第二百三十六話 決着
ついに見えた、ゴルダンの防御を突破する可能性。
一人では届かない。
ならば――四人で届かせる。
ゴルダンとの戦い、ついに決着です!
それでは、第236話をお楽しみください!
『シエル! シア!』
「分かってる!」
「任せるっす!」
ユウトの声と同時に、二人が動いた。
シエルは左。
シアは右。
ゴルダンを挟み込むように別々の方向から一気に距離を詰めていく。
「何度やっても同じだ!」
ゴルダンが両腕を広げる。
身体の内側から噴き出した黒い魔力が外皮を覆い、先ほど解析した防御層が瞬く間に形成されていった。
「その程度の攻撃など――」
『狙うのは身体じゃない!』
「何?」
「はぁっ!」
先に到達したのはシエル。
狙うのはゴルダン自身ではなく、その表面を覆う――黒い魔力。
銀色の剣が鋭く振り抜かれた。
ギィンッ!!
「っ……!」
硬い。
まるで見えない壁へ剣を叩きつけたような反動がシエルの腕を襲う。
刃は弾かれた。
「無駄だ!」
「一人ならね!」
「!」
ゴルダンの表情が変わる。
反対側。
「せぇぇいっす!」
シアが身体を捻り、強烈な蹴りを叩き込んだ。
ドガァンッ!!
「ぐっ!」
狙った場所はシエルと同じ。
剣撃を受けた直後、まだ魔力の流れが僅かに乱れている一点だった。
バチッ――!
「なっ……」
黒い魔力が激しく明滅するが完全には崩れていない。
だが確実に揺らいだ。
『そこだ!』
正面、ユウトが翼を打つ。
巨体が一気に加速した。
「させるか!」
ゴルダンが拳を振り抜く。
だが今のユウトは、もう真っ直ぐ突っ込むだけではない。
『おっと!』
「なにっ!?」
衝突寸前で翼を傾け、尾を振る。
巨大な身体が鋭く軌道を変え、ゴルダンの拳を紙一重で横へ抜けた。
『飛ぶのにも慣れてきたんでね!』
そのまま背後へ身体を回転させる。
長い尾が大きくしなった。
『おらぁ!』
ドガァァンッ!!
「ぐぉっ!」
背中へ直撃。
ゴルダンの身体が地上へ向かって叩き落とされる。
『リトォ!』
「待ってたぜ!」
地上。
その声が響くより先にリトはすでに剣を構えていた。
「俺だけずっと暇だった分――!」
『そこは言わなくていい!』
「うるせぇ! こっちはマジで暇だったんだよ!」
落下してくるゴルダンを見据える。
「今度こそ働かせてもらうぞ!」
地面を強く蹴った。
剣を振り上げながら落下地点へ飛び込む。
「舐めるな!」
ゴルダンもただ落ちてくるだけではない。
空中で強引に身体を捻り、迫るリトへ拳を振り下ろした。
「っ!」
『リト!』
「分かってる!」
真正面から剣で受ける。
そう見えた。
だが拳が届く直前。
「誰が正面からやるっつった!」
リトが横へ飛ぶ。
「何!?」
狙いを失った拳が地面へ叩き込まれた。
ズドォンッ!!
岩盤が大きく砕け、亀裂が四方へ走る。
「くっ……!」
地面へ拳を突き立てたゴルダンの動きが、ほんの一瞬止まった。
「今だ!」
『ナイス!』
上空からユウトが一気に急降下する。
狙いは先ほど揺らがせた一点。
「甘い!」
『!』
ゴルダンの翼が開いた。
全身から黒い魔力が爆発する。
ドンッ!!
