第二百六十七話 新人冒険者
受けたい依頼を受けるため、仕方なくランク上げを始めることになったユウトたち。
最初に選んだのは、グレイボア三体の討伐依頼。
魔族大陸で初めての討伐依頼に加え、未知の魔物なら新たなスキルを獲得できる可能性も。
こうしてユウトたちのFランク冒険者生活が始まります。
それでは、第267話をお楽しみください!
「よし! ランクを上げるぞ!」
ユウトは再びギルドの掲示板の前に立ち、気合いを入れるように拳を握った。
目の前には、様々な依頼書が所狭しと貼り出されている。
先ほど見つけた遺跡調査の依頼は、Cランク以上でなければ受注できないという。今の自分たちは最下級のFランクなのだから、まずは実績を積む必要があった。
「主! やる気満々っす!」
「当たり前だ!」
隣で嬉しそうに声を上げるシアに、ユウトは胸を張って答えた。
しかし、そんな二人を見ていたシエルが、呆れたように口を開く。
「さっきまで面倒くさそうにしてたくせに」
「……シエル」
「何よ?」
「過去は振り返らない主義なんだ」
「つい数分前の話よ」
「…………」
あまりにも冷静な指摘に、ユウトは何も言い返せなかった。
確かに、つい先ほどまでは一番下からやり直すことを面倒に思っていた。しかし、受けたい依頼がある以上、いつまでも文句を言っているわけにはいかない。
「……それで、アニキ。何受けるんだ?」
リトが掲示板を眺めながら尋ねてきた。
「もちろん!」
ユウトは自信満々に答えようとして、改めて依頼書へ視線を向けた。
薬草採取、荷物の配達、街道の清掃。
どれもFランクから受けられる仕事らしい。人間界で冒険者になったばかりの頃にも、似たような依頼を見た覚えがある。
しかし、ユウトの目が止まったのは、それらとは別の依頼だった。
「……討伐!」
「だと思った」
リトが即座に呟く。
「主! あーしもそれがいいっす!」
「だよな!」
ユウトとシアは嬉しそうに顔を見合わせた。
「なんでそんなに嬉しそうなんだよ」
リトが不思議そうに尋ねると、ユウトは掲示板に貼られた討伐依頼を指差した。
「だってさ、こっちには俺たちが知らない魔物がいるんだぞ?」
「あ!」
その言葉に、シアの目が輝いた。
「知らない魔物ってことは!」
「知らないスキルを持ってるかもしれない!」
「おおー!」
シアが歓声を上げる。
ユウトには、捕食した魔物から能力を取り込む《暴食進化》がある。
人間界では見たことのない魔物が数多く生息しているのなら、それだけ未知のスキルと出会える可能性もあるということだ。
昨日遭遇したトリニティラビットには固有スキルがなかったが、すべての魔物がそうとは限らない。
討伐依頼なら、ランクを上げながら新たな能力を手に入れることもできるかもしれなかった。
「……お前ら、目的変わってないか?」
リトが疑わしそうに二人を見る。
「変わってない!」
「ランク上げは?」
「する!」
「情報収集は?」
「する!」
「スキルは?」
「欲しい!」
「増えてるじゃねぇか!」
リトが思わず声を張り上げた。
「いいだろ! 全部やれば!」
「欲張りね」
シエルが小さく笑う。
「効率的と言ってくれ!」
ユウトは得意げに言い返すと、掲示板から依頼書を一枚剥がした。
「よし、これにする!」
「何の依頼っすか?」
「えーっと……グレイボア三体の討伐」
依頼書には、討伐対象の姿と簡単な説明が記されていた。
灰色の身体を持つ四足歩行の魔物らしいが、ユウトにはまったく見覚えがない。
「グレイボア? 聞いたことないわね」
シエルも初めて耳にする名前だったようだ。
「主!」
「おう!」
「スキルチャンスっす!」
「だな!」
二人の期待がますます膨らんでいく。
「……お前ら、完全にそっちが目的になってんぞ」
リトの呆れ声は、すでに二人の耳には届いていなかった。
◇
「これをお願いします!」
ユウトは選んだ依頼書を持って受付へ向かった。
カウンターにいたのは、先ほど冒険者登録を担当してくれた、頭に小さな二本の角を持つ女性だった。
