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転生したら最強種だけどレベルが最弱でした。  作者: マッティー
第三章 魔族大陸

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第二百八十二話 今回は俺じゃない

鉱山の依頼を受けられず、珍しく素直に諦めたユウト。


そのまま平和にルーンガルド観光を楽しんでいた一行でしたが――。


どうやらトラブルの方は、放っておいてくれないようです。


それでは、第282話をお楽しみください!

「……うまっ!」


 ユウトは手に持っていた串焼きにかぶりつくと、思わず声を上げた。


 香ばしく焼き上げられた肉には濃厚な味付けがされており、噛むたびに肉汁が口いっぱいに広がっていく。


「主! これ、めちゃくちゃ美味しいっす!」


 隣ではシアも満面の笑みを浮かべていた。


 二人は先ほどから露店を見つけるたびに足を止め、気になった食べ物を買っては味見を繰り返している。


「……お前ら、食べ過ぎるなよ」


 リトが呆れたように声を掛けた。


「まだ一個目だぞ?」


 ユウトが不思議そうに振り返る。


「……じゃあ、その手に持ってるのは何だよ」


「二個目」


「食べ過ぎよ」


 シエルがため息を吐いた。


「まだ二個だよ!?」


「問題はそこじゃないでしょう」


 ユウトは納得できない様子だったが、シエルとリトはそれ以上取り合わなかった。


 時刻は夕方。


 ルーンガルドの街には、仕事を終えた職人たちや買い物客が行き交い、昼間とはまた違った賑わいが広がっていた。


 朝から街を見て回っていたユウトたちは、すっかり観光を満喫している。


 鉱山の魔物討伐依頼を断られた後も、約束どおり勝手に鉱山へ向かうことはなかった。


 武器屋を覗き、露店を巡り、見慣れない品物に驚きながら、思い思いに街歩きを楽しんでいたのだ。


 鍛冶工房から響く槌の音も、夕暮れとともに少しずつ減ってきている。


 代わりに食堂や酒場から賑やかな声が聞こえ始め、通りには焼きたての料理の香りが漂っていた。


「……平和だなぁ」


 ユウトは串焼きの最後の一口を頬張りながら、満足そうに呟いた。


「主が大人しくしてるからっすね!」


 シアが嬉しそうに答える。


「……普段から大人しいだろ?」


「…………」


 その言葉を聞いたシエルとリトが、揃って視線を逸らした。


「……なんで二人とも黙るんだよ!」


「いや、何でもねぇよ」


「そうね。何も言ってないわ」


「絶対何か思ってるだろ!」


 ユウトが抗議すると、リトは笑いを堪えきれずに肩を震わせた。


 シエルも呆れたように微笑んでいる。


「でも、今日は本当に余計なことをしていないわね」


「だろ!?」


 ユウトは得意げに胸を張った。


「朝に鉱山の討伐依頼を受けようとしたくらいね」


「受けようとしただけだろ! しかも、ちゃんと諦めた!」


「主! 偉いっす!」


 シアが元気よく褒めてくれる。


「だから、それが普通なんだって!」


 リトが即座に突っ込んだ。


 確かに、ギルドで断られた依頼を諦めるのは、冒険者として当然のことなのかもしれない。


 しかし、アルヴェインで散々怒られたユウトにとっては、それなりに大きな進歩だった。


 少なくとも、今回は自分の好奇心よりもギルドの判断を優先している。


 この調子なら、ミレアに報告しても怒られることはないだろう。


「……さて、次は何食べようかな」


「主! あっちの店も美味しそうっす!」


「だから食べることばっかり考えるなって!」


