揺れた。


 氷は脚と腕の動きを封じるように伸び、さらに関節の隙間へ食い込んでいく。


 黒い甲殻に覆われた魔物は必死に暴れようとしたが、身体の自由が利かない。


「……なっ!?」


 冒険者たちが目を見開く。


 先ほどまで自分たちを圧倒していた魔物が、たった一瞬で動きを封じられたのだ。


 シエルはそんな魔物を冷静に見つめていた。


 そして、もう片方の手を静かに掲げる。


「……終わりよ」


 空中に浮かび上がったのは、鋭く尖った氷の槍だった。


 魔力が集中し、透明な槍の表面に淡い光が走る。


 次の瞬間。


 ――シュンッ!


 氷の槍が放たれた。


 狙いは、黒い甲殻の隙間。


 分厚い外殻で覆われた部分を避け、身体の構造上どうしても露出する僅かな部分へ、正確に魔法を叩き込んだ。


「グルァァッ!!」


 魔物が短く咆哮する。


 そして、全身から力が抜けた。


 ――ズズッ……!


 黒い巨体がゆっくりと傾く。


 次の瞬間、凄まじい音とともに床へ倒れ込んだ。


 ――ドォォン!!


「…………」


 採掘場に静寂が訪れた。


 それまで必死に戦っていた冒険者たちは、何が起きたのか理解できない様子だった。


 あれほど苦戦していた魔物が、目の前であっさりと倒されてしまったのだ。


「……え?」


 誰かが間の抜けた声を漏らした。


 シエルは魔法を解除すると、倒れた魔物へ視線を向けた。


「……もう動かないわ」


「…………」


「……相変わらずすげぇな」


 リトが感心したように呟いた。


「さすがシエルっす!」


 シアも嬉しそうに声を上げる。


「……俺、何もしてねぇ」


 ユウトが少し残念そうに呟いた。


「アニキは助けに来たんだろ?」


「……そうだった!」


「忘れないで」


 シエルが呆れたようにため息を吐いた。


 そんな四人のやり取りを見ていた冒険者たちは、ようやく我に返ったようだった。


「……ちょっと待て!」


 先ほどの男が震える手で倒れた魔物を指差した。


「……何?」


 シエルが振り返る。


「今……何した!?」


「魔法で倒したけど」


「それは見れば分かる!」


 男が思わず声を荒らげた。


「俺たちがどれだけ攻撃しても倒せなかった魔物だぞ!? それを一瞬で……!」


「相手の甲殻が硬いなら、隙間を狙えばいいだけよ」


「……だけって!」


 男は絶句した。


 確かに理屈としては理解できる。


 しかし、暴れ回る魔物の動きを正確に封じ、硬い甲殻の隙間を狙って魔法を命中させるなど、簡単にできることではない。


 まして、それを一瞬でやってのけたのだ。


「……お前ら、本当にEランクなのか!?」


「なったばっかりだぞ!」


 ユウトが得意げに胸を張った。


「そういう意味じゃねぇ!!」


 男の叫び声が採掘場に響いた。


「最近よく言われるっす!」


 シアが楽しそうに笑う。


「……まあ、無理もないけどな」


 リトも苦笑した。


 当のシエルは特に気にした様子もなく、倒れた魔物を確認している。


 ユウトはそんな彼女の隣へ近付くと、黒い甲殻に覆われた巨体を見下ろした。


「……ところで、こいつ何だったんだ?」


『解析が完了しました』


(……遅い!)


『対象名称、ブラックアームドビースト』


『危険度C+』


(……C+か)


