↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら最強種だけどレベルが最弱でした。  作者: マッティー
第二章 広がる世界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
246/322

第二百四十六話 女神ルミナ

ついに開かれた、聖塔ルクシア最上層の扉。


その先でユウトたちを待っていたのは、この国で女神として信仰される存在――ルミナ。


なぜ彼女はユウトたちを最上層へ招いたのか。


そして、空間転換(クロノシフト)について何を知っているのでしょうか。


それでは、第246話をお楽しみください!

 重厚な音を響かせながら、巨大な扉がゆっくりと開いていく。


 その向こうに広がる光景を目にしたユウトは、思わず息を呑んだ。


 聖塔ルクシアの最上層。


 そこは、これまで通ってきた塔の内部とは、まるで異なる空間だった。


 白を基調とした広々とした部屋には、大量の書物が壁一面に並べられている。磨き上げられた床には巨大な魔法陣が描かれ、その複雑な模様は、ユウトがこれまで目にしてきたものとは明らかに違っていた。


 そして何より目を引いたのは、部屋の奥に設けられた大きな窓だった。


 そこからは、遥か彼方まで広がるルミナスの街並みが一望できる。


 白い建物が整然と並び、街を行き交う人々の姿さえ、ここからでは小さな点のようにしか見えなかった。


「うわぁ……すごいっす……」


 普段は賑やかなシアも、珍しく声を潜めている。


 その隣では、リトが窓の外へ視線を向けながら呆然と呟いた。


「ここ何階なんだよ……」


「途中で数えるの諦めた」


「アニキが途中まで数えてたことに驚きだわ」


「暇だったんだよ!」


 ユウトが言い返すと、すぐ隣から冷たい声が飛んできた。


「静かにしなさい」


「はい」


 シエルに一言で黙らされ、ユウトは慌てて口を閉じる。


 そんなやり取りをしていた時だった。


「ふふっ」


「…………」


 聞き覚えのない、柔らかな笑い声が響いた。


 ユウトが顔を上げると、部屋の奥にある窓辺に、一人の女性が立っていた。


 長い髪を背に流し、白を基調とした衣を纏っている。


 見た目だけなら、ユウトたちとそれほど年齢が離れているようには見えない。


 しかし、その佇まいには不思議な落ち着きがあり、ただそこに立っているだけで、周囲とは異なる雰囲気を感じさせた。


(……この人が?)


 ユウトが戸惑っていると、先導していた大司教が静かに歩み出た。


「ルミナ様」


 老人は女性の前で立ち止まり、深く頭を下げる。


「お連れいたしました」


「ありがとう」


 ルミナは穏やかに微笑んだ。


「では、私はこれで」


「……え?」


 大司教が踵を返そうとしたところで、ユウトが慌てて振り返った。


「帰っちゃうんですか?」


「はい」


「俺たち置いて!?」


「私の役目はあなた方をこちらへお連れすることでしたから」


 大司教は何でもないことのように答えた。


 しかし、ユウトとしてはそう簡単に納得できない。


 目の前にいるのは、この国で女神として信仰されている存在なのだ。


 そんな相手と突然顔を合わせ、何をどう話せばいいのかも分からない。


「だって女神だぞ!?」


「大丈夫ですよ」


「……え?」


 不意に、ルミナが口を開いた。


「取って食べたりはしませんから」


「…………」


 ユウトは固まった。


 数秒遅れて、自分の声が部屋中に響いていたことを思い出す。


「……聞こえてた」


「普通に喋ってただろ」


「リト!」


「ふふっ」


 再びルミナが笑った。


「本当に賑やかな方たちですね」


「すみません……」


 ユウトは思わず頭を下げたが、ルミナは気にした様子もなく首を振った。


「謝る必要はありません。ここまで声が響いたのは久しぶりですから」


 その声には、どこか楽しそうな響きがあった。


 しかし、ユウトは素直に喜んでいいものか判断できず、リトへ小声で尋ねた。


「……それ褒められてる?」


「多分違うと思うぞ」


「また!?」


 思わず声を上げるユウトを見て、大司教も苦笑していた。


「それでは」


 老人は改めて深く頭を下げると、静かに部屋を後にした。


 やがて巨大な扉が閉じられ、重い音が室内へ響き渡る。


 その音が消えると、それまでの賑やかさが嘘のように静かになった。


「…………」


 ユウトは改めてルミナへ視線を向けた。


 白い衣を纏った女性は、相変わらず穏やかな笑みを浮かべている。


 しかし、相手は女神だ。


 何を話せばいいのか分からず、ユウトの頭の中には妙な緊張だけが広がっていく。


(……気まずい!)