 リトが苦笑した、その時だった。


「……ん?」


 ユウトはふと顔を上げた。


 通りの向こうから、何やら騒がしい声が聞こえてきたのだ。


 最初は誰かが言い争っているのかと思ったが、どうも様子が違う。


 街の入口がある方角へ目を向けると、何人もの住民が同じ方向を見つめていた。


「……なんだ?」


 ユウトが首を傾げる。


 すると、通りの向こうから一人の男が駆け込んできた。


「魔物だ!!」


「…………」


「街の外に魔物が出たぞ!!」


 その叫び声に、周囲の空気が一変した。


 露店の商人たちが顔を上げ、通行人が足を止める。


 子供の手を引いて建物へ入っていく者もいれば、何が起きたのか確かめようと街の入口へ向かう者もいた。


 その様子を見たユウトは、ゆっくりとシエルへ顔を向けた。


「……俺じゃないからな?」


「まだ何も言ってないわよ」


「先に言っとく!」


「主、早いっす!」


「だって、お前ら絶対俺のせいみたいにするじゃん!」


「普段から普通にしてれば、そんなこと言われねぇよ」


 リトが呆れたように答えた。


 しかし、冗談を言い合っていられたのもそこまでだった。


 街の入口へ向かう人々の声が、次第に切迫したものへと変わっていく。


 遠くから兵士の怒鳴り声まで聞こえ始めた。


「……どうする?」


 リトが尋ねる。


 シエルは騒ぎの方角へ視線を向け、少し考えてから答えた。


「とりあえず、様子だけ確認しに行きましょう。危険そうなら近付かないこと」


「よし!」


 ユウトが勢いよく頷く。


「……主、嬉しそうっす!」


「嬉しくない!」


「顔が嬉しそうだぞ」


「これは好奇心!」


「余計駄目じゃない」


 シエルの呆れ声を聞きながら、四人は街の入口へと向かった。


 ◇


「下がれ! 街の外へ出るな!」


 門の前では、武装した兵士たちが慌ただしく動いていた。


 何人かは門の外へ向かい、残った兵士たちは集まってきた住民を下がらせている。


 街の入口付近には不安そうな人々が集まり、門の向こうを覗き込もうとしていた。


「……何が出たんだ?」


 ユウトは人混みの後方から、外の様子を確認しようとした。


「見えないっすね」


 シアも背伸びをしている。


 門の向こうには街道が続き、その先には木々の生い茂る森が見えていた。


 しかし、肝心の魔物らしき姿は見当たらない。


 その時だった。


 ――ドォン!


「……うおっ!?」


 遠くから鈍い衝撃音が響き、足元の地面が僅かに揺れた。


 続けて、森の方から無数の鳥が一斉に飛び立つ。


 木々が大きく揺れ、何かが枝を押しのけながら進んでいるような音まで聞こえてきた。


「……結構でかそうだな」


 リトが表情を引き締める。


「近付かない方がいいわね」


 シエルも警戒するように周囲を見渡した。


 しかし、ユウトは門の向こうをじっと見つめていた。


「……待て」


「どうしたの?」


「何か来る」


 街道の先。


 森から伸びる道の向こうに、巨大な影が見え始めた。


 最初は土煙に隠れて輪郭がはっきりしなかったが、近付くにつれてその姿が明らかになっていく。


「主! 来たっす!」


「……見えた!」


 ユウトは思わず目を見開いた。


 現れたのは、四本の太い脚を持つ巨大な魔物だった。


 身体は岩のように硬そうな皮膚で覆われ、頭部からは鋭い角が二本伸びている。


 地面を踏みしめるたびに重い音が響き、その巨体に似合わない速度で街道を駆けていた。


「……なんだ、あれ?」


(補佐機構、解析!)