『ぐっ!?』
至近距離から放たれた衝撃に、ユウトの巨体が押し返された。
「きゃっ!」
「うおっす!?」
「ぐっ!」
シエル、シア、リトもまとめて吹き飛ばされる。
「我の防御を崩すだと?」
砕けた地面からゴルダンがゆっくりと立ち上がった。
「笑わせるな!」
乱れていた黒い魔力が再び全身へ巡り始める。
「その程度で我の防御を――」
『させるか!』
「!」
ユウトが体勢を立て直すより早く突っ込んだ。
「何度来ようと同じだ!」
ゴルダンの拳。
避ける……そう思ったのだろう。
だがユウトは今度は避けなかった。
『ぐっ!』
両腕を上げる。
ドガァンッ!!
巨大な拳がユウトの腕へ直撃した。
『ぐぅっ……!』
鱗越しに凄まじい衝撃が骨まで響く。
身体が後ろへ押される。
それでも。
『まだ……!』
翼を強く広げた。
空気を掴み。
強引に踏み止まる。
「なにっ!?」
ゴルダンの目が見開かれた。
『捕まえた!』
巨大な爪がその腕を掴んだ。
「っ!」
ゴルダンが即座に振りほどこうとする。
「離せ!」
『離すかよ!』
「貴様!」
反対の拳がユウトの顔面へ叩き込まれた。
ドガッ!!
『ぐっ!』
「離せ!」
もう一発。
ドンッ!!
『ぐぅ……!』
「主!」
「ユウト!」
シアとシエルの声が響く。
『来るな!』
「何?」
『まだ!』
ユウトはゴルダンの腕をさらに強く握り締めた。
(ここで離したら――また防御を戻される!)
「いい加減に――」
ゴルダンが拳を振り上げる。
『嫌だね!』
「貴様っ!」
『今だ!!』
「――!」
ゴルダンが初めて周囲を見る。
左右、すでに二つの影が迫っていた。
「はぁぁっ!」
「いくっすよ!」
シエル。
シア。
二人が同時にゴルダンの胸部へ攻撃を叩き込む。
狙いは同じ一点。
ギィィンッ!!
「ぐぅっ!」
剣と蹴り二つの衝撃が重なり、形成されかけていた魔力防御が激しく揺れた。
『もう一回!』
「ええ!」
「了解っす!」
間を置かない二撃目、シエルの剣が同じ場所へ。
ギィンッ!!
ほぼ同時にシアの拳が突き刺さる。
ドンッ!!
バチバチッ――!
「な……!」
黒い魔力の表面に亀裂のような揺らぎが走った。
「馬鹿な……!」
『まだだ!』
ユウトは離さない。
「三発目!」
シエルが踏み込む。
「合わせるっす!」
シアも。
そして。
「俺もいるぞ!」
「っ!?」
ゴルダンの視線が下へ向いた。
リト。
空では届かなかったが、今は違う。
ユウトが無理やりゴルダンを地上へ引きずり下ろしている。
「ようやく届いたぜ!」
リトが走り込む。
「うおおおおおっ!!」
剣を思い切り振り抜いた。
シエルの剣。
シアの拳。
リトの剣。
三つの攻撃が全く同じ一点へ重なった。
ガァァンッ!!
「ぐぅぅっ!」
黒い魔力が激しく明滅する。
そして。
パキンッ。
「…………」
小さな。
本当に小さな音だった。
「……な」
ゴルダンの顔から余裕が消える。
「なっ……馬鹿な……」
胸部を覆っていた黒い魔力へひびが入った。
次の瞬間。
パァンッ!!
砕け散る。
黒い光の欠片が周囲へ弾けた。
『今だ!!』
ユウトがようやくゴルダンの腕を離した。
翼を大きく開く。
一度、強く羽ばたいた。
ドンッ!!
一気に後方へ。
距離を取る。
「させるか!」
ゴルダンがすぐさまユウトを追おうとする。
「行かせない!」
正面へシエル。
「主の邪魔はさせないっす!」
右からシア。
「今は俺たちと遊んでんだろうが!」
左からリト。
三人が同時にゴルダンへ飛び掛かった。
「どけぇぇぇぇ!!」
ドンッ!!
