第二百八十三話 無断出勤
鉱山から逃げてきたストーンライノ。
その様子から討伐隊の身を案じたユウトたちは、すぐにギルドへ報告します。
今度こそちゃんと指示に従おうとするユウトでしたが――。
それでは、第283話をお楽しみください!
「……討伐隊か」
ユウトは街の北に連なる山々を見つめた。
先ほど街へ突進してきたストーンライノは、普段なら北の鉱山周辺に棲息している魔物だという。
あれほどの巨体を持ちながら、何度も背後を気にするように振り返っていた姿が、どうにも頭から離れなかった。
何かに追われていたのか。それとも、単に興奮していただけなのか。
今のところ理由は分からないが、もし鉱山の異変と関係しているのなら、気になることがもう一つある。
鉱山へ派遣された討伐隊の存在だ。
「なあ、その討伐隊って、いつ鉱山へ向かったんだ?」
ユウトが尋ねると、兵士は少し考えてから答えた。
「最初の討伐隊が出たのは、昨日だったはずだ。今朝も追加の冒険者が向かったと聞いている」
「……じゃあ、もう鉱山には着いてるんだな?」
「ああ。予定どおりなら、今頃は中で活動しているはずだ」
兵士はそう答えたものの、その表情は険しいままだった。
「戻ってくる予定は?」
「そこまでは分からん。依頼の詳しい内容までは聞いていないからな。ただ……」
兵士は視線を落とし、地面に倒れているストーンライノを見た。
巨体を持つ魔物は、今も気を失ったまま動かない。
周囲では別の兵士たちが住民を下がらせ、魔物が再び暴れ出さないように警戒していた。
「もしこいつが何かに追われて鉱山の方から逃げてきたんだとしたら、向こうで異変が起きている可能性はある」
「……そうだよな」
ユウトは腕を組み、再び山々へ目を向けた。
今朝、冒険者ギルドでは、鉱山の魔物討伐依頼を受けようとして断られた。
理由は単純で、自分たちの冒険者ランクが足りなかったからだ。
その時は素直に諦め、勝手に鉱山へ向かわず、街での観光を楽しんでいた。
しかし、状況が変わっているのなら話は別だった。
「……ユウト」
シエルが静かに名前を呼んだ。
「何?」
「その顔、やめなさい」
「……どんな顔だよ」
「今から鉱山へ行こうとしてる顔よ」
「…………」
ユウトは思わず口を閉じた。
「図星っす!」
シアが楽しそうに声を上げる。
「まだ何も言ってないだろ!」
「じゃあ、行かないの?」
シエルが尋ねる。
「…………」
ユウトは答えず、もう一度北の山々を見つめた。
鉱山ではCランク以上の冒険者たちが活動しているはずだ。彼らが対応できているのなら、自分たちがわざわざ首を突っ込む必要はない。
だが、もしそうではなかったら。
「……確認するだけなら」
「何を?」
「討伐隊が無事かどうか」
「それを鉱山へ行くって言うのよ」
「……まあ、そうなんだけどさ」
ユウトは少し困ったように頭を掻いた。
シエルの言い分も理解できる。
勝手な行動をすれば、またギルドの信用を失いかねない。それに、現在の状況を把握していない自分たちが向かうことで、かえって邪魔になる可能性もあった。
しかし、どうしても気になってしまう。
「でもさ……」
ユウトの表情から、いつものふざけた様子が消えた。
「もし本当に何かあったなら、俺たちがこうして話してる間にも、手遅れになるかもしれないだろ?」
「それは……」
シエルも言葉を詰まらせた。
「朝は討伐依頼だったから諦めた。でも、今は討伐隊の人たちが危ないかもしれないんだ」
もちろん、まだ何か起きたと決まったわけではない。
それでも、危険を感じている以上、何もせずにいることには抵抗があった。
「だったら助けに行くっす!」
シアが勢いよく拳を握る。
「そういうこと!」
ユウトも頷いた。
「……ちょっと待て!」
リトが慌てて二人を止める。
「勝手に話を進めるなよ! せめてギルドに報告してからにしろ!」
「……あ」
ユウトの動きが止まった。