 ユウトは少し意外そうに魔物を見つめた。


 Cランク以上の冒険者を中心とした討伐隊が苦戦していたことを考えれば、もっと高い危険度かと思っていたのだ。


 しかし、魔物の危険度だけで戦闘の結果が決まるわけではない。


 狭い坑道では自由に動けず、相手の特徴を知らないまま戦えば、不利になることもあるだろう。


 しかも、討伐隊は依頼にあった魔物を追っている途中で、不意に別の魔物と遭遇したという。


「……なるほどな」


 ユウトが小さく頷く。


「……おい、お前」


 近くにいた冒険者が不満そうに声を掛けてきた。


「何?」


「何を納得してるのか知らねぇが、こっちは何人もやられてるんだぞ!」


「……あ、ごめん!」


 ユウトは慌てて頭を下げた。


 今は魔物の正体を調べている場合ではなかった。目の前には、怪我をした冒険者たちがいる。


 しかも、まだ全員の無事を確認できたわけではないのだ。


「……そうだ! 怪我人は!?」


 ユウトが尋ねる。


「……重傷者が何人かいる。幸い、ここにいる連中に死者はいねぇが……」


「……よかった」


 ユウトは心から安堵した。


 しかし、男は続けた。


「別の場所に取り残された奴がいるかもしれねぇ。混乱して散り散りになった連中もいるからな」


「……そっか」


 ユウトの表情が引き締まる。


 ならば、まだ安心するわけにはいかない。


「……じゃあ、まずは怪我人を外へ運ぼう!」


「そうね」


 シエルも頷いた。


「歩けない人はいるっすか?」


 シアが周囲を見回す。


「……二人だ。足をやられて、まともに歩けねぇ」


「じゃあ、俺が一人運ぶ!」


 リトがすぐに負傷者のもとへ向かった。


「主! あーしも手伝うっす!」


「頼む!」


 シアも続いて動き出す。


 ユウトは残っていた冒険者たちへ声を掛け、負傷者の状態を確認していった。


 動ける者には互いに肩を貸してもらい、歩けない者はリトとシアが運ぶ。


 シエルも簡単な応急処置を手伝いながら、周囲の安全を確認していた。


 救助に来たとはいえ、まだ鉱山の中だ。


 魔物が再び現れる可能性もある以上、ここで気を抜くわけにはいかなかった。


「……アニキ」


 リトが負傷者を支えながら声を掛けてきた。


「何?」


「俺たちはこの人たちを外へ連れていく。アニキたちはどうする?」


 ユウトは一度、坑道の奥へ視線を向けた。


 先ほどの魔物は倒した。


 しかし、鉱山の中にいるのがあの一体だけとは限らない。


 それに、まだ見つかっていない冒険者がいる可能性もある。


「……俺は、他に残ってる人がいないか確認する」


「……分かった」


 リトは真剣な表情で頷いた。


「ただし、無茶はすんなよ?」


「分かってるって!」


「……本当に?」


「今はちゃんと救助優先だ!」


 ユウトが胸を張ると、リトは少しだけ安心したように笑った。


「……なら頼むぜ、アニキ」


「おう!」


 シアも負傷者を支えながら顔を上げた。


「主! あーしたちは先に外へ向かうっす!」


「頼んだ!」


 ユウトは二人へ頷くと、再び坑道の奥を見つめた。


「……行くか」


「私も行くわ」


 シエルが隣へ並ぶ。


「……でも、シエルは――」


「あなた一人で行かせると思う?」


「…………」


 ユウトは少し考えた。


 そして、素直に首を横に振った。


「……思わない」


「なら、決まりね」


 シエルは小さく微笑んだ。


 そんな二人を見て、討伐隊の男が慌てて声を上げた。


「……おい! 待て!」


「……ん?」


 ユウトが振り返る。


「まだ何かいるかもしれねぇぞ! 俺たちが追ってた魔物だって、どうなったのか分かってねぇ!」


「……そうなの?」


「ああ! 奥へ逃げ込んだはずだが、途中であの黒い奴が現れて、それどころじゃなくなったんだ!」


「……なるほど」


 ユウトは小さく頷いた。


 つまり、まだ依頼にあった魔物が残っている可能性もあるということだ。


 しかし、それならなおさら、他の冒険者が取り残されていないか確認する必要がある。


「……大丈夫!」


 ユウトが笑顔で答えた。


「何を根拠に!?」


 男が思わず声を上げる。


「シエルがいる!」


「……あなたまで他人任せにしないで」


 シエルが呆れたように呟いた。


「俺も戦うよ!」


「そういう意味じゃないわ」


 ユウトは楽しそうに笑った。


 男はそんな二人を見ながら、何とも言えない表情を浮かべている。


 先ほどの戦いを見れば、彼らが普通のEランク冒険者ではないことは理解できた。


 しかし、それでも危険な鉱山の奥へ向かうことには不安が残るのだろう。


「……とにかく、気をつけろよ」


 男が小さく息を吐いた。


「おう!」


「あなたたちも、気をつけて戻ってね」


 シエルがリトとシアへ声を掛ける。


「分かってる!」


「了解っす!」


 リトとシアは負傷者たちを支えながら、坑道の入口へ向かって歩き始めた。


 ユウトとシエルも、残された冒険者がいないか確認するため、さらに奥へ進もうとする。


「……そうだ!」


 そこでユウトが振り返った。


「何かあったら、すぐ戻ってこいよ!」


「それはこっちの台詞だ!」


 リトの突っ込みに、シアが楽しそうに笑う。


「主! 寄り道禁止っす!」


「分かってるって!」


「……本当に?」


 シエルが隣から尋ねた。


「シエルまで!?」


 ユウトが思わず声を上げる。


 リトとシアはそんな二人のやり取りを聞きながら、負傷者たちを連れて坑道の入口へと向かっていった。


 その背中を見送ったユウトは、改めて奥へ視線を向ける。


 暗闇の先には、まだ誰も確認していない坑道が続いている。


 討伐隊が追っていたという魔物。


 突然現れたブラックアームドビースト。


 そして、未だ所在が分からない冒険者たち。


 まだ確認すべきことは残っていた。


「……よし、行こう!」


「ええ。慎重に進むわよ」


 シエルの声に頷き、ユウトは魔力の光が照らす坑道を歩き始めた。


 救助に来たはずが、思っていた以上に厄介な状況へ足を踏み入れてしまったらしい。


 それでも、まだ誰かが助けを待っているかもしれない以上、ここで引き返すわけにはいかなかった。


 こうしてユウトとシエルは、坑道のさらに奥へと進んでいった。

第284話を読んでいただきありがとうございます!


鉱山へ辿り着いたユウトたちは、魔物に追い詰められていた討伐隊を発見。


討伐隊が苦戦していた魔物もシエルによって瞬く間に倒され、ひとまず最悪の事態は回避することができました。


しかし、まだ坑道の奥に取り残された者がいる可能性があります。


救助を続けるため、さらに奥へ進むユウトとシエル。


果たして全員を無事に連れ帰ることはできるのでしょうか。


次回もぜひお楽しみに!


「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!


それでは、また次回お会いしましょう!

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