第二百三十五話 最終ラウンド
ついに全ての力を解放したゴルダン。
これまでとは比べものにならない力を前に、ユウトたちはどう立ち向かうのか。
いよいよ戦いは最終ラウンドへ!
それでは、第235話をお楽しみください!
「ここからが――本当の戦いだ」
『それ、さっきも聞いた気がするんだけど!?』
ユウトの声が山岳地帯へ響く。
「黙れ」
『やっぱ気にしてるだろ!』
ゴルダンの眉間に僅かに皺が寄った。
シアが横から小さく呟く。
「主、完全に怒らせたっすね」
『俺のせい!?』
「間違いなくあなたのせいよ」
『シエルまで!』
いつも通りのやり取りだが、冗談を言っていられたのはそこまでだった。
ドンッ!!
『――っ!?』
空気が爆ぜる。
目の前にいたはずのゴルダンの姿が、一瞬にして消えた。
(速――)
そう思った時には。
「遅い!」
『ぐおっ!?』
視界いっぱいに黒い拳が迫っていた。
ドガァンッ!!
巨大な拳がユウトの顔面へ叩き込まれ、黒い巨体が空中を大きく吹き飛ぶ。
『くそっ!』
すぐさま翼を広げる。
空気を掴み、崩れた体勢を強引に立て直した。
だが。
「まだだ!」
『なっ!?』
顔を上げた時には、すでにゴルダンが目の前にいた。
(もう追いついた!?)
黒く硬質化した脚が振り抜かれる。
避けきれない。
ユウトは咄嗟に両腕を上げた。
ドンッ!!
『ぐぅっ!』
衝撃が腕から全身へ突き抜けた。
巨体が数メートル沈む。
(重っ……!)
先ほどまでとは比較にならない。
速さだけではない。純粋な力も明らかに上がっている。
『だったら!』
ユウトは押し返すように身体を捻り、右の爪を振り抜いた。
ゴルダンの胸へ直撃する。
ギィンッ!!
『硬っ!?』
まるで金属同士をぶつけたような音。
爪は確かに当たった。だが、黒く変質した胸部には僅かな傷すら残っていない。
「無駄だ」
『マジかよ……!』
「この姿となった我に、その程度の攻撃は通じん!」
ゴルダンが拳を振り上げる。
「終わりだ!」
『まだ始まったばっかだろ!』
ユウトも爪を突き出した。
拳と爪。
二つの力が真正面からぶつかり合う。
ドォォンッ!!
衝撃波が円状に広がり、眼下の木々が大きく揺れた。
『ぐっ……!』
「ぬぅ……!」
今度はどちらか一方が押し負けることはなかった。
互いの身体が反対方向へ弾かれる。
『へへっ……』
ユウトは翼を広げ、空中で止まった。
『やっぱ強ぇな』
「当然だ」
『でも――』
ゴルダンを見据える。
口元が上がった。
『戦える!』
翼を強く打つ。
ドンッ!!
一気に加速。
「来い!」
ゴルダンも正面から迎え撃った。
再び二つの影が交差する。
ドンッ!
一撃。
ギィンッ!
二撃。
そして三撃。
ゴルダンの拳をユウトが腕で受け、間髪入れず爪を振るう。
ゴルダンが身体を捻って躱した直後、ユウトの尾が横薙ぎに迫った。
「甘い!」
翼を傾け、ゴルダンが急上昇する。
(上!)
少し前のユウトならそこで完全に見失っていた。
だが今は違う。
『そこだ!』
「なにっ!?」
ユウトも翼を傾け、巨体を捻る。
上昇したゴルダンを追うように、そのまま空中で反転した。
ギィンッ!!
爪と拳が再び激突する。
「僅かな間で……よくもここまで!」
『何度も言わせんな!』
ユウトが笑う。
『慣れてきたんだよ!』
「ならば!」
ゴルダンが距離を取り、両手を前方へ突き出した。
『……また追いかけてくるやつか?』
黒い魔力が掌の間へ集まっていく。
だが先ほどとは違う。
小さな魔力弾が多数生まれる様子はない。
その全てが一箇所へ凝縮されていく。
「同じものだと思うな!」
『そりゃそうだわな!』
黒い球体が急速に膨れ上がる。
一メートル。
二メートル。
さらに膨大な魔力が押し込まれ、巨大だった球体が逆に小さく圧縮されていく。
「…………」
シエルの表情が変わった。
「ユウト! 避けて!」
『分かってる!』
「消えろ!」
ゴルダンの両手から。
黒い閃光が放たれた。
『うおっ!?』
太い黒光が空を貫く。
ユウトは反射的に翼を傾け、横へ飛んだ。
その僅か横を黒い光が通過する。
ズドォォォンッ!!
