第二百五十二話 空間転換
魔族大陸の空間座標を特定し、固定することに成功したユウト。
長かった空間転換の習得も、いよいよ最後の段階へ。
残された課題はただ一つ。
現在いる空間と魔族大陸――二つの空間を繋ぎ、「道」を作ること。
失われた魔法への挑戦も、ついに決着です!
それでは、第252話をお楽しみください!
「……最後」
ユウトは魔法陣の中央に立ち、改めてルミナへ視線を向けた。
「本当にこれで最後なんですよね?」
「はい」
「絶対?」
「はい」
「実はもう一段階――」
「ありません」
「よっしゃ!」
即答され、ユウトは嬉しそうに拳を握った。
「そんなに嫌だったの?」
シエルが呆れたように尋ねる。
「嫌じゃないよ! 大変なんだよ!」
「主、頑張ったっす!」
「シア……!」
優しい言葉に思わず感動したユウトだったが、シアはにっこりと笑って続けた。
「三日も経ってないっすけど!」
「一言余計な!」
リトが横で吹き出した。
そんな一行を見ていたルミナは、穏やかな笑みを浮かべながら魔法陣へ歩み寄った。
「では、最後の工程について説明しましょう」
「はい!」
「二つの空間を繋ぎます」
その言葉に、ユウトも表情を引き締めた。
「まずは現在いる空間の座標を認識してください」
「今いる場所?」
「正確には、今いる空間そのものです」
「…………」
ユウトは少し考え込んだ。
場所の座標ならまだ分かるが、空間そのものと言われると途端に難しく感じられる。
「難しい?」
「説明の時点で既に難しい」
「でしょうね」
「そこは否定して!」
ルミナは小さく笑うと、説明を続けた。
「ですが、これまで行ってきたことと大きな違いはありません」
「本当に?」
「はい。現在いる空間を起点として固定し、先ほど登録した魔族大陸の座標へ接続するのです」
ルミナは両手を離して構え、それぞれの手で異なる空間を示した。
「そして、二つの空間の境界を一時的に重ね合わせます」
ゆっくりと両手が近付き、重なった。
「それができれば、道が開きます」
「……なるほど」
ユウトは頷きながら、これまでの工程を思い返した。
空間の境界を認識し、そこへ魔力を接続する。狭間から目的地を探し出し、座標を固定する。
そのすべてを終えた今、ようやく二つの空間を繋ぐ段階まで辿り着いたのだ。
「……やってみます」
深く息を吐いたユウトに、ルミナが声を掛ける。
「ユウト」
「はい?」
その表情は、先ほどまでとは違って真剣だった。
「絶対に無理はしないでください。異常を感じたら、すぐに接続を切ること」
「分かってます」
「絶対に、ですよ」
「…………」
「返事は?」
「はい!」
「よろしい」
ようやく満足した様子で頷くルミナを見て、リトが小さく笑った。
「アニキ……子供みたいだな」
「うるさい!」
ユウトは言い返しながらも、今度こそ気持ちを切り替えた。
魔法陣の中央で姿勢を正し、ゆっくりと目を閉じる。
(補佐機構)
『はい』
(……いよいよだな)
『肯定』
(頼むぞ)
『補助を開始します』
周囲の音が遠ざかり、仲間たちの気配も意識から薄れていく。
暗闇の中に細い光が浮かび上がった。
空間の境界。
ユウトは慣れた手順でそこへ魔力を伸ばし、接続を維持したまま空間の狭間へ意識を向けた。
『接続状態――安定』
(よし)
『現在空間の座標情報を取得』
(もう!?)
『現在地ですので』
(……なるほど)
あまりにも早い解析に驚いたが、言われてみれば納得できる。
『起点座標を固定』
『接続先を指定してください』
(魔族大陸)
『登録座標――魔族大陸を選択』
『二点間の空間接続を開始します』
(…………!)
何もないはずの狭間に、二つの光が現れた。
これまで見てきた空間の境界とは違い、二つの存在をそれぞれ示しているようだった。
(……これが)
『起点座標』
『接続先座標』
(これを繋げば……)
『肯定』
ユウトは意識を集中させ、自らの魔力を伸ばしていく。
片方の光から、もう片方へ。
これまで何度も失敗してきた魔力操作を思い出しながら、出力を乱さないよう慎重に近付けた。
そして、二つの光が触れた瞬間――。
(――っ!?)
激しく弾けた。
繋がりかけた魔力が押し戻され、二つの光が離れていく。
『接続失敗』
(なんで!?)
『二点間の魔力位相に差異を確認』
(魔力位相!?)
『現在空間と対象空間では、魔力の性質が異なります』
(どうすればいい!?)
『接続時の魔力を対象空間へ適合させる必要があります』
(そんなこと言われても!)
『解析します』
(頼む!)
補佐機構はすぐに魔族大陸の魔力情報を参照し、適合処理を開始した。
ユウトは接続を維持しながら、その報告を待つ。
『対象――魔族大陸』
『魔力情報を参照』
『適合処理を開始』
そして、僅かな間を置いて――。
『完了』
(早っ!)
『再試行を推奨します』
(……よし!)
ユウトは一度接続を切り、目を開いた。
「――ふぅ」
「失敗?」
シエルが尋ねると、ユウトは小さく頷いた。
「ああ」
「何が原因だ?」
「魔力の……位相?」
「なにそれ?」
「俺も分かんない!」
「堂々と言うな」
リトが呆れたように言うが、ユウトにも詳しいことは分からなかった。
「でも、補佐機構が何とかしてくれた!」
「結局それっすね!」
「頼れるものは頼る!」
「潔いわね……」
シエルが苦笑する。
ユウトは再び魔法陣へ向き直った。
「もう一度やります」
今度こそ成功させる。そう思いながら、静かに目を閉じた。
◇
『二点間座標を確認』
『魔力位相――適合』
『接続を開始します』
(…………)
空間の狭間に、再び二つの光が現れた。
ユウトは自らの魔力を意識し、ゆっくりと接続先へ伸ばしていく。
先ほどとは違い、魔力そのものが僅かに変化しているのが分かった。
これなら、異なる空間の境界にも適合できるかもしれない。
(……いけ!)