ゴルダンの魔力が再び爆発する。
「くっ!」
「うわっす!」
「ぐあっ!」
三人の身体がまとめて吹き飛ぶ。
だが、それで十分だった。
◇
『よし……!』
距離を取ったユウトは。
姿勢を整える。
右腕。
そこへ意識を集中させた。
(普通に殴るだけじゃダメだ)
魔力による防御は崩した。
だがゴルダンの外皮そのものが硬いことは変わらない。
(だったら)
もっと強く。
一発であの外皮ごと貫ける威力を。
「…………」
ユウトの右爪へ魔力が集まる。
その瞬間。
ボッ――!
炎が灯った。
「……!」
ゴルダンの表情が変わる。
『これ……』
ユウト自身も右腕を見る。
炎を外へ放たない。
爪へ。
拳へ。
腕へ。
留める。
(人化した時にもやった)
魔法を飛ばさない。
自分の身体へ纏わせる。
ただし、今は人の身体ではない。
終焉竜成体。
その巨大な右腕全体を炎が包み始める。
ゴォォォォッ!!
『……っ!』
熱気が周囲の空気を歪ませる。
黒い鱗の隙間から赤い炎が燃え上がる。
「何を……!」
『これなら――』
さらに魔力を流し込む。
《警告》
『今はいい!』
《魔力残量が――》
『分かってる!』
これで終わらせる。
燃え上がる炎がさらに大きくなる。
『届くだろ!』
ユウトが翼を限界まで広げた。
「…………」
ゴルダンもそれを見て追うのをやめた。
「来るか……終焉竜」
『ああ!』
三人に崩された胸部の魔力防御。
まだ完全には戻っていない。
「…………」
ゴルダンは逃げなかった。
右拳を引く。
残っている魔力の全てをそこへ集めていく。
黒い光が拳を包む。
「来い!!」
『うおおおおおおおおっ!!』
ユウトが一直線に飛んだ。
小細工はない。
これまでの戦いの中で最も速く、真っ直ぐに炎を纏った右腕を引き絞る。
迎え撃つゴルダンの拳。
そして二つが真正面から激突した。
ドォォォォォォンッ!!!
爆炎。
衝撃。
地面が大きく揺れ、周囲の岩が砕け、暴風がシエルたちの髪や衣服を激しく揺らす。
「ぐ……!」
『おおおおおおっ!!』
「ぐぅぅぅぅ……!」
炎と黒い魔力の二つの力が真正面から押し合う。
「馬鹿な……!」
ゴルダンの足元が僅かに後ろへ滑る。
『ぐっ……!』
ユウトも余裕などない。
右腕が悲鳴を上げている。
残る魔力もほとんどない。
それでも押す。
「我が……!」
ゴルダンの腕が少しずつ押し戻されていく。
「我が……押し負けるだと……!」
『一人じゃ――』
「っ!」
ユウトの脳裏に三人の姿が浮かぶ。
最初に防御を揺らしたシエル。
同じ一点へ攻撃を重ねたシア。
地上から最後の一撃を届かせたリト。
『一人じゃ無理だったよ!』
「…………!」
自分だけなら、この拳はまだ届かなかった。
『でも――』
右腕を包む炎がさらに激しく燃え上がる。
『俺たちは!!』
最後の力を全て込める。
『四人だ!!』
「ぬおおおおおおっ!!」
ゴルダンの魔力が弾けた。
「――っ!?」
ユウトの拳がその防御を突き破る。
ドガァァァァンッ!!
「ぐあああああああっ!!」
炎を纏った一撃がゴルダンの身体を捉えた。
その巨体が地面から浮く。
吹き飛ぶ。
背後の岩壁へ凄まじい勢いで叩きつけられた。
ズドォォォォンッ!!