『解析を開始します』


 補佐機構の声が頭の中に響いた。


 だが、結果が出るよりも早く、近くにいた兵士が叫んだ。


「ストーンライノだ!」


「……ストーンライノ?」


「なんであいつがこんなところに!?」


 兵士の表情には、明らかな驚きが浮かんでいた。


「……知ってるの?」


 ユウトが尋ねる。


「ああ! あいつは北の鉱山周辺に棲息してる魔物だ! 普段はこんな街道まで下りてこねぇ!」


「……北の鉱山?」


 その言葉に、ユウトたちは顔を見合わせた。


 今朝、鍛冶工房で聞いた話。


 鉱山に魔物が住み着き、鉱石の採掘ができなくなっているという問題。


 そして、Cランク以上の冒険者たちによる討伐隊が派遣されているという情報。


 偶然にしては、少し気になる一致だった。


「……もしかして」


「朝の話っすか?」


 シアが小声で尋ねる。


「可能性はあるわね。ただ、まだ関係があるとは限らないわ」


 シエルが冷静に答えた。


 ストーンライノが普段から北の鉱山周辺に棲息しているというだけで、今回の騒動と直接関係があるとは断定できない。


 しかし、その行動には奇妙な点があった。


「……あれ?」


 ユウトは目を細めた。


 ストーンライノは街道を駆けながら、何度も後方へ顔を向けていた。


 まるで、背後にいる何かを警戒しているようにも見える。


「……逃げてる?」


「そう見えるな」


 リトも頷いた。


 普通なら、巨体を揺らしながら走っている魔物が、何度も後ろを確認する必要などないだろう。


 それが何を意味するのかは分からない。


 しかし、少なくとも落ち着いた状態には見えなかった。


「……でも、このままだと」


 ユウトはストーンライノの進行方向を確認した。


 その先には、街の門がある。


 そして、門の内側にはまだ避難しきれていない住民たちがいた。


「……ぶつかるっす!」


 シアの表情が変わる。


「兵士たちが対応するはずよ」


 シエルが門の外を指差した。


 すでに何人もの兵士が街道へ出ており、槍や盾を構えてストーンライノを迎え撃とうとしていた。


 どうやら、街へ突入させる前に食い止めるつもりらしい。


「来るぞ! 構えろ!」


 兵士の一人が叫ぶ。


 ストーンライノは速度を落とすことなく、街道を突き進んできた。


 ――ドドドドドドッ!


 地響きのような足音が近付いてくる。


 その巨体が通った場所には土煙が巻き上がり、地面に深い足跡が刻まれていた。


「……速っ!」


 ユウトが思わず声を上げる。


 あの大きさで、あれほどの速度が出せるとは思っていなかった。


 そして、ストーンライノが兵士たちの目前まで迫った瞬間。


「散れ!」


 兵士の怒声が響いた。


 その直後、ストーンライノは頭を低く構え、さらに速度を上げた。


 正面から受け止めるのは危険だと判断した兵士たちが、慌てて左右へ飛び退く。


 巨大な魔物はその間を駆け抜け、門へ向かって一直線に突進していった。


「……まずい!」


 リトが叫んだ。


 兵士たちが再び体勢を整えるよりも早く、ストーンライノは門の目前へ迫っている。


 門の内側にいた住民たちから、悲鳴が上がった。


「きゃあっ!」


「逃げろ!」


 人々が一斉に後退する。


 しかし、恐怖で足がすくんだ者もおり、全員が安全な場所へ逃げ切れるとは限らなかった。


「…………」


 その光景を見たユウトは、迷わず一歩前へ出た。


「……ユウト!?」


 シエルが驚いて声を上げる。


「これ、止めてもいいよな!?」


「……え?」


「依頼じゃないけど!」


 ユウトは真剣な表情で振り返った。


 以前なら、何も考えずに飛び出していたかもしれない。


 しかし、今回は違う。


 ギルドの規則を破らないように、慎重に行動することを心掛けていたのだ。


 だが、そんなユウトの言葉に、シエルは思わず声を荒らげた。


「今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょう!」


「……だよな!」


 ユウトは大きく頷いた。


 目の前には、逃げ遅れた住民たちがいる。


 このまま放っておけば、誰かが傷付くかもしれない。


 そんな状況で、依頼がどうとか言っている場合ではなかった。


「……行くぞ!」


 ユウトは地面を蹴った。


「主!」


「アニキ!」


 仲間たちの声を背に受けながら、一気に門の外へ飛び出す。


 ストーンライノはすでに門の目前まで迫っていた。


 その正面へ、ユウトが立ちはだかる。


「おい! 何してる!」


 兵士の一人が叫んだ。


「逃げろ! 轢き潰されるぞ!」


「大丈夫!」


「何が大丈夫なんだ!」


 兵士の声が響く。


 しかし、ユウトは動かなかった。


 真正面から迫ってくるストーンライノを見つめ、その動きを慎重に確認する。


 その時だった。


『解析が完了しました』


(……やっとか!)


『対象名称、ストーンライノ』


『危険度D+』


(……思ったより低いな!)


『防御力に優れた魔物です』


(なるほど!)


 情報を確認したユウトは、改めてストーンライノへ視線を向けた。


 危険度D+。


 決して弱い魔物ではないが、今のユウトにとっては十分に対処できる相手だった。


 ただし、ここで避ければ、そのまま街へ突入してしまう。


 それだけは防がなければならない。


「……よし!」


 ストーンライノが頭を低く構え、二本の角を突き出しながら迫ってくる。


 ユウトは両足を大きく開き、腰を落とした。


 そして、その巨体が目前まで迫った瞬間、角を避けるように両腕を突き出した。


 ――ドンッ!!


