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転生したら最強種だけどレベルが最弱でした。  作者: マッティー
第三章 魔族大陸

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第二百七十二話 資格を持つ者

遺跡の奥で待ち受けていた巨大なゴーレム。


その強さは、やはりアーマードベアを大きく上回るものでした。


それでは、第272話をお楽しみください!

 ――ドゴォォォン!!


 巨大な拳が石造りの床を叩き砕いた。


 凄まじい衝撃音が通路に響き渡り、砕けた石片が周囲へ飛び散る。


「うおっ!」


 ユウトは咄嗟に横へ跳び、その一撃をかわした。


 先ほどまで立っていた場所には大きな亀裂が走り、床の一部が陥没している。


「危なっ!」


「主! 大丈夫っすか!?」


 シアが慌てて声を掛けてきた。


「大丈夫!」


 ユウトは素早く体勢を整え、改めて目の前のゴーレムを見上げた。


 人の数倍はある巨体。その全身は黒い石のような物質で覆われ、表面には淡く光る文字が刻まれている。


 これほど巨大な身体を持ちながら、攻撃の速度は想像以上だった。


「思ったより速いな!」


「その大きさであの速度は厄介ね」


 シエルも警戒を強めながらゴーレムを見上げていた。


 先ほどの一撃だけでも、相当な破壊力があることは分かる。


 巨体ゆえの力強さに加え、見た目に反した素早さまで備えているのだ。


 少なくとも、先日戦ったアーマードベアとは明らかに違っていた。


 そんなことを考えていた時、ユウトの頭の中に補佐機構の声が響いた。


『解析が完了しました』


(お!)


『対象――古代魔導兵器』


『名称――ガーディアンゴーレム』


『危険度――B+』


(……B+!?)


 その結果に、ユウトは思わず目を見開いた。


「B+!」


「やっぱりBランクだったっす!」


 ユウトの声に、シアが反応する。


 ミレアは少なくともBランク相当の危険度があると言っていたが、実際にはそれより少し上の評価らしい。


「Cランクの冒険者じゃ厳しいわけだな」


 リトは剣を抜き、ゴーレムへ視線を向けた。


 あれほど頑丈そうな身体を持ち、さらに強力な攻撃まで繰り出してくるのだ。まともに相手をすれば、相当な苦戦を強いられるだろう。


「どうする、アニキ?」


「決まってるだろ」


 ユウトは笑みを浮かべ、拳を構えた。


「倒して先に進む!」


「主! あーしもやるっす!」


 シアも嬉しそうに身構える。


 しかし、二人が飛び出そうとしたところで、シエルが声を上げた。


「待ちなさい」


「……何?」


「ここは遺跡よ。派手にやりすぎないで」


「分かってるって!」


 ユウトが元気よく答えると、シエルは呆れたようにため息を吐いた。


「あなたの場合、その返事が一番信用できないのよ」


「ミレアみたいなこと言うなよ!」


「信用されるような行動をしなさい」


「ぐっ……!」


 返す言葉に詰まったユウトだったが、それ以上言い合っている余裕はなかった。


 ゴーレムが再び動き始めたのだ。


 ズンッ!


 巨体が床を踏みしめる。


 その瞬間、ゴーレムは地面を強く蹴り、ユウトへ向かって一気に距離を詰めてきた。


「来るぞ!」


 リトの声が響く。


 直後、巨大な拳が横薙ぎに振り抜かれた。


「っと!」


 ユウトは咄嗟に両腕を交差させ、その一撃を正面から受け止めた。


 ――ドンッ!!


「ぐっ……!」


 衝撃とともに、ユウトの身体が後方へ押し込まれた。


 踏ん張った両足が石造りの床を削り、二本の線を刻みながら滑っていく。


 腕に伝わってくる重みは、先ほどまで戦っていた魔物たちとは比べものにならなかった。


「アニキ!」


「大丈夫!」


 リトへ短く答えると、ユウトは足に力を込めた。


 そして、押し付けられていた巨大な拳を力任せに押し返す。


「……ふんっ!」


 ゴーレムの上体が僅かに揺らぎ、ユウトとの間に距離が生まれた。


「やっぱりアーマードベアより全然強いな!」


「嬉しそうに言うな!」


 リトが呆れたように叫ぶ。


 しかし、ユウトは目の前の巨体を見上げたまま、楽しそうに笑っていた。


 これほど強力な相手と出会うのは、魔族大陸へ来てから初めてだった。


 それに、補佐機構の解析結果も気になる。


(……古代魔導兵器、か)