岩壁が陥没する。
大量の岩石が崩れ、土煙が辺り一帯を覆い尽くした。
「…………」
ユウトは空中で止まったまま右腕を下げる。
『はぁ……はぁ……』
息が。
荒い。
翼を維持することすら少しずつ苦しくなってきている。
「…………」
「…………」
「…………」
シエル。
シア。
リト。
三人も何も言わず土煙の向こうを見ていた。
やがて風が吹き、土煙がゆっくりと晴れていく。
「…………」
岩壁。
大きく抉れたその中心に一つの影が見えた。
ゴルダンが岩へ背中を預けるようにして座り込んでいる。
「…………見事だ」
『!』
ユウトの表情が変わる。
まだ意識があるが、ゴルダンはもう立ち上がろうとはしなかった。
「我の……負けだ」
「…………」
「もう……指の一本も動かぬ」
『…………』
その声から敵意は消えていた。
ユウトはゆっくり地上へ降りていく。
足が地面へ触れた瞬間。
『解除……』
竜化を解く。
黒い巨体を魔力の光が包み込んだ。
巨大な輪郭が縮み、翼が消え鱗が薄れていく。
そして、再び人の姿へ戻った。
「…………」
一歩、歩こうとして。
「はぁ……」
力が抜けた。
その場へどさりと座り込む。
「疲れたぁ……!」
「…………」
シエルがそんなユウトを見下ろす。
「締まらないわね」
「いいだろ……」
ユウトが地面へ両手をつく。
「勝ったんだから……」
「主、お疲れっす!」
シアが駆け寄ってくる。
「アニキ!」
リトも少し遅れて隣まで走ってきた。
「マジで最後だけ全部持ってったな!」
「最後だけって言うなよ!」
「俺なんてやっと戦えたと思ったら数回斬っただけだぞ!」
「でもあれなかったら勝てなかったって!」
「……ならいいけどよ」
「単純ね」
「シエル!?」
いつもの声、いつものやり取り。
ユウトは三人を順番に見る。
「…………」
そして少しだけ笑った。
「みんなも、お疲れ」
「ええ」
「お疲れっす!」
「おう!」
四人で勝った。
ただ喜んでいるだけではいられない。
「…………」
ユウトは岩壁のゴルダンへ視線を向けた。
一度はまともに戦うことすら想像できなかった相手。
そのゴルダンへ四人で勝った。
だが、本当に知りたかったことはまだ何一つ聞けていない。
「よいしょ……」
ユウトが立ち上がる。
「大丈夫?」
「足プルプルしてるっすよ」
「見れば分かること言わないで!」
「休んでからでもいいんじゃない?」
「いや」
ユウトは首を横へ振った。
「今聞く」
「…………」
ゴルダンの前までゆっくり歩いていく。
相手はもう動かない。
それでも赤い瞳だけはしっかりとユウトを捉えていた。
「さて」
「…………」
ユウトがゴルダンの前で立ち止まる。
「約束だったよな?」
「……ああ」
戦いの前。
勝てば知っていることを話す。
そういう約束だった。
「なら」
ユウトは真っ直ぐその赤い瞳を見つめる。
「教えてもらうぞ」
「…………」
魔王とは一体何者なのか。
この世界で何をしようとしているのか。
そして、目の前の男ゴルダン。
「お前は――」
ユウトの声が僅かに低くなる。
「一体、どこから来た?」
第236話を読んでいただきありがとうございます!
ついにゴルダンとの戦いに決着!
一度は戦うことすら想像できなかった相手に、ユウトたち四人の力で勝利することができました。
そして最後の一撃となったのは、ユウトが見つけた新たな魔法の使い方。
まだまだ発展途上ですが、これからどのような戦い方へ進化していくのか、ぜひ楽しみにしていただければと思います!
しかし、戦いは終わっても疑問は残っています。
ゴルダンの言う「魔王」とは何者なのか。
そして彼は、一体どこからやって来たのか――。
物語は、新たな真実へと進み始めます。
次回もぜひお楽しみに!
「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!
それでは、また次回お会いしましょう!




