第二百八十話 三日間の自由
三日間の旅を終え、ついに隣国ルーンガルドへ辿り着いたユウトたち。
鍛冶が盛んなドワーフの国は、アルヴェインとはまた違った景色が広がっていました。
それでは、第280話をお楽しみください!
「……ここが国境か」
ユウトは目の前にそびえる大きな門を見上げた。
アルヴェインを出発して三日。商隊の護衛を続けながら西の街道を進み、ようやく隣国ルーンガルドとの国境へ辿り着いたのだ。
門の両側には高い石壁が続き、その前には何台もの馬車が列を作っていた。
荷台いっぱいに商品を積んだ馬車もあれば、旅人を乗せた馬車もある。門の周辺では兵士たちが忙しそうに動き回り、商人たちは順番が来るのを待ちながら書類を確認していた。
「結構いるな」
ユウトが列の先を眺めながら呟くと、シエルが隣から顔を覗かせた。
「商人の行き来が多いんでしょうね」
「鍛冶が盛んな国って言ってたもんな。やっぱり武器とかを買いに来る人も多いのかな」
「その可能性はあるわね」
ユウトたちがそんな話をしていると、シアが期待に満ちた表情で身を乗り出した。
「主! 武器いっぱいあるっすかね!」
「あるんじゃないか? 鍛冶が有名な国らしいし」
「楽しみっす!」
「シア、何か買うつもりなのか?」
リトが不思議そうに尋ねる。
「見るだけでも楽しいっす!」
「……まあ、それは分かるけどな」
リトも少し興味があるらしく、門の向こうへ視線を向けた。
剣を扱う彼にとっても、鍛冶の盛んな国でどのような武器が作られているのかは気になるところだろう。
「リトだって、ちょっと楽しみだろ?」
ユウトが笑いながら尋ねると、リトは一瞬考えてから頷いた。
「……まあ、ちょっとな」
「ほら!」
「……アニキもだろ?」
「もちろん!」
ユウトは迷わず答えた。
「開き直ったわね」
シエルが呆れたようにため息を吐く。
「だって、せっかく別の国まで来たんだぞ? ちょっとくらい楽しんだっていいだろ!」
「まだ依頼の途中でしょう?」
「……分かってるって!」
ユウトは慌てて付け加えた。
もちろん、商隊を無事に目的地まで送り届けることが最優先だ。
ただ、初めて訪れる国を前にして、期待を抑えろという方が難しかった。
そんな会話を交わしている間にも、商隊の列は少しずつ進んでいた。
やがて前の馬車が門へ向かうと、先頭にいたバルガが振り返った。
「皆さん、そろそろ我々の番ですね」
「お、ようやくか!」
「ここから先はルーンガルドです。入国の確認がありますので、ギルドカードを準備しておいてください」
「ギルドカードでいいの?」
ユウトが尋ねると、バルガは頷いた。
「ええ。冒険者であれば、ギルドカードが身分証明になります。護衛として同行していることも、こちらの書類で確認してもらいますので」
「へぇ……便利だな」
ユウトは感心しながら、自分のギルドカードを取り出した。
人間界で使っていたカードは魔族大陸のギルドでは通用しなかったが、こちらで発行されたカードは国境での本人確認にも使えるらしい。
改めて、冒険者という仕組みが広く利用されていることを実感する。
シエルたちもそれぞれカードを準備し、商隊の順番を待った。
「次!」
やがて、門の前に立っていた兵士が声を上げた。
その姿を見た瞬間、ユウトは思わず目を見開いた。
「……おお!」
「どうしたっすか?」
シアが不思議そうに尋ねる。
「いや、あの兵士……」
ユウトの視線の先には、立派な鎧を身に着けた一人の男が立っていた。
背丈はユウトよりも頭一つほど低い。しかし、横幅は広く、鎧から伸びた腕は丸太のように太かった。
何より目を引いたのは、その立派な髭だ。
顔の下半分を覆うほど豊かな髭を蓄え、いかにも頑丈そうな身体つきをしている。
(……本物のドワーフだ!)
