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転生したら最強種だけどレベルが最弱でした。  作者: マッティー
第二章 広がる世界

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254/322

第二百五十四話 帝国へ

空間転換(クロノシフト)を習得し、聖国ルミナスを後にしたユウトたち。


次に向かうのは、再び帝国。


しかし当然、ゴルダンをそのまま連れて入るわけにはいきません。


そこで今回も、あの方法で潜入することに。


そして皇帝たちには、これまで明かしていなかったある事実を伝えることになります。


それでは、第254話をお楽しみください!

 聖塔ルクシアを後にしてから数日後。


 ユウトたちは長い道のりを経て、再びグランヴァルト帝国の領土を目前にしていた。


 空間転換(クロノシフト)の習得という大きな目的は果たしたものの、帝国にはまだ調べなければならないことが残っている。


 城の地下遺跡から回収された文献も、その一つだった。


 そんなことを考えながら歩いていたユウトが、ふと足を止めた。


「……そういえば」


「なんだ?」


 先を歩いていたリトが振り返る。


 ユウトは仲間たちの顔を順番に見渡し、最後にゴルダンへ視線を向けた。


「ゴルダンどうしよう」


「…………」


 その一言に、ゴルダンの眉がぴくりと動いた。


「……貴様」


「な、なんだよ」


「今気付いたのか?」


「違うって!」


「では何故、ここまで何も言わなかった」


「帝国に着くまでは必要ないだろ!」


 もっともな言い分のつもりだったが、ゴルダンの表情は険しいままだった。


 そんな二人を見て、シエルが呆れたようにため息を吐く。


「前と同じでいいんじゃない?」


「だよな!」


「……前と同じ?」


 リトが不思議そうに首を傾げた。


「ほら、前に帝国へ入った時も、俺の擬態スキルでゴルダンを透明にしただろ?」


「ああ、あれか」


「今回もそれで行こう」


 ユウトは簡単に言ったが、当のゴルダンは露骨に嫌そうな顔をしていた。


「……なんだよ」


「好き好んで姿を消されたい者がいると思うか?」


「仕方ないだろ! その姿で帝国に入ったら大騒ぎになるぞ!」


「それは分かっている」


「じゃあ決まり!」


 ゴルダンは不満そうだったが、反論することはなかった。


 彼自身も、人間の国で魔族としての姿を晒す危険性は理解しているのだろう。


 すると、隣から勢いよく手が挙がった。


「主!」


「なんだよ?」


「あーしも透明になってみたいっす!」


「なんで!?」


「楽しそうっす!」


「遊びじゃねぇんだよ!」


「一回だけ!」


「ダメ!」


「ケチっす!」


「ケチとかじゃない!」


 シアは頬を膨らませたが、ユウトが考えを変える様子はなかった。


 その横で、ゴルダンが深いため息を吐く。


「……早くしろ」


「はいはい」


 ユウトはゴルダンへ手を向け、擬態スキルを発動した。


 すると、ゴルダンの姿が徐々に薄くなり、やがて完全に見えなくなった。


「おお!」


 シアが目を輝かせる。


「やっぱりすごいっす!」


 彼女はゴルダンが立っていた場所を覗き込むようにして、何度も首を傾げた。


「……ゴルダン?」


「いる」


「おおっ!」


「だからなんだ」


「見えないっす!」


「透明なのだから当然だろう」


「声だけするっす!」


 何度も驚くシアに、ユウトは思わず笑ってしまった。


「シア」


「なんっすか?」


「たぶん今、ゴルダンめちゃくちゃ嫌そうな顔してるぞ」


「見えないっす!」


「……貴様ら」


 低い声だけが聞こえてくる。


 どうやら本当に機嫌が悪いらしい。


「よし!」


 ユウトは帝国へ続く道へ向き直った。


「これで入れるな!」


「我はいつまでこのままなのだ」