 ただの魔物ではなく、何者かによって造られた兵器ということらしい。


 ならば、なぜこの遺跡の中で侵入者を襲っているのだろうか。


 やはり、奥にある何かを守っているのかもしれない。


「でも……」


 ユウトは軽く腕を回し、再び拳を握った。


「ゴルダンほどじゃないな」


「……あいつ、これより強いのかよ」


 リトが驚いたように尋ねた。


「たぶんな!」


「……魔族大陸、怖ぇな」


 リトは何とも言えない表情を浮かべた。


 ゴルダンとは一緒にこの大陸へ来たものの、その実力をすべて見たわけではない。


 それでも、ユウトがこれほどのゴーレムを相手にしながらそう言うのだから、相当な力を持っているのだろう。


 そんな会話を交わしている間にも、ゴーレムは再び巨大な拳を振り上げていた。


「……今度はこっちから行くぞ!」


 ユウトは勢いよく地面を蹴った。


 振り下ろされる拳をかわし、その巨体の懐へ一気に潜り込む。


「おらぁ!」


 ――ガァン!!


 渾身の拳が、ゴーレムの胴体へ叩き込まれた。


 金属同士が激しくぶつかったような音が響き、通路の壁へ反響する。


「……硬っ!」


 思わず声が漏れた。


 確かにゴーレムの身体は僅かに後退したが、倒れるどころか、大きな損傷すら見られない。


 まるで分厚い鋼鉄の塊を殴りつけたような手応えだった。


「主! あーしも行くっす!」


 そこへシアが横から飛び込んできた。


「せいやっ!」


 勢いよく放たれた蹴りが、ゴーレムの太い脚へ直撃する。


 ――ドゴンッ!


 鈍い音とともに、巨体が僅かに傾いた。


「今っす!」


「おう!」


 シアの作った隙を見逃さず、ユウトは再び拳を構えた。


 今度は単純な力任せの一撃ではない。


 握り込んだ拳に魔力を集中させ、炎を纏わせる。


(……これならどうだ!)


 赤い炎が拳を包み込み、薄暗い通路を照らした。


 その瞬間だった。


「……ん?」


 ゴーレムの身体に刻まれていた文字が、突然強い光を放った。


 それまで攻撃を繰り返していた巨大な腕が、振り上げられた状態でぴたりと止まる。


「……何だ?」


 ユウトは思わず動きを止めた。


 今にも攻撃してきそうだったゴーレムが、何の前触れもなく静止したのだ。


 先ほどまで感じていた敵意も、どこか薄れたように思える。


「……壊れたっすか?」


 シアが不思議そうに首を傾げた。


「いや……まだ何も壊してないぞ」


 ユウトは警戒したまま数歩下がった。


 確かに何度か攻撃は当てたものの、ゴーレムの身体に目立った損傷はない。


 それなのに、どうして突然動かなくなったのだろうか。


「……それもどうなのよ」


 シエルが小さく呟く。


 しかし、その問いに答える者はいなかった。


 ちょうどその時、補佐機構から新たな報告が入った。


『対象の挙動に変化を確認』


『敵対反応が低下しています』


(……敵対反応?)