ユウトは心の中で声を上げた。
前世で読んだ物語や、見ていた作品に登場するドワーフそのものの姿だった。
もちろん、そうした作品はあくまで創作だ。実際のドワーフ族がどのような種族なのかは、これから知っていくことになるだろう。
それでも、初めて目にする姿に興奮せずにはいられなかった。
「……何をじろじろ見てる?」
兵士が怪訝そうにユウトを見た。
「……あ、いや!」
ユウトは慌てて姿勢を正した。
「初めて見たから、つい!」
「……何だ、ドワーフが珍しいのか?」
「まあ、そんなところ!」
兵士は少し不思議そうな顔をしたものの、それ以上気にする様子はなかった。
「冒険者か?」
「ああ!」
「なら、ギルドカードを見せてくれ」
「はい!」
ユウトたちは順番にカードを差し出した。
兵士は受け取ったカードを一枚ずつ確認し、依頼書に記載された人数とも照らし合わせていく。
「……全員Eランクか」
「なったばっかりだ!」
ユウトが胸を張る。
「あーしたちは昇格したてのピチピチ――」
「それはもういい!」
リトが慌ててシアを止めた。
「なんでっすか!?」
「入国審査でわざわざ言う必要ねぇだろ!」
そんな二人を見て、兵士が怪訝そうに眉を寄せた。
「……何だ、お前たち」
「すみません。気にしないでください」
シエルが代わりに答える。
兵士は一瞬だけ四人を見比べたが、ギルドカードに問題はなかったらしい。
「……まあいい。商隊の護衛だな?」
「ああ、そうだ」
「なら、荷の確認が終わるまで待っていてくれ」
「了解!」
ユウトが頷くと、兵士はバルガたちの馬車へ向かった。
積み荷の内容を記した書類と実際の荷物を照らし合わせながら、別の兵士たちと確認を進めていく。
その間、ユウトたちは馬車の周囲で待機することになった。
「……結構ちゃんと調べるんだな」
ユウトが呟く。
「国境なんだから当然でしょう」
シエルが答えた。
「そりゃそうか」
人間界でも国境を越える際には様々な手続きが必要だったことを思い出す。
もっとも、今は商隊に同行しているため、荷物の確認などはバルガに任せられる。
自分たちは護衛として、周囲を警戒していればいい。
しばらくすると、積み荷の確認を終えた兵士がバルガへ書類を返した。
「……問題なし。通っていいぞ」
「ありがとうございます」
バルガが丁寧に頭を下げる。
「よし!」
ユウトも嬉しそうに声を上げた。
兵士たちの合図で門が開かれ、三台の馬車がゆっくりと動き始める。
ユウトたちもその周囲を歩きながら、巨大な門をくぐり抜けた。
こうして四人は、魔族大陸に来て初めて国境を越え、ルーンガルドの地へ足を踏み入れたのだった。
◇
「……うおお!」
「主、さっきからそればっかりっす!」
「だって、すげぇぞ!」
国境を越えてしばらく街道を進み、ユウトたちはルーンガルドで最初に立ち寄る街へ辿り着いていた。
街の入口を抜けた途端、アルヴェインとは明らかに異なる光景が広がっていた。
石造りの建物が立ち並ぶ通りには、武器や防具を扱う店が目立つ。店先には剣や斧、盾などが並べられ、通りの奥からは白い煙が立ち上っていた。
そして何より、街全体に響き渡っている音があった。
――カァン!
――カァン! カァン!