「…………!」
遥か背後の岩山に直撃した。
大爆発。
大量の岩石と土煙が吹き飛び、山肌が大きく抉れる。
『……マジかよ』
ユウトの頬が引きつる。
(あれ食らったらさすがにヤバいぞ……)
「避けている暇があるのか?」
『!』
ゴルダンはすでに次を構えていた。
「喰らえ!」
二発目。
『くそっ!』
ユウトが急上昇する。
黒光が足元を通過。
「まだだ!」
三発目。
身体を捻って回避する。
四発目。
『しつこい!』
大きく旋回。
ユウトの後ろを黒い光が追うように山岳地帯を切り裂いていく。
(追尾しないだけマシだけど……!)
一発一発の威力が桁違いだった。
しかも、避けるたびゴルダン自身も距離を詰めてくる。
「逃がさん!」
『ちっ!』
黒光を避けた直後に拳が迫るが、ユウトは爪で弾く。
その隙に次の魔力が溜まる。
(このままじゃ……)
避け続けるだけで終わる。
こちらから攻撃へ移ろうにも硬い。
先ほど爪を直撃させても、ほとんど傷がつかなかった。
そしてもう一つ。
「…………」
ユウトは自分の身体へ意識を向けた。
(やっぱり……)
妙な疲労感。
人化状態ではまだ感じていなかったものだ。
『補佐機構』
《はい、マスター》
『俺の魔力、減ってるよな?』
《肯定》
『やっぱりか……』
《現在の竜化状態は人化状態と比較し、魔力消費量が大幅に増加しています》
『どのくらい?』
《継続戦闘を推奨できる残存量ではありません》
『分かりにくい!』
《長期戦は非推奨》
『最初からそう言え!』
だが内容は十分理解した。
(身体能力が上がった分……維持するだけでも使ってるのか)
竜化してから圧倒的に強くなった。
速い。
力もある。
飛べる。
だが、当然何の代償もないわけではない。
(長引けば……こっちが先にきつくなる)
「どうした!」
ゴルダンの黒光が迫る。
『考え事してんだよ!』
「戦いの最中にか!」
『お前に言われたくねぇ!』
急降下して回避する。
その時。
「ユウト!」
『シエル!』
銀色の影がユウトの横を抜けた。
「はぁっ!」
シエルがゴルダンへ一気に接近する。
「邪魔だ!」
「っ!」
ゴルダンが腕を横薙ぎに振るった。
シエルは剣を立てて受ける。
ギィンッ!!
「くっ……!」
受け止めきれない。
シエルの身体が大きく吹き飛ばされた。
「シエル!」
シアが即座に追う。
「任せるっす!」
空中でシエルを受け止め、二人でどうにか体勢を立て直す。
「大丈夫っすか!?」
「ええ……」
シエルはすぐにゴルダンへ視線を戻した。
手にした剣。
そしてゴルダンの腕を見る。
「でも」
『どうした?』
「硬すぎるわ」
先ほどの一撃。
剣は確実に触れていた。
だがほとんど傷がついていない。
『やっぱりか……』
ユウトも同じだった。
「攻撃自体は当たる」
シエルが言う。
「でも、今の外皮を抜けない」
『俺の爪でもダメだった』
「自分もやってみるっすか?」
『いや、今は待て』
「了解っす」
三人が少しだけ距離を取る。
「どうした?」
ゴルダンがゆっくりと上昇してくる。
先ほどまでとは明らかに違う余裕。
「その程度か、終焉竜」
『…………』
「認めよう」
ゴルダンはユウトを真っ直ぐ見据えた。
「今の貴様は強い」
『そりゃどうも』
「だが」
両手の周囲に再び黒い魔力が集まり始める。
「その程度では、この身体を突破することはできん」
『…………』
「だからこそ――」
魔力が膨れ上がる。
「我が全力をもって」
赤い瞳が細くなる。
「ここで葬る」
『……だからさ』
「何?」
ユウトが小さく息を吐いた。
『さっきから、それなんだよ』
「何を言っている」
『お前』
ユウトがゴルダンを見る。
『俺一人と戦ってるつもりになってないか?』
「…………」
僅かな沈黙。
『俺たちは――』
ユウトが視線を動かす。
左。
シエル。
右。
シア。
そして。
下。
地上でずっと戦況を見上げているリト。
『四人だぞ』
「…………」
ゴルダンは一度地上のリトを見た。
「ふん」
鼻で笑う。
「空を飛ぶことすらできぬ者を含めてか?」
「聞こえてんぞコラァァ!!」
「…………」
『…………』
「…………」
遥か下から。
リトの怒声が響いてきた。
『耳いいな、お前!』
「さっきからお前ら声デカいんだよ!」
『それはごめん!』
「謝るところそこかよ!」
「……本当に緊張感がないわね」
シエルが呆れたように呟く。
だがユウトは笑っていた。
『リト!』
「なんだ!」
『ちょっと手伝ってくれ!』
「やっとかよ!」
リトが待ってましたと言わんばかりに剣を抜く。
「ずっと待ってたわ!」
『悪い悪い!』
「俺だけ地上から応援係かと思ってたぞ!」
『ちゃんと出番あるって!』
「で!」
リトが剣を構える。
「何すりゃいい!」
『それは――』
ユウトはゴルダンへ視線を戻した。
「…………」
硬い。
爪が通らない。
シエルの剣もほとんど傷をつけられない。
なら。
(通る場所を作ればいい)
ユウトの目がゴルダンの全身を走る。
腕。
胸。
腹部。
脚。
顔。
全身。
黒く。
硬質化している。
(本当に……全部同じなのか?)