「帝国を出るまで?」


「…………」


「そんな嫌そうな声出すなよ!」


「顔が見えないから声で判断するしかないっす!」


「黙れ!」


「怒ったっす!」


 ゴルダンの声が一段と低くなる。


 これ以上からかうと本気で怒りそうだったため、ユウトは慌てて歩き始めた。


「ほら、行くぞ!」


 こうして、姿の見えない魔族を一人加えたまま、ユウトたちは再び帝国へと足を踏み入れた。


 ◇


「相変わらず人多いなぁ」


 帝都へ戻ると、大通りには以前と変わらず多くの人々が行き交っていた。


 通り沿いには商店が立ち並び、客を呼び込む声や荷車の音が賑やかに響いている。


 その光景を眺めながら歩いていると、シアが早速何かを見つけたらしい。


「主! あのお肉――」


「今日はダメ」


「まだ何も言ってないっす!」


「どうせ食べたいって言うんだろ?」


「なんで分かったっすか!?」


「分かるわ!」


 ユウトが呆れたように答えると、リトが横で笑った。


 シアは名残惜しそうに店の方を振り返っていたが、今日は寄り道している場合ではない。


 一行はそのまま大通りを進み、やがて皇城へと辿り着いた。


「……ゴルダン」


 ユウトは隣へ顔を向けた。


 もちろん、そこには誰の姿も見えない。


「いる」


「絶対喋るなよ?」


「分かっている」


「皇帝の前で喋ったら大変なことになるからな?」


「分かっていると言っている」


「絶対だぞ?」


「しつこい!」


「声!」


「…………」


 思わず声を荒らげたゴルダンが、慌てたように黙り込んだ。


「もう喋るな!」


「お前のせいだろ」


「だから喋るなって!」


「ユウト」


 シエルが冷たい視線を向けてきた。


「あなたも静かにしなさい」


「……はい」


 自分が騒ぎの原因になっていることを指摘され、ユウトは大人しく口を閉じた。


 そのまま一行は城内へ入り、皇帝の待つ謁見の間へと向かった。


 ◇


「よく戻った!」


 謁見の間へ入ると、皇帝はユウトたちの姿を認め、嬉しそうに笑った。


「無事だったようだな」


「はい!」


「聖国ではどうだった?」


 その問いに、ユウトは待ってましたと言わんばかりに顔を輝かせた。


「それなんですけど……覚えました」


「……何をだ?」


「空間転換(クロノシフト)」


「…………」


 皇帝の表情がぴたりと止まった。


 隣に控えていたルシアンも、驚いたようにユウトを見つめている。


「……今、なんと言った?」


「だから、クロノシフトです」


「…………」


 皇帝はしばらく黙り込み、やがて確認するように口を開いた。


「……本当に?」


「本当です!」


「失われた魔法だぞ?」


「俺もそう聞きました」


「それを……」


 皇帝は額へ手を当てた。


「何日で覚えた?」


「えーっと……」


 ユウトが指を折って数えようとしたところで、シアが勢いよく答えた。


「三日もかかってないっす!」


「シア!」


「…………」


 皇帝は再びユウトへ視線を向けた。


「お前は……」


「なんです?」


「いや……もう驚くのも疲れてきた」


「酷くない!?」


「褒めているんだ」


「絶対違う!」


 ユウトが抗議すると、傍らにいたルシアンが小さく笑った。


「ですが、ユウトさん」


「ん?」


「なぜ空間転換(クロノシフト)を?」


「あ」


 ユウトは思い出したように声を上げた。


「そうか。まだ話してなかった」


「何をだ?」


 皇帝が不思議そうに眉をひそめる。


「実は……」


 ユウトは少し考え、どこから説明するべきか迷った。


 空間転換(クロノシフト)について知るために聖国へ向かったことは話していたが、そもそも何のためにその魔法を探していたのか、詳しく説明していなかったのだ。


「俺たちがいるこの世界とは別に、もう一つ大陸があるみたいなんです」


「……もう一つ?」


「はい」