「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」


「えっ」


「顔に書いてあります」


「今日それ二回目!」


 思わず叫ぶユウトに、リトが呆れたように肩をすくめた。


「アニキ分かりやすいからな」


「うるさい!」


 そんな二人のやり取りを見つめていたルミナが、ふとユウトへ向き直った。


「あなたがユウトですね」


「…………え?」


 ユウトの動きが止まった。


 確かに、これまでにも何度か名前を呼ばれたことはある。しかし、初対面の相手に突然名前を言い当てられると、やはり驚いてしまう。


「なんで俺の名前を?」


「…………」


 その問いに、ルミナも一瞬だけ言葉を止めた。


 だが、すぐに穏やかな表情へ戻る。


「……大司教から聞きました」


「あ、なるほど!」


 ユウトはあっさりと納得した。


 その隣で、シエルが僅かに目を細める。


 ルミナの返答までに生まれた、ほんの短い間。


 何かが引っ掛かったようだったが、確かめるだけの理由もない。


「……何でもないわ」


 ユウトが不思議そうに顔を向けると、シエルは小さく首を振った。


 そんな二人の様子をよそに、ルミナは再びユウトを見つめていた。


「…………」


「…………」


 しばらくして、その視線が気になったユウトが口を開く。


「……あの」


「はい?」


「俺の顔、何か付いてます?」


「いいえ」


「じゃあなんでそんなに見るんです?」


 ルミナはすぐには答えなかった。


 ほんの一瞬、その瞳が僅かに揺れる。


 まるで何かを確かめようとしているようでいて、同時に、答えを口にすることを躊躇っているようにも見えた。


「少し……」


「少し?」


「懐かしい気配を感じたものですから」


「……俺から?」


「ええ」


 ユウトは思わず自分の身体を見下ろした。


 何か変わったところがあるわけでもない。


 ましてや、目の前の女性とは今日初めて会ったはずだった。


「どっかで会いました?」


「いいえ」


「ですよね」


 ルミナの返答は迷いのないものだった。


「俺、この国初めてだし」


「……そうですね」


 彼女は静かに微笑んだ。


 しかし、その笑みは先ほどまでとは少し違って見えた。


 どこか寂しそうで、何か遠いものを見つめているような表情。


 ユウトはその変化に気付かなかったが、シエルだけは黙ってルミナの様子を見ていた。


「それより!」


 突然、ユウトが声を上げた。


 先ほどまでの疑問はどこへやら、思い出したように身を乗り出す。


「聞きたいことがあるんです!」


「切り替え早ぇな」


「だってそのために来たんだから!」


 リトへ言い返すと、ユウトは改めてルミナへ向き直った。


 すると、こちらが口を開くよりも先に、彼女が静かに告げる。


「空間転換(クロノシフト)ですね」


「そう! クロノ――」


 そこでユウトの言葉が止まった。


「……なんで知ってるんです?」


 ルミナは穏やかな表情のまま、何も答えない。


 ユウトは少し考えてから、先ほどのやり取りを思い出した。


「……大司教から?」


「ええ」


「ですよね!」


 あっさり納得したユウトに、リトが呆れたような視線を向けた。


「……アニキ」


「何だよ?」


「お前もうちょっと疑えよ」


「ちゃんと聞いたじゃん!」


「納得するのが早ぇんだよ」


「だって大司教から聞いたって!」


「私はまだ何も言っていませんよ?」


「…………」


 ユウトが固まる。


 ルミナはそんな反応を見て、小さく笑った。


「冗談です」


「女神がそういうことする!?」


「いけませんか?」


「いや、ダメとは言わないけど!」


 思っていた女神の印象と、目の前のルミナは少し違う。


 もっと厳かで、簡単には話し掛けられないような存在を想像していたのだが、実際は随分と親しみやすい女性だった。


「主、遊ばれてるっす!」


「シア!」


 シアが楽しそうに笑うと、ルミナも微笑んだ。