「はい、確認いたします」
女性は依頼書を受け取り、内容に目を通した。
「グレイボアの討伐ですね」
「うん」
「こちらでしたら、Fランクの皆様でも受注可能です」
「よし!」
ユウトは思わず拳を握った。
先ほどの遺跡調査ではランク不足を理由に断られてしまったが、今度は問題なく受けられるらしい。
しかし、受付の女性はすぐに表情を引き締めた。
「ただし、グレイボアは比較的危険度の低い魔物ですが、突進には十分注意してください」
「分かった」
「討伐数は三体。討伐証明として右耳をお持ちください」
「右耳ね」
「はい。それから――」
「よし! 行こう!」
「主! 待ってっすぅ!」
ユウトが早速出口へ向かおうとすると、シアも慌てて後を追いかけた。
しかし、その背中へ受付の女性から声が飛んできた。
「ちょっと待ってください!」
「……え?」
「まだ説明は終わってません!」
「…………」
ユウトが振り返ると、女性は笑顔を保とうとしながらも、どこか困った表情を浮かべていた。
「依頼場所はこちらから南へ――」
「それなら分かる!」
「なぜですか!?」
「依頼書に書いてあるから」
「……読んではいるんですね」
「当たり前じゃん!」
「それでしたら最後まで話を聞いてください!」
「……はい」
ユウトは大人しくカウンターの前へ戻った。
どうやら、受付で話を最後まで聞かずに飛び出す癖は、人間界にいた頃からあまり変わっていないらしい。
「アニキ……そろそろ怒られるぞ」
リトが小声で忠告する。
「でも、まだ怒られてない!」
「怒ってませんが……」
女性が控えめに口を挟んだ。
「ほら!」
「ただ、最後まで説明を聞いていただきたいだけです!」
「すみません……」
結局、ユウトは素直に頭を下げることになった。
女性は小さく息を吐くと、改めて説明を続けた。
「それと、グレイボアは群れで行動することがあります」
「……群れ?」
「はい。複数で行動している場合は、必要以上に刺激しないよう注意してください。三体の討伐が完了した時点で帰還することをお勧めします」
「なるほど」
ユウトは頷いた。
依頼として必要なのは三体分の討伐証明だ。それ以上の魔物を相手にしても、今回の目的からすれば意味はない。
もっとも、未知のスキルを持っている魔物なら、つい興味が湧いてしまいそうではあったが。
「無理はしないでくださいね」
「分かった!」
「……本当に分かりました?」
「もちろん!」
元気よく答えたにもかかわらず、女性はどこか不安そうな表情を浮かべていた。
「……なんで信用してないの?」
「なぜでしょうね……」
「初対面だよね!?」
「今日だけで何度も、説明を途中で聞かなくなる方ですので」
「…………」
ユウトは言葉を失った。
まだ知り合って間もないというのに、すでに性格を見抜かれてしまった気がする。
「主」
「言うな」
「何も言ってないっす」
隣ではシアが楽しそうに笑っていた。
受付の女性はそんな二人を見て、ようやく柔らかな笑みを浮かべた。
「それでは、お気をつけて」
「おう!」
今度こそユウトたちは出口へ向かった。
しかし、扉を開こうとしたところで、ユウトがふと足を止める。
「あ! そういえば」
振り返ると、受付の女性が不思議そうに首を傾げた。
「はい?」
「名前聞いてなかった」
「……私ですか?」
「うん」
女性は少し戸惑ったようだったが、すぐに微笑んだ。
「ミレアです。受付を担当しております、ミレアと申します」
「ミレア?」
「はい」
「俺はユウト!」
「存じております」
「……え?」
「先ほど登録しましたので」
「…………あ」
ユウトはようやく思い出した。
つい先ほど、彼女の目の前で冒険者登録を済ませたばかりではないか。
「……アニキ」
リトが呆れたように呼び掛ける。
「何だよ!」
「いや、別に」
そう言いながら笑いを堪えているリトに、ユウトは不満そうな顔を向けた。
そんな二人を見て、ミレアも小さく笑う。
「では改めて。お気をつけて、ユウトさん」
「おう!」