「海の向こうに、ということか?」


「いや、それが違うんです」


 ユウトは首を振った。


「同じ世界にはないんです」


「…………?」


 皇帝の眉間に皺が寄る。


 当然の反応だった。


 普通なら、別の大陸と聞けば海を隔てた遠い場所を想像するだろう。しかし、ユウトが言っているのはそういう話ではない。


「空間そのものが分かれてるっていうか……」


「待て」


 皇帝が片手を上げた。


「話が見えん」


「俺も最初そうでした」


「でしょうね」


「シエル!」


 ユウトが振り返ると、シエルは小さくため息を吐いた。


「簡単に言えば、私たちがいるこの世界とは異なる空間に、別の大陸が存在しているということです」


「異なる空間……」


 ルシアンが考え込むように呟いた。


「それって……」


「異世界ってことっす!」


 シアが胸を張って答える。


「なんでお前が得意げなんだよ」


「分かりやすく説明したっす!」


「まあ、間違ってないけど」


 ユウトが苦笑する一方で、皇帝は腕を組んだまま考え込んでいた。


 これまでにも数々の不可解な出来事を経験してきた帝国だったが、世界そのものが分かれているという話は、簡単に受け入れられるものではないらしい。


「……にわかには信じ難い話だな」


「ですよね」


「その大陸を、お前たちはどうやって知った?」


「それは……」


 ユウトは一瞬言葉に詰まった。


 グランヴァルト城の地下遺跡。そこに残されていた古代の記録。


 そして、空間転換(クロノシフト)について調べるうちに判明した事実。


 すべてを説明することもできたが、今はどこまで話すべきか判断がつかなかった。


「遺跡で調べていくうちに分かったんです」


 嘘ではない。


 ただ、すべてを話しているわけでもなかった。


 皇帝はその答えを聞き、しばらく考えてから問いを重ねた。


「その大陸の名前は?」


「魔族大陸」


「…………」


 その瞬間、皇帝の表情が変わった。


「……魔族」


「はい」


「では、あの者は……」


「多分、そこから来たんだと思います」


 ユウトも、誰のことを指しているのかはすぐに分かった。


 かつて帝国で騒動を引き起こした魔族、ゴルダン。


 今はまさに、この謁見の間に姿を隠して立っているのだが、それを口にするつもりはなかった。


 皇帝は腕を組み直し、しばらく考え込んでいた。


「……それで空間転換(クロノシフト)か」


「はい」


「普通の方法では行けない場所だから、空間そのものを越える必要があった……」


「そういうことです」


 ようやく話が繋がったらしい。


 しかし、皇帝はそこで一つの疑問に行き着いたようだった。


「そして?」


「?」


「空間転換(クロノシフト)を習得したということは……その魔族大陸とやらへ、行けるのか?」


「はい!」


 ユウトは自信を持って頷いた。


「実際に道を開いて、向こう側まで確認できました」


「…………」


 再び、謁見の間が静まり返った。


 皇帝だけでなく、ルシアンも驚いたように目を見開いている。


「本当に……別の世界があるんですね」


「みたいだな」


 ユウトが答えると、皇帝は深く息を吐いた。


「空間転換(クロノシフト)を習得したという話だけでも十分だったのだがな」


「いやぁ、それはそれは頑張りましたから」


「お前と話していると、常識がいくつあっても足りんな」


「それ褒めてます?」


「今回は褒めていない」


「今回は!?」


 ユウトが思わず声を上げると、とうとうルシアンが吹き出した。


 皇帝も呆れたように笑っていたが、やがて表情を改めた。


「それで、今後はどうするつもりだ?」


「準備が整えば、魔族大陸へ向かうつもりです」


「そうか……」


 皇帝は静かに頷いた。


「それならば、ちょうどよかった。お前たちが聖国へ向かっている間に、研究院から報告が届いている」


「研究院?」


「遺跡から回収した文献についてだ」