確かに、今はまだ状況を確認しただけだ。
まずはギルドへ報告し、討伐隊の状況について確認するべきだろう。
「リトの言うとおりね」
シエルも頷いた。
「えー……」
「えー、じゃないわよ」
「だって、時間かかるじゃん!」
「だからって勝手に行ったら、また怒られるぞ」
リトの言葉に、ユウトはぴたりと動きを止めた。
脳裏に浮かんだのは、アルヴェインの受付嬢ミレアの姿だった。
あの笑顔。
そして、怒り始めた時の恐ろしさ。
「…………」
「……主?」
シアが顔を覗き込む。
ユウトはしばらく考えた後、小さく息を吐いた。
「……分かった」
「お?」
「ギルドに行こう。まずは状況を確認してもらう」
「今日は本当に素直っす!」
シアが驚いたように目を丸くする。
「俺だって、やる時はやるんだよ!」
「それ、素直に言うことを聞く時に使う言葉じゃねぇだろ」
「細かいこと気にすんな!」
リトの突っ込みを聞き流しながら、ユウトは兵士へ顔を向けた。
「俺たち、ギルドに報告してくる!」
「ああ、頼む。こっちからも知らせを出しておく」
「了解!」
こうして四人は、倒れたストーンライノを兵士たちに任せ、急いで冒険者ギルドへ向かった。
◇
「……ストーンライノが街に?」
「そう!」
ルーンガルドの冒険者ギルド。
朝にも話をした受付嬢は、ユウトの報告を聞くと、驚いたように顔を上げた。
「北の鉱山の近くにいる魔物なんだろ? それが街まで走ってきたんだよ。しかも、何かに追われてるみたいだった」
「……何かに?」
「後ろを何度も振り返ってたんだ。何から逃げてたのかは分からないけど」
ユウトは、街の入口で起きた出来事を順番に説明した。
ストーンライノが突然現れたこと。
兵士たちの間を突破して門へ向かってきたこと。
そして、ユウトが突進を止め、気絶させたこと。
受付嬢は最後の部分で少し驚いた様子を見せたが、今はそれよりも鉱山の状況が気になるらしい。
「……分かりました。すぐに確認します」
「討伐隊はどうなってるの?」
「現在のところ、新しい連絡は入っていません」
「……じゃあ、やっぱり何かあったんじゃ」
「まだそうと決まったわけではありません」
受付嬢は落ち着いた口調で答えた。
「鉱山の内部では連絡が取りにくい場所もありますし、予定より活動が長引いている可能性もあります。ただ、今回の件は確認が必要ですね」
「だろ? だったら俺たちも――」
「ですが」
ユウトが言い終わるより早く、受付嬢が言葉を重ねた。
「皆さんは、こちらで待機してください」
「…………」
ユウトの動きが止まった。
「……え?」
「ギルドから状況確認のための人員を派遣します。現地の状況が分かるまでは、皆さんに動いていただくわけにはいきません」
「でも、それだと時間かかるだろ?」
「危険性が分からない以上、Eランクの皆さんを鉱山へ向かわせることはできません」
「……またEランク!」
ユウトが思わず声を上げた。
「仕方ないだろ」
リトが呆れたように答える。
「今日ほどEランクが嫌になった日はないぞ!」
「つい最近なったばっかりっす!」
「だから余計に!」
ユウトとしては、ランクの問題で何度も足止めされることに納得がいかなかった。
確かに、ギルドでの実績はまだ少ない。
しかし、戦闘能力だけで考えれば、Cランクの魔物でも十分に対処できる自信はある。
もっとも、それをギルドが簡単に認めてくれるとは限らなかった。
「討伐隊には、Cランク以上の冒険者が参加しています」
受付嬢が説明を続ける。
「仮にその方々が対応できないような問題が起きているのであれば、Eランクの皆さんを向かわせる方が危険だと判断せざるを得ません」
「俺たちなら大丈夫だって!」
「それを判断するのはギルドです」
「…………」
ユウトは言葉を詰まらせた。
「……正論ね」
隣でシエルが小さく呟く。
「ぐぬぬ……」
悔しいが、反論できなかった。