今度こそユウトたちはギルドを出ていった。
賑やかな足音が遠ざかり、受付には再びいつもの落ち着きが戻る。
ミレアは扉の方を眺めながら、小さく息を吐いた。
「……変わった方たちですね」
元気があるのは悪いことではない。
ただ、説明を最後まで聞こうとしないところだけは、少々心配だった。
彼女が何度も注意を促したのは、Fランクとはいえ、討伐依頼には危険が伴うからだ。
無事に帰ってきてくれればいいのだが。
そんなことを考えながら、ミレアは次の冒険者を迎える準備を始めた。
この時の彼女はまだ知らなかった。
数時間後、自分が頭を抱えることになるとは。
◇
「……いた!」
アルヴェインから南へ進んだ森の中。
木々の隙間から一体の魔物を見つけたユウトは、足を止めて仲間たちへ声を掛けた。
村から街へ向かう道で見た植物とはまた違う、背の高い木々が周囲に生い茂っている。
枝葉の間から差し込む光が地面にまだらな模様を作り、時折、風に揺れた葉が擦れ合う音が聞こえてきた。
その少し先で、一体の魔物が地面に鼻先を近付けながら歩いている。
「あれがグレイボア……かな?」
ユウトは依頼書に描かれていた姿を思い返した。
四本の脚に、灰色の硬そうな体毛。そして口元から突き出した二本の牙。
見た目は人間界で知っている猪にも似ているが、その体格や牙の迫力は、普通の動物とは明らかに違っていた。
「依頼書の絵と同じね」
シエルが小声で答える。
「じゃあ、あれだな!」
ユウトは嬉しそうに頷いた。
魔族大陸へ来てから初めての討伐依頼。
しかも相手は、これまで見たことのない魔物だ。
「主!」
「分かってる!」
シアに声を掛けられ、ユウトは改めてグレイボアへ視線を向けた。
昨日のトリニティラビットでは、補佐機構の解析が終わる前に気絶させてしまった。
今回は同じ失敗をするつもりはない。
(……まずは解析だな)
そう考えた直後、頭の中に聞き慣れた声が響いた。
『対象の解析を開始します』
(そうそう、これだよな)
「……何してるんだ?」
ユウトが突然黙り込んだことを不思議に思ったのか、リトが首を傾げた。
「ちょっと待って」
「……?」
リトには補佐機構の声が聞こえない。
ユウトはそのままグレイボアの動きを観察しながら、解析結果を待った。
『解析完了』
『対象名称――グレイボア』
『固有スキル《剛突》を確認』
(……おお!)
思わずユウトの表情が明るくなる。
「よし! あるぞ!」
「主? 何がっすか!?」
「スキル!」
「おおー!」
シアも嬉しそうに声を上げた。
「やっぱりそっちが目的になってるじゃねぇか!」
リトの突っ込みが聞こえてきたが、今はそれどころではなかった。
続けて、補佐機構から新たな報告が入る。
『暴食進化による獲得が可能です』
(よっしゃ!)
未知のスキルを手に入れる機会が、早速やってきたのだ。
「主! 食うっすか!?」
「食う!」
ユウトが即答すると、シエルが呆れたように眉をひそめた。
「……まだ倒してすらいないわよ」
「じゃあ倒す!」
「順番がおかしいだろ!」
リトが思わず声を張り上げる。
「どこが!?」
ユウトが言い返した、その時だった。
「グルルル……」
少し離れた場所にいたグレイボアが、こちらへ顔を向けた。
どうやら騒ぎすぎたらしい。
「……気付かれたっす!」
「ちょうどいい!」
ユウトが笑みを浮かべると、グレイボアは地面を強く踏みしめた。
灰色の身体が僅かに沈み込み、口元の牙がこちらへ向けられる。
次の瞬間――。
「ブオオオオッ!」
グレイボアが猛烈な勢いで突進してきた。
重い足音が立て続けに響き、地面の土が勢いよく跳ね上がる。
「おお!」
ユウトの目が輝いた。
先ほど解析で確認した《剛突》というスキル。
名前からして突進に関係する能力なのだろうが、目の前の勢いを見る限り、なかなかの威力がありそうだった。
「主!」
「大丈夫!」
シアの声に答えながら、ユウトはその場から動かなかった。
迫るグレイボアの牙を正面から見据え、軽く片手を差し出す。
「よっ」
ガシッ!