金属同士を打ち付ける、甲高い音。
一か所だけではない。通りのあちらこちらから規則的な音が聞こえてきており、その合間には職人たちの威勢のいい声も響いていた。
「……音がすごいな」
ユウトが周囲を見渡す。
通りに面した工房の一つでは、赤く熱せられた金属を職人が金槌で叩いていた。
火花が散るたびに、周囲の空気まで熱を帯びるように感じられる。
別の工房では、完成したばかりと思われる剣を職人が念入りに確認していた。
「……本当に鍛冶の国なんだな」
「だから言ったでしょう?」
バルガが笑いながら答えた。
「ルーンガルドでは、鍛冶に関わる仕事に就く者が多いんです。この街にも工房がたくさんありますからね」
「へぇ……」
ユウトは改めて通りを見渡した。
アルヴェインにも武器屋や防具屋はあったが、これほど多くの鍛冶工房が並んでいる光景は見たことがない。
店先で売られている武器も種類が豊富で、見慣れない形状のものまで並んでいた。
「主! あっちの斧、めちゃくちゃでかいっす!」
シアが興奮した様子で指差す。
そこには、人の背丈ほどもある巨大な斧が飾られていた。
「……あれ、誰が使うんだ?」
ユウトが思わず呟く。
「体格の大きい種族なら扱えるんじゃないか?」
リトが答えた。
「なるほど……」
確かに、この世界には人間よりも遥かに大きな身体を持つ種族も存在している。
それなら、武器の大きさや形も様々なのだろう。
「……ドワーフも多いっすね!」
シアが通りを見渡しながら声を上げた。
「本当だな」
行き交う人々を見ると、国境で出会った兵士と似た体格のドワーフたちが何人も歩いていた。
大きな荷物を抱えて工房へ向かう者や、店先で武器の出来栄えについて熱心に話し込む者など、その姿は様々だ。
もちろん、街に暮らしているのはドワーフだけではない。
獣人族や鬼人族、人間族の姿も見られ、中にはユウトがまだ知らない種族もいた。
アルヴェインと同じように、様々な種族が共に暮らしている街のようだった。
「……あれ?」
そんな通りを眺めていたユウトが、ふと足を止めた。
「どうしたの?」
シエルが振り返る。
「いや……人間も結構いるんだなって」
「……そうね」
シエルも周囲へ視線を向けた。
アルヴェインでも人間の姿は見かけていた。
しかし、他の種族と比べれば数は少なく、荷運びなどの仕事に就いている者が目立っていた印象がある。
そのため、ユウトはこの大陸で暮らす人間の立場について、少し気になるものを感じていた。
だが、目の前に広がる光景は、アルヴェインで見てきたものとは少し違っていた。
「いらっしゃい! いい武器が揃ってるよ!」
通りの向こうから、威勢のいい声が聞こえてきた。
声の主は、一軒の武器屋で客を呼び込んでいる人間の男だった。
店先には様々な剣や槍が並べられ、男は商品を手に取りながら、訪れた客へ説明している。
そのすぐ隣の店では、ドワーフと人間が肩を並べ、何やら楽しそうに話し込んでいた。
仕事の相談でもしているのだろうか。ドワーフが何かを指差すと、人間の男が笑いながら頷いている。
「……なんか、違うな」
ユウトが小さく呟いた。
「何が?」
「アルヴェインとさ。うまく言えないけど……」
アルヴェインでは、人間が少し遠慮しているように見える場面があった。
しかし、この街では人間が店を構え、他の種族と自然に商売をしている姿が目に入る。
もちろん、目に見える光景だけですべてを判断することはできない。
それでも、同じ魔族大陸でありながら、街によって雰囲気が随分違うことには驚かされた。
「国が違えば、文化や暮らし方も変わるものね」
シエルが答えた。
「そういうもんなのか」
「ただ、まだ来たばかりよ。ここがどんな国なのか判断するには早いわ」
「……それもそうだな」
ユウトは素直に頷いた。
人間界でも、同じ国の中ですら地域によって文化や考え方が異なることは珍しくなかった。
それを考えれば、国境を越えた途端に違った光景が見られるのも不思議ではない。
むしろ、これから先も様々な違いに出会えるのではないかと思うと、ますます興味が湧いてくる。
「……面白そうだな」
ユウトが楽しそうに笑ったところで、バルガが声を掛けてきた。
「皆さん、まずは依頼を終わらせましょう」
「……あ!」
シアが思わず声を上げる。
「忘れてたっす!」
「忘れるなよ!」
リトが即座に突っ込んだ。
バルガはそんな四人を見て、苦笑しながら説明する。
