第二百五十話 第三段階
空間の境界への魔力接続に成功し、その先に存在する「空間の狭間」を感じ取ったユウト。
しかし、空間転換は狭間を移動する魔法ではありません。
次なる課題は、狭間を介して繋ぐべき「異なる空間」を見つけること。
ユウトのクロノシフト習得も、いよいよ第三段階へ突入します!
それでは、第250話をお楽しみください!
「……空間の狭間」
ユウトは自分の手を見つめながら、先ほどの感覚を思い返していた。
ほんの一瞬触れただけだったが、上下も左右も存在せず、何もないはずなのに果てしなく広がっているような、あの奇妙な感覚は今も鮮明に残っている。
「何もないのに……なんか変な感じだったな」
「怖かった?」
シエルが尋ねると、ユウトは少し考えてから首を傾げた。
「んー……怖いっていうより、気持ち悪い?」
「同じようなもんじゃねぇか」
「違うんだよ!」
「何が?」
「分かんないけど!」
「じゃあ同じじゃねーか」
「うるさいなぁ!」
リトが笑う横で、シアが興味津々といった様子で身を乗り出した。
「主! あーしも見てみたいっす!」
「やめとけ」
「なんでっすか!?」
「消えるかもしれないぞ」
「やめとくっす!」
「判断早ぇな!」
「主に言われたくないっす!」
「確かにね」
「シエル!?」
あっさり意見を変えたシアを笑ったつもりが、逆に自分のことを指摘されてしまった。
そんな一行を見ていたルミナが、小さく笑みを零す。
「ふふっ。では、次の段階へ進みましょうか」
「もう!?」
ユウトが驚いて顔を上げる。
つい先ほど、ようやく空間の狭間へ接続できたばかりだ。もう少し落ち着く時間が欲しいところだった。
「やりたくないのですか?」
「やります!」
「どっちだよ」
「怖いのと覚えたいのは別!」
「面倒くせぇ奴だな」
「ほっとけ!」
リトへ言い返しながらも、ユウトは再び魔法陣へ視線を向けた。
恐ろしい感覚だったのは確かだが、ここまで来て諦めるつもりはない。
ゴルダンを故郷へ帰すためにも、空間転換を習得する必要があるのだ。
ルミナは魔法陣の近くまで歩くと、一行へ向き直った。
「先ほど、私は空間転換についてこう説明しました。空間の狭間を経由し、異なる空間座標同士を繋ぐ魔法だと」
「はい」
「ですが、一つ訂正しておきましょう」
「訂正?」
「正確には、狭間を移動する魔法ではありません」
「…………?」
ユウトが首を傾げると、隣のシエルが口を開いた。
「どういうこと?」
「狭間を経由し、二つの異なる空間を接続するのです」
「……同じじゃないの?」
「違います」
「即答!」
ルミナは小さく微笑むと、両手を少し離して構えた。
「例えば、こちらが私たちのいる空間」
右手を示し、続けて左手へ視線を移す。
「そして、こちらが別の空間。この二つは、本来繋がっていません」
「うん」
「空間転換は、空間の狭間を利用して、この二つを一時的に繋ぎます」
そう説明しながら、ルミナはゆっくりと両手を近付けていった。
やがて二つの手が重なる。
「そこに道を作るのです」
「…………」
ユウトは重なった両手を見つめ、ようやく説明の意味を理解し始めた。
「じゃあ……俺自身が狭間をずっと移動するわけじゃない?」
「その通りです」
「よかったぁ!」
「そこ?」
シエルが呆れたように言う。
「だってあそこ気持ち悪いんだって!」
「安心するのはまだ早いですよ」
「……え?」
ルミナは再び両手を離した。
「その道を作るためには、繋ぐ先を見つけなければなりません」
「…………」
ユウトの表情が固まった。
「……どうやって?」
「探します」
「…………」
あまりにも簡潔な答えだった。
「それだけ!?」
「それだけです」
「空間の狭間で!?」
「はい」
「何もないのに!?」
「ありますよ」
「何が!?」
「別の空間が」
「そういうこと聞いてない!」
ユウトが頭を抱えると、シアが不思議そうに首を傾げた。
「主、探し物苦手っすか?」
「普通の探し物ならできるよ!」
「この前宿で籠手探してなかったか?」
リトの言葉に、ユウトがぴたりと動きを止める。
「…………」
「装備してたわね」
「言うな!」
「アニキ……」
「そんな目で見るな!」
シエルの追い打ちに、リトまで哀れむような視線を向けてきた。
ルミナはそんな様子を楽しそうに眺めていたが、やがて説明を続けた。
「ふふっ。ですが、今回は目で探すわけではありません」
「じゃあ?」
「魔力です」
「……魔力?」
「異なる空間には、それぞれ異なる魔力の流れがあります。その違いを、狭間の中から探すのです」
「なるほど……」
ユウトは魔法陣を見下ろした。
何も見えず、距離も方角も分からない場所から、魔力の違いを頼りに別の空間を探す。
自分一人では難しそうだが、幸いにも頼れる存在がいた。
「それなら補佐機構が何とかしてくれそう」
『解析可能です』
「ほら!」
「……何が?」
「あ」
思わず声に出してしまい、ユウトは口を閉じた。
「また一人で会話してるっす!」
「恥ずかしいから言うな!」
シアが笑う横で、ルミナは穏やかに微笑んだ。
「準備は?」
「……できてます!」
「では、始めましょう」
ユウトは再び魔法陣の中央に立ち、ゆっくりと目を閉じた。
(補佐機構)
『はい』
(今度は別の空間を探すんだって)
『把握しています』
(……聞いてたの?)