鈍い音が響いた。
「ブ……!?」
グレイボアの動きが止まる。
ユウトが片手で牙を掴み、突進を受け止めていたのだ。
勢いを殺しきれなかったのか、ユウトの身体が僅かに押される。
しかし、それ以上後ろへ下がることはなかった。
「……なるほど。結構力あるな」
ユウトは感心したように呟いた。
グレイボアはなおも前へ進もうと脚に力を込めているが、掴まれた牙はまったく動かない。
その様子を見ていたリトが、何とも言えない表情を浮かべた。
「……アニキ」
「ん?」
「それ、Fランクの魔物なんだよな?」
「そうみたい」
「…………」
リトはしばらく目の前の光景を眺めていたが、やがて頭を掻いた。
「……いや、なんでもねぇ」
「そうか?」
ユウトが首を傾げる。
確かにグレイボアの突進は力強かったが、今のユウトにとっては、特別苦戦するような相手ではなかった。
「主!」
シアが期待に満ちた声を上げた。
「おう!」
「スキル!」
「あ、そうだった!」
「忘れるな!」
リトの突っ込みを受けながら、ユウトは改めてグレイボアへ視線を向けた。
牙を掴まれたまま暴れている魔物には少し悪い気もするが、こちらは討伐依頼を受けているのだ。
それに、せっかく手に入れられるスキルを見逃す理由もない。
「……悪いな」
「ブオッ!?」
「いただきます」
『暴食を発動します』
補佐機構の声とともに、ユウトの前に黒い渦が生じた。
暴れていたグレイボアの身体が渦へ引き込まれ、みるみるうちに姿を消していく。
そして、完全に飲み込まれたところで、頭の中に新たな報告が響いた。
『グレイボアの捕食を確認』
『固有スキル《剛突》を獲得しました』
「よっしゃ!」
ユウトは嬉しそうに拳を握った。
「取れたっすか!?」
「取れた!」
「おおー!」
シアも一緒になって喜んでいる。
魔族大陸へ来てから、初めて手に入れた未知のスキルだった。
これから先、どれほど多くの能力に出会えるのか。
そう考えるだけで、自然と期待が膨らんでくる。
しかし、そんな二人を見つめるシエルの表情は、どこか冷ややかだった。
「……ユウト」
「ん?」
「討伐証明は?」
「…………」
ユウトの動きが止まった。
討伐証明……受付でミレアから説明された、依頼達成のために必要なもの。
確か……。
「……右耳」
ユウトはゆっくりと、先ほどまでグレイボアがいた場所へ視線を落とした。
しかし、そこには何も残っていない。
黒い渦によって、身体ごとすべて捕食してしまったのだから当然だった。
「……食べちゃったっすね」
シアがぽつりと呟く。
「……全部」
「…………」
ユウトはしばらく何も言えなかった。
ようやく新しいスキルを手に入れたというのに、肝心の討伐証明を残し忘れてしまった。
もちろん、グレイボアを倒したことに変わりはない。
だが、ギルドへ持ち帰る証拠がなければ、依頼の討伐数には数えてもらえないだろう。
「……アニキ」
リトが静かに口を開いた。
「……なんだ」
「あと三体だな」
「…………はい」
ユウトはがっくりと肩を落とした。
初めての討伐依頼は、早くも予定外のやり直しとなってしまった。
◇
それからしばらく、ユウトたちは森の中を進んでいた。
先ほどの失敗を繰り返さないためにも、今度こそ討伐証明を忘れないようにしなければならない。
「……いたぞ!」
木々の向こうに灰色の身体を見つけ、ユウトが小声で仲間たちへ知らせた。
「今度は食べるんじゃないわよ」
シエルが念を押す。
「分かってる!」
「右耳っす!」
シアも忘れないように声を掛けてきた。
「分かってるって!」
ユウトは少し不満そうに答えた。
確かに一度失敗したが、さすがに同じ間違いを何度も繰り返すつもりはない。
そう考えながら木々の間を覗き込むと、そこにはグレイボアが三体いた。
一体、二体、三体。
依頼を達成するには、ちょうどいい数だった。
「おお! ちょうど三体じゃん!」
「これならすぐ終わりそうね」
シエルも頷く。
ユウトは気合いを入れ直し、一歩前へ踏み出した。
「よし!」
その時だった。
ガサッ。