「荷物を届けるところまでが往路の仕事ですからね。もう少しだけお付き合いください」
「分かってるって!」
ユウトは胸を張って答えた。
もっとも、目の前に広がる街並みに気を取られていたのは事実だった。
このまま武器屋へ駆け込みたい気持ちもあったが、まずは商隊の荷物を無事に届けなければならない。
「……よし、最後までちゃんと護衛するぞ!」
「最初からそのつもりでいてくれよ……」
リトの呆れ声を聞きながら、ユウトたちは再び馬車の周囲へ戻った。
商隊は鍛冶の音が響く大通りを抜け、街の奥へと進んでいった。
◇
「……これで最後ですね」
荷物を降ろし終えると、バルガは空になった荷台を確認した。
商隊が向かったのは、街の商業区画にある荷受け場だった。
到着後、商人たちは手際よく荷物を運び出し、受取先の者たちと内容を確認していた。
ユウトたちも馬車の周囲を警戒しながら、その作業が終わるのを待っていた。
そして、最後の荷物の確認が済んだことで、ようやく往路の護衛が一段落したのだ。
「……よし!」
ユウトは大きく伸びをした。
「終わったー!」
「まだ帰りがあるけどな」
リトが笑いながら指摘する。
「今くらい達成感に浸らせてくれよ!」
「でも、今回は本当に何も起きなかったわね」
シエルが穏やかに微笑んだ。
その言葉を聞いた途端、ユウトの表情が変わった。
「……シエル」
「何?」
「それ、言うと何か起きそうだからやめよう」
「……あなたがそれを言うの?」
シエルが呆れたように眉をひそめた。
「最近学んだんだ!」
ユウトは得意げに答えた。
「遅いっす!」
「シアに言われた!?」
リトも思わず笑い出した。
しかし、ユウトにとっては決して小さなことではない。
これまで、依頼を受けるたびに何かしら予想外の出来事が起こっていた。
グレイボアの討伐では大量の獲物を持ち帰り、アーマードベアまで倒してしまった。
その後は、ギルドから止められていた遺跡に勝手に入り込み、ミレアに散々怒られた。
それに比べれば、今回の護衛は驚くほど平和だった。
魔物に襲われることもなく、荷物を奪われることもなく、三日間の移動を終えられたのだ。
「……でも、護衛らしいこと何もしてないけどな」
ユウトが少し物足りなそうに呟いたところへ、バルガが歩み寄ってきた。
「皆さん、お疲れ様でした」
「おう! バルガもお疲れ!」
「おかげさまで、無事に荷物を届けることができました」
バルガは満足そうに笑みを浮かべていた。
出発前にはEランクになったばかりの四人を不安そうに見ていたが、今ではすっかり安心しているようだった。
「でも、何も起きなかったし、俺たちが役に立ったのか分かんないな」
ユウトが苦笑すると、バルガは首を横に振った。
「何も起きないのが一番ですよ。それに、何かあった時に対応していただくための護衛ですから」
「……確かに」
「道中もきちんと警戒していただけましたし、私たちとしては安心して移動できました。ありがとうございます」
バルガの言葉に、ユウトは少し照れくさそうに笑った。
魔物を倒していなくても、依頼主が無事に目的地へ到着できたのなら、それが護衛としての成果なのだろう。
ようやく、ミレアが言っていた冒険者としての信用というものが、少し分かった気がした。
「……それで、帰りなんですが」
バルガが話を切り出した。
「ん? 今日帰るの?」
「いえ。こちらで商品の取引と仕入れがありますので、帰りの出発は三日後を予定しています」
「……三日後?」
ユウトが聞き返す。
「はい。取引を終えて帰りの荷物を揃えるまで、少し時間が必要なんです」
「……じゃあ」
ユウトの目が輝き始めた。
「それまで、俺たちは何してればいいの?」
「特に護衛をお願いする予定はありませんよ」
「…………」
「滞在中は自由に過ごしていただいて構いません。帰路の護衛は、三日後の出発からまたお願いします」
「……自由?」
ユウトはゆっくりと聞き返した。
「はい」
「……主!」
隣にいたシアが、興奮した様子で顔を向ける。
「……シア!」
二人の視線が合った。
そして、ほぼ同時に声を上げる。
「三日間自由だって!」
「遊び放題っす!」
「……観光くらいにしておけよ」
リトが呆れたように言った。
「分かってるって!」
ユウトは満面の笑みで答えた。
しかし、その表情はどう見ても何かを企んでいるようにしか見えなかった。