そもそも、今回の鉱山では何が起きているのかすら分からない。
いくら自分たちが強いとしても、情報がないまま飛び込むのは危険だろう。
「……確認に行く人たちは、いつ出発するの?」
ユウトが尋ねる。
「準備が整い次第です」
「どれくらい?」
「現在、人員の選定を進めています。もう少々お待ちください」
「……少々って?」
「ユウト」
シエルが静かに名前を呼んだ。
「……だって!」
「気持ちは分かるけど、ここはギルドに任せましょう」
シエルも心配していないわけではない。
しかし、現地の状況が分からない以上、今は正式な救援の準備を待つべきだと考えていた。
「…………」
ユウトはしばらく黙り込んだ後、渋々頷いた。
「……分かったよ」
「本当に?」
「待てって言うなら待つ!」
ユウトは不満そうに腕を組んだ。
「主が今日ずっと素直っす!」
「なんでそれで驚くんだよ!」
シアが楽しそうに笑う。
受付嬢も少し安心したように息を吐くと、四人へ待合席を案内した。
「それでは、状況が分かるまでこちらでお待ちください」
「……はーい」
ユウトたちはギルドの端にある椅子へ向かった。
◇
それから十分ほどが経過した。
ユウトは椅子に座ったまま、何度も受付の方を確認していた。
ギルド内では職員たちが慌ただしく動き回り、何人かの冒険者が奥の部屋へ呼ばれている。
どうやら、状況確認のための準備は進んでいるらしい。
「……まだ?」
「十分しか経ってないわよ」
シエルが呆れたように答えた。
「……そっか」
ユウトは再び椅子へ深く腰掛けた。
しかし、それからさらに十分が経過すると、落ち着かない様子で足を動かし始めた。
「……まだかな」
「座ってなさい」
「座ってるじゃん!」
「今にも立ち上がりそうだったわよ」
「……気のせいだって」
ユウトは口を尖らせた。
待つことが苦手なわけではない。
ただ、今回は何も分からないまま時間だけが過ぎていくことに、どうにも落ち着かなかった。
討伐隊が無事なら、それでいい。
しかし、もし本当に何か起きているのなら。
その間にも、誰かが助けを必要としているかもしれないのだ。
さらに十分が経過した頃には、ユウトはとうとう椅子の背もたれから身体を起こしていた。
「……なあ」
「駄目」
シエルが即座に答える。
「まだ何も言ってない!」
「顔で分かるわ」
「……でも、もう三十分だぞ?」
「まだ三十分よ」
「その三十分で何かあったらどうするんだよ」
ユウトの声には、先ほどまでのふざけた調子がなくなっていた。
シエルもその様子に気付き、受付の方へ目を向ける。
職員たちは今も準備を進めているようだったが、すぐに出発できる様子ではない。
「……ギルドも動いているわ。もう少し待ちましょう」
「…………」
ユウトは答えず、受付を見つめた。
もちろん、自分が勝手に飛び出したところで、必ず誰かを助けられるとは限らない。
それでも、ただ待っているだけという状況が、どうにももどかしかった。
「……アニキ」
隣にいたリトが声を掛けてきた。
「何?」
「嫌な予感しかしねぇから、先に言っとくぞ」
「……何を?」
「勝手に行くなよ」
「行かないって!」
「本当か?」
「俺を信用しろ!」
「…………」
「なんで黙るんだよ!」
リトは答えず、困ったように肩をすくめた。
「……主!」
そこでシアが勢いよく声を上げる。
「シアは信用してくれるよな!?」
「あーしは主を信じてるっす!」
「ほら!」
「絶対に行くって信じてるっす!」
「そっち!?」
ユウトが思わず立ち上がった。
「私もよ」
シエルまで静かに頷く。
「シエルまで!?」
「あなたが黙って待ち続けられるとは思えないもの」
「……アニキ」
リトも呆れたように口を開いた。
「お前もかよ!」
「……諦めろ」
「なんで俺だけ信用されてないんだよ!」
ユウトの叫び声が、ギルドの待合席に響いた。
しかし、その直後だった。
――バタンッ!