少しずつ距離が縮まっていく。
あと少し。もう少しだけ。
そして、ついに二つの光が重なった。
『接続を確認』
(…………!)
『空間境界の一時的統合を開始』
その瞬間だった。
何もなかった空間に、亀裂が走った。
「――っ!」
ユウトが目を開く。
すると、現実の魔法陣の中央にも、同じような亀裂が現れていた。
「な……」
シエルが息を呑む。
「なんっすか……これ……」
シアも目を見開いたまま動けずにいた。
巨大な魔法陣の上。
先ほどまで何も存在しなかった場所に、空間そのものを切り裂いたような亀裂が広がっている。
その向こうには、聖塔の白い壁とはまるで異なる景色があった。
赤黒い空。
剥き出しになった荒々しい岩山。
そして遥か遠くには、巨大な城のような影が見えている。
「…………」
誰も言葉を発することができなかった。
目の前に広がっているのは、ここまで旅をしてきた人間界とは明らかに異なる風景だった。
ユウトはその光景を呆然と見つめていたが、やがてある人物へ視線を向けた。
「……ゴルダン」
「…………」
ゴルダンは返事をしなかった。
ただ、亀裂の向こうに広がる景色をじっと見つめている。
「……どう?」
ユウトが静かに尋ねると、ゴルダンの表情が僅かに緩んだ。
「……間違いない」
「…………!」
「この魔力、この空気……そして、この景色」
ゴルダンは言葉を確かめるように、ゆっくりと続けた。
「我らの大陸だ」
「…………」
その言葉を聞いた瞬間、ユウトの胸に喜びが込み上げてきた。
ゴルダンが故郷へ帰るために探し続けていた魔法。
その魔法によって、今まさに魔族大陸へ通じる道が開かれている。
「……できた」
『肯定』
頭の中に、補佐機構の声が響いた。
『異空間接続に成功』
『術式構築完了』
『空間転換を習得しました』
「…………!」
ユウトは目を見開いた。
何度も失敗を繰り返しながら、ようやく辿り着いた結果。
その報告を聞いた瞬間、堪えていた喜びが一気に溢れ出した。
「よっしゃあああああ!!」
ユウトが勢いよく拳を突き上げる。
「やったっす!!」
シアも両手を上げて喜んでいた。
「うるせぇ!」
「リトも笑ってんじゃん!」
「まあな」
リトは照れくさそうに笑った。
その隣では、シエルも嬉しそうに微笑んでいる。
「やったわね、ユウト」
「ああ!」
ユウトは大きく頷くと、今度はルミナへ顔を向けた。
「ルミナ様!」
「はい」
「できました!」
「ええ」
ルミナは穏やかな表情で頷いた。
「おめでとうございます」
「ありがとうございます!」
ユウトは嬉しそうに頭を下げた。
しかし、その直後だった。
「ですが……そろそろ閉じた方がよろしいかと」
「……え?」
『警告』
『魔力消費量が増大しています』
「先に言ってよ!!」
『現在、報告しました』
「またそれかよ!!」
補佐機構の返答に、ユウトは思わず声を上げた。
確かに、空間の亀裂を維持するための魔力は今も消費され続けている。
成功したことが嬉しくて、すっかり忘れていたのだ。
「主! 早く閉じるっす!」
「分かってる!」
ユウトは慌てて魔力を切断した。
すると、目の前に広がっていた空間の亀裂が、ゆっくりと閉じ始めた。
赤黒い空も、岩山も、遠くに見えていた城のような影も、次第に見えなくなっていく。
「…………」
その最後の瞬間まで、ゴルダンは亀裂の向こうを見つめていた。
やがて亀裂は完全に消え、部屋には元の静けさが戻った。
「…………」
ユウトはしばらく魔法陣を眺めていたが、やがて力が抜けたようにその場へ座り込んだ。
「……終わった」
大きく息を吐く。
「疲れたぁ……」
「お疲れ様」
シエルが笑いながら声を掛けた。
ユウトは天井を見上げ、先ほどまで目の前に広がっていた光景を思い返した。
「……これで、魔族大陸へ行けるんだな」
「ああ」
答えたのはゴルダンだった。
ユウトが顔を向けると、彼はもう亀裂の消えた場所から目を離していた。
「ようやくな」
「…………」
ユウトは小さく笑った。
失われた古代魔法、空間転換。
幾つもの手掛かりを辿り、試行錯誤を繰り返した末に、ついにその力を手に入れた。
人間界と魔族大陸。
本来は繋がることのない二つの世界を結ぶ道が、今、確かに開かれたのだった。
第252話を読んでいただきありがとうございます!
ついに――!
ユウトが空間転換を習得しました!
空間の境界を認識するところから始まり、境界への接続、異なる空間の探索、座標の固定。
いくつもの段階を乗り越え、ついに世界と世界を繋ぐ「道」を作ることに成功!
そして亀裂の向こうに広がっていたのは、ゴルダンの故郷――魔族大陸。
これでようやく、ユウトたちは自らの力で魔族大陸へ渡る手段を手に入れました。
しかし、まだ向こう側へ渡ったわけではありません。
空間転換を習得した今、ユウトたちは次に何をするのでしょうか。
物語もいよいよ、大きく動き始めます。
次回もぜひお楽しみに!
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それでは、また次回お会いしましょう!