『常時情報を取得しています』
(…………)
『問題がありますか?』
(ちょっと怖い)
『理解不能』
(だろうな!)
『集中してください』
(はい……)
ユウトは余計な考えを振り払い、意識を研ぎ澄ませた。
周囲の音が遠ざかり、仲間たちの気配も次第に薄れていく。
そして、何もない暗闇の中に細い光が現れた。
空間の境界。
ユウトはそれを安定して認識すると、自らの魔力を細く伸ばしていった。
前回は何度も失敗した工程だが、今回は魔力の出力を乱すことなく、境界へ近付けていく。
『空間境界との接続を確認』
(…………!)
今度は一度で成功した。
(……よし)
『第三段階へ移行します』
(頼む)
次の瞬間、再び周囲の感覚が失われた。
上下も左右もなく、距離という概念さえ存在しない。
空間と空間の狭間。
先ほど体験した、あの奇妙な感覚だった。
(……別の空間)
ユウトは意識を集中させ、周囲を探ろうとした。
しかし、どこへ感覚を向ければいいのか分からない。
そもそも、この場所には方角も距離も存在しないのだ。
(……分かんねぇ)
『解析を開始します』
(頼む)
補佐機構の声を聞きながら、ユウトは意識を広げていった。
何もない……魔力の流れを探そうにも、何を基準に違いを見つければいいのか見当もつかなかった。
時間だけが過ぎていく。
(……ない)
『検索を継続します』
(…………)
ユウトはさらに意識を広げた。
すると――。
(……ん?)
何かが引っ掛かった。
先ほどまでとは、ほんの僅かに異なる感覚。
何が違うのかは分からないが、確かに何かを感じたのだ。
(今……)
『異常を検知』
(あった!?)
『不明』
(そこは断言してよ!)
『解析中』
ユウトはその感覚へ意識を集中させた。
遠くにあるようにも感じる。
だが、この場所で遠いという表現が正しいのかさえ分からなかった。
方角も距離もない。
それでも、自分たちのいる空間とは違う何かが、確かに存在している。
(……これ)
『異なる魔力情報を検知』
(…………!)
『現在空間との一致率――低』
『別空間である可能性があります』
(……見つけた?)
『現段階では特定不能』
(やっぱり!)
思わず突っ込みそうになったが、今はそれどころではない。
ようやく見つけた手掛かりを逃さないよう、ユウトは意識を保ち続けた。
『解析を継続しますか?』
(もちろん!)
さらに感覚を研ぎ澄ませ、未知の魔力情報を追っていく。
しかし、その直後だった。
『警告』
(……え?)
『魔力消費量が急速に増加しています』
(マジ!?)
ユウトは初めて、自分の魔力が想像以上の速度で消耗していることに気付いた。
『接続維持限界まで――』
(待て待て待て!)
『切断を推奨』
(分かった!)
ユウトは慌てて魔力を切断した。
その瞬間、失われていた感覚が一気に戻ってくる。
「――っ!」
足元には魔法陣。
目の前には、心配そうにこちらを見つめる仲間たちの姿があった。
「はぁ……はぁ……」
ユウトはその場に膝をつき、荒い呼吸を繰り返した。
「ユウト!」
「主!」
シエルとシアが慌てて駆け寄ってくる。
「大丈夫?」
「……大丈夫」
ユウトは何度か深呼吸をして、ようやく顔を上げた。
「それより……多分、見つけた」
「……?」
その言葉に、ルミナの表情が変わった。
「別の空間を?」
「まだ分かんないけど……」
ユウトは頷き、先ほど感じたものを思い返す。
「俺たちがいるところとは、明らかに違う何かがあった。補佐機構も別空間の可能性があるって」
「……そうですか」
ルミナは静かに魔法陣へ視線を落とした。
その表情は穏やかだったが、ユウトの報告を慎重に受け止めているようだった。
「では、第三段階も始まりましたね」
「……始まった?」
ユウトは思わず聞き返す。
別の空間らしきものを見つけたのだから、少しくらい進んだと思いたかった。
しかし、ルミナの説明は続いた。
「まだ見つけただけです」
「…………」
嫌な予感がした。
「……次は?」
「その空間が何なのかを特定し、座標を固定します」
「……はい」
「その後――」
「まだあるの?」
「道を繋ぎます」
「…………」
ユウトはしばらく黙り込み、それからゆっくりと天井を見上げた。
「空間転換……覚えること多すぎない?」
「失われた魔法ですから」
「ですよねぇ……」
ユウトは力なく肩を落とした。
空間の境界を認識し、そこへ魔力を接続する。
そして、狭間から異なる空間を探し出し、座標を固定して道を繋ぐ。
思っていた以上に複雑な魔法だったが、ここまで進んできたことも事実だった。
まだ空間転換を使えるようになったわけではない。
それでも、一歩、また一歩とユウトは確実に、失われた魔法へ近付いていた。
第250話を読んでいただきありがとうございます!
今回明らかになった、空間転換の仕組み。
狭間を移動するのではなく、異なる二つの空間を一時的に接続し、その間に「道」を作る魔法でした。
そしてユウトは、狭間の中から現在いる世界とは異なる魔力情報を発見!
まだ何の空間なのかは分かりませんが、空間転換習得へ向けて大きく前進しました。
次なる課題は、その空間の正体を特定し、座標を固定すること。
果たしてユウトが見つけたものは、探し求めていた空間なのでしょうか。
次回もぜひお楽しみに!
「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!
それでは、また次回お会いしましょう!