ギルドの入口が勢いよく開かれた。
「た、助けてくれ!」
切羽詰まった声に、ユウトたちは一斉に振り返った。
入口に立っていたのは、一人の男だった。冒険者らしい装備を身に着けているが、その鎧は所々が傷付き、衣服には土や血が付着している。額からも血を流しており、足元はひどくふらついていた。
男は何とかギルドの中へ入ったものの、そこで力尽きたように膝をついた。
「おい、大丈夫か!?」
近くにいた冒険者が慌てて駆け寄る。
職員たちもすぐに受付から飛び出し、男の身体を支えた。
「どうしました!? 何があったんですか!?」
「……鉱山……!」
男は肩で荒い息を繰り返していた。
その言葉に、受付嬢の表情が変わる。
「鉱山から戻られたんですか!?」
男は何とか頷いた。
そして、絞り出すような声で告げた。
「討伐隊が……やられた……!」
「……っ!」
その瞬間、ギルド内の空気が一変した。
職員たちが慌ただしく動き始め、周囲の冒険者たちも一斉に男へ視線を向ける。
ユウトたちも椅子から立ち上がった。
「……何があったんですか!?」
受付嬢が男へ尋ねる。
別の職員が傷口へ布を当て、応急処置を始めていた。
男は苦しそうに息を整えながら、途切れ途切れに話し始めた。
「……依頼にあった魔物を……追ってたんだ……」
「はい」
「坑道の奥まで……進んで……それで……」
男の表情が歪んだ。
何かを思い出したのか、顔から血の気が引いていく。
「……別の奴が、いたんだ……!」
「……別の?」
ユウトが思わず声を漏らす。
受付嬢も驚いたように聞き返した。
「依頼に記載されていた魔物とは、別の魔物がいたんですか?」
「……ああ」
男は小さく頷いた。
「俺たちが追ってた奴とは……全然違う……!」
「どんな魔物ですか!?」
「……分からねぇ……!」
男は震える手で顔を覆おうとしたが、途中で力なく腕を落とした。
その姿から、相当な恐怖を味わったことが伝わってくる。
「……とにかく、強かった……!」
男は荒い息の合間に、何とか言葉を繋いだ。
「俺たちじゃ……歯が立たなかった……!」
「……他の皆さんは!?」
受付嬢の声が僅かに震える。
「……まだ中だ!」
男は顔を上げた。
「俺だけ……何とか逃げてきた……! あいつらがどうなったのか……分からねぇ……!」
「…………」
ギルド内が静まり返った。
Cランク以上の冒険者を中心に編成された討伐隊。
その彼らが対応できないほどの魔物が、鉱山の奥に現れたという。
しかも、仲間たちはまだ現場に取り残されている。
男の話が事実なら、事態は朝の時点でギルドが把握していたものより、遥かに深刻だった。
「……すぐに治療を!」
受付嬢が職員へ指示を出した。
男が奥へ運ばれていくのを見送りながら、ユウトはゆっくりと拳を握った。
「…………」
先ほどまで感じていた嫌な予感が、現実のものとなっていた。
「……ユウト」
シエルが静かに名前を呼んだ。
「……シエル」
「何?」
ユウトは真剣な表情で振り返った。
「……今度は、いいよな?」
「…………」
シエルはすぐには答えなかった。
討伐隊が危険な状況にあることは、もう疑いようがない。
しかし、救助に向かうとしても、相手がどのような魔物なのか分からない以上、慎重に行動する必要がある。
そんなことを考えていた時だった。
「すぐに救援隊を編成します!」
受付嬢が職員たちへ声を上げた。
ギルド内が一気に慌ただしくなる。
冒険者たちへ声が掛けられ、奥の部屋からも何人もの職員が出てきた。
どうやら、先ほどまでの状況確認ではなく、本格的な救援の準備が始まったらしい。
「……なあ!」
ユウトが受付へ歩み寄る。
「出発まで、どれくらいかかる?」
「……え?」
「救援隊だよ。いつ出発できる?」
受付嬢は少し困ったように眉を寄せた。
「現在、街にいる高ランクの冒険者を集めています。先ほどの報告によって危険度の見直しも必要ですので、少なくとも……」
「……待てない」
ユウトの声が、受付嬢の言葉を遮った。
「……ユウトさん?」
「今も鉱山の中に人がいるんだろ?」
「それは……」
「助けを待ってるかもしれない。怪我して動けなくなってるかもしれない。それなのに、何時間も待ってたら……」
ユウトは一度言葉を止めた。
先ほど運ばれていった男の姿が頭に浮かぶ。
傷だらけの装備。
血に染まった顔。
そして、仲間たちを残して逃げてきたという言葉。
あの男が無事に戻ってこられたことは幸運だったのかもしれない。
しかし、鉱山に残された者たちも、同じように帰ってこられるとは限らなかった。
「……俺は行く」
ユウトは静かに告げた。
「ちょっと待ってください!」
受付嬢が慌てて声を上げる。
「皆さんはEランクです! 救援が必要なのは分かっていますが、今の状況では許可できません!」
「……分かってる!」
「では、こちらで待機を――」
「だから!」
ユウトは受付嬢へ向き直った。
「依頼じゃなくて、勝手に助けに行く!」
「……ええっ!?」
受付嬢が思わず声を上げた。