「……ん?」
少し離れた茂みが揺れた。
先ほどの三体とは別の場所から聞こえてきた音に、ユウトは足を止める。
続けて、別の方向からも草を掻き分けるような音が響いた。
ガサガサッ。
「…………」
ユウトは周囲へ視線を向けた。
木々の間から、灰色の身体が次々と姿を現している。
最初に見つけた三体だけではなかった。
「……一、二、三……」
ユウトが目で数え始める。
しかし、数えている間にも新たなグレイボアが茂みの奥から現れ、周囲へ広がっていく。
「……多くね?」
「いっぱい出てきたっす」
シアもさすがに驚いたように呟いた。
目の前には、いつの間にか十体以上のグレイボアが集まっていた。
さらにその奥にも、灰色の身体が見え隠れしている。
「……さっきミレアが言ってたな」
リトが思い出したように口を開いた。
「群れで行動することがあるって」
「…………」
ユウトもその言葉を思い出した。
確かにミレアは、グレイボアが群れで行動することがあると説明していた。
必要以上に刺激せず、三体の討伐が終わったら帰還するようにとも。
だが、まさかこれほどの数が集まっているとは思っていなかった。
十体、二十体。
それでもまだ、木々の奥から新たな影が現れている。
低い唸り声があちこちから響き、グレイボアたちはユウトたちを囲むように距離を詰めてきた。
「…………」
ユウトは周囲を見渡した。
依頼の討伐数は三体。
これだけいれば、数だけならあっという間に達成できるだろう。
問題は、その後だった。
「……アニキ」
リトが少し呆れたように声を掛ける。
「なんだ?」
「三体倒したら帰るんだよな?」
「…………」
ユウトは答えず、目の前のグレイボアたちを見つめた。
どの個体も牙を剥き出しにし、今にも飛び掛かってきそうな様子だった。
「……ユウト?」
シエルも不思議そうに声を掛ける。
「…………」
確かに、依頼としては三体倒せば十分だ。
だが、今の状況で三体だけ倒して帰ろうとしたところで、残りの魔物たちが大人しく見送ってくれるとは思えない。
「……いや」
ユウトは困ったように頭を掻いた。
「向こうが帰してくれそうにないんだけど」
その言葉を待っていたかのように、グレイボアたちが一斉に身を低くした。
「ブオオオオオオオッ!!」
森全体に響き渡るような咆哮。
次の瞬間、何十体ものグレイボアが同時に地面を蹴った。
土が跳ね上がり、木々の間に激しい足音が響き始める。
「主!」
シアが声を上げる。
「よし!」
ユウトは迫り来る群れを見据え、拳を構えた。
その表情には、先ほどまでの困惑など微塵も残っていなかった。
「これなら仕方ないよな!」
「何がよ!」
シエルが思わず聞き返す。
「正当防衛!」
「依頼の話でしょう!?」
ユウトは楽しそうに笑った。
最初の一体を相手にした時点で、グレイボアの力はある程度分かっている。
それが何十体集まったところで、今のユウトにとって脅威になるとは思えなかった。
ただ、一つだけ問題があるとすれば――。
(……今度こそ右耳を忘れないようにしないとな!)
そんなことを考えている間にも、魔物たちとの距離は急速に縮まっていく。
そして、先頭のグレイボアが大きく牙を突き出した。
「……よし、来い!」
ユウトが一歩踏み出す。
アルヴェインの南に広がる森の中、静かだった木々の間に、無数のグレイボアの足音が轟いた。
そして数時間後、ギルドで彼らの帰りを待つミレアの嫌な予感は、見事に的中することになるのだった。
第267話を読んでいただきありがとうございます!
初めての討伐依頼で《剛突》を獲得したユウト。
討伐証明まで食べてしまうという失敗はありましたが、残り三体を倒せば依頼達成です。
……三体で済めば、ですが。
そしてミレアの嫌な予感は早くも的中しそうな様子。
彼女の平穏な受付嬢生活は守られるのでしょうか。
次回もぜひお楽しみに!
「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!
それでは、また次回お会いしましょう!