「面白い方ですね」


「また言われた!」


 ユウトは頭を抱えたが、ルミナの表情は終始穏やかだった。


 ただ、その視線は時折、ユウトへと向けられている。


 何かを確かめようとしているような眼差し。


 シエルはその様子を見逃さなかったが、今は何も口にしなかった。


「それで」


 ルミナが静かに話を戻した。


「空間転換(クロノシフト)を習得したいのですね?」


「はい」


 ユウトも表情を引き締める。


 自分たちがここまで来たのは、失われた古代魔法について知るためだ。


 ルミナがどこまで詳しいのかは分からないが、大司教以上のことを知っている可能性は十分にある。


「なぜです?」


「……え?」


「失われた魔法を求める理由です」


 ルミナの問い掛けに、ユウトは少しだけ考えた。


 自分たちは魔族の世界について知りたいと思っている。


 世界が三つに分かれた理由も気になるし、その向こうに何があるのかも確かめたい。


 しかし、今ここまで来た理由は、それだけではなかった。


「それは……」


 ユウトは隣に立つゴルダンへ視線を向けた。


「こいつを故郷に帰すためです」


「…………」


 その言葉を聞いた瞬間、ルミナの表情が僅かに止まった。


「……故郷?」


「はい」


「それは……どこです?」


「魔族大陸」


「…………!」


 ほんの僅かだったが、ルミナの瞳が見開かれた。


 その表情には驚きだけでなく、何か別の感情も浮かんでいるように見えた。


「それが……今の名なのですね」


「……?」


 ユウトは首を傾げた。


「今の名?」


「いえ」


 ルミナは静かに首を振った。


「こちらの話です」


「…………」


 何とも意味深な返答だったが、それ以上説明するつもりはないらしい。


 ユウトが困惑している間に、ルミナの視線はゴルダンへと移っていた。


「あなたが……」


「ゴルダンだ」


 ゴルダンは短く名乗った。


 彼は先ほどからほとんど口を開かず、ルミナの様子をじっと観察していた。


「…………」


「……何だ」


「いいえ」


 ルミナは僅かに目を細める。


「本当に……懐かしい魔力ですね」


「…………!」


 その言葉に、ゴルダンの表情が変わった。


 魔族の魔力は、こちらの世界ではほとんど知られていない。


 聖国へ入った際に声を掛けてきた者たちでさえ、古い文献を頼りに、その特徴を推測していたほどだ。


 だというのに、目の前の女性は、まるで実際に知っているかのように語っている。


「……貴様」


 ゴルダンの声が低くなる。


「はい?」


「なぜ我らの魔力を知っている」


 その問いに、部屋の空気が静まった。


 ユウトも、シエルも、シアも、リトも、自然とルミナへ視線を向ける。


 彼女は穏やかな表情のままだったが、すぐには答えなかった。


「それは――」


 僅かな沈黙の後、静かに微笑む。


「もうずいぶん長く生きていますから」


「…………」


 ユウトは数秒考えた末、思わず声を上げた。


「それだけ!?」


「それだけです」


「絶対なんか隠してる!」


 あまりにもあっさりした答えに、ユウトは納得できなかった。


 しかし、その肩をシエルが掴む。


「ユウト」


「何だよ!」


「女神に向かってその言い方はやめなさい」


「だって!」


「ふふっ。構いませんよ」


 ルミナは楽しそうに笑った。


 だが、シエルは容赦なく首を振る。


「ルミナ様も甘やかさないでください!」


「シエル!?」


「あなたが調子に乗るでしょう」


「俺の扱い!」


 そのやり取りに、ルミナは再び笑みを零した。


 先ほどまでの静かな雰囲気とは違い、どこか楽しそうにも見える。


 しかし、ゴルダンだけは依然として訝しげな眼差しを向けていた。


 彼女が魔族の魔力を知っている理由について、納得したわけではないようだった。


「……さて」


 やがてルミナは話を切り替えるように口を開き、部屋の中央へ歩き始めた。


 そこには、床一面に広がる巨大な魔法陣が描かれている。