「主! 無断出勤っす!」
「出勤じゃねぇよ!」
ユウトが即座に突っ込む。
「……アニキ! 今はそんなこと言ってる場合じゃねぇだろ!」
リトも慌てて声を上げた。
「お前が言うなよ!」
「……まったく」
シエルは小さくため息を吐いた。
ギルドの指示を無視して向かえば、また問題になるかもしれない。
それに、今のユウトは感情が先走っているようにも見える。
しかし、取り残された冒険者たちを助けたいという気持ちそのものは、間違っていなかった。
シエルは少し考えた後、ユウトの隣へ歩み寄った。
「……行くわよ」
「……シエル!?」
ユウトが驚いたように振り返る。
「ここまで来て、あなた一人で行かせられるわけないでしょう?」
「……シエル!」
「勘違いしないで。危険な場所へ向かう以上、私たちも慎重に動く必要があるわ。それに、帰ってきたら怒られるのは全員一緒でしょうね」
「……そこ!?」
ユウトが思わず声を上げた。
しかし、シエルの表情は真剣だった。ただユウトについていくのではない。自分たちにもできることがあるのなら、助けに向かう。
そう決めたのだ。
「……アニキ、急ぐぞ!」
リトも剣の位置を確かめながら頷いた。
「主! あーしも行くっす!」
シアも迷いなくユウトの隣へ並んだ。
ユウトは三人を見回し、小さく笑った。
「……ありがとな!」
「礼は後だ。それより、鉱山までの道は分かってるのか?」
「……あ」
「そこからかよ!」
リトが思わず頭を抱える。
すると、シエルがギルドの受付に置かれた周辺地図へ視線を向けた。
「まずは場所を確認しましょう。慌てて道に迷ったら、それこそ意味がないわ」
「……そうだな!」
ユウトは素直に頷いた。
シエルとリトが受付嬢から鉱山までの道順を聞き出し、ユウトも補佐機構へ周辺の地形を確認するよう指示した。
今は一刻を争う状況だが、何も考えずに飛び出していいわけではない。
救助へ向かう以上、自分たちが迷ったり、余計な危険を招いたりすることだけは避けなければならなかった。
「……とにかく!」
受付嬢が四人を見つめ、必死に声を掛ける。
「皆さん、勝手に鉱山へ向かうのは認められません! せめて救援隊の編成が終わるまで――」
「ごめん!」
ユウトは頭を下げた。
「戻ってきたら、ちゃんと説明する!」
「そういう問題ではありません!」
「……分かってる。でも、今は助けに行きたいんだ」
その言葉を最後に、ユウトは仲間たちへ顔を向けた。
「……行こう!」
「ええ!」
「おう!」
「了解っす!」
四人はギルドの入口へ向かって駆け出した。
「待ってください!」
受付嬢の声が背後から響く。
しかし、ユウトたちは足を止めなかった。
◇
ギルドを飛び出した四人は、そのまま街の北へ向かって走り始めた。
夕暮れに染まり始めた通りには、まだ多くの人々が行き交っている。
ユウトたちは通行人を避けながら、鉱山へ続く道を目指した。
「……主!」
走りながら、シアが声を掛けてきた。
「なんだ!?」
「結局、今日も勝手に行くことになったっす!」
「仕方ないだろ!」
「朝の成長は何だったんすか!?」
「緊急事態だからノーカン!」
ユウトは振り返りもせずに答えた。
「……絶対怒られるぞ!」
リトが苦笑しながら叫ぶ。
「助けてから怒られる!」
「開き直ったわね!」
シエルも思わず声を上げた。
しかし、その表情には僅かな笑みが浮かんでいた。
ユウトは相変わらず無茶をする。気になることがあれば首を突っ込み、時には周囲を振り回してしまう。
それでも、誰かが危険な目に遭っていると知りながら、見て見ぬふりをすることはできないのだ。
そして、そんなユウトに付き合ってしまう自分たちも、きっと似たようなものなのだろう。
「……よし!」
ユウトは前方を見据えた。
「急ぐぞ!」
目指すのは、街の北にある鉱山。
朝には、冒険者ランクが足りないという理由で依頼を受けることすら許されなかった場所だ。
その奥には今、討伐隊の冒険者たちが取り残されている。
彼らが無事なのか。鉱山で何が起きているのか。
そして、討伐隊を退けたという未知の魔物が何者なのか。
何一つ分からないままだったが、確かめるためには現場へ向かうしかなかった。
こうして四人のEランク冒険者は、正式な許可を得ることなく、救助を求める者たちのもとへと走り出したのだった。
第283話を読んでいただきありがとうございます!
鉱山から戻ってきた冒険者によって、討伐隊が危険な状況にあることが判明しました。
救援隊の編成を待っていては手遅れになるかもしれない。
そう判断したユウトたちは、ついにギルドの制止を振り切って鉱山へ向かいます。
朝には受けることすらできなかったCランク依頼の現場へ向かう、四人のEランク冒険者。
果たして鉱山では何が待っているのでしょうか。
次回もぜひお楽しみに!
「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!
それでは、また次回お会いしましょう!