 ユウトはゴーレムへ視線を戻した。


 先ほどまで攻撃を仕掛けてきた巨大な兵器は、今もその場に立ったまま動かない。


 ただ、頭部に灯った光だけが、真っ直ぐユウトへ向けられていた。


「…………」


 誰もが次の動きを警戒していた。


 しかし、ゴーレムは攻撃してこない。


 やがて、その身体に刻まれていた文字が、次々と光り始めた。


「主! 何か書いてあるっす!」


 シアがゴーレムの胴体を指差した。


 淡い光を放つ文字が、まるで何かを伝えようとしているかのように浮かび上がっている。


「ユウト、読める?」


 シエルが真剣な表情で尋ねてきた。


「……ちょっと待って」


 ユウトは目を凝らし、刻まれた文字を追った。


 それは、先ほど石板に刻まれていたものと同じような文字だった。


 人間界で見つけた古い文献を思い出しながら、一つずつ意味を読み取っていく。


「……識別中?」


「何を?」


 シエルが首を傾げる。


「分かんない」


 ユウト自身にも、その表示が何を意味しているのか分からなかった。


 ただ、ゴーレムが何かを確認しようとしていることだけは伝わってくる。


 やがて、光る文字が別のものへと変わった。


「……魔力……照合……」


「魔力?」


 シエルが小さく呟いた。


 ユウトは頷きながらも、ゴーレムから視線を離さなかった。


 どうやら、何らかの魔力を識別しているらしい。


 それが何のためのものなのかは分からないが、少なくとも今は攻撃よりもそちらを優先しているようだった。


 そして、ゴーレムの動きが完全に止まった。


「……今度は何だ?」


 リトが剣を構えたまま警戒する。


 次に何が起こるのか分からない以上、簡単に武器を収めるわけにはいかなかった。


 その時、ゴーレムの身体に再び文字が浮かび上がった。


「…………え?」


 ユウトは思わず目を見開いた。


 今、確かに見慣れない言葉が表示された。


 しかし、文字そのものは読める。


 読み間違いではないかと思い、もう一度目で追ってみた。


「……ユウト?」


 シエルが心配そうに声を掛ける。


「いや……」


「何て書いてあるの?」


「……資格者」


「資格者?」


 シエルが聞き返した。


「うん」


 ユウトは改めて文字を確認し、続きを読み上げた。


「……資格者の存在を確認」


「…………」


 その言葉に、仲間たちは顔を見合わせた。


 資格者。


 一体何の資格を持った者を指しているのだろうか。


 そもそも、このゴーレムは誰を識別しているのか。


 ユウトがそんなことを考えていた、その直後だった。


 ――ズン。


「……え?」


 突然、巨大なゴーレムが片膝をついた。


 先ほどまでユウトたちを襲っていた巨体が、床へ膝を落としたのだ。


 さらに上体を僅かに前へ倒し、頭部を低く下げる。


 その姿は、まるで目の前にいる誰かへ敬意を示しているかのようだった。


「……主!?」


 シアが驚いたように声を上げた。


「何!?」


「ゴーレムが主に跪いたっす!」


「俺にも分かるよ!」


 ユウトは思わず叫んだ。


 先ほどまで拳を振り下ろしてきた相手が、突然目の前で跪いている。


 あまりにも予想外の光景に、どう反応すればいいのか分からなかった。


「……どういうことよ」


 シエルが困惑したように呟く。


「俺が聞きたい!」


 ユウトは即座に答えた。


 ゴーレムは動かない。


 巨大な身体を低くし、ユウトへ向かって頭を垂れたままだった。


「……アニキ」


 リトが慎重に声を掛ける。


「何?」


「……何したんだ?」


「何もしてない!」


「じゃあ、なんでこうなってんだよ!」


「知らないよ!」


 ユウトは両手を広げて抗議した。


 もちろん、何もしていないわけではない。


 先ほどまで殴り合っていたし、魔法も使おうとしていた。


 しかし、ゴーレムを跪かせるような命令をした覚えはなかった。


 それなのに、目の前の巨大な兵器は完全に戦闘をやめている。


『対象から敵対反応が完全に消失しました』


 補佐機構の報告を聞き、ユウトは思わず頭を抱えた。


(……補佐機構!)


『はい、マスター』


(何が起きてるの?)


『不明です』


(お前も分かんないの!?)


 いつもなら何かしらの情報を教えてくれる補佐機構でさえ、今回の現象については詳しく把握できていないらしい。


 しかし、続けて一つの推測が告げられた。


『対象はマスターの魔力情報を識別したものと推測されます』


(……俺の?)


『はい』


 ユウトは思わず自分の手を見下ろした。


 先ほど、ゴーレムへ攻撃を仕掛けようとして拳に炎を纏わせた。


 その直後に、身体へ刻まれた文字が光り始めたのだ。


 だとすれば、魔力に反応したという説明にも納得できる。


 しかし、それだけでは分からないことが多すぎた。


(……それで、資格者?)


『詳細は不明です』


(……そうか)