 両手がストーンライノの巨大な額を捉え、凄まじい衝撃が全身へ伝わる。


「……ぐっ!」


 足元の地面が大きく抉れ、ユウトの身体が僅かに後方へ押し込まれた。


 しかし、それ以上は動かない。


 ストーンライノは太い四肢を必死に動かし、さらに前へ進もうとする。だが、ユウトの両腕はびくともしなかった。


「……止まれって!」


 その小柄な身体からは想像もできない力によって、巨大な魔物の突進は完全に食い止められていた。


 ストーンライノは必死に前へ進もうとする。


 太い脚が地面を蹴り、土煙が舞い上がるが、その場から動くことはできなかった。


 やがて、勢いを完全に失った魔物は、頭を左右へ振って抵抗し始めた。


「……まったく!」


 ユウトは巨大な額を両手で押さえつけたまま、少し困ったように呟いた。力ずくで押さえ込むことはできる。


 しかし、このままずっと押さえつけているわけにもいかない。


「主ー!」


 そこへシアが駆け寄ってきた。


「大丈夫っすか!?」


「余裕!」


 ユウトは笑顔で答えた。


「……アニキ、そいつどうすんだ?」


 リトも少し離れた場所から尋ねる。


「……どうするって」


 ユウトは改めてストーンライノを見た。


 魔物はまだ暴れているものの、先ほどまでの勢いはなくなっている。


 しかし、ここで手を放せば、再び街へ向かって突進するかもしれない。


 何とかして、大人しくさせる必要があった。


「……とりあえず」


 ユウトは片手でストーンライノの額を押さえ込むと、空いた方の手を引いて拳を握った。


「大人しくしてもらう!」


「……倒すの?」


 シエルが尋ねる。


「いや、こいつ……なんか逃げてきただけっぽいし」


 ユウトは首を横に振った。


 もちろん、何から逃げていたのかまでは分からない。


 だが、少なくとも街を襲おうとしているというより、恐怖から闇雲に走っているように見えた。


「……確かに、そう見えたわね」


 シエルも頷いた。


「だから、ちょっと寝てもらう!」


 ユウトは拳を振り上げた。


 相手を殺すつもりはない。


 ただ、暴れる力を失わせる程度には、しっかりと加減する必要がある。


「……えいっ!」


 ――ゴンッ!


 鈍い音が響いた。


 ユウトの拳がストーンライノの頭部を捉え、巨体が大きく揺れる。


「…………」


 一瞬、魔物の動きが止まった。


 それまで激しく抵抗していた脚から、少しずつ力が抜けていく。


 そして――。


 ――ドォォン!