 その言葉に、ユウトの表情が変わった。


 まさに、帝国へ戻ってきた理由の一つだった。


「解析が進んだんですか?」


「ああ」


「どれくらい?」


「それについては、直接聞いた方がいいだろう」


 皇帝は落ち着いた様子で頷いた。


「研究院の者がお前たちを待っている」


「分かりました!」


「魔族大陸へ向かう前に、確認しておくといい」


「はい!」


 ユウトたちは礼を告げ、謁見の間を後にしようとした。


「では、失礼します」


「ああ」


 皇帝に背を向け、扉へ歩き始めたその時だった。


「ユウトさん」


「ん?」


 ルシアンに呼び止められ、ユウトは振り返った。


「どうした?」


「いえ……」


 ルシアンは穏やかに微笑んでいた。


 しかし、その視線はユウト本人ではなく、彼のすぐ隣に向けられている。


 そこには、誰の姿も見えないはずだった。


「…………」


 ルシアンは僅かに目を細めると、静かに口を開いた。


「そちらの方にも、よろしくお伝えください」


「…………?」


 ユウトの足が止まった。


「……え?」


「それでは」


 ルシアンはそれ以上何も言わず、何事もなかったかのように頭を下げた。


 ユウトは思わず隣を見た。


 シエル、シア、リトも同じ方向へ視線を向けている。


 だが、そこには当然何も見えない。


 ただ一人、姿を消したゴルダンが立っているはずだった。


 ◇


 謁見の間を出て、扉が閉じられた直後。


 ユウトは足を止め、隣へ顔を向けた。


「……ゴルダン」


「なんだ」


「お前、見えてた?」


「馬鹿を言え」


「だよな?」


「ああ」


 ゴルダン自身にも、姿を現した覚えはないらしい。


 ユウトは振り返り、閉じたばかりの扉を見つめた。


「じゃあ……あいつ、なんで分かったんだ?」


「さあな」


 ゴルダンの返答は素っ気なかったが、その声には僅かな疑問が混じっているようにも聞こえた。


「やっぱりルシアンって変わってるっすね!」


「お前には言われたくないと思うぞ」


「なんでっすか!?」


 リトの言葉に、シアが不満そうな声を上げる。


 しかし、その横でシエルだけは黙って謁見の間の扉を見つめていた。


 先ほどのルシアンの視線。


 そして、あの意味深な言葉。


 何かが気になっている様子だったが、今のところ確かめようもなかった。


「……シエル?」


 ユウトが声を掛けると、シエルは小さく首を振った。


「……なんでもないわ。それより、研究院へ行くんでしょう?」


「あ、そうだった!」


 ユウトは思い出したように手を叩いた。


「行こう!」


 シエルが歩き始めると、ユウトたちもその後へ続いた。


 研究院では、地下遺跡から回収された文献の解析が進められているという。


 聖国へ向かう前には解読できなかった記録も、今なら何か新しいことが分かるかもしれない。


 ユウトはそんな期待を胸に、研究院へと足を向けた。

第254話を読んでいただきありがとうございます!


再び帝国へ戻ってきたユウトたち。


空間転換(クロノシフト)の習得だけでも驚きの報告でしたが、今回はついに皇帝とルシアンにも「魔族大陸」の存在が明かされました。


そしてユウトたちが聖国へ向かっている間にも、遺跡から回収された文献の解析は進んでいたようです。


魔族大陸へ向かう前に、まずは研究院へ。


以前はほとんど読み解くことのできなかった文献から、今度は何が明らかになるのでしょうか。


そして――。


姿を消していたはずのゴルダンに、なぜルシアンは気付いたのか。


相変わらず謎の多い皇太子です。


次回もぜひお楽しみに!


「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!


それでは、また次回お会いしましょう!

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