 複雑な線と紋様が重なり合ったその魔法陣は、これまでユウトが見てきたものとも異なる構造をしていた。


「空間転換(クロノシフト)のお話でしたね」


「はい!」


 ユウトはすぐに彼女の後を追った。


 すると、ルミナは魔法陣の手前で足を止め、静かに振り返った。


「その前に一つ」


「?」


「あなたは、どこまで理解していますか?」


「……どこまで?」


 ユウトは少し考えながら、これまで調べてきた内容を思い返した。


 グランヴァルト城の地下遺跡。


 帝国図書館。


 そして、この聖塔の研究区画。


 各地で得た情報は、少しずつ繋がり始めていた。


「空間座標」


「はい」


「空間への干渉までは研究記録で読みました」


「では――空間の境界は?」


「……それが分からなくて」


 ユウトが正直に答えると、ルミナは小さく頷いた。


「やはり」


「……?」


 まるで最初から分かっていたかのような反応だった。


 ユウトは少し不思議に思ったが、ルミナは構わず説明を続ける。


「空間転換(クロノシフト)を発動するためには、空間の境界を認識しなければなりません」


「それ、大司教にも聞きました」


「ですが」


 ルミナの声が、僅かに真剣さを帯びた。


「認識するだけでは足りません」


「……え?」


 ユウトが眉を寄せる。


 研究区画では、空間の境界を認識することが発動条件だと説明されていた。


 しかし、それだけでは不十分だという。


 ルミナはゆっくりと魔法陣の中央へ歩みを進めた。


「境界を認識し、そこへ自らの魔力を接続する」


「……接続?」


「そして初めて」


 ルミナは足を止め、ユウトへ向き直った。


「異なる空間へ道を繋ぐことができます」


「…………」


 ユウトは目を見開いた。


 それは大司教から聞いた説明よりも、遥かに具体的な内容だった。


 これまでの研究記録には、空間への干渉や座標についての理論は記されていた。


 しかし、肝心の境界をどう扱うのかまでは分からなかったのだ。


(……認識して、魔力を接続する)


 ユウトはその言葉を頭の中で繰り返した。


 もしルミナの説明が正しいのなら、彼女は空間転換(クロノシフト)の発動に必要な仕組みを理解していることになる。


 それどころか、実際に使用した経験があるのではないか。


 そんな疑問が浮かび、ユウトは思わず一歩前へ出た。


「……ルミナ様」


「はい?」


「もしかして……」


 ユウトは期待を隠し切れないまま尋ねた。


「空間転換(クロノシフト)、使えるんですか?」


「…………」


 ルミナは答えなかった。


 ただ、いつもの穏やかな笑みを浮かべている。


「……使えないんですか?」


 ユウトが首を傾げる。


「使えるんですか?」


 しかし、返事はない。


「どっち!?」


「ユウト!」


 とうとうシエルが止めに入った。


「なんだよ!」


「焦りすぎよ!」


「だって気になるじゃん!」


 ユウトが不満そうに言い返す。


 そんな様子を見て、ルミナは再び小さく笑った。


 その笑みの奥に、どのような思いが隠されているのか。


 そして、なぜ彼女が失われたはずの空間転換(クロノシフト)について、これほどまでに詳しいのか。


 ユウトはまだ、その理由を知らなかった。

第246話を読んでいただきありがとうございます!


ついに姿を現した女神ルミナ。


神秘的な存在……かと思いきや、ユウトをからかって楽しむ意外な一面もあるようです。


しかし、魔族の魔力を知り、失われたはずの空間転換(クロノシフト)についても詳しすぎる彼女。


どうやら、まだ何かを隠しているようですが――。


まずはクロノシフトの習得が最優先!


果たしてユウトは、空間の境界を認識することができるのでしょうか。


次回もぜひお楽しみに!


「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!


それでは、また次回お会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。