 ストーンライノは、その場へ崩れ落ちた。


 地面が大きく揺れ、土煙が舞い上がる。


「…………」


 周囲が静まり返った。


 兵士たちも住民たちも、目の前で何が起きたのか理解できていない様子だった。


 あれほどの勢いで突進してきた魔物が、たった一撃で倒れてしまったのだ。


「……よし!」


 ユウトは満足そうに頷いた。


「……よし、じゃねぇよ」


 リトが呆れたように呟く。


「ちゃんと加減したぞ!」


「そういう問題じゃないっす!」


 シアまで声を上げた。


「……じゃあ、どこだよ!」


「普通、あんな魔物の突進を正面から止めないっす!」


「避けたら街に突っ込んでただろ!?」


「それはそうっすけど!」


 ユウトが言い返すと、リトも苦笑した。


「まあ、助かったのは間違いねぇけどな」


 シエルも倒れた魔物を確認しながら、小さく頷く。


「とにかく、住民に被害が出なくてよかったわ」


 ユウトも改めて門の方角へ視線を向けた。


 兵士たちが住民の無事を確認し、倒れたストーンライノの周囲を警戒し始めている。


 どうやら、ひとまず危険は去ったらしい。


 しかし、ユウトたちには一つ気になることが残っていた。


「……なあ」


 リトが声を落とした。


「こいつ、本当に何から逃げてたんだろうな」


「……分からない」


 ユウトは首を横に振った。


 ストーンライノが何かを警戒していたように見えたことは確かだが、その原因までは分かっていない。


 すると、シアが倒れた魔物を眺めながら口を開いた。


「……でも、こいつって北の鉱山にいる魔物なんすよね?」


「……らしいな」


 ユウトは街の北に広がる山々の方角へ視線を向けた。


「何かから逃げてたみたいだったわね」


 シエルも考え込むように呟く。


「……ってことは」


 リトの表情が僅かに険しくなった。


「鉱山で何かあったのか?」


「…………」


 四人は顔を見合わせた。


 今朝、鍛冶工房で聞いた話。鉱山に魔物が住み着いたことで、鉱石の採掘ができなくなっているという問題。


 ギルドではすでにCランク以上の冒険者による討伐隊が派遣されており、現時点で緊急性はないと説明されていた。


 そのため、ユウトたちは依頼を受けることができず、勝手に鉱山へ向かうこともしなかった。


 しかし、その日の夕方になって、普段は鉱山周辺に棲息しているという魔物が街へ現れたのだ。


 偶然なのかもしれない。


 だが、無関係だと決めつけることもできなかった。


「……主」


 シアが真剣な表情でユウトを見つめた。


「……何?」


「主が素直過ぎて、問題が起きたっす!」


「……なんで!?」


 ユウトは思わず声を上げた。


「だって、いつもの主なら朝のうちに鉱山へ向かってたっす!」


「行ったら怒るだろ!?」


「……まあな」


 リトが小さく頷く。


「リトまで!?」


「今回はちゃんと我慢したものね」


 シエルも頷いた。


「そうだよ!」


 ユウトは勢いよく答えた。


 今回ばかりは、自分に落ち度などないはずだった。


 ギルドへ行って依頼を受けようとしたが、ランクが足りずに断られた。


 その後も勝手に鉱山へ向かったりせず、きちんと観光を楽しんでいただけだ。


 それなのに、なぜかまた自分が悪いような話になっている。


「……つまり!」


 シアは北の方角を指差した。


「主が先に鉱山へ行ってれば、こいつが街まで来ることもなかったかもしれないっす!」


「……じゃあ俺、どうすればいいんだよ!!」


 ユウトの叫び声が門の前に響いた。


「行っても怒られる! 行かなくても俺のせい!?」


「トラブ竜っすから!」


「そんな種族じゃねぇ!!」


「誰も種族とは言ってねぇぞ」


「…………」


 ユウトの動きが止まった。


「……アニキ?」


「…………過去は振り返らない主義なんだ」


「それ、ミレアさんに禁止されたっす!」


「ここならバレない!」


「何も学んでねぇじゃねぇか!」


 リトの突っ込みに、シアが楽しそうに笑った。


 ユウトは不満そうに頬を膨らませ、シエルも呆れたようにため息を吐く。


 しかし、そんなやり取りをしていた時だった。


「……お、おい!」


 近くにいた兵士の一人が、突然声を上げた。


「お前ら、今はそれどころじゃねぇぞ!」


「……え?」


 ユウトたちが振り返る。


 兵士は倒れたストーンライノへ一度視線を向けた後、北の山々を見つめていた。


「……こいつが本当に何かから逃げてきたんだとしたら」


 その表情は、先ほどまでとは明らかに違っていた。


 何か嫌な予感を覚えているのだろう。


「……北の鉱山は、今どうなってるんだ?」


「…………」


 ユウトたちも口を閉じた。


 兵士はさらに続ける。


「鉱山には討伐隊が向かったって聞いてる。だが、今もあいつらから何の連絡もないんじゃねぇのか?」


「……討伐隊?」


 ユウトが聞き返す。


「ああ。鉱山に住み着いた魔物を討伐するために、冒険者たちが向かってるはずだ」


 兵士は険しい表情のまま答えた。


「……もし鉱山で何か起きてるんだとしたら、連中は無事なのか?」


「…………」


 その言葉を聞いた瞬間、ユウトたちの表情から笑みが消えた。


 鉱山へ向かった討伐隊。


 普段はその周辺に棲息しながら、何かから逃げるように街まで走ってきたストーンライノ。


 そして、朝の時点ではまだ緊急性がないと判断されていた鉱山の問題。


 それらが関係しているのかは、まだ分からない。


 だが、もし何かが起きているのだとすれば。


「……まさか」


 ユウトは北に広がる山々を見つめた。


 ストーンライノが逃げてきた理由。その答えは、あの鉱山にあるのかもしれなかった。

第282話を読んでいただきありがとうございます!


今回は何もしていない――はずだったユウトの前に、鉱山から逃げてきたストーンライノが現れました。


無事に街への突入は防いだものの、気になるのは魔物が何かから逃げていたこと。


そして、その鉱山にはすでに討伐隊が向かっています。


素直に言うことを聞いた結果、なぜかシアには問題の原因扱いされてしまったユウト。


果たして鉱山では何が起きているのでしょうか。


次回もぜひお楽しみに!


「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!


それでは、また次回お会いしましょう!

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