「……その顔が信用できないのよ」
シエルが小さくため息を吐く。
「なんでだよ! せっかく自由な時間があるんだから、街を見て回るくらいいいだろ!」
「街を見て回るだけなら、何も言わないわ」
「じゃあ問題ないじゃん!」
「……本当に、それだけで済むならね」
「…………」
ユウトは一瞬だけ目を逸らした。
その様子を見て、リトが笑いを堪えながら肩を震わせている。
「……アニキ、もう何か考えてるだろ」
「考えてない!」
「今の間は何だよ!」
そんなやり取りをしていると、バルガが楽しそうに笑った。
「ははは! 皆さん、どうぞルーンガルドを楽しんでいってください」
「おう!」
「主! 早く行くっす!」
シアはすでに出発する気満々だった。
しかし、ユウトはその前に確認しておきたいことがあった。
「……そういえば、バルガ。三日後はどこに来ればいい?」
「朝にこちらの荷受け場へ来てください。帰りの荷物を積み込み次第、出発する予定です」
「了解!」
ユウトは大きく頷いた。
これで帰りの予定も確認できた。後は自由時間を楽しむだけだ。
「……よし!」
ユウトは改めて街の方角へ視線を向けた。
先ほど通ってきた大通りには、数え切れないほどの店が並んでいた。
武器屋や防具屋はもちろん、鍛冶工房も至るところにある。
見慣れない品物を並べた店もあれば、聞いたことのない料理の香りを漂わせる店もあった。
何より、アルヴェインとは違った文化を持つ人々の暮らしを、実際に目にすることができる。
そんな街を三日間も自由に歩き回れるというのだから、楽しみで仕方がなかった。
「主! どこから見るっすか!?」
シアが期待に満ちた表情で尋ねる。
「やっぱり鍛冶屋だろ!」
「主! あっちにでっかい武器屋があるっす!」
「マジか! 行こうぜ!」
「了解っす!」
二人は顔を見合わせると、勢いよく駆け出そうとした。
しかし、その瞬間だった。
「……待ちなさい」
背後から伸びた二本の手が、ユウトとシアの襟首を同時に掴んだ。
「ぐえっ!」
「ぐえっす!」
勢いよく踏み出そうとしていた二人は、揃って足を止められた。
振り返ると、そこには呆れた表情のシエルが立っていた。
「……何するんだよ!」
「まず宿を取りなさい」
「…………」
ユウトとシアが同時に黙り込んだ。
確かに、三日間この街へ滞在するのだから、泊まる場所を確保しておく必要がある。
自由時間があると聞いた途端、すっかり忘れていた。
「……はい」
「そうっすね……」
二人は素直に頷いた。
「……保護者かよ」
ユウトがぼそりと呟く。
シエルは笑顔で振り返った。
「誰のせいだと思ってるの?」
「…………」
ユウトは何も答えられなかった。
「……アニキ、黙るなよ」
リトが楽しそうに笑う。
シアもつられて笑い始めたが、ユウトとしては少しだけ納得がいかない。
そもそも、宿を取ることを忘れていたのは自分だけではないはずだ。
しかし、それを口にしたところで、またシエルに何か言われるのは目に見えていた。
「……よし! じゃあまずは宿探しだな!」
ユウトは気を取り直すように声を上げた。
「そうね。それが終わってから街を見て回りましょう」
「了解っす!」
シアも元気よく頷いた。
こうしてユウトたちは、商隊の往路護衛を無事に終え、ルーンガルドでの滞在を始めることになった。
帰りの出発までは三日。
初めて訪れた鍛冶の国で与えられた、自由な時間。
街にはまだ知らないものが溢れ、少し歩くだけでも新しい発見がありそうだった。
「……楽しみだな!」
ユウトは嬉しそうに笑い、鍛冶の音が響く大通りへ視線を向けた。
「ほどほどにしなさいよ」
「分かってるって!」
シエルの注意に、ユウトは元気よく答えた。
もっとも、その返事を聞いて安心できた者は誰もいなかった。
特にシエルは、残された三日間を本当に平穏に過ごせるのか、すでに不安を感じ始めていたのだった。
第280話を読んでいただきありがとうございます!
無事にルーンガルドへ到着し、商隊の荷物を届けたユウトたち。
帰りの出発は三日後ということで、初めて訪れた国を自由に見て回れることになりました。
鍛冶が盛んなルーンガルドで、ユウトたちはどんな三日間を過ごすのでしょうか。
次回もぜひお楽しみに!
「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!
それでは、また次回お会いしましょう!