 ユウトは改めてゴーレムへ目を向けた。


 相手が自分の魔力を識別したとして、なぜ敵対をやめたのだろうか。


 そして、資格者という言葉は何を意味しているのか。


「……何の資格よ」


 シエルも同じ疑問を抱いたらしい。


 ユウトは困ったように首を傾げた。


「……さあ?」


「あなたが分からないなら、私たちにはもっと分からないわよ」


「そう言われても……」


 ユウトが返答に困っていると、シアが突然声を上げた。


「主! 続きが出たっす!」


「……え?」


 ゴーレムの身体に、再び淡い光が走っていた。


 先ほどまで表示されていた文字の下へ、新しい文章が浮かび上がっていく。


「……えっと」


 ユウトは目を凝らした。


 最初に表示されたのは、先ほどと同じ言葉だった。


「資格者の存在を確認……」


 その下に、新たな文字が続いている。


「…………」


 ユウトは思わず黙り込んだ。


 文字そのものは理解できる。


 しかし、その意味を考えると、どうにも腑に落ちなかった。


「……どうしたの?」


 シエルが尋ねる。


「いや……」


「何て書いてあるんだ?」


 リトも気になったのか、剣を構えたまま身を乗り出した。


 ユウトはもう一度、浮かび上がった文章を読み直した。


 読み間違いではない。


 そこには、確かにそう書かれていた。


「……帰還を確認」


「……帰還?」


 シエルの表情が変わった。


「誰の?」


「…………」


 ユウトは答えられなかった。


 帰還……どこかへ行っていた者が戻ってきたことを意味する言葉だ。


 だが、ユウトがこの遺跡を訪れたのは初めてだった。


 少なくとも、自分にはここへ来た記憶などない。


 それなのに、なぜゴーレムは帰還を確認したのだろうか。


(……意味が分からないな)


 ユウトは跪いたままのゴーレムを見つめた。


 もし、この言葉が自分に向けられたものなのだとすれば、一体何をもって帰還と判断したのか。


 考えてみても答えは出なかった。


 その時だった。


 ――ゴゴゴゴゴ……。


「……ん?」


 突然、遺跡の奥から低い音が響き始めた。


 それまで静かだった通路の床が、僅かに震えている。


 やがて振動は少しずつ大きくなり、壁に積もっていた埃がぱらぱらと落ちてきた。


「……今度は何だ!?」


 リトが周囲を見回す。


「おい、アニキ! 今度は何が起きるんだよ!」


「俺に聞くな!」


 ユウトも慌てて辺りを確認した。


 ゴーレムは相変わらず跪いたままで、攻撃してくる様子はない。


 それどころか、身体に刻まれた文字は今も淡く光っている。


 そして、その背後……何もなかったはずの壁に、一本の光が走った。


「……あれ?」


 ユウトが目を凝らす。


 光は壁の表面を縦に伸び、続いて左右へ広がっていった。


 まるで、そこに隠されていた何かの輪郭をなぞっているかのようだった。


 やがて、重々しい音とともに壁が動き始めた。


 ――ゴゴゴゴゴ……。


「……嘘だろ」


 リトが思わず呟いた。


 目の前の巨大な石壁が、ゆっくりと左右へ開いていく。


 石と石が擦れ合う低い音が響き、長い間閉ざされていた空間が少しずつ姿を現し始めた。


「……扉?」


 シアが首を傾げる。


 確かに、それは巨大な扉だった。


 しかし、開く前には継ぎ目らしいものすら確認できなかった。


 どのような仕組みで動いているのかも分からない。


 やがて扉は完全に開き、その向こう側に新たな通路が姿を現した。


「…………」


 ユウトたちは、誰もすぐには動けなかった。


 先ほどまで通れなかったはずの場所。


 巨大なゴーレムが立ちはだかり、何組もの冒険者が引き返すしかなかった場所。


 そのさらに奥へと続く道が、今まさに目の前で開かれたのだ。


「……アニキ」


 リトがゆっくりと口を開いた。


「何?」


「ここ……絶対アニキと関係あるだろ」


「…………」


 ユウトは答えず、開かれた通路を見つめた。


 確かに、これまでの出来事を考えれば、そう疑いたくなるのも無理はない。


 最初は敵として襲い掛かってきたゴーレム。


 しかし、ユウトが魔力を使った途端に動きを止め、何かを識別し始めた。


 そして、資格者の存在と帰還を確認したという表示。


 最後には跪き、隠されていた扉まで開いてしまった。


 あまりにも出来すぎている。


「……俺も、そんな気がしてきた」


 ユウトは静かに呟いた。


 この遺跡が何のために造られたのか。


 ガーディアンゴーレムは、一体何を識別したのか。


 そして、誰の帰還を確認したというのか。


 分からないことは増えるばかりだった。


 それでも、一つだけ確かなことがある。


 長い間閉ざされていた遺跡。


 誰にも開くことのできなかった、その先への道。


 それが今、ユウトの前で開かれたのだった。

第272話を読んでいただきありがとうございます!


B+のガーディアンゴーレムとの戦闘中、突如として認められたユウトの「資格」。


そして表示された謎の言葉――「帰還」。


どうやらこの遺跡、ユウトと無関係ではなさそうです。


新たに開かれた道の先には何があるのか。


次回もぜひお楽しみに!


「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!


それでは、また次回お会いしましょう!

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