皮膚そのものが純粋に強化されているだけなのか、それとも別の何かがあるのか。
「補佐機構」
《はい、マスター》
『ゴルダンの身体、もっと詳しく解析できる?』
《可能です》
『頼む』
《解析を開始します》
ユウトの視界。
意識の中でゴルダンの身体へ解析が向けられる。
「…………」
数秒。
ゴルダンもそんなユウトを見ながら、すぐには仕掛けてこなかった。
「何を企んでいる?」
『さぁな』
「その程度の時間稼ぎで何が変わる」
『結構変わるかもよ?』
「…………」
ゴルダンの目が細くなる。
《解析完了》
『きた』
《対象の身体表面に高密度の魔力循環を確認》
(魔力?)
《硬質化した外皮そのものに加え、魔力による防御層が重ねられているものと推測します》
『防御層……』
ユウトはもう一度ゴルダンを見る。
(なるほど)
皮膚自体が硬くなっている。
それは間違いないが、それだけではない。
その表面へ魔力を巡らせ、さらに防御を上乗せしている。
(二重になってるってことか)
《肯定》
『じゃあ、その魔力の防御が消えれば?』
《対象外皮への攻撃効率が上昇する可能性があります》
『どのくらい?』
《実行データなし。測定不能》
『そこは分かんないのかよ!』
《肯定》
『まぁいい!』
十分だった。
(皮膚を壊そうとするんじゃない)
ユウトの口元が少しずつ上がる。
(先に……上の防御を剥がす)
完全に消せなくてもいい。
一瞬。
ほんの一瞬だけ魔力の流れを乱せれば、その瞬間へ残りの攻撃を叩き込む。
『みんな!』
三人がユウトを見る。
「何か分かった?」
『ああ』
「本当っすか?」
『たぶん突破できる』
「たぶん?」
シエルの眉が動く。
『そこ突っ込むなよ!』
「大丈夫なの?」
『やってみないと分かんない!』
「…………」
『そんな顔すんなって!』
「いつも通りね」
『何が!?』
「あなたらしい作戦」
『まだ作戦説明してないけど!?』
シアが笑う。
「でも主っぽいっす」
『お前まで!?』
下から。
「おーい!」
リトの声。
「俺にも分かるように説明しろよ!」
『今する!』
ユウトは、ゴルダンを見据えたまま声を張った。
『あいつの硬さ、皮膚だけじゃない!』
「…………?」
ゴルダンの表情が僅かに変わる。
『身体の表面に魔力を回して、防御を二重にしてる!』
「なに……?」
シエルがゴルダンを見る。
「だから攻撃が通らなかったのね」
『多分な!』
「で、どうするっすか?」
『先にその魔力の防御を崩す!』
「その後は?」
ユウトが笑う。
『全員で同じところをぶっ叩く!』
「…………」
「…………」
「…………」
シエル。
シア。
地上のリト。
三人が一瞬黙った。
『何!?』
「……作戦って言うほどのものかしら」
『分かりやすいだろ!』
「主らしいっす!」
「結局力技じゃねぇか!」
『うるせぇ! 効けばいいんだよ!』
「まあ」
シエルが剣を構える。
「嫌いじゃないわ」
『だろ?』
「詳しい順番は?」
『今から言う!』
「最初からそこまで考えときなさいよ」
『うるさいな!』
だが、ユウトの表情はもう笑っていなかった。
残っている魔力は多くない。
ゴルダンの強化もいつまで続くのか分からない。
長引かせる余裕はない。
(次で決める)
「…………」
ゴルダンも四人を見渡す。そして口元を歪めた。
「突破できる……か」
『ああ』
「面白い」
黒い魔力が再び全身を覆う。
「ならば、やってみるがいい」
『言われなくても!』
ユウトが大きく翼を広げた。
左ではシエルが銀色の剣を構える。
右ではシアが身体を低くし、地上ではリトが剣を握り締める。
空と地上。
四人が同じ敵を見据えた。
一人の力だけでは届かない。
なら四人で届かせる。
『いくぞ!』
「ええ!」
「了解っす!」
「待ってたぜ!」
ユウトの翼が大きく空気を叩いた。
決着へ向けた最後の攻防が始まる。
第235話を読んでいただきありがとうございます!
全ての力を解放したゴルダン。
速さ、力、そして防御力まで大きく上昇し、竜化したユウトでも簡単には攻撃を通すことができません。
しかし、戦っているのはユウト一人ではありません。
シエル、シア、そして――ようやく出番が回ってきたリト(笑)
補佐機構の解析によって見えてきた、ゴルダンの防御を突破する可能性。
四人の力を合わせ、いよいよ決着へ!
次回もぜひお楽しみに!
「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!
それでは、また次回お会いしましょう!




